竜王エル
大国ミズガルズ、その北端に竜王の巣がある。竜種の王であり、原初の魔物であり、神に等しき魔物でもある最強の竜王。それが竜王エルだ。
彼の住む竜王の巣は直径八メートルほどの横幅と、二十メートルほどの深さを持つ縦穴だ。その竜王の巣穴の見た目はまるで、八角形の柱を地面に突き刺した跡のような見た目となっている。
その巣穴の威容は、余りにも荘厳だった。見る者に畏怖の感情を湧き上がらせるに充分だ。
リンネは空間把握の術と空間転移の術を併用してこの地に着いた。そっと竜王の巣を見下ろす。
「此処が、竜王の巣か・・・・・・」
見た目は巨大な八角形の縦穴。その中をそっと覗き込む。すると・・・縦穴の底で何かが蠢いた。
純白の、巨体が蠢く。
その正体は・・・
「ギイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
「っ、うおっ!!?」
リンネが後方にバックステップをすると、縦穴から一匹のドラゴンが飛び出した。体長三メートル程の純白の身体を持つ、美しいドラゴン。竜王エルだ・・・
エルはリンネを見下ろして、低く唸り声を上げる。明らかに、戦意をみなぎらせている。どうやら向こうは戦う気が充分らしい。リンネは薄く笑みを浮かべる。リンネの瞳に、闘志が宿る。
「・・・・・・戦う意思は充分か。しかし・・・」
「!!?」
上から下へ、リンネは掌を振り下ろす動作をした。その瞬間、エルを百倍の重力が襲った。
惑星の法則に干渉し、重力異常を引き起こす。重力操作の術だ・・・
そのあまりの重力に、エルはゆっくりと墜落していく。巨大な地響きを立て、地面に落ちる。
「俺を見下ろすな、獣・・・」
「グルウウウウウウッ・・・・・・」
唸り声を上げて、竜王はリンネを睨む。よろよろと立ち上がり、異常な重力に苦戦する。
・・・しかし。其処で終わる程、竜王は弱くはない。
「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!!!」
「っ!!!???」
竜王の咆哮に、リンネは吹き飛ばされ、重力異常は解除される。再び空を舞うエル。その表情は怒りに満ちているようだ。竜王を本気で怒らせた。竜王はついに、本気を出したのだ。
しかし、それでもリンネは薄く笑みを浮かべたままだ。
「確かにお前は強いだろう。しかし、それでも俺は操り人形なんかに負けねえよ・・・」
そう言って、リンネは不敵な笑みで竜王を見上げた。その笑みは、見上げている筈なのに何故か見下ろされているような気分にすらなった。エルの額に、何故か冷や汗が伝う。
・・・竜王エルと、人造神リンネの戦いが始まった。