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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第85話


◇現第一部隊隊長・ジョシュア視点


「ピギィイイイイイィイィィィィィィ!!」


そう、甲高い断末魔の叫びを上げながら、私の放った風属性の魔法により、急所である首筋を切り裂かれ、目の前で物言わぬ骸となった豚面の魔物。

私の生国であるユグドラシルでも、稀に見掛ける事のある魔物であるオークだ。

しかし、その外見的特徴である緑に近い肌や、見かけ以上のパワーを生み出す源でもある、分厚い脂肪の下に隠れた重厚な筋肉等は同じでも、本質的な『強さ』は段違いだ。


個体個体のステータスが比べ物にならない程に高いのはもちろんとしても、パッと見る限りでは、粗末な造りをした手製の武器しか手にしていないが、それを扱う際の手練は目を見張る程であり、極めつけとして、複数体で行動していた奴らを相手取った時に見せられた連係等は、今まで国元で相手にした事のあるソレと比べると最早別格な『高み』にあると言っても良いだろう。

一つ確実に言える事としては、ココで遭遇した奴らの戦闘能力は、ユグドラシルのソレと無理やり比べたとしても段違いに高いと間違いなく断言出来、はっきり言ってかなり手強い敵であると言っても良いと思われる。


……いや、『手強かったと思われる』と言うべきだろう。


その証拠……としては、少々弱いかも知れないが、そんなこの土地のオーク達は、接敵してから早数分程で私の足元に屍を晒している。その数、約30体程だろうか?

ソレらは全て、私が放った魔法により、首筋を切り裂かれて息絶えている。


「……周囲に魔物の影なし。戦闘終了。お疲れ様です、隊長」


私に掛けられた声を切っ掛けに、この場で戦闘を行っていた者全員が緊張をある程度解き、それまでの『戦闘時の殺気探知』から、『常時全方位警戒』程度まで集中度を下げている。

この場で私と共にいる彼らは、私が教官(陛下)から担当するように仰せつかった、元第一班にして現第一部隊の隊員達の中の一部、約十名だけだ。

もちろん、他の者達も私の部下として、同じ第一部隊に所属しているが、今ココにいるのが彼らだけと言う事だ。

そんな少数しかいない私達だが、その足元には、私よりは少ないながらも、数体から十数体程度のオークは、必ず屍となって転がっている。


「……しかし、未だに信じられませんね……。自分がオークを、しかもユグドラシルで出現するソレよりも、遥かに強力な『ハズ』のこいつらを相手にして、こうまでもあっさり(・・・・)皆殺しに出来てしまうなんて、本当に夢を見ている気分ですよ」


そう言いながら、自らの足元に転がるオークの首と、自身の得物を握っている手を、どちらともなく眺めている青年(エルフ族)。

まぁ、そう言いたくなるのも、無理はないだろう。

何せ、私ですら、ここまであっさりと倒せてしまうとは思っていなかったし、以前ユグドラシルで出現したオークを相手にした時は、かなりギリギリのところまで追い詰められた事すらあったのに、今はそうなりそうな気配は欠片も感じられない。

むしろ、過去のソレらよりも、『弱い』と感じてしまっている位なのだから。


そんなことを考えていたのだが、ここに居た全員が似たような事を考えていた様で、皆感慨深そうだったり、自信に満ちた表情を浮かべたりしている。

その中で、先程の隊員とはまた別の隊員がポツリとこぼす。


「……今の今まで理解出来ていなかったけど、教官が言っていた『スキルは持っているだけでは意味がない』って、こう言う事だったのかな……?」


……成る程、確かにソレは『真理』だ。

その言葉自体は、最近まで(昨日まで)行われていた『戦闘訓練』の最中に、ある訓練兵が


『既に自分達は『剣術』なり『魔法』なりのスキルを所持しているし、ソレらを習得するために鍛練も積んできたし、実際に戦う事も出来る。なのに、何故こうしてわざわざ戦う術を学ぶ必要が有るのですか?』


と質問したのだ。

その質問には、訓練への反抗だとか、内容に対する不満等を訴えている訳ではなく、純粋な疑問としての問い掛けだったと思われる。


自分達が今やっていることに、意味は有るのだろうか?


