その3 2パート
日曜日、僕は指定された時間より少し早く着いたのだがもうすでに桜花は到着していた。
「おそーい!りょーたろー!」
「ごめんごめん」
「せっかくレディが誘ってるんやから、ちゃんと時間前に到着しとかんとあかんで」
「って言われても…まだ時間前だけど…」
僕は少し抵抗を試みる、そりゃそうだ約束の時間よりは早く来ているのだから。
「余計な口を利くのはこのお口かなぁ〜?」と言いながら桜花は僕のほっぺたを抓りだした。
「いふぁぃ!ぎょぎょめん!」たまらず無条件降伏…全く情けないものである。
「まぁいいわ、分かればよろしぃ。ほな行こうかぁ、今日はうちがたっぷり観光地案内するさかい」
デートと言っても中学生同士のささやかなデートである。
いつもと変わらないおしゃべりをしながら、何箇所かのお寺や資料館を見て歩くだけだけども。
「うちの特製弁当や」と言って出されたのは、形がボコボコの大きなオニギリだった…
そんな楽しい一時も夕方近くになってきた頃、この街の一番有名な橋が一望出来る所に来た。
「ここが渡月橋が一望出来るところや。橋の歴史は案外古うて千二百年も遡ることが出来るんよ」
「ふーん、そこまで歴史持ってるんだね…あの橋…なら二人で渡りに行かない?」
「嫌やっ」桜花は笑いながら僕に返事をする。
「嫌って」
「あそこだけは嫌やねん!」桜花はだだをこねる。
「まあ…いいかぁ」
「そうそう、レディの言う事は聞いとく方がいいねん」
「じゃあ、別のところに行こう」
僕は少し残念に思いながら諦めることにした。
「そうそう、男はあきらめが肝心やねん。さぁ別の所に行こうか」
「そうだね」
と、二人で踵を返した直後であった。
音もなく桜花が崩れ落ちる様に倒れた。
僕は慌てて桜花の上半身を抱え上げる様に持ち上げる。
「桜花!桜花!」
何度も呼ぶが、桜花に反応はなかった。
試しに桜花のおでこに手を当ててみる。
「凄い熱じゃないか!どうしてだまっ…」
叫んでいる最中のことだっだ、今までに経験した事のない感覚が僕の頭の中によぎる。
上手くは言えないが「現実に見える」という感覚では無く「過去のものが蘇る」という感覚だった。