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その2 2パート

 木曜日、僕は学校から帰って来るなりいつもの様に制服を脱ぎ外に出た。

ただ行き先は何時もと違い、桜花に渡された地図を片手に自転車を走らせる。

いつもの商店街を抜け少し走った所に目的地は有った、それはこぢんまりとした教会だった。

「こんな所で?」という疑問があり、何度も地図を見返したが地図はここを指し示しているので有る。

まいっかと思いつつ僕は教会の中に入った。

そこは僕がいつも行く車折神社と同様、静まりかえった空間であった。

ただ建物の中なので、いつもと空気は少し違う感じはするけども落ち着きは変わりなかった。

小さな教会の中にはブルーシートが敷かれ、小さな子供達が数人思い思いの絵を描いているではないか。

キョロキョロと探すものの、その中には桜花の姿は発見出来なかった、確かにここで間違えない様だが…

「どうしたの?」アトリエの先生らしき初老の男性に声を掛けられた。

「あ、実は三船桜花さんからここに来てねと声をかけられまして…」

「ああなるほど、君が桜花君が話していた彼か。なるほどなるほど」

男性が妙に納得している。

「なるほどって?」変な疑問が浮かぶ。

「まあ、いいじゃないか。それより彼女は隣の部屋にいるよ」

礼儀的なお礼を述べ、隣の部屋に繋がるドアをあけると


桜花は絵を描いていた。


声をかけるのも憚られる位の集中…


そう、何かに憑かれるような感じで黙々と…


僕は近くにある椅子に座り桜花が気付くのを待つことにした。

一ヶ月一緒に居たけれども、こんな集中した顔をしている桜花を見るのも初めてだ。

そんな桜花の表情を見ているのも楽しいものである。


 窓に写る景色が赤く染まる頃…

桜花はふと我に返ったみたいでこちらを振り向いた。

「あっ、来てくれてたんや亮太郎。声くらいかけてくれてもいいのに」

済まなさそうな表情で僕の方を見ている。

「いや、いいよ。集中していたみたいだから声もかけにくかったし」

「そうかぁ、悪い事したなぁ」

「絵を描くのが趣味なの?」

「そうやなぁ、うちの集中できるただ一つの趣味やなぁ。そんなんを見てもらおと思って呼んだんやけどなぁ」

「見てもらおうと思って?」

「そや、人間誰でも集中出来るモノが有ったら変わるていうし。それに…」

珍しく桜花が口をつぐんだ。

「それに?」

「ううん、なんでもあらへん…そや、亮太郎って良く本読むよなぁ?」

「読むけど…それがどうかしたの?」

「一回自分で書いて見たら良いと思うねんけど…」

真剣そのものの眼差しで桜花は僕の方を見つめる…どうも本気で言っているみたいだ。

確かに文章を書く人は人一倍読書をするというのだが、書くと読むとでは実際大違いである。

どの様な内容にしても、何より考え無ければならない。

設定にしろ、内容にしろ、人物像にしろ…

僕も一度何か書きたいと思って考えて見たが、余りにもの難しさの為投げ出した経緯がある…

「うーん…簡単に言われても…大変だし…その…」

「そんないつまでも態度が煮え切らへんから友達も出来ひんのとちゃうか?人に勧められたらまず素直に頑張ってみる。この一ヶ月亮太郎の事見てきたけど、それが一番足りひんところ違うかなぁ?」

「うっ…」

正直図星だった。

頑張らない、関わろうとしない、やろうとしない…

だからいつまで経っても変わらない…いや変われないという方が正確だろうか

「まあ、うちがこんな事言うても本人が変わらんとあかへん事やしなぁ」

少しバツの悪そうな顔をしながら桜花は片付けを始めた。


自分のやりたい事って一体なんだろ…

自分が本当に集中出来る事ってなんだろ…


その後寝るまでこの言葉が頭にこびりついて離れなかった。



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