その頃、ある場所で
その頃、位相の異なるとある空間で・・・その男は遠見の能力を宿した鏡を見ていた。
その鏡には、神殿に居るリンネ達の姿が映っていた。男はその鏡の能力を使い、ずっとリンネ達を監視していたのである。この空間自体も、とある道具を利用して造り出した疑似世界だ。
男は口元を暗い愉悦に歪める。それは、あまりにも邪悪で醜悪な笑みだった。
「・・・ふむ、どうやら奴は記憶を失ったらしいな」
男は愉快そうにくつくつと嗤っている。しかし、男の目は笑っていない。その瞳は、暗い憎悪の炎が浮かんでいるのが理解出来る。男を動かすのは、何時だってそれだ。憎悪のみで男は此処まで来た。
神無月リンネは記憶を失った。しかし、それでもまだ男には足りない・・・
神無月リンネ。奴が破滅し滅び去るまで、彼の復讐は終わらない。
「まだだ・・・。まだ、奴には苦しんで貰わねばならない・・・」
男の瞳に、暗い憎悪の炎が燃え盛る。それは、何処までも黒く、暗い色をしていた・・・
その憎悪は、己の身すらも焼き尽くしかねない程危険な猛火だ。しかし、男にとってはそれすらももはやどうでも良い物だった。男にとって、復讐のみが行動源となっているからだ。
生きる目的であり、生きる事そのものだ・・・
「神無月・・・リンネ・・・・・・」
その男しか居ない空間で、男は憎悪に満ちた声を漏らす。それは、呪詛の籠もった言葉だ。世界すらも壊し尽くしかねない程の危険な呪詛が宿った言葉。それだけで、男の復讐心が理解出来るだろう。
その男、黒河辰巳は何処までも進み続ける。その先が、例え破滅の道であろうとも・・・




