第95話
「……さて、現状の報告を聞こうか?」
そう言いながら、俺は会議室として使用しているテントに設置したテーブルに着き、同じくテーブルに付いている面子(幹部連+部隊長達)へと、前日と比べて若干窶れた顔を向け、昨日聞きそびれた報告を促す。
……何で一日でそんなに窶れているのか?
そんなの決まっている。
……昨日の一件(例のメイさんとの事)が、何処かからリークされたらしく、昨晩遅く、さぁ寝るか、ってタイミングで全員がかりで夜襲(意味深)を受けて、そのまま朝まで搾り取られていたからだ。
彼女ら曰く、「浮気の虫を叩くため」だそうだけど、そんな事した覚えは無いんだけどねぇ?
……メイさんとの件がそうだ?
……ただ単に、耳と尻尾を存分にモフった後、丹念にブラッシングしてから、少々トリミングしただけ何だよ?ホントダヨ?
それなのに彼女らは、五人がかりで代わる代わる俺を辱しめ、決して口には出せない様な『あんなこと』や『こんなこと』まで繰り広げ、それらが一段落してから漸くウシュムさんによる『『意志疎通』スキルを応用した嘘発見』技能による取り調べにより、俺の無実が判明・証明されたのだが、結局本日未明近くまで搾り取られる事となってしまったのだ。
そのお陰で俺はこうして窶れ果て、彼女達はお肌ツヤツヤで表情もニッコニコである。
……これはアレかね?
最近、彼女らとの触れ合いと言うか、スキンシップと言うか、その手の行動があまり取れていなかった事に対する、不満だとか不安だとかの爆発だったって事なのかね?(……だからと言って、こんなに限界近くまで搾り取らんでも良いと思うんだけど……?)
まぁ実際、ココ(会議室テント)に着くまでに、五人全員から「浮気したら泣きますからね?」と異口同音に宣言されてしまったからねぇ。
……具体的にどうするって明言していない処が恐ろしい気がするのは、俺だけでしょうか……?
もっとも、浮気なんぞする気は無いし、彼女達を泣かせるつもりも無いけどね?
それに、ある種の『嫉妬心』を剥き出しにしてきた彼女達も、普段とは違った魅力が有って、大変素晴らしかったけどね。
……っと、イカンイカン。
思考がずれてしまっていた。
お陰で、ジョシュアさんが上げていてくれた報告の、前半分を聞き逃して(聞き流して?)しまったわぃ。
……どうしようか……。
『聞いてなかったからもう一度お願い』
とは、折角報告してくれているジョシュアさんに悪いから言い辛いし、かと言って、このまま内容を知らずに会議を続けるのも、ソレはそれで不味いだろう。
……こんな事なら、昨晩の内に、半ば無理矢理にでも、彼らの詰問を捩じ伏せた上で、報告を聞いておくべきだったかなぁ……。
解・お困りの様ですね?主様。
うおぅ!ビックリした……。
いきなり出てきて、驚かさんで下されな、ヘルプさんや?
解・……申し訳ありません、主様。
しかし、何やらお困りだった様子でしたので、声を掛けさせて頂いたのですが、不要でしたか?
んん?
いや、確かに困っていると言えば、困っているけど、言ってどうなるモノでも無いと思うけど……?
解・ジョシュア様の報告を聞き逃してしまった件についてであるのでしたら、私が記録してありますので、お聞かせすることならば、出来ますが?
……え?
マジで?
解・はい、マジです。
私の情報収集の手段は、主に主様が見聞きした事柄からになりますが、それは主様が聞き流し、流し見ている様な事も全て含まれています。更に言えば、主様が忘れてしまっている様な事でも、私が共にある状態、つまりこの世界に来てからの状態で見聞きした事柄であれば、それらは全て記録してありますので、仰って頂ければ何時でも検索・閲覧が可能になっております。
……おおぅ、マジかぁ……。
最近めっきり影が薄くなっていたヘルプさんが、実は本気を出せば凄い人(?)だったでござる……。
しっかし、最初の頃の『入力されていた情報と、実際の情報が違う!』とか言って、パニクっていた頃と比べると、エラい成長したもんだのぅ。
解・……その件については、出来れば忘れて頂けると、有難いのですが?
へいへい、っと。
しかし、本当に良くそこまで成長したもんだな?
