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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第87話

設置したままにしておいた転移陣を使って、ユグドラシルへと訓練兵全員を連れて、急いで移動する。

転移後、訓練兵達には待機を命じておき、隊長格だけを連れて、事態の状況を確認するためにユグドラシルの王城へと、急いで向かう。


全力で走っている訳では無いにしても、俺達のスピードに付いてこられている(クズハさん←まだ余裕が有りそう、ジョシュアさん・レゴラス←割と本気、オベロン←少々キツそう、ギムリ←必死)事に、感心と訓練の成功を感じながらも、直接的な戦闘行為を今の今まで引き伸ばす要因となっていたハズの『積雪』を、道すがらに観察しておく。

……北限の更に先、人類圏における最北限とでも言っても間違いではない、このユグドラシルでも、既に雪解けが始まっているらしく、道端の積雪は数センチまでに減少している(最大でメートル級に積もるらしい)。

ここ(ユグドラシル)でコレなら、人族の街ならば既に季節が変わっていてもおかしくは無いし、国境付近の雪も、ほとんど無くなっていても不思議では無い……か?


(何となく違和感が有るんだよなぁ……?)


そう、何となくでは有るが、しっくりしないのだ。


実は、兵士達を鍛えると決めた時に、人族側における軍や上層部の動向だとか方針なんかを探らせる為に、潜入や情報収集、暗殺等に特化しているゴーレム・サブリーダー、ハサン(俺命名)を降雪が始まる前に、旅人を装わせて潜入させ、ユグドラシルに居た間は直接、そうでない時は間に何人か(何体か?)挟んで情報のやり取りをしていたので、ある程度の情報は、ほぼリアルタイムに把握していたので断言出来るのだが、このタイミングでの開戦は、少々腑に落ちない。


ぶっちゃけた話をすれば、他の所とは違い、この北部領郡を束ねている旧ノーセンティア国、引いては人族にとっての最北限の街であるネセストの街は、そこまで積極的に、エルフ(・・・)事を構える(・・・・・)つもりが無い(・・)

より正確に言えば、他の領とは違い、積極的にエルフを滅ぼすつもりが無いらしい。


と、言っても、当然の如く、エルフの国であるユグドラシルとの友好を望んでだとか、エルフ族との交商を希望しているだとかの平和的・理性的な理由からでは、もちろん無い。

ただ単に、奴隷としての商品価値が、他の種族と比べて飛び抜けて高いエルフ族を滅ぼしてしまうと、自分達に金が入らないからしていないってだけらしいのだ。

エルフ族の奴隷を得ようと思ったら、直接ユグドラシルから拐ってくるか、一部の変わり者(自分から外に出る奴等。例としてアルヴやシルフィなど)を捕らえるしかないのでそもそもの数が少ない上に、エルフ族の奴隷は皆美形で魔法等も使える者が多い為、他の種族よりも商評価値的にも、希少価値的にも、かなりの高値で売買されるらしいからね。

そんな、育つのには時間が掛かるが、育てば巨万の富を約束してくれる『金の成る木』を、自分達でわざわざ潰すつもりは無い、って事なのだろう。


まぁ、他にも『戦費が勿体無い』だとか、『あんな土地どう利用しろと?』だとか、『わざわざ滅ぼすメリットが無い』等に上層部が判断しているらしく、その上層部の人間と刷り変わっているハサン曰く


「今のところ人族側から、戦争を吹っ掛けそうな気配は無い」


との連絡を受けていた為、正直な所面食らっているのだ。


とは言え、ハサンが潜り込んでいるのは、あくまでも首都であるノーセンティアであり、最北端の街にして、ユグドラシルとの国境でもあるネセストの街の軍拡の情報までは把握仕切れていなかっただとか、ネセストの街の独断で侵攻して来ているだとか、そもそもただの盗賊等が侵入してきていただけだとかの可能性も、もちろん有りはするのだろうが、それはそれで、何となく違う様な予感もするのだ。

まぁ、可能性としては、エルフ族の方から仕掛けた、って事もあり得はするが、さすがにそこまで奴等も馬鹿では無いハズだから、それは無いだろう。

……無いよね?

……無いと、良いなぁ……。





******





「……んで?何故に『こんな状況』になっているのか、誰か説明してはくれないかねぇ?」


そう言いながら俺は、会議室の床(素の石床、絨毯の類い無し)に正座させられている、ユグドラシル女王ティタルニアと、今回の件の首謀者かつ実行犯であると思われ、既に顔面が変形する程度にボコられて、以前にティタルニアが受けていた様な『石抱きの刑』に処されている、ユグドラシルの将軍であるローディーへと、視線を向ける。


何故彼らがこんな状況に置かれているのか、と言うと、理由は簡単である。

俺達一行が、この王城へと到着した時に、偶々だったのか、それとも俺達を待ち構えて居たのかは不明だが、城の入り口付近にてローディーと遭遇したのだ。

そこで奴は、エルフ族と人族の戦争が始まったと聞いて、俺達が戻ってきたと判断したのか(間違ってはいない)、俺達が聞いてもいないのに、やれ今回の作戦の指揮は自分が取っただの、国境付近の軍へと一当てしてやったが、全然大したことが無かっただの、そんな人族を警戒しているお前達のような臆病者は不要だの、王女でもあるシルフィア殿下と結婚し、この国を導くのは俺の様な勇敢かつ智謀に溢れた者こそが相応しいのだ!だの喚いていたので、いい加減ムカついて来た事も有るが、幾つか聞き逃してやれない単語が聞こえていたので、適度にボコして(割合としては5:2:2:1でそれぞれ、シルフィ:俺:婚約者s:隊長格となっている)拘束し、その後、こんな阿呆(・・)みたいな作戦にGOサインを出した張本人と思わしきティタルニアも捕獲して、会議室を占拠し、現在に至る、と言う訳なのである。


