全てを失って・・・
記憶を失って・・・リンネの未来は?
「はああっ⁉記憶を失ったああああ!!?」
その絶叫は神殿の中に響き渡った。声は村長マーカスの物だ。そんな中、当のリンネ本人はタマモの尾をもふりながら遊んでいる。そんなリンネの楽しそうな姿に、レイは辛そうな顔だ。
タマモも、尾をもふられながら微妙な表情でリンネを見ている。リンネだけが楽しそうだ。
そんな三人の姿に、呆然とするマーカス。そして、クオンはついに耐え切れずに泣き出した。巫女装束の袖がクオンの涙で濡れる。もう、どうすれば良いのか解らない・・・
「私・・・リンネの為にどうすれば・・・・・・ぅうっ」
「巫女様・・・・・・」
クオンの涙に、マーカスは困惑した。リンネとクオンの関係は、マーカスとて知っている。だからこそ彼も二人の為に何とかしてやりたい気持ちもある。しかし、どうすれば良いのか・・・
そう考えた時、ふとマーカスの脳裏にある人物が過った。それは、ある種賭けのような物だ。
リスクを考えれば、とても賢いとは言えないだろう最上級の賭け。
・・・だが、だからこそやる価値があるのかも知れない。
そう考え、マーカスはその口を開いた。
「巫女様、これはある種賭けのような物ですが・・・」
「っ、ひっく・・・はい・・・・・・」
「村のすぐ傍にある山の奥深くに、一人の魔女が住んでいるのは知っていますか?」
その話を聞いて、クオンは頷いた。その話は彼女も聞いた事がある。かなり変わり者の魔女だ。
「はい、・・・ずっと山奥に籠もり研究に没頭している魔女・・・ですよね・・・・・・」
「はい、その魔女が人間の精神について研究していたとか。もしかしたら、その魔女に頼めばリンネ殿の記憶喪失も治るやもしれません・・・」
「っ!!?」
リンネの記憶が戻る。その言葉を聞いて、クオンは僅かに表情を明るくする。しかし・・・
其処で、マーカスは表情を暗くした。まだ、話は終わってはいない。話はまだ終わらない。
「魔女のノーリッジ。彼女に頼めば、記憶喪失も治る可能性はあります。しかし、彼女は魔女。神の理に反して悪魔に仕える者です。対価に何を吹っ掛けられるか解りません・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
その言葉に、黙り込むクオン。しかし、それでも・・・
悩み、苦悩し、それでも諦めきれない想いの間で葛藤して・・・
「・・・それでも、私はリンネを諦めきれません・・・・・・」
「そう、ですか・・・・・・。なら、一つだけ助言を」
助言?クオンが小首を傾げる。その話を、何時の間にかレイやタマモ、リンネも傍で聞いている。
静寂の中、マーカスは頷き言う。
「彼の魔女は静かな場所を好み、にぎやかな場所を嫌うそうです。出来れば、行く時は人数は搾った方が良いと思われます。あまり大勢で行くと、へそを曲げる可能性もあると・・・」
その言葉に、クオンは頷いた。
「解りました。魔女の許には私とリンネの二人で行きます・・・」
そう、確かな決意を籠めて答えた・・・




