その1 2パート
自転車を神社横の駐輪場に止め神社内に入ると、そこにはいつも変わらないピンと張り詰めた空気とゆったりとした時間が流れていた。
僕にとって心地良い空間をゆっくりと歩きながら本殿に入ると、そこには珍しく先客がいるではないか。
先客はごく普通のブレザータイプの学生服を来た女の子であった。
年格好は僕と同じ位だろうか。
目を瞑り神社の本尊に対してお祈りをしていたのだが、その姿は他人に余り関心を示さない僕でも印象に残る姿…
凛とした姿勢、どこかのグラビアとかで出て来そうな位可愛い顔、どう表現したら分からないけど頭に少し変な癖のある茶色目の長い髪。
そして変な言い方になるけど、そこにずっと立っていても違和感を覚えないくらい辺りに溶け込んでいた。
その姿に、僕は彼女のお祈りが終わるまで入り口で立ち尽くしてしまった。
もしかしたら「邪魔をしたくない」とか「この姿をずっと見ていたい」という意思が働いたのかも知れない。
一分ばかりするとお祈りが終わったのか、彼女は目をゆっくり開けこちらを振り向いたかと思うといきなりであった。
「こんにちわー」
「こ…こんにちは」
「元気ないなぁ、どうしたん?」
「いや、いきなり話しかけられたものだから…」
誰だって見ず知らずの人にいきなり話しかけられたら警戒もしてしまう。
それに、決して人と話をするのが好きでは無いと言うのも有るのだが…
「そんなもん関西人って言うたら、みんな兄弟みたいなもんやん」
「そんな事言われても…それに最近ここに引っ越して来たばかりだし」
「ふーん、そうなんかぁ」
彼女は少し残念そうな顔をした。
「ところで…」
「なんや?」
「名前もお互い知らないのに随分馴れ馴れしいと思うんだけど?」
「そりゃ…」何か言いかけて彼女は詰まった
「それは?」僕は再度問いただす。
「うちが元気印な関西人やからや!」あっけらかんと彼女は答えた。
ガクッ…思わず答えに力が抜けそうになる。
「そ、それは理由にならないと思うけど?」
「そうかぁ?ならうちは三船桜花、中学二年生や、よろしゅうなぁ」
「僕は清原亮太郎、君と同じ…」
「ちょいまちぃな、せっかくうちが名前言うたのに「君」は無いんちゃう?」
彼女は少し怒った様子であった。
僕が表情の変化に乏しいせいかも知れないけれど、彼女の表情の変化の激しさに少しとまどっている。
「な、ならどう言えば?」
「うーん、そやなぁ…「おうか」でいいねん!」
「そんな、いきなり初対面の人に呼び捨てなんて出来ないよ」
「いやや、うちは「おうか」って呼ばれんと嫌やねん!」
ここまでくると単なるダダッ子の域の様にしか見えないと思いながら、僕は頑張って言葉を振り絞ってみた。
「桜花と同じ中学二年生だよ」
「よーく言えました亮太郎」
彼女は満面の笑みを浮かべながら返事をしてくれる。
「いきなり呼び捨てって…」
余りにものフレンドリーさに僕は絶句するしか無かった。
「まあいいやん、人間って堅苦しい事ばかりしてたらいつまでも自分の殻って破れへんねん。たまには気楽にならなあかんで」
「確かにそうだろうけど…」
彼女の最もな正論に僕は返す言葉も無い。
事実、友達らしい友達がいないのも僕が転校ばかりしているから「友達なんていらない」と考えているのもあるかも知れないのだから…
「ところで亮太郎」
「なっ、何?桜花ちゃん」
「桜花ちゃんやない、お・う・か!」
「ゴメン…」
「今回は許してあげる、けど代わりにうちをそこの電車の駅まで送って行って欲しいんや」
へ?何故そう唐突に事態が進むか全く意味不明なのだが…
しかも、僕と彼女はつい何分か前に出会った初対面同士なのである。
「なぜそんな突然…まあいいけど」
「ありがとう、なら行こう!」
と言うなり彼女は振り返ると僕が来た道を歩き始め、僕はすぐ後を歩き始めた。