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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第79話


「総員、整列!」


そんな俺の一声に反応し、訓練兵全員が一人も欠けること無く、全班が班長を先頭に、各班二列になって班ごとに整列する。

そう、全班(・・)だ。

最初は反抗的で、反骨心や敵愾心剥き出しだった第二班と第五班も、最終的には俺に対して心を開いてくれ、それ以降はこちらの指示にもキチンと従い、最大限のベストを尽くそうとする様になり、まるで生まれ変わった様に真面目に訓練に取り組む様になったのだ。

……まぁ、途中で色々とアレ(・・)な目に逢わせたりだとかして、完全に心をへし折ってから上下関係を改めて叩き込んだだけなのだが、効果は絶大であった。何せ、一時的には、死んだ魚の目をしながら、こちらの指示で訓練を続ける、ある種のゾンビと化していた位だからねぇ。

それでも、ちゃんと途中からは蘇生(?)したのだから、まぁ問題は無かろう。それに、これから(・・・・)やることは、下手に反抗されると面倒だし、危険だからね。


そんな彼ら彼女らに対して、俺は壇上に立ち、声を掛ける。


「お前達はこの一月半、良くぞ俺達の扱きに耐え抜いた!最初から従順で、こちらからの指示にも全面的に従う者も居れば、俺の指示なぞ知ったことか!と全面的に突っぱねた阿呆も居たな!」


そう言いながら、第二班と第五班の居る所に視線を向けると、揃いに揃って目を反らす。

……そこまでタイミングがバッチリだと、予め練習したよね?と言いたくなるのは、間違いでは無いと思う。


取り敢えず、雑念を払って話を進める。


「これまでの訓練で、各員それぞれが、何かしらを得たと思う!それは、肉体的な強さであったり、精神的な柔軟性であったり、又はその両方であったりすると思われる!俺達教官に対する怨みかも知れんがな!」


実際、割と厳しめに指導していた俺には、『鬼教官』『拷問吏(ごうもんり)』『処刑人』等の渾名を付けられており、第一班と第四班(一部の元奴隷と班長)を除いた訓練兵から闇討ち紛いの襲撃を受けた事も、一度や二度じゃあ訊かない位にあったからなぁ……。

まぁ、それも、訓練中に


『俺から一本取れたら、今すぐ訓練終了させてやるぞ?』


なんて言ったからだろうけど。

もっとも、闇討ちかけてきた奴等は、全員返り討ちにして、翌日の訓練時に罰則として、訓練量の増加って言うプレゼントをくれてやったけどね。

ちなみに、俺の渾名に『悪魔』は付かなかったのだが、その理由は『本物の悪魔(メフィスト)』が居たのと、俺に対して「悪魔!」と叫ぶと


『呼びましたかな?』


と、何処からともなくメフィストが現れる為、結局定着しなかったからだと思われる。


「各員がそれぞれ得た『何か』は、これから来るべき戦いにおいて、重要なモノとなることは、まず間違いはない。そして、今までの訓練を乗り越えてきたお前達ならば、それらを得たことにより、容易く命を落とす事は無くなったと、俺は信じている!」


そんな俺の言葉を受けて、今までの訓練はその為だったのか……、と衝撃を受けると共に、自分達の為にやっていてくれた事だったんだな、と理解し、一部の訓練兵は、やりきった達成感や感動等(多分)で涙ぐんでいる。

……しかし、それら以外のごく一部、各班の班長達は、俺の言葉に怪訝そうな表情を浮かべる。

特に第一班のジョシュアさんは


『絶対にこの後何か有るな』


と確信している様な顔をしている。

まぁ、それも当然と言うものだろう。

各班の班長程度であれ、俺と直接的に接した事の有る人物であれば、俺がこんなことを言い出したのならば、真っ先に思い浮かべる事だろう。



『何言ってんだ?コイツ……』



と。

まぁ、当然よな。

目的がなければ、こんなことしやせんよ。


「よって!俺はここに、お前達が『基礎訓練行程』を終了した事を宣言する!

