竜王の巣
クオンに告白してから約一ヶ月・・・星蛇神殿にて、リンネとクオンはいちゃいちゃしていた。
それからの日々は、二人にとって幸せな毎日だった。とても甘い日々だったと言える。リンネもクオンも二人共幸せだった。レイとタマモも、そんな二人を暖かい視線で見ていた。
レイはとても嬉しそうに二人を見ていたし、タマモはとても興味深そうに見ていた。
こんな日々が、何時までも続けば良いと思っていた。何時までも続いて欲しいと願っていた。
しかし、そんなある日の事。幸せな日々は、早朝の慌ただしいノックの音で終わりを迎える。何時もよりかなり慌てた様子で、村長のマーカスが訪ねてきた。その表情は、恐怖に満ちている。
一体何があったのだろうか?とりあえず、中に入れる。神殿の中に入れて、お茶をすすめる。
マーカスはお茶をぐっと飲み干し、何とか一息吐いた。
「えっと、マーカスさん?一体何があったんだ?」
「あ、ああ・・・。実は、最近竜王の巣から竜王のエルが出てきて暴れまわっているんだ」
竜王?と、リンネが首を傾げる。クオンがそれに補足を入れる。
「竜王エル。神に等しいとされる原初の魔物だよ。比較的に大人しい性格で、自らの巣から出た事なんて一度も無い筈なんだけど・・・」
「その竜王が、何故暴れまわるんだ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
リンネがマーカスの方を見て問い掛ける。しかし、彼は黙って首を横に振る。どうやら彼にも其処は全く知らないらしい。理由は不明。いきなりきな臭くなってきた。一言で言うと、怪しい空気か。
どろりとした生暖かい空気が、リンネの背筋を這う。何とも不気味な空気だ。
「・・・まあ、とりあえず様子でも見ない限りは何も解らないか」
「っ、リンネ・・・・・・」
クオンが心配そうな瞳で、リンネを見てくる。実際、心配しているのだろう。その瞳は、リンネを見詰めたまま潤んでいる。そんな彼女を見ると、リンネは胸が苦しくなってくる。
本当は、クオンの傍にいてやりたい。クオンを心配させたくなんかない。ずっとクオンの傍に寄り添いたいとそう思っている。しかし・・・それは、出来なかった。
リンネはそっと、クオンを抱き締めた。抱き締めて、彼女の耳元でそっと大丈夫と囁く。
「大丈夫、俺は必ず生きてクオンの許に帰ってくるから・・・。クオンは俺の帰りを待ってくれ」
「うん・・・。信じてるから、必ず帰ってきて・・・・・・」
必ず、私の許に帰ってきてとクオンはそう呟く。
そう言って、リンネの背に腕を回した。その瞳は、不安に濡れていた。