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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。[夢・風魔様著]寄稿SS/クエスト【引越しの護衛】~漢達×僕の場合

 この作品は、夢・風魔様著作N2634EI『殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。』(以下「本編」と称す)の二次創作であります。「小説家になろう」のガイドラインに従い、本編作者様の許可を得て投稿しております。

 なお、当作品は著作権の一切を放棄し、本編に帰属するものとします。状況によってはこちらを削除し、本編へと移管される場合があります。


 この物語は、VRMMO『Imagination Fantasia Online』正式開業初日に行われた「クエスト【引越しの護衛】」にて、別の場所で起きていた事件(本編50話辺りの裏側)のお話になります。本編主人公達が途中で休憩した村より、逆方向の西へと向かった者達を登場人物としています。

 実はこの物語は、元々は本編作者様へ提供するネタをまとめたもので、一般の公開は予定しておりませんでした。分かり易く説明するためのシチュエーションが、いつの間にかストーリーの形になってしまったモノなので、内容が随所でぶつ切りになっています。その点をふまえてお読み下さいますと幸いです。



◆主な登場人物◆


【ノーリス】主人公。魔力強化一辺倒の魔法使い。極めて普通の少年。


冒険家(アドベンチャラー)|インディー】気さくなナイスガイ。称号『未亡人の勇者』。

射撃手(ガンナー)|マグナム】大雑把でめんどくさがり屋。称号『未亡人の勇者』。

修道士(モンク)|ウィリアム】思慮深き鉄人施術者。

魔道士(ウィザード)|“K”】生真面目な高火力砲。※未登場

戦士(ソルジャー)|ワンマン】攻守で活躍する暴れん坊。

剣闘士(グラディエーター)|グレイト】合言葉は「筋肉は友達だ」。


NPC【ガラドーリア】開拓民エルフの母親(未亡人)。実は狩りの達人。

NPC【ヴァルネーラ】母と妹を追う開拓民エルフの長女。※未登場

NPC【イクシオーネ】開拓民エルフの次女。SF的(少し不思議)少女。


NPC【オルベッティ】開拓村の代表。毛皮のベストが自慢。


 巨木が生い茂る深い森の中を、荷馬車と共に進む男達の姿があった。


「おっ、エリア名が変わった」


 一人の男の言葉に反応して、周囲の男達もそれぞれマップを開いて確認を始める。

 遅れて僕もマップを開き、ほとんど何も記されていない、真新しいマップに切り替わった事を知った。

 マップ名を見てみると『大森林外縁東部』とある……うん、そのまんま、だった。と言うか、ここはまだ大森林の入口らしい。


 いま僕達がいる場所は、ファクト平原の西方域に広がる大森林――トロトロと進む荷馬車に従って歩き、気がつけば深い森の中に入り込んでいた。

 途中の村までは何組かのパーティーの姿もあったけど、いまは僕が臨時で加えさせてもらったパーティーだけなので、顔見知りもなく周囲の薄暗さと相まって非常に心細い。


 僕は……と、そう言えばこのゲーム、特に職業名とかないから自己紹介で困りそうだけど、とりあえず魔力強化一辺倒の魔法使い。名前は『ノーリス』、単純に安全確実(ノーリスク)から来ている。

 ちなみに現実(リアル)の僕は四月生まれの中三(中学三年生)で、本来なら受験で忙しい筈だけど……来年は地元の農業高校に“行かされる”事になっていて、偏差値に余裕があるのを良い事に、夏休みに入るなりゲーム生活を満喫している。


 ゲーム歴は浅くて、ほぼ初心者。遠くの大学に“逃げた”兄が残してくれたゲーム機材(ハードウェア)で、今年の春から幾つかお試しで参加していた程度の経験しかない。

 新しいゲームが始まると聞いて先行開業(オープンベータ)にも初日から参加し、本格的にMMO-RPGを遊ぶのはこのゲームが初めてだった。


 現在、正式サービス開業記念のオープニングとなる、開拓イベントの真最中。実はイベント開始の直前、何かないかなぁ~と港町をふらふら歩いていたら、欠員が出たからと初対面の人に突然誘われたのだ。

 思わずラッキーとか思いながら付いていくと、そこには“彫の深い”濃い目の男達が待ち構えていた。一瞬“ヤバイ何かを感じて”即座に逃走を図ろうとしたけど、いつの間にか路地の出口を塞がれていて、「突然どうしたんだ?」と無駄に良い笑顔で拿捕されてしまった……。




    ◆◆◆




「いやぁー……期待が高まって来た、な?」このパーティーのまとめ役(リーダー)冒険家(アドベンチャラー)|インディー』さんが、“彫の深い”朗らかな笑顔を向け、ショートソードを一閃する。


「何が、だぁぁぁぁー! ふんっ!!」高身長で見事な体格を誇る『剣闘士(グラディエーター)|グレイト』さんが、“彫の深い”暑苦しい顔を歪ませ、両手に握ったバスタードソードをフルスイングする。


「森がどうこう言ってたヤツ、か?」若干痩せ気味な風貌の『射撃手(ガンナー)|マグナム』さんが、“彫の深い”苦笑を浮かべつつ、クロスボウを適当にぶっ放す。


「あー、あれだよ、あれー!よっ! ログハウス……はぁぁっ!よっしゃぁー!」巧みに盾と剣を扱う『戦士(ソルジャー)|ワンマン』さんが、“彫の深い”おどけた表情のまま、振り向きざまにブロードソードを斬りつける。


「『森にログハウスを建てて住みたい』と言う話だったな。ふふっ、私も楽しみだ……ふぬっ!」ゆったりとした頭布付きの修道士服を纏う『修道士(モンク)|ウィリアム』さんが、“彫の深い”(いか)ついた冷静な表情で、トゲ付きフレイルで殴殺する。





 なんだろ? この疎外感……ボク、イラナイ子?


 僕抜きで会話が進行している事もそうだが、レベルの差だけではない力量の差と言うモノを感じる。さすがは限定試験運用(クローズド)からやり込んでいる方々だと思う。


 それにしても、先程から急にモンスターの湧きが激しくなり、特に『フォレストウルフ(※森オオカミ)』数匹単位による波状攻撃が酷過ぎる。途中からパーティー戦を維持できなくなり、手当たり次第に各個撃破へと切り替わってしまった。と言うか、みなさん、何気にヒートアップしてませんか? 顔が怖いよぅ……。

 ちなみに僕は荷馬車のそばに付き、抜けてきた敵を迎え撃つ最終防衛を任された(※本当は『足止めだけで良いよ』と言われた)……が、みなさん強過ぎです!


 これでは僕が護衛対象みたいだ。


 チラリと荷馬車の御者台を窺うと、本来の護衛対象であるNPCの二人は相変わらず、のほほーんとした表情でそこに居た。インディーさんの紹介によると、二人は母娘で新天地を求めての旅の途中らしい。


 お母さんの『ガラドーリア』さんはタレ目がちな美人さんで、何が嬉しいのか常にニコニコしていて、僕も始めて見た時はドキッとしてしまった、と言うかキョドってしまった。免疫ないです、ゴメンナサイ。向日葵みたいな笑顔が素敵です。

 ちなみに未亡人だそうで、ご主人を亡くされた後に色々あって、故郷に居づらくなって旅立ったそうだ。


 娘の『イクシオーネ』ちゃんは見た目十歳くらい。隣にお母さんが並んでいるので判りやすいが、将来は多分あんな感じになるのかなと。

 ただ、可愛い子には違いないけど……遠い何処かをジーっと見つめて居たり、呼びかけても何の反応もなかったり。無表情と言う訳でもないけど、何を考えているのか不気味な所もあって、僕はちょっと苦手かも知れない。