そんな意味合いが言外に含まれていた問い掛けをしてきた訓練兵に対して、教官はこう答えられていた。


『……最初からスキルの形で所持している者や、訓練等によって手にした者もいるとは思う。スキルさえ持っていれば、ある程度は自動的に補助されて、その分戦いやすくはなるだろう。だが、それだけだ。諸君には、その先を目指して貰わねばならないからね。

俺個人の考えとしては、【スキルは持っているだけでは意味がない】。スキルを得るまでの訓練は、得た後の行動を助けるが、スキルその物はあくまでも『技』をもたらし、その先へと案内するだけだと考えた方が良い。『技』を磨いて体に染み込ませ、定着させて『技術』と成し、自ら操るモノとして昇華させて『(すべ)』へと移行し、その後に集大成として『術理』へと至り、最後にして至高たる【(ことわり)】へと到達する。

これは、何も剣だけの話じゃあ無く、魔法や他のスキル等にも当てはめられる事だと俺は思っている。

……さて、まだ俺自身が至れているとは、口が裂けても言えない【理】に至れ、とは言わないが、せめて訓練中に『(すべ)』程度は身に付けて貰わないとお話にならなさそうなので、これからの訓練に追加する事に、俺が持つ教官権限で決定したから、張り切って習得しようか?諸君』


……思い出したら、思わず寒気が背筋を走る。

あのうかつな発言の後、訓練兵全員が、殆ど反射だけで相手を捩じ伏せられる様にさせられた(・・・・・)けれど、確実に各員の技量は段違いに上昇した事は、まず間違いは無い。

……もっとも、そこに至るまでの訓練は文字通りの地獄であり、二度と経験したいとはとても思えないが。……アレらはキツかった……。

内容は完全に訓練の域を逸脱しており、最早死刑か拷問かのどちらかなのでは?と真面目に考えさせられた位故に、今思い出すだけでも、無理矢理に背筋に氷塊を突っ込まれた様な気分にさせられてしまう。

他の隊員も、寒さを堪える様な仕草をしている所を見ると、恐らく私と同じ事を思い出しているのだろうと考えられる。

……元々陛下(教官)に忠誠を近い、どんなことでもやり遂げると誓っていた私達はともかくとしても、他の部隊の隊員達にうっかり思い出させてしまっては、この程度では済まないだろう事は、予想に難くない。


……いけない、いけない。

訓練中の出来事(基礎・戦闘問わず)を思い出すと、皆が暗くなってしまう。

安全な野営地でならば、まだ笑い話等の種として使えるのだろうが、まだ危険がある場所でそんな雰囲気になるのは、あまり歓迎出来る事ではない。


気分を変えよう。


そう思って、チラリと視線を私自身の右手に落とす。

するとそこには、割合とシンプルな造りの指環が嵌まってる。

周りの隊員達の手にも、ソレと同じ様な指環が必ず嵌められている。

これは指環(リング)型の発動器としても使用出来るのだが、本来の効果にして最大のソレではない。


なんとこれには、教官が持っていると仰られていた『成長促進』と『経験値共有』のスキルが付与されているらしいのだ。


各部隊で装飾品としての種類が異なり、同じ種類のモノとだけ『経験値共有』がなされており、『成長促進』のスキルと相まって、凄まじい速度での成長を感じることが出来る。

ちなみに、私達第一部隊は指環型だが、第二部隊はサークレット、第三部隊はブレスレット、第四部隊はイヤーカフス、第五部隊はネックレスとなっている。

なお、何でこんな装飾品を量産出来たのかを訪ねてみた所、出来そうだったからやってみた。そしたら出来た、と仰られていた。……やってみたら出来たって……いや、何時もの事か。


そんな思考を振り払い、様々な事柄(打ち上げ半分以上が自爆)から受けていたショックを振り払えた様子の隊員が増えて来たので、レベリングのついでに行う予定だった事を実行しておく毎にする。


「では、各員これより野営地へと帰還します。当初です予定通り、持っていけるだけのオークを持って、それ以外のオークは魔石だけ回収して下さい!そうすれば、教官がいつも通りに調理してくださるハズですよ!」


そう声を掛けながら、私は私で、足元に転がるオークを魔法で十程浮かべ、残りからは魔石を回収して行く。


訓練中に食べていた料理の材料が、魔物だったと聞いたときは、かなり驚いたが、それでも美味しければそれは正義なのだから、見た目はあまり関係無いよね!それに、魔石を回収して、教官へと渡せば、何かしらの報酬が出るらしいので、ここは積極的に行かなくては!




余談ではあるが、この日の晩には、油で揚げられたオーク肉が振る舞われ、一番多くの魔石を回収して来た部隊には、一番旨い部分の肉が出されたことにより、しばらくの間オークが優先的に狙われる事になったのだが、それは別の話。

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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