その4
作業に一段落がついたので、私は軽く伸びをした。
しかし作家家業というのも結構大変なんである。
ふと机に有るフォトスタンドに目をやった。
「あれから二十五年か…」ふと独り言の様に呟く。
バタバタと廊下を走ってくる音が聞こえて来て、その音が途絶える音が途絶えると「バン」と勢い良くドアが開く音が聞こえた。
「おとーさん!」
小さな子供の元気の良い声が私の仕事場に響く。
「どうしたんだい秋花?」
「なにかおもしろいおはなしして!」
「うーん、そうだね…じゃああのお話をしてあげようか」
「ありがとー、おとーさん!」秋花は私の元に駆け寄ってきた。
「で、なにのおはなししてくれるの?」
「それはねぇ、ある男の子が女の子に出会って成長していくお話だよ」
「ふーんおもしろそう!早くはじめて!」
「はいはい」
「これでお話は終わりだよ秋花」
「ふーん、ありがと、おとーさん!けどへんなおはなしだね」
秋花は不思議そうな顔をしていた。
「そうかい?」
「うん、だってこまいぬが人間にへんしんしてなんかへんだもん」
「そうでもないと思うけどね…」
「それで、そのおはなしのあとふたりはどうなったの?」
「仲の良いまま大きくなって結婚して、一人の女の子をつくったんだ」
「その女の子は?」
「その女の子って、お父さんの目の前にいるじゃないか」
「えっ?あたし?」きょとんとした目で答える。
「なら今までのおはなしって、おとーさんとおかーさんのむかしばなし?」
「そうだよ」別に否定するまでもないので素直に答えた。
「うそぉ?」
「本当だって。…それだけ疑うなら少し試してみるかい?」
「うん!」
「じゃぁ、目を瞑って…」
「こう?」
「いくよ…いち・にぃ・さぁん…ハイッ!」
「何がかわったの?」
「いいから鏡を見て見なさい」
「うん!」
秋花はゆっくり鏡を見て見た。
「なにがかわって…」
「えっ…」
「えーーーーーーー」
これにて、このお話は完結です。
拙文に長々とお付き合い頂きありがとうございました。
多分、随分途中が無い印象が有るかと思います。
かなり圧縮した感は有ります。
しかし実はまだ、続きが有るんです。
それはまた書き上がった時にお目にかかりたいと思います。