第81話
俺がお手本として、実際に『お手玉』して見せたのだが、普通はそんな事出来ん!と言われてしまった。
更に言えば、『お手玉』出来ている事もそうだが、どちらかと言えば、お手玉にしている魔法の方も『おかしい』と言われてしまった。
……解せぬ。
俺から言わせてもうのならば、最弱の魔物として有名(悪い意味で)なスケルトンだった時から、なんとなくでやってみたら出来た事なので、『普通は出来ない』とか言われても、そんなモノ納得の仕様が無い。
それに、ぶっちゃけた話をすれば、そう言っている時点で、『私はスケルトン以下の実力しか有りません!』と断言している様なモノだからね?恥ずかしく無いの?馬鹿なの?死ぬの?
そんな事を考えていたのが顔に出ていたのか、微妙そうな表情で溜め息を突きながら、ジョシュアさんがこの世界の『普通』について話し出した。
「良いですか?まず、『普通のスケルトン』は、そもそも魔法なんて使いません。一応、スキルとしては持っている事が、最上位の『鑑定』スキル持ちだった物好きが確認しているそうですが、実際に使ってきたなんて事は、一度も聞いたことは有りません」
……マジで?
解・検索してみた処、どうやら事実の様です。
……マジかぁ……。
更に、ジョシュアさんは右手でボール系の初級魔法(ピンポン玉大・四つ)を発動させ、ソレを必死の形相で維持しながら、『普通の魔法』についての説明をしだす。
「そしてっ、『普通』はっ、どんなに熟練した魔法使いでも!初級魔法のボール系は!同時展開は四つまでが限度でありっ!五つなんて持っての他でっ!その上!!こうして発動させた魔法を!!放たずに保持しているだけでっ!!私ですら脳が焼き切れそうな程の負荷が掛かるのでっ!!教官殿の様に!!!更に魔力操作までしてお手玉するなんて事は!!!私ですらぶっちゃけ不可能ってもう無理!!!!」
段々と声が大きく、そして形相の必死さは加速度的に増し、最終的には保持していられなくなったのか、一際大きく叫んでから、誰も居ない方向へと放り投げる。
他の訓練兵達は、着弾によって巻き上がった土煙に「流石班長!」と盛り上がっており、そして当のジョシュアさんは、これまでの訓練では見たこともない位に疲弊しているらしく、膝に手を当てて息を荒げている。
普段はどんな無茶振りでも、笑顔でこなしてしまっていてので、ある意味新鮮な気がする。
しかし、そんな事より、俺にとっては重大な事態になってしまっている。
まさか、日頃から無意識的にやっていた事が、常識から逸脱している事だったとは、思っても見なかったので、少々ショックを受けている。
……その程度でショックを受けるような、繊細な『心』何て持ってたのか?ってツッコミが聞こえて来た様な気もするが、体はアンデッドだが中身は一応人なんだから、ショック位受けるさね。
……まぁ、良いか。
どの道俺は俺なのだし、出来てしまった事は仕方があるまい。
それに、出来るまでは大変だろうけど、出来てしまえば色々と便利?なハズなので、取り敢えずやらしてみるかね?
「良し!んじゃ、そんな訳で、取り敢えず全員やってみようか~?」
「……いや、何を持って『そんな訳で』なのかは知りませんが、私が今普通は無理って実演込みで説明しましたよね?しかも、見てなかった訳でもなくて、確りと見てらっしゃいましたよね?それで何で『やる』って結論になるんですか?殺す気ですか?」
半ば呆れ顔になりながら、ジョシュアさんが抗議してくるが、俺はそれには答えずに、この場に居た別の訓練兵を指差して声を掛ける。
「そこの君!突然ですが、問題です!」
思いっきり『自分ですか!?』って顔をしているが、それでもこちらからの質問に応えるべく、佇まいを正す訓練兵A君(名前?……知らん!)。
そんな彼に、俺はこう問い掛けた。
「君は、魔法を使う際に『最も大事な事』は、何だと思うかね?」
「『最も大事な事』ですか……?」
「そうそう。ソレが無いと、どうやっても魔法は使えません!って位に大事な事。……何だと思う?」
そう問われて、考え込む訓練兵A君。
しばらく「う~ん……?」だとか「えーっと……」だとか唸りつつ、考えていたのだが、取り敢えずの答えが思い付いたのか、顔を上げてこちらに向き直る。
「……やはり、『魔力』ではないでしょうか?根本的に、魔力が無い状態ですと、魔法は使えませんので……」
フム?成る程、一理あるな。
確かに、燃料となる『魔力』が無ければ、そもそもとして、魔法は使えないだろうね。
しかし、それは俺が期待していた答えではないし、そこら辺からの前提を定義してから話をするならば、この世界に『魔力値0』の奴何て存在するのかね?多分居ないと思うけど。……居ないよね?
