目覚める・・・
目が覚めた・・・
目の前には、クオンが居た。その瞳には、涙が一杯に溜まっている。まだぼんやりとする頭で、神無月リンネは考えた。自分は今、どちらのリンネなのか?と・・・
自分はどちらの神無月リンネだ?記憶はきちんと取り戻した。しかし、記憶を失っている間のリンネの記憶も保有している。つまり、今現在リンネの記憶は混濁していた。
しかし、そんな事はもはや考えるまでもなかった。そう、考えるまでもない。先程の自分はどちらも自分自身なのだから。結局、自分は自分でしかないのだ。
リンネはクオンの方を向く。クオンは瞳一杯に涙を溜めて、今にも涙が零れそうだ。
「・・・クオン」
「ごめんなさい・・・リンネ。本当に・・・ごめんなさい・・・・・・」
クオンは、ただひたすらに謝り続けていた。
一体、クオンは何を謝っているのか?それも、考えるまでもない。先程、リンネはクオンに金縛りの術を掛けて一人で何とかしようとした。そして、リンネは記憶を取り戻した。
クオンはリンネが記憶を取り戻した事で、先程までの人格が消えてしまったと思っているのだ。
記憶を取り戻した事で、記憶を失っている間の人格が失われたと思っている。
「大丈夫だよ、クオン・・・」
「・・・・・・っ」
リンネは、なるべく優しい言葉を選んでクオンに言った。
「俺は俺だ・・・先程の俺も、今の俺も、結局は何も変わらない」
「じゃ、じゃあ・・・・・・」
「大丈夫、どちらの俺も俺に違いない。ただ、人格が統合されただけだ」
「・・・・・・ぅ、っうう。ぅああっ・・・」
クオンの涙腺が、ついに決壊したようで涙が次から次へと溢れ出す・・・
その涙を、リンネは指で拭い取る。しかし、クオンの涙は止まらない。止まってはくれない。そんなクオンの事がリンネは、ただ愛おしかった。愛おしくて、どうしようもなかった。
だからこそ、リンネの心は罪悪感に満たされていった・・・
「ごめん、クオン。俺が不甲斐ないばかりに・・・・・・」
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁ、・・・ああああああぁぁぁああああああああ‼‼‼」
子供のように泣きじゃくるクオンを、リンネは優しく抱き締めた。その様子を、魔女はただ静かに静かに見詰めるだけだった・・・
その口元には、薄い笑みが浮かんでいた。決して優しくはない、冷笑だった。
「やれやれ、一波乱ありそうだねえ・・・」
・・・・・・・・・
そうして、山を下山した後。神殿に戻った後・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
リンネとクオンは、ただ愕然としていた。何故か?
神殿が崩壊していたからだ・・・