 そう言えば『次女の』と紹介されたので、お姉さんがいるのかも知れない。


 そして、二人とも耳が長いです。輝く若草にも似た金色の髪が綺麗な、ふと見蕩れてしまいそうなエルフでした。




    ◆◆◆




「あれ? 静かになりました?」気がついたら戦闘が終わっていた。


 見渡せば、前衛職のグレイトさんとワンマンさんは、しゃがみ込んで休息(回復)中。ヒーラー職のウィリアムさんも、一通りみんなのHPを補充して休息状態に入った。


「うーん……多分、終わったか?」と、周囲を油断なく警戒するリーダーのインディーさん。


「探知出来る範囲には何もネー(ない)なぁ」と、アーチャー職のマグナムさんも応じる。口ぶりから、レーダーの様なスキルを持っているらしい。


 何も言わなくとも各々が仕事をする、これが上級者かぁ~と魅せられていたら、インディーさんと目が合った。


「ノーリス君も、今のうちにMP回復しておいて」

「あ、はい、分かりました……」


 うあぁっ、超はずかしいぃぃー! 心の中で悶絶しながら、お荷物状態の自分を嘆いてしまう。


 最初の顔合わせで「イベントを楽しむのが目的だから、レベル差は気にしなくても良いから」と言ってくれたものの、全く役に立っていないのも情けない。おまけに、レベル18まで上がってしまったので尚更だった。


 全員が社会人だとは聞いているが、僕が中学生だと知ってか終始大人な接し方をしてくれている。高レベル者としても、プレイヤーとしても、大きな力量の差を感じてしまう。顔の濃さに引いてしまって、逃げ出そうとした自分が恥ずかしい。


 はぁ……、僕も見習わないと……。


「よっしゃぁー!レベル21! 経験値ウマっ!」

「おぉー、俺も、俺も! 経験値、ウマ、ウマ!」

「そうだな、もう一周くらいしておきたいところだな」

「えぇーっ?! かったりー(疲れる)ぞ?」


 ……良く考えたら、社会人なのにトップレベルって言うのは、向こう(リアル)とか色々大丈夫なのだろうか? 一抹の不安が過る。





 その時、何かに気がついたインディーさんが立ち上がり、荷馬車の様子を確認する。


「馬車(荷馬車)が止まってないか?!」


 モンスターが現れようがお構いなしに、勝手にマイペースで進んでいく荷馬車だったので、モンスターの湧きにだけ注意していれば良いと油断していた。


 ほぼ全員が休息状態にあった僕達はギョッとし、大慌てで荷馬車へと駆け出す。


 幸いにも護衛対象の二人は無事だった。ただ、母娘揃って頬に手を当て、小首を傾げて“困ったポーズ”をしている。う~ん、NPCクオリティだ。


 如何(どう)したのかと思い、二人の視線を辿って前方へと目を向けると――緩く下り坂になっている道の先は、煌めく水面(みなも)へと続いていた……。


 荷馬車に追いついた僕らは、目の前に広がる湖に呆然とする。誰かが「なんじゃ、これーっ?!」と叫んでいるが、僕もそれ以外に言い様がなかった。


 ただ、普通の湖ではない事は直ぐに判った。水面から直接木が生えているので、これは水浸しの森なんじゃないかと……。遠くには先住開拓者の物らしい建物が、半分くらい水没した状態で点在しているし。


「あっ!あそこ!」


 さすがに目が良いアーチャー職のマグナムさんが、一軒の水没した建物を指し示す。そこには、水没した半開きのドアの陰から、顔を覗かせる大きなネズミの様な顔……。


「ビーバー?」


 表示されたネームタグには『ビーバー/Lv16』とあった。そして、その背後にポコポコと浮かんで顔を出す仲間達……合計六匹のビーバーが現れた。


「これって、もしかして……」

「うむ、『ビーバーのダム湖』だな。彼らは“生活のために周囲の環境を作り替える、人間以外で唯一の動物”だと呼ばれていて、自分達の住処のためにダムを造るそうだ。ちなみに、何世代にもわたって拡張を続けた世界最大のダムともなると、1キロメートル近くにもなるそうだ」

「1キロも?すげぇ!」


 僕も、おぉぉ!とか思ってしまったが、いまはそんな場合じゃない。この現状が示す状況、つまりは……僕達の目指していた目的の開拓村は、すでにモンスターに占領されているみたいだった。




    ◆◆◆




 湖を前に、途方に暮れる漢達(おとこたち)五人、プラスおまけの僕。そして……「困りましたわぁ~」と一分置きにループする、NPCエルフのガラドーリアさんの声が虚しく響く。


 ああっ、ガラドーリアさんが壊れてしまった。無性に悲しくなる僕。


 ちなみに、ガラドーリアさんに幾つか質問しても、すべて「私も何がなんだか」と返されてしまった。なお、イクシオーネちゃんは平常運行“まっすぐオーライ”です。


「まさか、クエスト失敗なのか?」

「ちょっ、待て! 意味が判らん」

「理不尽過ぎ!」

「あぁー、タバコ吸いてぇー」

「いや、彼女の反応ループは“失敗が確定していない”からではないか?」


 状況は混沌としたグダグダになってきた。何となくため息を漏らしつつ湖を眺める……と、ふと気がついた事がある。


「あれ? ここに住んでいた人達は何処に行ったの?」


 僕の発言に気がついた漢達は、みな“彫の深い”顔をキョトンとさせる。うぉぅ、顔圧?がすごい。


「あんたたち、ここで何をしている?!」


 本当に突然だった。背後から聞き覚えのない声で呼びかけられ、振り返ると普通に村人っぽい人が立っていた。


 現れたのは、現在水没中の開拓村の代表者を務めるオルベッティさん。人間族のNPCで、見た目は30代後半から40代前半くらいの男性。毛皮のベストをはおり、腰に鉈をぶら下げているので森の樵にも見える。村の状況が心配で、様子を確かめに森の中を抜けてきた所だそうだ。


 彼の話を要約すると、開拓を始めて10年余りの間、度々ビーバーの被害はあったらしい。その都度近くの高台に避難し、町の冒険者ギルドに駆除依頼を出していたとか。


 まさかとは思うけれど、イベントの最中に別のクエストがブッキングしたとか? ……まさかね?


 しかし、この状況を冷静に思考していたヒーラー職のウィリアムさんも、僕と同じ結論に至った様だ。

 『地域限定クエスト(ビーバー退治)が運営のミスでOFF設定になっておらず……』と、フラグ管理がどうのこうのと長い話が続いたが、要するに『運営のミスで別のクエストが発生している処へ、イベントクエストが強制発動してしまった』と言う事らしい。

 このため、意図しない状況に陥ったNPCのガラドーリアさんはバグった(汗)と。


 解決の糸口が見つかった途端、漢達が勢いづく。


 バグだと思われるこの状況。僕は未だに戸惑い気味だが、漢達は困るどころかむしろ喜んでいた。彼らにすれば『正式開業初日ならバグが有ってもおかしく無い』と言う認識らしい。これも大人な対応なのだろうか?バグを喜ぶって……。


 なお、この状況をどうするかについては、『ビーバー退治』を解決すれば良いんじゃね?と言う、この場の勢い(ノリ)だけで即決。それでもし失敗したら、クレーム(責任者出てこい)!なのだそうだ。大人って……。


 改めてNPCのオルベッティさんに話を聞き、この場でクエストとして受注に成功。クリアー条件は『ビーバーの討伐』、もしくは100メートル先にある『ダムの破壊』との事。





 結論から言うと、“そのまま”では湖に入る事は出来なかった。膝のあたりまでは入れるが、そこから先は『条件を満たしていないため進めません』とのシステムメッセージが視界に表示され、身体が押し戻されてしまう。

 ターゲットのビーバー達は有効射程に届かず、どうしても水に入らなければならない。そこで、条件とは何か?と検討して直ぐに思いついたのが水着だった。


 『ダンディ水着』古式ゆかしき純和風テイストな男性専用の逸品……今日のログインで早速(ちまた)の話題になっていた、記念品としてもらったガチャ福袋から出てくるハズレアイテムだ。

 名前は水着となっているが、明らかにフンドシそのものだった。僕も“コレ”を引き当ててしまい、捨てるのも勿体ない気もして保留にしたままだった。

 普通の海パンでいいのに、運営は何を考えて“コレ”にしたんだろう……完全にネタアイテムじゃん。


「じゃ、試してみるか!」


 躊躇なく、リーダーのインディーさんがフンドシ姿に変身する。所謂なりきり(アバター)装備なので、装備の入れ替えする事なく一瞬だった。「おう」と続く漢達も一斉に変身していく……うぅっ、肌色が眩しい。