「……まぁ、不正解と言うほど離れている訳では無いけど、正解はあげられないかなぁ?」
そう言うと、指名されていた訓練兵A君は、ガックリと項垂れてしまった。
しかし、そんな彼だけでなく、ジョシュアさんを含めた他の訓練兵達も、正解が気になっているらしく、『答え、早よ!!』と言わんばかりの表情でこちらを見つめている。
……まぁ、あまり焦らしても可哀想だし、何時までも遊んではいられないから、そろそろ正解を発表するとしますかね。
「では、正解を発表するぞ?と言っても、『俺的にはソレが最重要』って認識しているだけだから、別段=絶対の真理である!何て言うつもりは更々無いけどね?
それで、お待ちかねの正解だけど、俺は『想像力』だと思うんだ。異論は認めなくもない」
そう言うと、ジョシュアさんを含めた皆が皆、揃いも揃って『え~(;´д`)』って顔をしている。
……何やら納得していない様子だし、一応説明しておくかね。
「別段、適当に言っている訳じゃあ無いぞ?お前さん達も、師匠だとか先生だとかに習わなかったか?『魔法を構築する際に、最も重要なのは、確りとこれから使う魔法をイメージする事だ』って。
で、ソレを踏まえた上で聞くけど、何故に俺が出来た事が、君達には出来ないと思うのかね?」
「……いや、『普通』は教官殿程の数を同時に展開する事は不可能「何で?」……え?」
まだ俺が言いたかったことが伝わっていない様なので、多少強引ではあるが、無理矢理にでも認識を矯正するとしますかね。
「何で出来ないと断言するのかね?やってみた事は有るのかね?それとも、試したことすら無いのに、最初から『ムリ!』って言い張っているのかね?」
そんな俺の言葉を受けて、騒がしくなる訓練兵達。
もしかしたら、自分達は出来るんじゃあ?って感じで動揺とも興奮とも取れるナニかが、彼らの間で高まっている。
うん、いい感じだね。
じゃあ、もう一押ししてしまうか。
「それに、一般的に『出来ない』って言われているから『自分も出来ない』って思い込んでいるだけなんじゃないか?さっきも言ったべ?魔法を使うに当たって最も重要な事は、ソレをきちんと想像する事だって。って事は、『出来ない』と思い込んでいるから『出来ない』んであって、決して『不可能』な事柄じゃあ無いんじゃないか?現に、一番最初に余計な知識の無かった俺は、こうしてお前さん達の言うところの『常識外れ』何で事を、平気で行っていれるんだが?」
ソレを聞いた彼等は、一様に「ハッ(゜ロ゜)!」って感じの表情を浮かべ、まるで天恵でも下されたかのように、その場で固まってしまった。
……別段、俺の口から世界の真理みたいなナニかが出てきた事に驚いている訳では無い。……多分。……きっと。……おそらく。
どうにかして再起動させたジョシュアさんに、もう一度さっきと同じ魔法を使うようにと要請してみる。
俺が何をしたいのかを察したのか、二つ返事で了承し、しかし先程とは違い、今回はじっくりと集中してから構築にかかる。
ソレを横から見ていた俺だったが、黙ってみているのもアレなので、少々口出しする事にするかね?
「……ジョシュアさんや、この構成だと、余計な魔力やら負荷やらが掛かるから、ここの構成は、こんな感じに変えた方が良いよ?」
そう言われて、実際に魔法の構成を弄られて、驚愕の表情を浮かべるジョシュアさん。
まぁ、それもそうか。
俺は『魔力掌握』スキルを持っているから、他人の構築状況だとかも全部分かるし、ある程度ならば干渉も出来るのだけど、普通はそんなの分からし出来んか。
流石のジョシュアさんでも、パニクる事が予測出来たのだが、あっさりとその予測を裏切り、こちらの指示に従って、術式を書き換えて形を整えて行くジョシュアさん。
その結果、普段俺が扱っているそれとほぼ同じ構成となったソレを、先程と同じように、放たず保持させてみる。
すると今度は、展開数が五つに増え、大きさも一回りほど大きくなったボール系魔法が、ジョシュアさんの手の上に浮かぶ事となったのだ。
しかも、今回は前回とは違い、保持し続ける事にそれほど苦労していないらしく、顔色や表情にも厳しい色は見受けられない。
……何だ、やれば出来るじゃあないか。
「ほら、やってみれば、認識を変えてみれば、こうやってちゃんと出来ただろう?」
そう言ってやると、他の訓練兵達が、我先にとどうやったのかを教えて欲しいと群がってきた。
そして、全員の構成や術式を見直し、手直しをして調整した結果、初日が終わる頃には、全員が五つ展開を可能にし、ジョシュアさんを含んだ一部は、拙いまでも、お手玉を成功させるまでに至ったのだった。
尚、後日の訓練中に、ボール系の魔法の質量だとか重量だとか大きさだとかも変えられるだとか、俺が中級のランス系を使うと、三本同時発射する事になる等をうっかり話してしまい、再度それらに対する俺の非常識振りを説明される事になるのだが、それは別のお話。