おめでとう、諸君!これで君達は、晴れて『ウジ虫』や『ヒヨッコ』から卒業し、一人前の『人間』に成ることが出来たのだ!」


その言葉により、訓練兵達達からは、訓練の終了を喜び、この施設から解放されると言う思い込み(・・・・)から、歓声が立ち上る。

中には、班の括りを越えて、あまり関わりがなかったはずの者と抱き合って、喜びを分かち合っている者すらいる。

更には、まだ解散等の指示を受けていないにも関わらず、訓練場を後にしようとするものや、ここを出た後の打ち上げ等の打ち合わせを行おうとしている者もいる。


おーおー、また、派手に喜んじゃって……。

さて、では本日二回目の重大発表と行きますかね。


それまで溜めを作って、わざと黙っていた俺は、喜びに沸く彼ら彼女らに対して、特大サイズの爆弾を投下させてもらう。




「そして、諸君らは『基礎訓練行程』を終了させたことにより、次なる『戦闘訓練行程(・・・・・・)』へと進む事をここに宣言する!」





その一言により、一部を除いて喜びに沸き上がっていた訓練兵達は、水をかけられて酔いから醒めたかのように、一気に静まり返る事になった。

そして、『あぁ、やっぱりか……』と言わんばかりの顔で、次なる地獄に思いを馳せる各班長。

そんな中、ある一人の勇者(バカちん)が、恐る恐ると言った体で手を上げ、「き、教官!質問をしても、よろしいでしょうか!」と声をあげた。


「ウム、良かろう!許可する!言ってみたまえ!!」


それまでとは少々異なる俺の対応(訓練中は大概罵声と罰則の追加訓練がセットになって飛んでくる)に気を引き締めたのか、最初のオドオドとした態度から、背筋を伸ばしてハッキリとした口調で質問を続ける。


「ハッ!ありがとうございます!では、質問させて頂きます!!教官は先程、訓練を終了すると仰ったはずですが、自分達はまだ訓練を続ける必要があるのでしょうか!!」


まぁ、そう言いたくもなるわな。

だが、それは思い上がりと言うモノだよ?訓練兵君?


「ほう?では君は、自分達は直ぐにでも戦場に放り込まれても、無事に敵を殲滅し尽くし、確実な勝利を得ることが出来ると断言出来るのだな?」


「もちろん!出来るに……」


「ちなみに、敵の数はこちらの軽く十倍以上で、そこに居る第一班班長クラスの敵が、百人単位で居ることが想定されるが、それでも『出来る』と断言出来るのだな?」


「な!……それは……」


俺からのトンでも情報により、最初の勢いを無くしてしまう訓練兵君。

彼は勘違いしていたが、まだ俺は『体作り』しか教えてないし、させていない。

まだ、戦闘技術を教えていないのだ。


確かに、彼ら彼女らは、訓練で体力や腕力は付いただろう。それこそ、開始前とは比べ物にならない位には、だ。だが、まだまだ一騎当千の戦闘力を手にした訳ではないし、そもそも戦う術を知らない素人すら混じっている状況だ。

そんな奴等を戦場に放り込める訳があるまいよ。


それを覚って口をつぐんでしまった訓練兵君に、俺は現実を突きつけると共に、これからの事を示して行く。


「そう、無理だ。断言しよう。今の諸君らでは、どう足掻いても無理だ。しかし!これから諸君らには、『戦闘訓練』受けてもらい、それを出来るようになってもらう!!確実に、だ!!」


それを聞いて、訓練兵達の顔に不安の色が浮かぶが、そこは俺から無理矢理にでも押し込めて集中させる為の、残酷な現実って奴を提示させてもらうとするかね。


「諸君らは今、大変不安に思っているかも知れない、しかし、俺達からの扱きに耐えた諸君らならば、その程度出来ないはずは無いと信じている!

もっとも、それが出来ず、敵である人族の軍に敗れる事があったのならば、そいつらに、諸君らの家族が!知人が!友人が!ここでの平和な生活を奪われ!拐われ犯され蹂躙される!そんな未来がやってくる事になる!死ぬよりも辛い日々を送る事になるのだ!諸君らはそれを肯定出来るのかね?」


その問い掛けに対し、真っ先に声を上げたのは、第四班に居た元奴隷の男性だった。


「そんなモノ、許容出来るハズが無いだろう!!」


その声に呼応するように、訓練が続けられる事に対して、沈みかけていた雰囲気が払拭され、怒気に似た空気が満ち始める。


「そうだ!」「その通りだ!」「……でも、出来るのか?俺達に……」「出来るかどうかじゃねぇ!やるんだよ!俺達で!!」「そうだ!やるんだ!俺達が!!」


一人から始まった熱は、徐々に周りへと広がって行き、最後には全員へと伝播して、萎みかけた訓練兵達の心に火を着ける。


「では、諸君!俺に君達の答えを聞かせてくれ!君達はどうしたい?何を望む!」


「「「「「俺達に力を!何者にも侵されず、自分達の生を!仲間を守れるだけの力を!!!」」」」」


「よろしい!ではくれてやろう!!今までの訓練が天国に思える様な、そんな地獄の底の底に叩き落とされる程の訓練を乗り越えた先に、諸君らの求めるモノは存在する!!よって!これより!戦闘訓練行程の開始を、改めて宣言する!!」


俺の言葉に、先程とは打って変わって、歓声が上がり、やる気に満ちた反応が返ってくる。

『ヒヨッコ』が『人間』になるための訓練はお仕舞い。これからがようやく本番。

『人間』を『戦士』にするための、本当の訓練の始まり始まり。

楽しい愉しい、地獄ですらまだ生温い、本当の地獄の始まり始まり、ってね。

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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