第9話
この世界で初の死闘は制した(と言っても対ゴブリン×5だったが)彼だが、いかんせんゆっくりしている暇は存在しない。
何故なら、ゴブリン共は嗅覚が敏感であり、あまり戦場跡(と言っても以下略)でぐずぐずしていると、また集まって来るからだ。
先程はそれで強襲を受けた為、『もう一度』は是非とも勘弁願いたいからである。
と言っても、この場でなければ出来ない実験があるので、それを済ませてからになるのだが。
ゴブリンの死体を集めてから左腕に視線を落とす。
戦闘中は気がつかなかったが、前腕を構成する骨の内、細い方の骨が折れてしまっている。
どうやら、剣の一撃を受けた時に罅が入り、殴り飛ばした事で折れてしまったようだ。
……この骨は確か、尺骨だったかな?
解・正解です
合ってたらしい。
で、折れた尺骨の断面を見てみたのだけれど、なんだか可笑しな事になっているっぽい。
……俺の知識が正しければ、『骨』って断面が微かに金属光沢を帯びていたり、中空になっているハズで、その部分が六角形のハニカム構造で埋め尽くされていたりはしなかったハズなんだけどなぁ……。
それに、ゴブリンの死体を運んでいて気がついたのだけど、無傷の右腕で運ぶより、尺骨の折れてしまっている左腕で運ぶ方が楽に運べている様に感じるんだよねぇ。
で、そんな事になっている現状に心当たりは取り敢えず一つ、『骨食』で吸収した何かを左腕に集めてみた事。
……まぁ、レベルが上がった影響かも知れんケド。
と言う訳で、戦場から離れもせずに、実験をば2つ。
早速一つ目。
左右の手でそれぞれ互いを握って一人握手。
これならわりと簡単に握力の違いも解るハズ!
では実験開始!
メキッ!!
イカンイカン実験中止!
危うく右手を握り潰すところだった……。
確かにこんなので殴られれば死ぬわな……。
さて、では二つ目の実験。
と言ってもなんとなく、結果は予想出来てるケド……。
左右の拳を構えてゴン!
拳打ちってヤツだね。
これで左右の腕全体の力の差や骨の硬度の違いなんかが解る……多分。
と言う訳でGO!
バキャッ!!
……oh、予想出来てたとはいえ、ここまでとは……
左拳はほぼ無傷なのに、右拳はバラバラである。グシャグシャである。粉砕である。
結論。骨食は積極的に行うべきである
そんな訳で、取り敢えず損傷を修復する為にゴブリン『4体』分の死体の内、1体を使ってしまう事にする。
……何?倒したゴブリンは『5体』じゃあ無かったかって?
……実は、魔法で倒した槍持ちゴブリン。
ヤツはほぼゼロ距離で食らったせいか、その場で爆裂四散してね……回収出来なかったんだ……魔石は見つけたケド……。
前回と同じように剣に魔力を流してブスリと差し込む。
今回はただ漫然と行うのではなく、両腕の修復に意識を向けて行う。
すると、前回同様に剣を通して『何か』が流れ込んで来て、それが終わると同時に修復も終わったようだ。
……この骨食で吸収している『何か』って、やっぱり元の世界で言うところのカルシウムや炭素だったりするのかねぇ?
骨自体も修復出来てるし。
魔法とか魔力なんかの不思議パワーで調整・圧縮掛けるとああなる(骨が金属光沢&中身ハニカム構造)……のか?
まぁ、いいや。
今のところデメリットは無いっぽいし。
そんな事をつらつらと考えつつ、残りの3体も順にスキルの餌食にしてゆく。
今回の実験で、吸収する場合は集中させた方が効果的である(多分)と結論が出たので、それぞれ右腕と両足に割り振って吸収してみる。
吸収した後で軽く拳打ちをやってみたところ、金属同士をぶつけ合わせた様な高音がした。
ちなみに両拳共に無事である。
っとイカンイカン。
あんまりぐずぐずしているとまた強襲されかねん。
さっさと取るもの取ってとんずらせねば。
手早く魔石を回収しその場を離れる。
入れ物など持ち合わせが無い以上、手に握っているのだが、今回は本能が暴走する事もなく、そのまま移動を続ける。
ある程度離れた場所で、改めて魔石と対面する。
5つの内、4つは前回同様に指先サイズだったが、杖持ちの魔石だけ少々大きめなサイズとなっていた。(と言っても一回り程大きいだけだが)
ヘルプ機能曰く、ゴブリンの上位種(そこまで上位ではないらしい)のゴブリン・マージだったらしく、魔石も大きめになったのだろうとのこと。
……まぁ、違いがあるのかすら、よくわからんけどね。
それに、支配はされずとも、飢餓感は有るわけでしてね、はい。
では、いただきます!
……まぁ、口に放り込むだけなんだけどね。
そうこうしている間に日が暮れだす。
スケルトンとしては睡眠は必要ではない(取れない訳ではない)ので、どうしようかなぁ?と考えていたが、何でも夜になると魔物の強さや分布がガラッと変わるらしいので、セーフポイントを見つけて籠る方が良いらしい。
俺としても、あまり危険な事は進んでしたくはないので、従っておくかね。
ステータスの確認などは塒を見つけてからで良かろう。
そんな訳で、彼はゴブリンの生息圏とは別の方向へと進んで行った。
後の世にて
魔族からは『魔族の友』
亜人諸族からは『亜人の庇護者』
人類からは『人類種の天敵』
等と呼ばれ、尊敬や恐怖の対象として永きに渡って畏怖される『魔王』に至る彼の今生における初日はこうして幕を下ろした。
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名前・未設定
種族・スケルトン
レベル・37
スキル・剣術、闇魔法、魔力操作、クリティカル、骨食、魔石喰い、思考加速New!
ギフト・【ヘルプ機能】、【成長促進】、【?】、【?】
残進化可能回数・3
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