第78話
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「これより、午後の訓練を開始する!」
そんな俺の宣言により、昼食と、それに続く食休みが終わりを告げ、楽しい楽しい午後の訓練の時間が開始される。
そして、俺の前には、ズラリと整列した訓練兵達が、緊張で顔を強張らせている。
まぁ、朝イチから死にかけるような命令をぶっ込まれた経験が有る以上、そうなるのもある意味当然と言うものかね?
まったく、お兄さんは悲しいなぁ。
皆に楽しんで貰う為に、色々と考えてせっかく準備しておいたって言うのに。
……まぁ、ある意味命の保証が無いのには、変わりは無いのだけど。
しかし、いつの間にバレたんだろうか?
アレを用意しておいたのを見られたのか?
ヤレヤレ、感の良い奴等は嫌いだよ。
でも、逃げられはしないのだから、結果は変わらんか。
「取り敢えず、全員コレを装備してもらう!第一班から、順番に受け取りに来るように!!」
そう言って俺が取り出したのは、最前衛で楯役を務める重装備の歩兵が、見ただけで真っ青になりそうな程の量の鋼鉄を使用し、常人ならば装着しただけで潰れそうな重量である事が、外見だけで見てとれる様な鎧だった。
……まぁ、実際には、そこまでの重さは無いんだけどね?精々、人族が一般的に使用するフルプレートメイルの倍程度の鉄を使っている程度でしか無いから、まだまだ軽い軽い。
下手すると、午前の訓練で使った重りの方が、重量が有った可能性が高いかも?
現に、俺の指示で鎧を装着している訓練兵達も、見た目程に重くはない事に安堵している様子だ。
それでも、現時点では、走るので精一杯になる程度の重量は有るから、キツそうにしている者もチラホラ居はするのだけど。
「全員、装着終了しました!サー!」
「うむ、よろしい。では、お前達には、これから俺が指示する事を、全力でやってもらう!分かったか!」
「「「「「了解しました、サー!!」」」」」
「では、まずは第一班!お前達は『穴堀』だ!担当は俺!そのままここで待機!
次、第二班!お前達は『おいかけっこ』だ!担当はガルム!お前達は午前の訓練で使ったコースへと移動しろ!
第三班は『水遊び』!担当はウシュムガルが行う!お前達は彼女の指示に従い、この後食堂裏手に有るこの施設の水源である湖まで行って来い!
第四班!お前達には『鬼ごっこ』をさせてやる!担当はメフィスト!お前達は、ここの建物の内の一つでもある『多目的施設』まで駆け足だ!
そして、第五班!お前達には『射的』をしてもらう!担当はシルフィ!お前達は彼女の指示に従って森へと入れ!
俺からは以上だ!では、各班行動開始だ!さっさと動け!」
俺からの指示により、それぞれ指定された担当教官と共に、指定された場所へと移動を開始する。
それらの顔には、心なしか安堵の色が伺える。
おそらくは、午前の訓練程には厳しい訓練にはならなさそうだと思っているからだろう。
本当に、そうなったのなら良いのだけどね。
******
俺が出した指示により、唯一残っていた第一班へと指示を出し、待機していた広場の端へと移動し、班のメンバー全員に、『穴堀』に使う為のスコップを支給して行く。
1.5m程でやや長めなそれは、取手の先から鋒までが例の高純度鉄で作られており、柄の部分までギッシリと鉄が詰まっている為、かなりの重量を誇る、ある種の兵器や武器と化している。
どれだけの重量があるのかは、渡された訓練兵達が驚愕で目を見開いている様から、察するのは難しく無いだろう。
それでも、まだ午前の訓練で使われた重りよりは大分軽くはあるのだが。
そんなブツを渡されて、戸惑いの色を隠せない訓練兵達。
特にジョシュアさんからは、動揺の色すら感じられる。
比較的、俺との付き合いが有るこの班故に、俺がこの程度で済ますはずがないと理解しているからこその戸惑いや動揺なのだろう。
正しく、『嫌な予感がする』って奴だ。
そして、その『嫌な予感』は、次の俺の一言で、更に加速されることになる。
「では、お前達には、これからここで穴を掘ってもらう!深さは、先程渡したスコップが隠れる程度、幅も、穴の中でスコップを水平に回転させられる程度でやるように!そして、お前達には、ノルマを課させてもらう!期限は夕刻!それまでに、各員十個堀終えてもらう!出来なければ飯抜きだ!分かったか!