 堪らなく気恥ずかしかったが、颯爽と変身していく漢達に釣られて、僕も視界内の選択ボタンをポチっと押していた。


 ()くして湖を前に、純白のフンドシ姿で雄々しく屹立する“彫の深い”漢達五人。プラス弱腰フンドシ姿の僕……。


 なんと言うか……人間の身体の造りに格差があると言う事を、まざまざと見せつけられた気がする。


 鎧なんて要らないだろ!と思いそうな大胸筋だったり、肩甲骨下の筋肉群から上腕二頭筋にかけて盛り上がる様に発達した逆三角形だったり、陰影がクッキリと現れた腹筋だったり、大腿筋群が丸太の様にぶっといカエルの様な脚だったり。

 筋肉の付き方に差はあれども、おおよそ“胴長短足”と称される日本人とは異なる、真逆な体型比率。特に、ギュッと絞られ引き上げられた臀部にやや食い気味のフンドシは、『ダンディ水着』の名に偽りがなかったと知り驚愕した。


 対する僕はと言うと、現実(リアル)で日本人の標準的な男子中学生のままを、こちらの世界(ゲーム)に持ってきただけなので圧倒的に貧弱だった。特に、肉が付いていないだけの臀部は、フンドシが広がり気味でブルマの様に見えて、全くもって似合っていない。

 この『ダンディ水着』、似合う人と似合わない人がクッキリ分かれる、本当に残酷なアイテムだった。


 さらに追い打ちをかける様に、「ん?お母さん、前が見えない?」「貴女にはもう百年ほど早いかしらねぇ」と言う会話を背後に聞いてしまった僕は、心の中で絶叫を上げていた。


「君も“ソレ”を持っていたか」


 打ちひしがれる僕を余所に、僕の姿に気がついた(もはや賢人と言って良い)ヒーラー職のウィリアムさんが、ふと何かに思い至ったのか思案する。


「六人全員が“コレ”を持っていたとは……だとすると“コレ”がトリガーだったか?」


 トリガーとは、この手のゲームでは『イベントやクエストを発生(開始)させるための鍵』の事で、NPCに話しかけると言った行動だったり、特定のアイテムの所持だったりする。通常は分からない様に隠してあるものなので、これを発見する事もゲームの楽しみの一つでもある。

 今回の場合は、“パーティーを組んだ全員が『ダンディ水着(※女性は各種水着)』を所持した状態で村を訪れる”だった可能性が高い。


 つまり――この中で誰か一人でも『ダンディ水着』を所持していなければ、バグが発生していなかったかも知れないのだ。


 うぉぉっ!! 僕は何故あの時、“コイツ”を捨てなかったんだぁー!




    ◆◆◆




「うっ、ひぃゃ、へぇっ(助けて)」

「喋ると舌噛むぞ!」

「そぅっ、ぐぉぅ、ほぉー(そんなこと言ってもー)、痛っ!」


 水の浸かっていない安全地帯を目がけ、バシャバシャと水飛沫を蹴立て爆走するフンドシ姿の漢達。まだ水深は膝の辺りまであるので、走ると言うよりもピョンピョン飛び跳ねる様に、パワー全開の五人衆が駆け抜ける。


 僕はと言うと、リーダーのインディーさんの肩に担がれ、走る度に激しく揺さぶられて物凄く気持ちが悪い。多分これ、視界が激しくブレる事による『バーチャル酔い』か何かだと思う。あと、舌を噛むと自損ダメージが入るのね……初めて知りました。


 結局のところ、僕たちは水中戦を舐めてました。やってみて知る、この厄介さ。


 『地形効果』と呼ばれる補正の一種らしいが、水に浸かっての移動は想像以上に辛かった。ウィリアムさんの考察によると、リアルでの物理法則を再現しているのか、水没具合によって身体にかかる浮力と水の抵抗も考慮されているらしい。

 深い所で水深80センチメートルくらいあり、僕だと腰の辺り、大人達だと股下の辺りになるが……この水深だと浮力は余り大きくなく、足にかかる抵抗力(※ゲームではSTR判定でAGIが補正されて移動速度に反映されている)だけが増大する。競走馬のトレーニング用プールがこれと同じらしい。


 多分、『水泳』みたいな水中用技能があれば問題ないのかも知れないが、僕たちは誰も類するモノを持っていなかった。ちなみに、何人かが泳ぐのを試してみたが、泳ぐには微妙な水深で底が気になって泳ぎにくく、立って歩く方が楽だと言う結論に至った。


 また、水中のターゲットに対する魔法攻撃は、火系と風系の属性魔法は届かず水面で霧散してしまい、恐らく雷系も同様だろう。水系も持っていないが、同系耐性で効果は薄いはず。土系と神聖魔法(ヒーラー職のウィリアムさんが持ってる)の光系がダメージを出せそうだが、著しく命中率が低くて全く当たらない。


 明らかにこの領域フィールド、“魔術師殺し”だ! ――この時点で僕の“役立たず”が確定していた。


 ちなみに、ほとんど動けない事も判明した僕はインディーさんに担がれ、本当のお荷物に成り果てていた。うぅっ、不甲斐なくて申し訳ありません。


「早く水から上がれ!!」


 いち早く安全地帯に駆け込んだアーチャー職のマグナムさんが、クロスボウを連射して後続の撤退を支援する。


「やっべ、マジ死にそーっ!」

「この筋肉を見よ! <肉体言語挑発(肉体で語り合おう)> ぬうぅぅぅぅーん!!」

「次、ヒールを入れたら全力で走れ! 後は私が引き受ける!」


 挑発スキル(ワンマンさんとグレイトさん)とヒール(ウィリアムさん)による職人芸並みのターゲット廻しで、危うい均衡を保ちながらも安全地帯を目指す後続三人。シーソーの様にHPバーが増減し、見ている方も気が気でない。


 まずは様子見からと始めた序盤から、水中で巧みに攻撃を避けるビーバーに予想外の大苦戦を強いられていた。しかも<噛みつき>攻撃の一撃が凶悪で、最もタフなグレイトさんでもガリガリとHPが削られる。


 こいつら愛嬌のある顔なのに、見た目以上に恐ろしい。村を占拠している状況と言い、人類に反抗する気がヒシヒシと感じられる。


 結局、ヒール量の方が大きくなってターゲットが固定できなくなり、更にはビーバーの仲間が集まってきてしまった。全滅パターンの最悪の状況だった。


 リーダーのインディーさんは直ちに撤退を指示し、生存の見込みがありそうな村の建物が集まる場所を目指した。結果的にその判断は正しくて、遠目では分かり難かったが直径10メートルの水に浸かっていない安全地帯を発見。希望を見出した僕達は、全力で向かっている最中だった。


「ノーリス君! 水から上がって、支援頼む!」とインディーさんが言うや否や僕を降ろし、反転して三人の救援へと駆け出す。


 安全地帯の数メートル手前で降ろされた僕は、「分かりました!」と返してヨタヨタと頼りない足取りでマグナムさんの所まで走った。


 何の予備知識(攻略情報)もなく、ノリだけで始めてしまった突発クエストだったが、開幕早々波乱の展開となった。





 ……何というか、人間の適応力って凄いと思う。序盤であれだけ苦しんだ相手(ビーバー)だったのに、漢達はもう攻略方法を見つけてしまった。


 一人が人柱となる……所謂『漢釣り』だった。


「さあ来い!軟弱共! <肉体言語挑発> うぉぉぉっ!」


 ビーバーが強烈な<噛みつき>をする際、一度相手の身体に取り付いて、そこからワンモーション入ってから発動する事が判った。


「来たぞ、来たぞ! 囲め、囲め! 狩りの時間だぜ!」


 つまり、異様に素早く回避するビーバーも、<噛みつき>の際には動けないのだ。


「全員、配置に付いたか?」


 また、剣で“斬る”のではなく“突く”攻撃が有効である事も判った。恐らく水の抵抗が関係しているらしいと聞いて納得する。


「ああ、良さそうだ。この錫丈も“突く”には中々具合が良いとはな」


 多分この場合、槍が最も効果的な武器なのだと思う。杖で“突く”のも有りらしい。


「いっくぜぇー!」


 その結果、最も耐久力のあるグレイトさんが仁王立ちで挑発し、得物を構えた漢達が周囲を取り囲み、攻撃を仕掛けてきたビーバー目がけて一斉に突き入れる――と言う変則スタイルを確立してしまった。


「いまだ!」 ――おう!!!!


