迫る死を越えて
「・・・・・・・・・・・・」
リンネが何事かを呟く。それは、ヨルムンガンドにも聞き取れない程に微かな呟きだった。が、そんな事はもはや関係ない。神無月リンネは殺す。確実に殺す。
大蛇神ヨルムンガンドは殺意を燃やす。その殺意の深度は既に世界を軋ませ、容易く崩壊させうる程に強く深くそして大きい。ヨルムンガンドを取り込んだ男は、もはやとっくの昔に殺意のみの存在と成り果てているのだから。それも致し方ないだろう。
彼にはもはや殺意しか残っていない。殺意しか、彼には残らなかった。もう、それだけしか。
だからこそ、リンネはこの悲しい存在を倒さなければならない。もう、これに引き返す事など断じて不可能なのだから。だからこそ、リンネは倒さなければならないのだ。過去を清算する為に。
「死ね・・・」
その言葉と共に、ヨルムンガンドから殺意の波動が物理的エネルギーとなって襲ってくる。
そのエネルギーは、ただの一撃で無限の多元宇宙を無限に滅ぼし続けて尚余りある。破壊の閃光。
逃げ場など、何処にもありはしない。そも、逃がしはしない。何処までも追い続ける。何処にも逃がしはしないし絶対に許さない。此処で殺す。殺す殺す殺す。
殺意の波動は際限なく膨大に膨れ上がり、果てに無限や永遠の概念すらも突破する。
それは、無限の無限乗に更に無限を掛けても尚足りぬ。それ程の、本来は絶対にあり得ぬ数値。それは既に言語で説明出来る範囲を逸脱している、説明が不可能な領域だ。
人間の思考出来うる領域を超えて、まだまだまだまだ尚上昇し続ける。
しかし、それほどのエネルギー量。たとえヨルムンガンドですら制御出来る筈がない。こんな馬鹿げた力は大蛇神であるヨルムンガンドであろうと制御不可能だ。
故に、ヨルムンガンドの身体には既に許容不可能なレベルの負荷が掛かり、崩壊しつつある。だがそんな事は一切彼には関係が無い。たとえ、自身が消滅しようと世界が無くなろうと許さない。
既に、自身は何も無い。もう、自分には何も残ってはいない。全て奪われた。
だからこそ、こいつだけは天地が滅びても殺す。そう、殺意が告げる。
「死ねえええええええええええええええっっ‼‼‼」
無限の世界を無限に滅ぼし、そして残った虚無すらも崩壊させて新たに無限に世界を創る。そんな馬鹿げた出力の高エネルギー。それが、リンネに襲い掛かる。
それを食らえば、人造の神であるリンネですら容易く無限に殺し続けられるだろう。だが、それをリンネは決して避けようとはしない。もう、避ける事の可能な規模ではない。それに・・・
リンネは背後に意識を向けた。此処でこれを何とかしなければ、異次元に逃げたクオン達も只では済まないだろうから。だから、これだけは何とかしなければならない。
死が、リンネに迫る。
・・・そして、リンネは必滅の光に呑まれた。