……では、何か質問が有る奴は居るか?」
真っ先に手を上げるジョシュアさん。
その顔には、『嫌な予感しかしない……』と書かれている様にしか見えない。
「何だ?班長」
「ありがとうございます。教官が先程仰られたノルマですが、自分達であれば、一時間も有れば達成するのは容易い内容だと愚考します。であれば、教官がそんな温い事をするとは、とても思えません。追加される条件は一体何なのか、教えていただけますか?」
流石ジョシュアさん。俺の事だからどうせ、この後に何かしら追加するつもりだったのだろうと予想して、先回りしてそれを聞き出そうって腹か。
確かに、知っていてやられる、もしくは最初からかけられるのと、知らずにいきなりやられるのとでは、格段に対応の幅が変わってくるからね。
やっぱり、この人指揮官向きだわ。
しかし、何かしら仕掛けてくる事を大前提として聞いて来ているけど、俺がそんなことをする様な鬼畜の類いだと思われていたとは、些か心外だなぁ……。
……まぁ、大正解なのだけどね。
「良いだろう。まぁ、どっちにしても、お前達には通達するつもりだったがな(嘘)。
まず、現状から追加する事は二つ!これはどちらも、特別な行動を追加する訳では無く、条件を追加するだけだから安心しろ」
その一言で、半数近くの訓練兵達が安堵の表情を浮かべる。
それと同様に、残りの半数が、凄まじく嫌そうな顔をする。
……おいおい、そんなに嫌そうな顔をするなよ。もっと苛めたくなるじゃあないか!(ニッコリ)←(真性のサディスト。自覚は無い)
「まず一つ目はコレだ!」
そう言ってから俺は、周囲の地面を、俺の魔力でコーティングし始める。
大体200m四方位を侵しょ、ゲフンゲフン……コーティングした段階で魔力の流出を止めると、スコップを手に取り、軽く地面を突っついて固さを確かめる。
軽く金属音がしている気がするが、まぁ気にしないキニシナイ。
「一つ目として、地面の硬度を上げさせてもらった。こうでもしないと、お前達相手では、豆腐を掘っているのと大差が無いだろうからな」
そう言われて、前に出てきたジョシュアさんが、スコップで軽く地面を叩き、固さを確かめる。
まだまだジョシュアさんの顔から、疑念の色は拭われない。
まぁ、それも当たり前か。
だって、確かに固くはなっているので、俺が出した条件の穴を掘るのには、かなりの苦労が必要だろう。しかし、彼らであるならば、苦労はすれども掘れなくは無いし、容易くは無いが達成は確実に出来る、って程度の固さでしか無い。
もう一つは何ですか?と、視線で聞いてくるジョシュアさん。
では、お答えしましょう。
「そして、もう一つの条件だが、コレをかけられた状態でやってもらう」
その宣言と共に、今まで使って来なかった魔法を構築し、右手をパチンと鳴らすと同時に、第一班全員を対象にして、発動させる。
すると、次の瞬間には、ジョシュアさんを含めた全員が、その場で膝をつくか、座り込むかをしていた。
突然の事に、目を白黒させながら、呻くようにジョシュアさんが口を開く。
「な……これは……突然鎧の重量が増した?……いや、違う。これは鎧だけじゃ無い、体ごと?」
はい、正解。
これは、俺が以前進化した際に獲得していた『暗黒魔法』の中身、特殊属性魔法の『重力魔法』の一つ、重力操作だ。
まぁ、こうやって大層に言ってみても、物の重量を増やしたり減らしたり出来る程度しかまだ出来ないので、適軍にブラックホールを発生させる!だとか、特定の奴等のみ重力の方向を変更!だとかは出来ないのだけどね。……まだ。
訓練兵達に掛けているのだって、高々重力を1.5倍程度にしているだけだから、大したことは有るまい?
「これが条件二つ目だ。この状態で、ノルマを達成して見せろ!尚、個人で100到達出来た奴が居たら、特別に晩飯の内容を豪勢にしてやるぞ!では、開始!!」
結果としては、夕暮れギリギリには、全員がノルマを達成出来ていた。
流石のジョシュアさんでも、いきなりのこの慣れない環境((鎧による加重+スコップの重量+慣れない作業+無茶ぶりな基準)×重力1.5倍)では、ここ最近のチートスペックは発揮出来なかった様で、ご褒美の100達成は出来てはいなかった。
……それでも、ノルマを一時間掛けずに終わらせ、総数を80台まで伸ばしていたのは、ここだけのお話。
ちなみに、他の班がどうなっていたのかは
◇第二班
「走れーー!!」「逃げろーー!!」「追い付かれるぞーー!!」←必死な形相で逃げ走る第二班
『ホラホラー、まてまて~であります~!』←とても楽しそうに、本来の姿(フェンリルの姿)で歩いて追いかけるガルム
◇第三班
「次の波が来るぞ!」「全員構えろ!!」「オウともさ!!」「最後まで耐えて、景品の『酒樽』をもぎ取るぞ!!!」←景品の酒に釣られて、血眼になってい第三班(獲得条件:全員が最後(夕刻)まで耐えきる事)
「ウフフ、では、これではどうですかね……?」←自分で釣っておいて、確実に渡すつもりがないウシュムさん
◇第四班
「居たぞー!」「回り込めー!」「今度こそ逃すな!!」「捕まえろ!!!」←必死こいて鬼を捕まえようと、施設内を駆け回る第四班
「ハハハハハハハ!ホラホラ、捕まえてご覧なさいな!!」←割合とガチ(空間魔法まで駆使)で逃げ回るメフィスト。尚、こいつだけは、罰則の類いは設定していない
◇第五班
「ぐはぁ!!」「くそ、まただ!」「チクショウ、何処から狙ってやがる!!」「後二回しか無いってのに!!」←射的の的にされている第五班。射たれたら死亡扱い。全員死亡で一回全滅。十回で晩飯抜き。現在全滅回数・八回
「……これはちょっとやり過ぎだったかしら?」←『隠神のローブ』の迷彩効果全開で絶賛狙撃中のシルフィ
こんな感じの訓練を約一月半の間、ローテーションで入れ換えながら、行い続けたのであった。