 レベル差もあって、攻撃が当たれば呆気ない。安全地帯まで引っ張ってきてしまった三匹を、瞬く間に倒してしまった。


 ――ちなみに僕は、バックアップと言う名目で安全地帯に居残りしてました。


「よっしゃー!!」

「全員、水から上がって回復してくれ!」

「おぅ?!状態異常? ……『出血』って、何だ?」


 前衛三人が水から上がってくるが、聞いたことが無い状態異常だった。


 それは、弱い毒状態の様に継続ダメージが発生し、ヒールによる治療が可能みたいだ。攻撃された部位が水中だったから、傷が塞がらずに血が流れ続けたと言う事なのか?

(※【出血】水中にて鋭利な武器で攻撃された場合に、稀に発生する状態異常(バッドステータス)/継続的な弱ダメージ/水から出れば中確率で自然治癒、ヒールなどによる治療可)


「はぁー、一時はどうなるかと思ったぜぇー」

「あぁ、だが……時間が無いな」


 後衛ながら集団包囲攻撃(リンチ)に加わっていた二人は、制限時間の残りを気にしていた。


 このクエスト、制限時間が45分に設定されていたりする。

 索敵スキル持ちのマグナムさんにより、6匹ほどのグループが三つある事は確認済みだ。つまり、全てを殲滅するには一匹当たり2分半しか時間が無い。

 さらにはこの特殊なフィールドが、100×100メートルと走り回るには広く、全体が水没による地形効果で移動が困難だった。移動手段をどうにかしないと殲滅クリアーは不可能だ。


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◆シーラッツ村/クエスト【森の反抗者から村を救え】フィールドマップ◆

挿絵(By みてみん)

[地図注記]グリッドの一辺は10メートル、フィールド全体は100×100メートル。直径10メートルの安全地帯とダムの向こう側以外の全体が水没。安全地帯近くに点在する建物や、木々が水面から突き出ている。クエストの棄権以外で、フィールドの外には出られない(全滅時や制限時間切れの場合は強制終了)。

[P1]村の入口を警戒するビーバー×6匹。[P2]巣を守るビーバー×6匹。[P3]ダムを守るビーバー×6匹。クエストに参加するプレイヤーと設定されたエネミー以外は全てフィールド外へと締め出される。

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 早々に漢達は『運営は“殲滅クリアー”させる気が無いな』と看破していた。しかし、とりあえずの様子見で一戦するつもりが、予想外にも苦戦して時間がかかってしまったのだ。残り時間は30分を切っている。


 だけど……こんな状況にもかかわらず一切役に立っていない僕は、半ばいじける様に隅っこの方で小さくなっていた。


「全員、回復しながら聞いてくれ」リーダーのインディーさんが皆の注目を集める。


「このクエストを失敗すると、連鎖的に護衛クエストも失敗になると思う」


 漢達も解っているので「あぁ……」と項垂(うなだ)れている。


「……ここは、強引にダム破壊優先で行こうと思う」


 インディーさんは『強行突破』を宣言し、そして僕を見るのだった……。




    ◆◆◆




 フィールドの境界ギリギリを、森の木々に隠れて行軍する漢達。やがて開けた場所に着くと木の陰に身を隠し、用心深くその先を窺う……目標のダムは目の前、20メートルくらいの所まで近づいていた。


「ダムの前に6匹、陣取ってるな」


 マグナムさんが予想通りの索敵結果を伝えてくる。


「ここからは強行突破だ、時間が無いから一気に行こう」


 リーダーのインディーさんの言葉に漢達は一様に頷くと、素早く“陣形”を組み始めた。


「ノーリス君! 君も早く!」


 僕は羞恥に震えながらも意を決して、漢達とドッキングする……。


「みんな、良いか!」 ――おう!!!! ……う、うぉぅ!


 インディーさんの掛け声に合わせて、彼の肩に手をかけたマグナムさんとウィリアムさんの後衛二人が応じ、僕を担ぎあげて雄々しく立ち上がる。


 ――ここに、フンドシ姿の漢達による『騎馬(漢祭りバージョン)』が爆誕した!!


 三人が馬を組んで突撃、ワンマンさんとグレイトさんの前衛二人が左右でエスコート、そして僕は馬上からの砲撃。これがインディーさんの提案した、強行突破の陣形だった……この場合は『機動砲台』と言うべきかも知れない?


 視界が見慣れた感覚よりも高く、ゆらゆらと動いて物凄く怖い。あと、お尻の下の腕が……、肉感が……、思わず変な声が出そうになる。


「ノーリス君は射程に入り次第、状況に構わずダムへの全力攻撃を! 周囲の二人は状況で行動! 騎馬組は掛け声出して、歩調を合わせて行くぞ!」 ――おう!!!! ……はい、うっ、おう!


 インディーさんの最終確認の後、ついに決戦の幕が上がる!


「とつげーき、開始! いっち、にぃ!」 ――いっち、にぃ!!!!


 バシャバシャと水の抵抗をモノともしない漢達の逞しい駆け足。掛け声と共に段々足並みも揃い、一気にスピードが乗り始める。


「ビーバー達が気付いた! 6匹来るぞ!」


 さすがにこれだけ騒げば気が付かれる。エスコート役の二人が進路上に回り込む。


「射程に入りました! 攻撃開始します!」


 漢達の「行けぇ!!」と言う激励と共に僕は<ファイア>を発射。即、次の<エアカッター>の詠唱に入る。


 目標は、ダムの中央に六つ並んだ『ダム』と書かれたネームタグ付近。どうやら破壊可能オブジェクトとして存在し、六つ全てを破壊しないとクリアーにならないらしい。

 最初の一発目の<ファイア>が命中したが、なんとなくボロくなっただけで破壊出来た訳ではない。どんどん撃ち込まないと……僕は続けて<エアカッター>を発射する。


「ビーバーが全部そっち行った! 気をつけろ!」


 前衛二人の防衛網は“アッサリ”と突破されたらしい。当然ながら目指す標的は、ダムを攻撃している僕だ! 迫りくる黒い影にビビりながらも<ロック>の詠唱に入る。


 ビーバー達に取り囲まれ、騎馬の足が止まる。漢達は油断なく周囲を警戒するが、素早く水中を移動する相手を捉えるのは困難だ。


 突然、僕の足を狙った一匹が水中より飛び出す――ブン!と言う鈍い風切り音と共にトゲ付きフレイルが振り下ろされ、グシャリと水面に叩きつけられた。


 えぇー?! 驚く間もない程の一瞬の攻防だった。


「やはり、水から上がれば呆気ないものだな」


 すぐそばから聞こえた呟きに背筋が震え、<ロック>を発射する際に手元が狂いそうになる。


 驚愕する僕に気が付いたウィリアムさん曰く、『攻撃先が分かっているなら待ち構えて居れば良い』との事。つまりそれって、僕が人参(エサ)って事ですか?!


「ハハッ、呆気ないぜ!」反対側でも、ショートソードに持ち替えたマグナムさんの喜悦が漏れる。


 ひぃぃー! まさか自分が『漢釣り』させられるとは思わず、声にならない悲鳴を上げる。僕なんかが一撃でも<噛みつき>を喰らったりしたら、即レッドゾーン(※HPバーの残りが僅かな状態)だ!


 インディーさんが陣形を提案した時、「これはイケるかも知れないな」などと不敵な笑みを零したウィリアムさんだったけど……あなた、こうなる事が分ってましたね!

 今更だが、前衛のワンマンさんが装備していたバックラーを、何故ウィリアムさんが借り受けていたのか……やっと理解した。ウィリアムさんが腕に装備する事で、いつの間にか僕のお尻の下にバックラーが出現しているのだ(※ちなみにウィリアムさんは左利き)。

 ここまで用意周到なのに……何故教えてくれなかったの?!


