刺激の強い朝
夜、8:23―――
リンネは神殿の屋上で星空を眺めていた。夜空には綺麗な星々が燦然と輝いている。
その景色はとても美しく、とても綺麗だ。それはまるで、夜空のキャンパスに数多の黄金を散りばめたかのよう。
そう、それは夜空のキャンパスだ。一枚の絵画のごとき美だ。
「綺麗だ···」
思わず呟くリンネ。すると、背後から誰かが近付く気配がした。
「そう思わないか?クオン···」
「こんな所で、身体に障るよ?」
クオンは心配そうに毛布を片手にして、リンネに近寄る。しかし、リンネは僅かに寂しげな笑みを浮かべ、呟く様に答えた。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ。風邪を引くよ?」
リンネの肩に毛布を掛け、クオンは尚も心配そうに言った。しかし、それでもリンネは首を横に振ってそれに答える。
「大丈夫さ、俺はこれでも普通じゃないからね」
「···それは、どういう事?」
「そのままの意味さ···」
それだけ言って、リンネは黙り込んでしまった。クオンはそんなリンネの肩にそっと寄り掛かって言った。
「そんな事は無いよ。もっと自分の事を信じなよ···」
「············」
その何処までも優しい言葉に、リンネは僅かに悲しい気持ちになった。
·········
「············」
「すぅ-···すぅ-···」
現在、朝の7:30―――
リンネはクオンに抱き付かれて寝ている。
···もちろん、やましい事など何も無かった。昨夜は確かに別々の布団で寝た筈だ。それなのに、今朝起きたら一緒の布団で寝ていたのだ。
解せない!!
「······いや、何故?」
「ん~~~っ······、すぅ-···」
クオンは相変わらず、安らかな寝息をたてて寝ている。
ぎゅっ···。豊かな胸の膨らみが、リンネの身体に押し付けられる。
思わず、リンネの胸がドキッと高鳴った。
リンネとて男だ。人並みに性欲だってある。クオンくらい可愛い少女を相手にドキドキする事くらい当然ある。
「っ、クオン!?クオン!!」
「······んっ、すぅ-···っ」
慌てて呼び掛けるも、クオンは尚も安らかに寝息をたてる。
「···············」
その安らかな寝顔にリンネは溜息を一つ吐き、そのまま二度寝に入った。
「············んっ、リンネ···」
ぼんやりとした意識の中、リンネは名を呼ばれた気がした。
·········
朝、8:52―――
リンネとクオンは黙々と朝食を食べていた。献立は山菜をメインに、薄めのスープと玄米のご飯だった。中々美味しい。
「どうかな、美味しい?」
「······ああ、美味しいよ」
「······むうっ、反応が淡白」
「···············」
不満げに頬を膨らませるクオンに、リンネは黙り込んだ。
黙々と朝食を食べるリンネ。すると、クオンは何か名案を思い付いたような顔をして頷いた。
「······ねえ、リンネ?」
「っ!?」
クオンはリンネの傍へとすり寄り、そっと身体を寄り添わせてきた。
この思わぬ行動に、リンネはドキッと胸を高鳴らせる。
「リンネ······っ」
「ク、クオン···!?」
包み込むように、クオンはリンネを抱き寄せる。顔と顔がかなり近い。
互いの呼吸の音や心音すらも、解る。
不味い。これは非常に不味い。心音が高鳴る。冷や汗が頬を伝う。
「リンネ······」
「っ、クオン···」
限界―――そう思った瞬間、ドンドンと戸を叩く音が聞こえた。
「巫女様!!巫女様は居られますかっ!!!」
男性の声が聞こえてきた。その声はかなり焦っているようだ。
クオンは溜息を一つ吐いて言った。
「残念、続きはまた今度だね···」
「············」
いそいそと去って行くクオンに、リンネはこっそりと思った。
―――た、助かったっ!!
リンネは一人きりの部屋で、こっそりと溜息を吐いた。