大妖狐の想い
「・・・・・・ん、んうう?」
大妖狐が目を覚ました。彼女は布団に寝かせている。その傍にリンネやクオン、そしてレイが居た。
大妖狐は周囲を見回すと、ぼーっとした顔を振りリンネをきっと睨んだ。
「何故、殺さなかった?」
「じゃあ聞くが、操られていたお前を殺す理由が何処にある?」
・・・操られていた、その言葉に場の空気が一変する。
その言葉に大妖狐もクオンもきょとんっとした顔をする。一人、レイだけが納得した顔をした。
「なるほどね。彼女が初めて会った筈のリンネに殺意を抱いていたのも、操られていたのが原因か」
「そうだな。彼女の精神はあの時、明らかに何者かに支配されていた。恐らく、俺に何らかの恨みを持つ何者かの仕業だろうけどな・・・・・・」
クオンは驚いた様子で、大妖狐を見ている。しかし、彼女の動揺はそれを遥かに超える。
「・・・わ、私は。私は・・・・・・」
自身が操られていたと知って、大妖狐はあからさまに動揺する。リンネはそっと溜息を吐く。
「どうやら、混乱しているらしいな。これからどうする?また俺を殺しにくるか?」
「私は・・・私は・・・。只、神無月リンネを殺せば人間と仲良くなれると聞いて・・・・・・」
「ん?」
リンネは思わず、怪訝な顔をした。しかし、それに真っ先に反応したのはクオンだった。
その目は、明らかに不快そうだ。リンネを殺すと言われて不快に思ったのだろう。
「それ、一体どういう事かな?」
今の言葉は聞き逃せない。そう言わんばかりにクオンは鋭い目付きで大妖狐を睨む。リンネはクオンのこんな表情を始めて見た為、思わず目を見開いた。
大妖狐はクオンのその視線に、目を逸らしながらそっと言った。
「そ、そのままの意味だ。神無月リンネを殺せば、人間との共存を約束してくれると言われて。私は本当は人間と仲良くなりたかっただけなんだ」
「約束したって、誰がそんな事を言ったの?」
クオンの目が、更に不快そうに細められる。しかし・・・
「・・・・・・・・・・・・思い出せない。思い出せないんだ」
その言葉に、クオンは呆れたような表情をした。どうやら裏で糸を引いている人物が居り、その人物が大妖狐を唆して精神支配をしたらしい。しかし、その人物が誰なのか解らないという。
クオンは大妖狐の目を真っ直ぐ見て、言った。
「大妖狐、少なくとも人間と仲良くなりたいからって人間を殺すのは矛盾した話じゃないかな?」
「そ、それは・・・・・・」
「少なくとも、私はリンネを殺した相手と仲良くするつもりは無いよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大妖狐は思わず黙り込む。反論する言葉が見付からないらしい。リンネは静かに溜息を漏らすと、クオンの頭を撫でて大妖狐に言った。
「まあ、お前の気持ちは理解した。だから、これからもう二度と悪さをしないと反省するならお前を解放しようと思う。どうだ?」
リンネの言葉に、クオンとレイは黙って大妖狐を見る。・・・当の大妖狐は、俯いていた顔をばっと上げてリンネ達を真っ直ぐに見据えて言った。
「・・・・・・どうか、どうか私を貴方達と共に居させて欲しい!!!」
「・・・は?」
思わず、リンネは間の抜けた声を上げた。クオンとレイも驚いた顔をしている。
しかし、大妖狐は一向に構わず続ける。
「私は只、人間と共存したかっただけなんだ。それに、せめてお詫びをしたいと思う!!」
だから、此処に住まわせてくれ。そう言う大妖狐に三人共黙り込んだ。