迷いと決意
「少しだけ、考えさせて下さい・・・・・・」
そう言って、クオンはリンネを連れて魔女の工房から出ていった。魔女は最後まで、気味の悪い笑みを浮かべて椅子に座っていた。その姿は、何を考えているのか解らない不気味さがあった。
そして、現在。クオンは山小屋の裏手で考え事をしていた。魔女の提示した条件は、ある意味でロクでもないと言う事が出来るだろう。それは、将来生まれるだろう我が子との別離。
魔女が条件として提示してきたくらいだ。恐らく、高確率で二人の間に子供が生まれるのだろう。
しかし、待っているのは魔女の弟子という人生と親と子の別離だ。碌なものではない。
そんなクオンの袖を、リンネはそっと引っ張った。その瞳は、純粋に疑問の色を浮かべている。
「クオンは、僕の記憶が戻った方が良いの・・・?」
「それは・・・・・・」
答え辛い質問だった。クオンは口をつぐむ。しかし、リンネの方はそんなクオンを見て、そっと静かに優しく抱き締める。リンネのその行動に、クオンは思わずドキリとする。
「大丈夫だよ、きっと・・・何とかなるから」
そう言って、リンネはクオンから離れて歩いていく。その姿に、僅かな不安が脳裏を過る。
「何処に行くの?リンネ・・・」
「大丈夫、クオンは其処で待っていて?」
そう言うと、リンネはしっかりとした足取りで歩いてゆく。恐らく、リンネは魔女と会うつもりだろうとクオンはすぐに察した。だから、クオンはリンネを止めようとしたが・・・
「・・・っ」
身体が動かない。まるで、金縛りにでもあったかのように。その理由に、クオンはすぐに察した。
・・・そして、リンネの覚悟を。その強さを察した。
「待って、リンネ・・・待ってよっ‼」
リンネは、そのままクオンの前を去っていった。
・・・・・・・・・
「本当に良いのかい?人造神リンネ殿?」
「・・・うん、クオンが好きなのは僕じゃないから」
そう言って、リンネは苦笑した。その笑みは、何処か少しだけ寂しそうだった。だが、その笑みもすぐに消えて覚悟の籠もった表情に変わった。その表情に、魔女はほうっと感嘆の息を吐く。
・・・どうやら、覚悟は出来ているらしい。そう、魔女は察した。
「・・・良い覚悟だ。なら———」
「ただし、条件がある」
「・・・・・・ほう?」
その言葉に、魔女は再び感嘆の言葉を吐く。
リンネは只、魔女の提示した条件を呑みにきただけではない。対等に条件を付き付けにきた。つまりそれは一人の存在同士の対等な交渉だ。故に、相手の条件に此方も条件を付ける。
「何れ、生まれてくる僕達の子供を貴女の弟子にする。けど、代わりにその子供にせめて会いにくる事はどうか許して欲しいんだ。それは、絶対に呑んで貰う」
それは、絶対に外す事の出来ない条件。それを、リンネは魔女に突き付けた。
その絶対条件を、魔女のメアリー=ノーリッジは・・・