「……んで?どうなんだ?」


そう言いながら、さも『私は不機嫌です』と言わんばかりの態度で、正座状態のティタルニアへと問い掛ける。

すると、以前の恐怖(第72話参照)からか、それとも現在進行形で受けている俺からの威圧によるものかは不明ではあるが、顔の色が凄いことになっている(土気色?)ティタルニアが、慌てたように口を開く。


「いや、しかし!この侵攻は、ジョン殿が言っておられた事では無いですか!『攻めるのであれば、雪解けと同時にやる他は無い』と仰っていたから、許可を出したのですよ!」


「……阿呆め、それは、あくまでも『攻め込む(・・・・)のならば』の話だ、この戯けが!」


……どうやら、俺が言っていた事を、誤解して仕掛けやがったらしい。確かにそんなことは言ったけど、そこまでザルな事は言っていないハズなんだがね?

尚、その時の正確な発言は『攻め込むのであれば、雪解けとほぼ同時に攻め込み、街の一つや二つは確実に初手で落とす他に無いな』である。


……しかし、これでかなり『よろしく無い』状況に成りつつある事だけは確実だろう。

どうしたものかね……?


そんな俺の心情を感じた訳では無いのだろうが、黙り込んでしまった俺に対して、ティタルニアが恐々と声を掛けてくる。


「じ、状況が良くない事は、妾も理解した。しかし、状況、既に動き出しているし、戦端は既に開かれたのだから、このまま戦闘を続けるしか有るまい?なれば、既に戦力を展開させてある妾達の方が優位に立っていると言えるし、ジョン殿に鍛えて頂いた部隊が有れば、個人での武威にも対抗出来よう?」


……それが出来る状況ならば、な。


「いや、それは無理だ。このままでは、展開させた部隊は全滅するから、全員下がらせろ」


「な、何故!何故こちらの優位を捨てねばならぬ!」


俺の指示を承服しかねるのか、思わずと言った口振りで反駁してくるティタルニア。

まぁ、そうも言いたくなるのは、分からんでも無いが、状況的に最早これ以上の侵攻は、ただの自殺行為に過ぎないのが確定してしまっている。


「……では、ここで残念なお知らせだ。ノーセンティアに潜入させた、俺の部下からの情報によると、既に首都ノーセンティア上層部はこの件を把握しており、報復行為且つ自衛行為として、ユグドラシルへと軍を差し向ける事を決定。既に軍の編成も済んで、そろそろこちらへと出発する頃合いだそうだ」


「ならば、そいつらごと叩き潰して……」


「その数100000オーバー。本気も本気だね」


「「「「「「「!!!」」」」」」」


「更に言えば、Sランクを超えた様な奴等も、そこそこの数がいるらしい。ぶっちゃけた話、そいつらだけ相手にすれば良いのなら、こいつら(訓練兵達)でもどうにかならんことも無いけど、多分半数は死ぬ事に成るだろうし、それ以外の軍はユグドラシル軍に相手をしてもらう事になると思うけど、それでも勝てる時の断言出来るかね?」


そう言ってやると、静まりかえってしまう室内。

まぁ、こんな情報聞いた後じゃあ、さすがに無理だろうね。

……仕方がない、アレしかないか……。

対ノーセンティア用の戦術の一つとして、考案はしていたのだが、さすがにこれはやりたくない(・・・・・・)ので封印していたヤツだが、やらずに負けさせるのは、あまり気分がよろしく無い。


「……既に展開させてある部隊に通達しろ」


「……撤退命令ですか……?」


「いや、『交戦命令』だ。さすがに、偵察なんかも兼ねて、部隊の一つや二つは近くに来ているんだろう?」


「確かに、そんな方向を聞いた覚えは有りますが、どうしてですか?そんな部隊、叩こうが叩くまいが、大して変わらないのでは?撤退させないのですか?」


そう、不思議そうに聞いてくるティタルニアに、俺は今後の事を含めて指示を出す。




「ああ、まだ(・・)撤退はさせない。取り敢えず、最寄りの敵部隊に攻撃させろ。その際には、この命令は徹底させろよ?『適度に被害を与えて、敗けを装って撤退して来い』。これは、これだけは、絶対にして最低限の命令だから、もし守れなかったら俺はこの国を見捨てるからな?」




そう言ってやると、事の大きさをようやく理解したのか、青い顔で必死に頷くティタルニアとローディー。

……はぁ、これだけは、やりたくなかったんだけどなぁ。

仕方ない、やるしかないか。

……全くもって気が進まんよ。

自分達の領地に、わざわざ敵軍を入らせてやらなけりゃあならないんだからね。

何やら企んでいる様ですが、果たして……?

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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