 ずっと後衛だった僕が、初めて攻撃の矢面に“いきなり”晒されて、生きた心地がしない訳がない。だけど……、だけども! いままで役立たずだった分、ここで意地を見せないと!


 ビビりそうな自分を奮い立たせ、再使用が可能になった<ファイア>の詠唱に入る。


「その調子だ、ノーリス君! ガンガンやってくれ!」


 両脇に僕の足を挟み、足を守ると同時に身体を固定してくれるインディーさん……僕を逃がさない様にしている気がするのは邪推でしょうか?


「心配するなってー、ちゃんと守ってやるからよー」

「少年! 『当たらなければどうと言う事は無い』だ!」


 僕の背後に回り込み、死角を守っていてくれるワンマンさんとグレイトさん……そう言えば二人とも、ここでは一度も挑発スキルを使ってませんよね?


 申し合わせる素振りも見せずに、アドリブでこの連携とか。上級者って……。


「ああっ、もう! やってやる! <ファイア>!!」


 ボス戦を含むイベント戦などでは、クリアー条件となる対象へと直接攻撃した場合、それが最も脅威であると認識する様にヘイト値が高く設定されている……と言う事を思い出しながら、無心で魔法を撃ち続ける僕だった。





 轟々と唸りを上げる濁流を見ながら、僕はハーハーと荒い息をついていた。ダムが破壊されるまでの間、必死で逃げ回っていたのだ。


 ビーバーの数が減って包囲網の圧力が下がり、再び前進を開始した騎馬は蹴散らす勢いで駆け出し、そのままダムへと体当たり。騎馬がバラけて水中に落ちた僕は、すぐさま誰かに引き上げられると、「逃げろ!」と言われてダムの上へと放り投げられた。


 一瞬、何の事か分からずに戸惑うが、すぐに僕を襲おうと迫るビーバー達に気が付き、ダムの向こう側へと慌てて逃げる。


 ダムの向こう側は水没していない平地なので全力で走れた。しかし、AGI最低の僕では大した速度も出せず、必死でヨタヨタと駆け出すが……地上でのビーバーは僕よりも遅かったのだ。ずんぐりとした体型に手足が短くて、地上を走るには適していないらしい。水中を秒速数メートルで泳ぎ回るとは思えない姿だった。

 しかし、歯を剥き出し、血走った眼でキーキー鳴きながら追って来る姿はホラーだ。捕まったら確実に殺される。


 漢達はと言うと、手斧に持ち替えて“ダムを伐採”していた。木工技能のない僕には分からなかったが、破壊可能オブジェクトであると同時に伐採ポイントでもあったらしい。


 逃げて直ぐに「大丈夫か!」と気遣われてはいたけど、状況から『逃げ回って時間を稼ぐのが最良』だと思って「大丈夫です!」と返していた――やってやろうじゃないの!


 結局漢達も、追い駆け回すよりもダムを破壊した方が早いと判断。クロスボウに装備を戻したマグナムさんを援護に残して、一斉にダムの破壊活動に入った。と言うか、みなさん、全員が木工技能をお持ちなんですね。


 斯くして数分の間、僕は必至で逃げ回る羽目となった。いま僕は轟々と唸る濁流を目にしているが、戦いの終わりの余韻の様に感慨深くすらある――やっと終わったのだ!


 漢達の上げる(とき)の声に混じり、夢中で終わった事を叫ぶ!


 色々“言いたい事”は山ほどあるが、いまは達成の喜びを分かち合える事の方が嬉しかった。


 ……しかし、僕達の戦いはまだ終わっていなかった。


 ダムの崩壊を演出する様に、ダムを形作るオブジェクトが中央から徐々に消えていき、それに合わせて湖の水位もどんどん下がっていく。そろそろエンディングかな……などと思っていると、ドスンドスンと大地を揺らす地響きが何処からか近づいてくる。


「なっ?!なんだ、アレ?!」


 5メートルはある巨大な木の化け物が、大きく身体をしならせながら急接近してくる。


「ウッドマン、だと? ボスクラスだよな?」

「終わったんじゃなかったネー(ない)のかよ?」

「おいおい、マジかー」

「ク○ゲーか?これは」


 何故だかすでに怒りMAXのウッドマンは、僕達を視認した途端に絶叫を上げて、猛スピードで突っ込んでくる。もはや戦闘を回避出来る状況ではない。


「まずい、ポーション、ラス1」

「こっちも矢がネー(ない)ぞ、畜生!」

「済まん、MPが足りない!」

「ごめんなさい、僕も!」

「あっ! 俺の盾返してくれー!」


 これで終わりだと思っていた全員が動揺し、バタバタと迎撃準備に奔走する。幸いなのは、誰もHPが減って居なかった事だった。しかし、MPが枯渇している僕はヒーラー職のウィリアムさんに連れられ、離れた場所で休息状態に入る。


「包囲(総殴り)戦で対応! グレイト、頼む!」

「ふおぉぉぉぉぉっ、<ブレイブボディ(筋肉よ我に力を)(※STR強化)>! いくぞ!」


 盾とバトルアックスに持ち替えたグレイトさんが斬り込み、ウッドマンと激突。ドン!と言うエフェクトと共に爆風が巻き上がる。


 爆走が止まったウッドマンの背後に、バックラーを装備し終えたワンマンさんが回り込み、さらにその後ろにインディーさんが付く。ショートソードに持ち替えたマグナムさんは、横から前線に参加する様だ。


 枝を鞭の様にブンブン振っていたウッドマンが、突如、全身を使って大きく枝を振り上げる。


「<マッスルガード(筋肉は友達だ)(※VIT強化)>!」


 ウッドマンの体重を乗せた重い一撃が振り下ろされ、ズドーン!と数トンもの破壊力が有りそうな大技が炸裂する。だが、スキルを発動させたグレイトさんはこれを耐えきってみせる。


「連携いくぞ!」


 大技発動直後の硬直中だと見たインディーさんが、即座に連携攻撃を指示。

 マグナムさんが素早くクロスボウに持ち換えて、いきなり<ピアッシングアロー(※ぶち抜き矢/弓術の通常スキル技)>をぶっ放す。


 強烈な貫通ダメージにクリティカルも入ったのか、ビクンと大きく震えたウッドマンはゆらりと標的をマグナムさんに移す。

 そこへワンマンさんが厨二病(おやくそく)的スキル<焔斬り(バーンエッジ)(※斬撃+火の創成スキル技)>で横一文字に斬りつけ、後を追う様に傷が燃え上がってダメージを追加する。


 ウッドマンが吠え、怒りも露わにワンマンさんへと襲いかかるが、今度はその背後にグレイトさんが飛びかかる。

 さっきのお返しだと言わんばかりに叩き込まれた渾身の<ボーバルアックス(※首狩斧/斧術の通常スキル技)>は、STRとVITの強化が継続中らしく相当な素ダメージを叩き出し、加えて斧系武器の相性により上乗せ(ボーナス)もあったらしい。


 三人のスキル技により一気にHPを減らされ、森全体に響き渡る絶叫を上げるウッドマン。しばし打ち震えると激高してグレイトさんを睨み、全身全ての枝を振り上げて大爆発しそうな大技の気配が高まる。


 その時、ワンマンさんの陰からインディーさんが飛び出し、ショートソードを腰溜めに構えて突撃する。


「<御霊穿ち(ミタマウガチ)(※刺突+観察眼の創成スキル技/技名の意味は魂を抜く事)>!」


 スコーン!と言う良い音が辺りに木霊し、一瞬の静寂――。


 ダメージはほとんど出てないみたいだが、相手の行動を阻害する気絶(スタン)効果のスキルだったらしい。急所を狙って一突きする、有る意味において物凄く凶悪なカウンター技だ。何処の忍者かと思った。


 魂が抜けた様にフラリとするウッドマンだったが、直ぐに身体を起こして立て直すと、累積ヘイトの高いグレイトさんへの攻撃を再開する。


「我々も行こうか」


 漢達の凄すぎる戦いを呆然と見ていた僕は、隣に居たウィリアムさんに急かされたものの、まだMPが足りていない。マナポーションも使い切ってしまっている。


「待ってください、まだ……」

「その時は殴りたまえ」


 えぇー?! 何言ってくれてるの、この人!


