メアリー=ノーリッジ
そして、リンネとクオンは唐突に遭遇した魔女に連れられて山奥に来ていた。山奥には一軒の古びた山小屋が存在している。その山小屋の中、どうやら空間が色々といじられているらしく、外見よりもかなり広くそして別世界だった。山小屋なのに中は不可思議極まる工房となっている。
一体どういう理屈なのか。それは理解出来ないが、どうやら何らかの魔術的な異空間らしい。工房の中央には魔女らしく大釜があった。この空間は、正しく魔女の工房だ。
そして異空間の奥、古びた椅子にリンネとクオンの隣に立っている筈の魔女が座っている。
座って、一冊の古びた本を読んでいた。魔女の瞳は深い海の青に輝いていた。
・・・いや、確かに現在もリンネとクオンの隣には魔女が立っている。それなのに、工房の奥の椅子に魔女が座している。これは、一体どういう事なのか?クオンは混乱した。リンネも首を傾げる。
そして、唐突に魔女は本から目を離し二人に視線を向けた。青い視線が、二人を射抜く。
「よく来たね、巫女殿。そして、人造の神よ・・・」
魔女はそう言うと、ぱちんと指を鳴らした。すると、クオンとリンネの隣に居た魔女は一瞬で姿を変えて一匹の猫に変身した。青い瞳をした黒猫である。
どうやら、先程まで一緒に居た魔女は黒猫だったらしい。
「なう~」
「ご苦労、グリマルキン。そして再度自己紹介しよう、私の名はメアリー=ノーリッジだよ」
「わ、私の名前はクオンです」
「僕の名前は神無月リンネだよ?」
魔女、メアリーが自ら名乗った為、クオンとリンネもそれぞれ名乗る。魔女は満足そうに頷く。そしてその口端を愉快そうに歪めた。その笑みは、酷く邪悪でクオンは背筋に寒気を感じた。
その笑みに、クオンは再度実感した。メアリー=ノーリッジは、確かに魔女だと。
邪悪で醜悪な魔女の笑みだった。
そして、愉快そうに笑う魔女は懐から一枚の羊皮紙を取り出した。よく見ると、其処には契約書と書かれているのが見えた。それを見て、何故かクオンは不安に襲われる。
「私は無駄話は嫌いでね。さっさと本題に入ろう」
「・・・・・・私は」
「その人造神の記憶、それを復元したいと?」
「っ・・・」
魔女の言った言葉に、クオンは俯いた。何故か、先程から嫌な予感が拭えなかった。どうしてか魔女の言葉が不吉でならなかった。その理由は、クオンには理解出来なかったが。
しかし、その理由はすぐに解る。
「確かに、私ならその記憶を蘇らせる事も可能だ。しかし、何事も対価が要る。それを貰おう」
「・・・・・・その、対価とは?」
「将来、二人の間に生まれるだろう子供を私の弟子として欲しい」
ロクでもない対価だった・・・




