その3 1パート
桜花とのアトリエの件以来、僕は少しずつたけども色々文章を書き出す事をはじめた。
自分のやりたい事ってなんだろ?
これのある意味自分なりの答えでも有った。
元々本を読むというのが好きだったから「想像する」という行為は思ったより簡単に出来た。
ただ「文字を書くと」いう行為は正直かなり苦戦している。
何しろ「想像を上手く膨らませる」のと「それを上手く表現する」というのは、改めて全くの別物だと言うのを痛感している。
最近は、色々書いたものを日課桜花に見てもらう。
そして、ダメ出しや喜んで貰う…そんな日常が続いている。
あの日の桜花の真剣さに感化された…というより半分はめられた感は有るのだが、週一回木曜日にアトリエに通い絵を描き始める事になった。
初め僕が両親に向かって「アトリエに行きたい」と言ったときは「お前が自分から習い事をしたいと言ったのは初めてだ」と驚かれたのだが、二つ返事で行かせてくれる事となった。
そんな日常を続けていた夏休み前の有る日の事で有った「それ」は唐突に始まった。
その日は、セミの大合唱の聞こえる神社の中の木陰で二人へばっている時であった。
「亮太郎〜」
暑さにうなだれる桜花のやる気なさそうな声が僕を呼んだ。
「何ぃ…しかし、この地方の夏って本当に暑いね、死にそうだよ」
「まあ、この地方で一年生活出来たら、世界中どこに行っても平気と言う位気候は厳しいさかいになぁ」
「そなの?」
「そやで。夏は蒸し暑いし、冬は床冷えする。どっちの季節も体感温度は極端なんや」
「ふーん…しかし何かしたいけど…やる気力が起きない位の暑さだね」
「そやなぁ…」
桜花は何か少し考えていたかと思うと「パン!」と手を叩いた。
「そや!日曜日デートで観光地巡りしよっ!」
満面の笑みを浮かべて僕に提案を持ちかけて来た。
このとても暑い最中にデートですか?と思わずぼやきたくなる。
むしろ丁重に遠慮したい位だ。
「何故に?日曜日以外毎日会っている様な気がするけど?」
試しにやんわりと牽制してみる。
「いいじゃない。二人で観光地やデートスポットなんて今まで行った事ないでしょ?」
「まあ、それは確かにそうだけど…ここも立派な観光地だと思うけど?」
「他の人にしたら観光地だろうけど、うちらなら日常ちゃうの。だから別の観光地巡りをするの」
…観光地に住む人間に対しての、ある意味最高の殺し文句である。
元来、観光地に住んでいる人間はそこが「観光地」という認識が薄い。
他の土地から来た僕も当初は「どれだけ観光地巡ろうか」なんて考えてもいたが、いまでは「いつでも行けるからいいや」とか思ってまともに巡った事も無い…
「…ごもっともで」
僕もこれ以上の抵抗も無駄だと判断して白旗を揚げるしかなかった。
「なら決まりね!今週の日曜日にここで九時に待ち合わせで」
「九時って…お昼どうするの?」
「この桜花様に任せなさい!ちゃーんとお弁当用意してあげるから」
本当いつも桜花は強引だなと思いつつ、少し楽しみにして日曜日を待つことになった。
もちろん、その間も日々の日課は欠かさず土曜日に至っては
「時間に遅刻したら死刑だからねっ!」と念押しされもしたが…