「今日はせっかくのイベントだ、楽しむべきだろ」


 ウィリアムさんの視線に釣られて戦いの現場に目を向けると、ウッドマンがクルクルとターゲットを変えて踊らされている様にも見える。


「そーれ! 祭りじゃ、祭りじゃ!」

「ふははははぁー!」

「ヒャッハー!」

「踊れ、踊れ!」

「死ぬ時ゃ、全員一緒だぜ!」


 ……なんだか、引いてしまいそうな光景だった。


「連携のタイミングは、私の指示で<ファイア>を撃ってくれれば良い」


 錫丈に持ち替えたウィリアムさんはそう言い残し、包囲の空いている場所目がけて突入する。


 行くしかないよねぇ……。


 はははっ……知らぬ間に乾いた笑い声が零れてしまったのを不思議に思う事なく、僕は両手で杖を握りしめて全力で駆け出していた。




    ◆◆◆




「生きてるよ……、僕……」


 自分でも何を言っているのか分からなくなっているが、誰も死亡する事なく生き残った事に安堵していた。


 一度、凶悪な範囲攻撃を全員が喰らってしまい、全滅寸前まで行った事まではハッキリ覚えている。しかしその後、何を叫んでいるのか自分でも分からないまま吠え、漢達に交じって我武者羅に杖を振り回していた気がする。

 果たしてそれが本当に“自分だったのか”すら、いまとなっては記憶が怪しい。何故生きているのかも不思議でしょうがなかった。


 そんなこんなで……ウッドマンを倒し終えた僕らは、通常状態に戻った開拓村へと到着していた。すでに水没状態の村を一度見ているが、違和感どころか全く別の雰囲気になっていて驚いた。

 現実の水害とかのニュースでは、水の引いた後の復旧で苦労している姿をよく報じている。しかしここではそんな痕跡は一切見られず、いつの間にか戻ってきた住民達も普通に日常生活を送っていたのだ。

 ゲーム世界だから仕方がないとは言え、さすがにコレは幻でも見た様な気分になって、漢達共々唖然としてしまった。


 村には住民に交じって、後から到着したプレイヤーの姿もチラホラある。もし“そのままの姿”で村に入っていたら、いま頃は騒動になっていたかも知れない。

 ここまでの道中、漢達から背中をバシバシと叩かれて健闘を讃えられたが、そこでふとフンドシ姿のままだった事に気が付いたのだ。よくもこんな姿で戦っていたと呆れつつも、全員がその場で装備を解除したが……本当に危なかった。下手したら僕はこのゲームを辞めて居たに違いない。

 ちなみに先着していたプレイヤー達も居り、彼らは住民達と共にいきなり高台の避難場所に転送されていたそうだ。もし僕達が『ビーバー退治』をクリアー出来て居なかったら、彼らはいったいどうなっていたんだろ……。


 水没時には唯一の安全地帯だった場所は、村の広場だった。この付近は水深も浅かった事により、なんとなくそのままの雰囲気が残っていた。

 だけどしかし、一か所だけ如何ともし難い相違点があった。広場の奥に忽然と、布に覆われた大きな謎の物体(オブジェ)が出現していたのだ。


「あぁ! みなさん、お待ちしていましたよ!」


 背後からの声に振り返って確かめると、開拓村の代表者オルベッティさんが現れていた。


 今回もいつの間にか後ろに居たが……この人、実は転移魔法とか忍術とか使えるんじゃないだろうか?


「まずはみなさん、ありがとうございました。住民を代表してお礼申し上げます」


 ここでノリの軽いSE(サウンド・エフェクト)が鳴り、クエストが完了した事を知らせるシステムメッセージが視界に流れる。リーダーのインディーさんの所には、パーティーを代表して入金があった様だ。


「そして、村を救おうと戦うみなさんの姿に感動した我々は、その雄姿と感謝の気持ちを忘れないためにも――こうして形にさせて頂きました」


 両手をバーンと掲げて指し示した先を振り返って見てみると、さっきまでの覆いが取り払われた謎の物体が正体を現わしていた。


 ――それは、木彫りの大きな像だった。台座を含めた高さは2メートルくらいある。


 僕も漢達も「おお……」と言うどよめきが漏れるが、その後の言葉が続かなかった。何と言うか……言葉にし辛い印象だった。


「どうですか、この躍動感! 村の職人に急いで造らせたのですが、見事な出来栄えでしょう!」


 戦ったの、ついさっきなんですが……もう造っちゃったんですね。


「ああっ、こうして眺めているだけで、みなさんの雄姿がまざまざと思い浮かびます!」


 感極まっている所、誠に申し訳ないのですが……正直“コレ”は勘弁して欲しかった。


 僕達の目の前には、『村を救った勇者達』と銘が彫られた台座に、勇ましい六人の姿を象った木像が立っていた。三人が馬を組み、左右に武器を構えた二人、そして馬上には杖を構えた小柄な一人……これ、僕なんだろうな。しかも、全員フンドシ姿だし。


 サイズは実体のおよそ1/2くらい。手彫りの木像で勇壮さを表現してか彫りは荒々しく、確かにモチーフとしては見栄えがすると思う。それに細部は省略されているので、コレが誰かなんて分からないだろうけど……当の僕本人はこの羞恥に耐えられそうにない。


 コマンドリストに<ファイア>を表示させてみるが、使用不可能を示すグレー表示だった。残念ながら破壊可能オプジェクトではないらしい。


「村では今後、みなさんの勇志を讃え、戦いを模した祭事を執り行なわせて頂きたいと考えております!」


 僕の脳裏に、騎馬を組んだフンドシ姿の男達がバシャバシャと川へ駆け込み、ワッショイ!ワッショイ!する妙にリアルなシーンが思い浮かび、膝から崩れ落ちそうになる。


 勘弁してぇ……、僕のリアルHPはゼロだよぉぉ……。





 オルベッティさんは「早速、村の者達と相談しなくては!」と息巻くや否や、退場してしまった。残された僕達は、木像を前に戸惑っていた。


「なぁ、コレ、ホントに俺たちか? 全く似てネー(ない)んだが?」

「だよなぁー」

「俺も、ナニコレ?とか思った」


 どうやら漢達は、僕とは違う理由で戸惑っていたらしい。


 あれー?と思って問題の木像を見ると、身体の大きさは個々に合わせてあるものの、どれも同じ様な造りだった。僕もここまで筋肉は付いてないし。あれ?よく見ると、表情は様々だが……全部同じ顔?


「まぁ、仕方がないんじゃないか? 肖像権とかあるだろうし」

「えっ?あるのか? 肖像権」

「あるんだよ…… ハァー……」


 謎のため息をつくグレイトさん。と言うか、脳筋な方なのだとばかり思ってました。


「こう言うのって、予め型データとか造ってあるものなんだよなー」

「俺達のデータをコピーすりゃ、早くネー(ない)か?」

「いや、単純にテクスチャ張り替えても“人形”には見えないんだよ、特に木質はねー。そもそもこの身体(アバター)って、“人形”に見えない様に工夫しているモンだし。わざわざクエストひとつに、エフェクト作って通すのもメンドイし……で、元になる型データ作ってアレンジした方が早い」


 ヘラヘラした印象だったワンマンさんが謎の言葉を話している。ごめんなさい、プログラムの事とか理解できません(※正確にはプログラムの話でもありません)。


「しかも全員が一括換装(プリセット)のフンドシ一丁だからなぁー、データ上の装備がバラバラでも問題ないし、楽で良い」

「オイオイ……って事は、木像(コイツ)のためにフンドシになったってか?」

「え?! そうなんですか?」

「うそだろー、オィ」

「ひょっとするとこのクエ、男限定か?」


 ……異様な沈黙が漂い、全員が木像へと注目する。


「なぁ、コイツ、ぶっ壊しても良いか?」

「まぁ待て、そうとも限らないだろ?」


 物騒な事を言い始めたマグナムさんを、気持ちは分かると言った顔のインディーさんが嗜めているが、残念な事に破壊が不可能だと僕はすでに知っている。


 そこへウィリアムさんが難しい顔をしながら割り込んでくる。


「いまこの像を調べてみたが、それなりの設置理由があるみたいだな」


 急いで調べてみると『かつて(・・・)この村を救うために戦った勇者達の像[勇者達の戦いを追体験しますか?(Yes/No)]』と出てきた。


 ついさっき戦ったのに『かつて』って……じゃなくて、再戦が出来るようになっている? つまり、あの水没フィールドに行くための入口として置かれた?