マジで『世界の理への干渉権限を所持しています』とか言われても、信じられそうな感じだな?
……さすがに言い過ぎかね?
解・………………黙秘します。
…………ゑ?
……マジで?
解・黙秘します。
……いやいや、ヘルプさんや?
さっきの間の空き方と、そのセリフだと、最早『yes』って言っているのと同じだからね?
解・……そんな事より、会議の方はよろしいのですか?また進んでいる様子ですけれども?
……あ。
ヤッベ、また聞き逃したぜぃ。
しかも、ほぼほぼ報告自体が終わっていて、段階的には報告を求めた俺が何かしら総評しなけりゃいけない段階まで来てんじゃねぇのよ。
反射で『思考加速』使って時間稼ぎしているけど、必要な情報が何にも無いから、考えようが無いんだよねぇ……。
……はぁ、俺の『教官』・『司令官』としての威厳も、これまでって事かな……。
解・……仕方がありませんね。これから、主様の記憶に、ジョシュア様が行われていた報告を、直接流し込みます。
少々ショックが有るかもしれませんが、別段構いませんよね?
マジで!?
よっしゃ!これで勝つる!!
『少々のショック』?そんなの気にしないから、早速お願いするよ!
ホレ!早よ!
解・分かりました。
では行きます。ドーン。
よーし!ドンと来cnfmめなjpmnらeばgsvx!!!
「……グフッ……!」
「~以上で報告を……って、司令官?大丈夫ですか?急に頭を押さえて?」
「……いや、大丈夫だ。それで、今後の動きなのだが……」
あ、危ない危ない。
あまりのショックに、『思考加速』スキルが解除されて、実際に身体が動いちまったぜぃ。
アレの何処が『少々のショック』だよ。思わず、思考が文字化けしちまったじゃねぇか。
取り敢えず、表面上は誤魔化せたみたいだから、このまま指示を出しておく事にするけど、今回は結構ヤバかったぜ。
「では、その様にしておきますね」
「ああ、頼んだ。……毎度毎度、今回みたいにこちらの被害はほぼ0で、相手だけ壊滅状態って感じになってくれれば、後始末等を考えなければ割りと楽に終われるんだけどねぇ……」
どうにかこうにか、会議を終わらせ、一息付く。
こちらは死者は確認されておらず、重傷者も軍幹部や、生き残っていた高位冒険者と戦闘した連中が十人ばかり居るだけだし、そいつらも回復魔法と回復薬を使えば、すぐにでも復帰が可能な程度。後は軽傷が半数近くで、その内の半分は、仕掛けを発動させたせいで、悪くなっていた足元のせいでの負傷らしいから、損耗の内には入らないだろう。
対して人族側は、途中でチョコチョコちょっかい(夜襲)を掛けて、減らしていた分と合わせると、大体全部殺りきれたらしいから、今回の戦闘は、ユグドラシル側の勝利って事で大丈夫だろう。……多分。
ただ、このままだと、北部領域をユグドラシルに獲らせるのには、まだまだ弱いし、勢いだとかが諸々足りない。
最大の難点としては、今回の戦闘でハッキリしたけど、俺達が直接鍛えた訓練兵と、その他の連中との戦闘力やら戦闘思考やらが、文字通りに『段違い』になってしまっている。
そのお陰か、あいつらの中で、他の連中との共同作戦を嫌がる様な雰囲気が出来始めている様にも感じられるしなぁ。
……おまけに、この戦争が終わったら、俺達の所に着いていこうかな?……みたいな事も、普通に話しているっぽいし、どうしたもんかねぇ。
そんな感じに頭を捻っていると、人族側は首都の……えっと、なんだったっけ……?ノーセ……何とかって所(諦めた)に潜入させておいたハサンから通信が入り、彼(彼女?)が収集した情報が、俺へと送られて来る。
……成る程、これなら、行けそう……か?
まぁ、良いか。
取り敢えず、やってみるべぇ。
まだ会議室に残ってた彼の注目を、手を一つ叩いて集めると、つい今しがたハサンから届けられた情報を開示しながらこう切り出す。
「諸君、次はこちらが攻める番だとは思わないかね?」
幸いなことに、反対意見は一つも出ずに、満場一致で実行が確定されたのだった。




