全ての終わりのプロローグ
リンネは崩壊した神殿の瓦礫を必死にかき分けていた。木材を退けた時に手に刺さり血が出る。しかしそれでも彼は瓦礫を退け続ける。その下に、居る筈の二人を探して・・・
「くそっ、何処だ・・・。母さん、タマモっ。何処だっ!居たら返事をしろっ!」
「リンネ!それ以上したら、リンネの手がっ‼血がっ‼」
クオンが止めるが、それを気に留める事も無く瓦礫を退け続ける。今のリンネには、そんな事など全てどうでも良い事なのだ。故に、気にしない。
手が血だらけになっても、それでも彼は瓦礫を退け続ける。焦りが、心を支配する。と、その時瓦礫の奥から何かが動くのを見た気がした。慌ててリンネは瓦礫を退ける。
手から血がしぶくが、そんな事などどうでも良い。心底どうでも良い。
其処に居たのは、深手を負ったレイとタマモだった。二人とも、息はあるが酷い怪我だった。それを見てクオンとリンネは思わず息を呑んだ。心の底から、動揺した。
レイはかろうじて意識はあったが、タマモの方は意識を失っていた。かなり拙い状態だ。
早急に医者に見せねば、命に係わるだろう。それ程に、重傷だった。
「リ・・・ンネ・・・・・・」
「母さん。くそっ、早く医者に・・・」
「私とタマモは大丈夫・・・。それより、貴方達はさっさと逃げなさい」
「それは・・・」
リンネは思わず言葉に詰まる。
リンネがためらうのも無理は無いだろう。彼は今、状況を理解出来ていない。それに、リンネにはレイやタマモを置いて逃げるような真似は出来ないだろう。それ程に、彼にとって大切な存在なのだ。
それに、もう逃げている暇も無い。もう、崩壊はすぐ傍に来ていた。
「ちっ、もう遅いか・・・」
「っ、あれは・・・・・・」
空間に、亀裂が走った。そう感じた直後には既に、もう遅かった。
見ると、空間全体にヒビが入っていた。その空間亀裂は世界全土に、そして宇宙全土にまで広がりそして脆くも崩れてゆく。そう、世界の崩壊だ。
世界の崩壊はやがてこの宇宙の最果てにまで到達し、儚くも砕け散った。
世界が崩壊した後、何も無くなった虚無。其処に、一人の男が立っていた。その男は、神無月リンネを見下ろし憎悪の視線を向けている。黒河辰巳だ。
しかし、彼はもはや人間ではない。彼は既に、人間を止めてしまっている。
其処に居たのは、全身を蛇の鱗で覆われた白髪に深紅の瞳をした蛇神だ。彼は、大蛇神ヨルムンガンドを取り込んで自らが大蛇神へとなり替わったのだ。故に、彼は既に黒河辰巳ですらない。
そう。其処に居たのは、大蛇神ヨルムンガンドだった・・・