 おお?とざわめく漢達の中で「クエストと言うより、仕込み(ミニゲーム)的な物だったかー」と呟くワンマンさん。


「恐らく、隠しクエストを偶然にも我々が解除した事で、条件が満たされれば他の者もフィールドに行けるのだろうな。これは、そのためのヒントとして置かれたのだろう」

「条件? ……ああ、フンドシか」

「どんだけフンドシ推しなんだ、ここの運営」

「そのうち、通報されんじゃネー(ない)か?」


 インディーさんが何かを思いついたのか、「あー、分かった、だから『祭事』なんだ!」と声を上げる。


「いまどきフンドシって言ったら、神事の(みそぎ)とかお祭りくらいだろ? 設定として『この村には伝統的なお祭りがある』って特徴付けしたかっただけじゃないのか? あと、フンドシは“伝統的なモノだから”で押し通す気なんだろうな」

「まさかの“日式英雄譚”?! 俺達、伝説にされたのかよ?!」

「あはははー、神かよ、俺ら」

「いやいや日本古来の伝統的なお祭りなんて、ぶっちゃけ、どっかハイになった<Pi---->が“やらかしちゃった事”が起源だからな?」

「まあなぁ、地元のはだか祭り(※愛知県尾張地方の国府宮で行われる奇祭/厄払いのために神男を捕まえようと群がるフンドシ男数千人の揉みくちゃは壮絶)とか、誰がやり出したんや!思ってまうしなぁー」

「むしろ<Pi---->か!」

「いや、それこそ“勇者”じゃナイカ!(爆)」


 ドっと笑いだす漢達だが、僕はそれどころではなく嫌な予感に怯えて居た。


「ん?どうした少年? そんな顔して?」

「あ、あのー、これって……『晒し』とか、じゃないですか?」


 僕が目の前の木像を示すと、あぁーと即座に理解する漢達。そんな中、やや困った顔のインディーさんが「まぁ、心配はしなくても良いと思うぞ?」と話しかけてくる。


「お祭りで騒ぐ人達も、由来なんて実際は気にしてないから。初詣の参拝客だと、どちらの神様をお奉りしているのかすら全く知らないで来る(・・)人ばかりだからなぁ……」


 妙に実感のこもった声で黄昏(たそがれ)るインディーさん。何となく分かった様な、分からない様な顔をしていると、今度はウィリアムさんが補足を入れてくれる。


「正直『誰が最初にクリアーしたのか?』と言う犯人探しは有ると思う。しかし、このフィールドに入るための条件は、“みな同じ”だからな。私なら真っ先に運営を呪う」


 確かに運営への批判は大きそうだ。フンドシ前提ならば誰もが文句を言うと思う。


「けどよー、えれえ(疲れる)ばかりで、経験値も美味しくネー(ない)ぞ?」

「ビーバーの毛は高級素材だぞ? かの皇帝ナポレオン・ボナパルトも愛用した二角帽子も、ビーバーの毛をフェルト加工した物だそうだ。特にヨーロッパではステータスとして重用され、絶滅寸前まで狩り尽くされた程だ」


 実際、『ビーバーの毛皮』や『ビーバーの歯』がドロップしている。素材のままなので詳細は分からなかったけど、苦労に見合うだけの良いものなのかも?


「ひょっとして、補正効果付きか?」

「コレが現実を元にしているなら、防寒防雨材としても、緩衝材(※鎧等の内張り)としても、最高級品のはずだ。あと、レア度の引き上げもあり得るな」


 おおーと漢達が期待にざわめく。


 ひょっとしたら、素材欲しさに挑戦する人も現れるかも知れない。そうなれば、誰が最初にクリアーしたとか関係なくなる。漢達とは別の意味で期待にざわめく僕だった。


 良かったぁー! ネットで名前が晒される事も、知らない人から指を差される事も……「うひぁいぃ!」


 突然背中をツンツンされて、思わず変な声が出てしまった!


 漢達の奇異を見る様な視線が集中する中、振り切る様に慌てて背後を振り返ると、何だか拗ねているイクシオーネちゃんが居た……あぁー!忘れてた!!





「みなさん、探してしまいましたよ?」


 ちょっとご立腹と言う感じのガラドーリアさんが現れ、漢達は即座に低頭平身してひたすら謝りまくると言う、本日最も緊迫したご機嫌取り(クエスト)が発生していた。

 いつの間にかイクシオーネちゃん担当は僕に割り振られていて、漢達が後ろ手にハンドサインやら手振りを使って “行け!!”と圧力をかけてくる。何故僕が?と言う理不尽な気持ちと、NPCなのにどうして?と言う思いと、お母さんの陰に隠れて不機嫌そうにする姿に困り、どうしようかと迷ったが……結局「ごめんなさい」と素直に謝る事にした。


「仕方がありませんわね~」と、いつもの雰囲気に戻ったガラドーリアさんからお許しが出た模様。しかも、ここでクエスト完了のお知らせが入る。


 ――えっ? まさか、NPCの機嫌を損ねていたらクエスト失敗だったとか? ゲームなのに処世術(リアルスキル)も必要なの?


 バーチャルなのに、背筋を流れる冷たいモノを感じてしまう。あと、漢達が必死で平謝りしていた理由がやっと分かった。


 漢達共々ホッとしていると、不意に手を伸ばしてきたイクシオーネちゃんが僕の額にピタッと触れたかと思うと、スッと身をひるがえしてお母さんの後ろに戻ってしまった。


 えっ? えっ?! いまのなに?


 全く意味の解からない行動に困惑し、助けを求めて周囲を見るが漢達も分かっていない様子。ただ一人ガラドーリアさんだけが「あらあら~」と微笑んでいて、いったい何だったのか分からなくなる。


「それでは、みなさんにはご褒美を差し上げませんと行けませんわね~」


 混乱している僕を余所に、ガラドーリアさんは漢達一人一人の手を取り、感謝の言葉を贈り始めていた。


「よっしゃー、レアなやつ来た!」

「おい! 上級なんて初だぞ!」

「うはっ! いいぜー、強力だぜー、撃ちてぇー!」

「うーん、俺は微妙か?」

「うむ、これは薬草採取に役立つ、知識が増える事は喜ばしい」


 何やら漢達がはしゃぎ始める。もしかしたら、貴重な技能が貰えるのかな?


 僕も期待を込めた眼差しを向けるが、肝心のガラドーリアさんは喜ぶ漢達を見渡して微笑み、そして僕にも微笑みかける……。あれー?


 まさかの“オアズケ”に呆然とした僕は、思わず「僕は?」と声が漏れてしまう。


「うふふっ、あなたはもう、受け取っていますよ~」


 ガラドーリアさんの謎めいた微笑みに一瞬目を奪われそうになったけど、慌てて自分のステータスメニューを開く。

 いくつか階層を降りて表示した技能リストには、いつの間にか『精霊感応』が追加されていた。攻略情報とかでは見た事もない、初めて見る技能だった。

(※当初は『精霊魔法』の予定でしたが、本編にて登場が示唆されているので、被らないモノに変更しました)


「やったぁ! 僕も貰ってました!」


 護衛クエストの報酬は技能だった様で、想像以上に大変になってしまったイベントも、これで終わる事が出来たらしい。漢達が口々に「おめー」と祝ってくれて、少々照れながら「ありがとうございました」とお礼を告げる。

 思えば偶然の出会いから始まり、終盤は色々訳が分からない状況に陥ったけど、終わってみれば“楽しかった”と感じている。それに、いままでの自分とは違う自分になれた様な気分だった。多分これが“良い経験をさせてもらった”と言う事なのだと思う。

 何だか無茶苦茶な人達だったけど、何処までも自由に、そして、どんな困難も蹴散らして進む人達だと思う。改めて凄い人達だったと思うと共に、ここまで連れてきてもらえた事を感謝するのだった。


 しかし、この時の僕は知らなかった。僕の得た技能だけが全く系統が異なっていた事を。そして、それを知った漢達が豹変する事を……。





「ところでみなさん、実はご相談したい事があるのですが~」


「どうしましたか? 奥さん」相談事があると言うガラドーリアさんの言葉に、イイー顔で反応するインディーさん。


 ガラドーリアさんの相談と言うのは、村人の住居の建て増しを手伝ってほしいと言うものだった。漢達は快く引き受けると、伐採へと駆け出そうとする。


「ちょっと待って下さい、僕は木工がないので無理ですよ!」

「あぁ、そうかー……。じゃ、まずは職人NPC探しだな」


 力仕事は辛いので、やんわり断ろうかと思ったら、まさか技能の取得から?


「村長が言ってただろ? 木像を職人に造らせたって! だからこの村には木工技能持ちのNPCが居るはずだ!」

「凄腕の職人とかいればラッキーなんだよなぁー」

「あと村長に、俺らの家を建てさせてもらえないか交渉だな!」

「そうそう、それが最初の目的だっけ?」

「可能性の話だが、このゲームはNPCが了承すれば家の所有もあり得そうだからな」

「せっかく村長が知り合いになったんだから、いまがその機会だぜ」

「やった者勝ちのダメ元でゴー!」

「そういやぁ、これ終わったら海行こうぜ、うみー!」


「どうした、ノーリス君! 君も早く来いよ!」


 ……何処までも自由な漢達との旅は、まだしばらく続きそうだった。




    (おわり……?)




 SSだからとプロットも書かずに始めたため、後半は回収に失敗したネタが多いです。特にNPCエルフ母娘に関しては、本当はウッドマン戦に乱入するはずでしたが、ごっそりと出番を削ったために最後のオチまで変わってしまいました。

 ただでさえ遅筆(調子が良い場合で一週間一万文字程度)のうえ、色々仕込み過ぎてどんどん長くなる癖はなかなか治りません。

 今回は大変良い勉強をさせていただきました。タイトルを快くお貸し下さいました夢・風魔様に、この場をお借りしまして感謝申し上げます。ここまでお読み下さいました皆様には御礼申し上げます。


    筆者敬具



以下、本編作者様向けの参考資料になります。



◆ビーバーについて◆


 ネズミやリスの仲間(げっ歯目)で、最大の特徴は川を堰き止めてダムを造る事。『生活のために周囲の環境を作り替える、人間以外で唯一の動物』と言われている。主な繁殖地は北米や欧州など。尾を含めた体長は1.5メートルにも及ぶ(意外にも結構大きい)。

 水中での活動に適した形に進化しており、尻尾はオールの様なヘラ状、後ろ足には水掻きがある。水中を後ろ足で蹴る様に水を掻き、100メートルを40秒程で泳ぐ。また、尻尾を使って身体をしならせ、急加速や急旋回など水中を自在に泳ぎ回れる。体毛は二段になっており、毛足の長い毛が滑らかに体表を覆い、その下の密の細かい毛が保温と防水の効果を果たしている。ちなみに、ずんぐりとした体型で手足は短く、地上での動きは鈍い。

 上下の前歯はカンナの様に鋭く、上の歯を木に突きさして固定し、下の歯で削る様に木を切断する。15センチメートル程の木だと10分程度で切り倒してしまう。

 大変臆病で神経質な性格。家族単位で行動し、全員での共同作業により生活が成り立っている。本能的にダムを建造する技術を身につけており、巧みに木材を組んで器用に泥を詰め込み、高さ2メートル程のダムを数十メートル築く。数世代に渡って築かれた最大規模のダムは850メートルで、現在も拡大中。



◆その後の「勇者達の戦いの追体験」について◆


・ パーティーメンバー全員が『ダンディ水着』を所持した状態で『村を救った勇者達の像』を調べると、追体験の選択肢が現れる(※すでに装備していても現れるが、所持しているだけでも良い)。 ←数ヵ月後にクレームにより『水着』であれば何でも可に仕様変更、女性も参加出来る様になる

・ 選択肢でYesを選ぶと、水没フィールドへ転送される(※パーティー単位の一括転送ではなく、選択肢を選んだ者から個々に転送される)。

・ スタート地点は転送前と同じ位置、つまり直径10メートルの安全地帯の中(※村の入り口からではない)。

・ 水着に変更する事で水の中に入れる(実は安全地帯を中心に直径30メートルの範囲内は膝下までの水深なので、水着に変更しなくても良い)。

・ 追体験時の制限時間や仕様に関してはクエスト時と変わらないが、ウッドマンは別のクエストのモンスターなので乱入はない。また、称号『シーラッツ村の勇者』は追体験では得られない(初クリアー者のみの特典)。



◆技能について◆


●ガラドーリアからの付与可能技能

※称号『未亡人の勇者』を持っているインディーとマグナムは、すでに森知識+野外活動、森知識+狩猟を付与済み。


 【森知識】一般技能。


 【野外活動】レア技能。屋外での活動や危険の察知に関する技能。

  →[観察眼]周囲の違和感を見抜き、動体視力も向上する。

  →[天候予測]天候の変化を予測する。


 【森の達人】森知識の上位技能。森を熟知した者に関する技能。

  →[森歩き]森の中での移動速度が向上する。

  →[木化け]気配を周囲の木々と同化し、発見され難くする。


 【弓術】一般技能。


 【狩猟】レア技能。獲物の発見と追跡や狩猟技術に関する技能。弓術に補正。

  →[狩猟眼]獲物の気配を察知して視覚化する。

  →[追跡]痕跡から大凡の獲物の情報を把握し追跡する。


 【風精弓術】弓術の上位技能。風の精霊の助けを借りた強力な弓術技能。

  →[曲射]自在に軌道を変えて障害物をすり抜ける。

  →[トルネードアロー]竜巻を纏った強力な攻撃。


●イクシオーネからの付与可能技能


 【精霊感応】レア技能。精霊との親和性が高くなる技能。魔術に補正。

 (※所謂『霊媒師(メディウム)』と呼ばれる者の技能)

  →[精霊感知]その場に居る精霊の存在を感じる(視認ではない)。

  →[精霊の印]精霊の力を借りて魔術を強化する。

  ※本編にて精霊魔法に関する示唆があったので被らないモノに変更


 【精霊魔法】※仔細は本編に委ねます


●その他スキル技や創成スキル


【ボーバルアックス】適当に用意した斧技の通常スキル。斧術のレベルが上がれば誰でも使えるようになる攻撃スキル。小説『鏡の国のアリス』に登場する「ボーバルの剣」より引用。元々造語で「鋭い」と言う意味があるらしいが、首狩りの象徴として様々な作品にも登場する。「ギロチン」と同義だが、語呂が悪かったのでこちらに。


【御霊穿ち】さすがはベテランパーティーのリーダーだと思う様なオリジナル技を用意してみました。使いこなすにはプレイヤースキル(センス)が要求されますが、スキルを封じてハメ殺しにする渋い技です。ちなみに私はこう言ったハメ技が好きです(悪)。



◆漢達のモデルについて◆


 漢達六名の外見とキャラ名は、映画俳優をモデルにしています(※性格やリアル背景等はもちろん別人です)。


【インディー】映画『インディージョーンズ』より、主演者と愛称

【マグナム】映画『ダーティーハリー』より、主演者と愛銃「44マグナム」

【ウィリアム】映画『薔薇の名前』より、主演者と役名

【“K”】映画『メン・イン・ブラック』より、主演者と役名

【ワンマン】映画『ランボー』より、主演者と代名詞「ワンマン・アーミー」

【グレイト】映画『コナン・ザ・グレート』より、主演者と作品名


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本編風の空気感で面白かったです。 [一言] 逆輸入、良いですよねぇ。
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