第73話
「……もう拷問しない?もう、妾に痛い事しない?」
「もう(多分)しないから、何で俺達を呼び出してまであんなことしようとしたのか、話してみ?の?」
どうやら、些かやり過ぎたらしく、若干の幼児後退を発生させている女王様。
……チッ、あの程度で音を上げるとは、悪い方向で予想外だったぜ……。
もうちょっと耐える位の根性を見せて欲しかったが、そのお陰で、シルフィの気当たりから逃れる事が出来たから、まぁ、良しとしておくか。
……ウカさん?あの程度じゃあ、まだまだ事に及ぶ前の軽いボディタッチ程度かね?
……何でわかるのか?
……実際にやった(お願いされて)からね……。
現にウカさん、拷問されていた女王様の事を羨ましそうな目で見ていたからね?実際に『意志疎通』スキルで『次はアレお願いします~』って通信が有った位だからね?
……嫌いではないけど、別段そこまでサディストって訳では無いんだがなぁ……。
そんな下らない事を考えていた俺の前で、言い辛そうにモゴモゴと口のなかで呟いている女王様。
……ええぃ、はっきりせんのう。
「……また、拷問しちゃおうかなぁ……」(ボソリ)
「元々は、そろそろ人族をどうにかしたかったので、その為の戦力として利用したかったからです!」
と、いきなり『気を付け』の体勢になってゲロりだす女王様。……そんなに拷問は嫌かねぇ?
「しかし、幾ら呼び出そうとしても、一向に来る気配がなかったので、直接的に助けを求めている風の手紙を出して最高戦力でもある魔王様をこちらへと呼び出して、国の方を盾にして服従させようとしていました!」
「……ちなみに、そうやって服従させた後はどうするつもりだったんだ?」
「……それは、そのぅ……」
また、口が重くなるティタルニア。
「……拷問」
しかし、再度そう呟いてやると勢い良く
「国の方は属国扱いにして支配し、魔王様は将軍待遇で抱え込み、領主はこちらから派遣して支配させる予定でした!」
……ハァ~、と思わず溜め息が出る。
ジョシュアさん経由では有るが、わざとこっちの軍規模だとかを教えてやっていたってのに、何でそんなこと出来ると思っていたんだ?しかも、送り込んだ部隊だけで。
おまけにその作戦、俺を拘束した上で忠誠を誓わせられることが大前提になっているけど、どうやるつもりだったんだ?
「……それは、その……妾の娘でもあるシルフィアがいつの間にか持っていた、不思議な魔道具を使えば大丈夫だろうと……。
忠誠の方は、従えば国は無事に還してやる、と約束する予定でしたし……」
「……それって、シルフィが俺の事を裏切るのが、前提条件だよな?しかも、『絶対的』な。そうなる根拠はなんぞや?」
「……そこは、ほら、血の繋がった母娘でもありますし、ユグドラシルの女王として命令すれば、大丈夫かと……」
「……なんて言ってますが?シルフィさん?」
そんな流れで、シルフィへと話を振ってみると
「断固として拒否。当然ね」
との答えと、下に向けられた親指で首を掻き切るジェスチャーが一緒になって返ってきた。
まぁ、だろうね。
他にも、色々と問い質してみたい事は有りはするが、取り敢えず現状として最も大切な事を聞いておくかね。
「……それで?上手いこと俺を引き込めたとして、どうやって人族と戦争するつもりだったんだ?ぶっちゃけた話、ここにいる兵だとか、送り込んでくれた連中だとか程度の力量じゃあ、あいつらを叩ききる事なんざ多分無理だぞ?」
そう、現在俺の部下として活動している(してしまっている)例の兵士達しかり、話に聞いた限りではあるが、送り込まれた攻撃部隊しかり、レベルもステータスも、ぶっちゃけた話圧倒的に足りていない。
確かに、亜人族なだけ有って、平均的な人族の兵士よりはステータスは高い。パッと見た限りでは、一番ステータスの低い奴でも、人族の熟練の兵士並みのステータスは有る。平均で見れば、まあまあ強いと言っても良いかもしれない。
だが、コレではまず間違いなく戦争なんて仕掛ければ敗れる事になるだろう。
何故ならば、突出して強いモノがいないのだ。
俺の見た限りでは、一般の兵士達の中には、冒険者のランクで言うところのBに届いている人は居なかったし、今のところ出会った中で一番強そうだったのがジョシュアさん(魔法特化型でA上位相当?)で、次点で例のローディー(バランス型Aランク下位、剣と魔法どちらかだけならB相当?)だった事を鑑みると、どう足掻いても勝てはすまい。
しかし、女王ティタルニアは、何故そんなことを聞かれているのか解らない、と言った表情を浮かべながら返事をしてきた。
「……?何を言っておられる?妾達が勝てない?そんなハズは無かろう。人族側の用意出来る戦力は高々20000程度、対してこちらは10000と少しだが、人族とそれ以外の種族では、基本的なステータスが段違い故、倍程度で負けるハズが無いでしょう?まぁ、何かの拍子に引っくり返されかねん程度の余裕でしか無い故、魔王様のような強者とその部下達を戦力として欲していた、と言う訳では有るですけどね?」
……はい?なんですと?
人族側の戦力が20000程度?
全力で遠征軍を絞り出して、まだ防衛戦力として30000を残しておけたのと、同じ国が?
……あからさまに怪しすぎねぇか?その情報。
「……ちなみに、その『敵戦力は最大20000』ってのは、信頼出来る情報なのか?」
そう問い質すと、若干呆れた様な感じで答えるティタルニア。
「そんなもの、過去に人族の軍が攻めてきていた時の最大数がその程度であったし、稀に迷い込む人族から聞き出した情報でも、その程度としか言っていなかったのだが?ならば、そうなのであろう?」
……アカン……。
これは、マジでアカン奴や……。
ジョシュアさんや兵士達は、?って感じの表情をしていて理解出来ていない様子だが、俺に同行してきたメンバーは『マズイんじゃね?』って雰囲気を出しているし、特にシルフィは手で顔を覆い、「もう、やだこいつら。出際に私が言い残した事、何一つやって無いなんて……」とか呟いている。
ヘルプさんや、ここの郡だけが、貧弱って素敵オチは無いのかね?
解・いえ、幾ら北限だからとは言え、それは有りません。今までと同程度の規模が有るハズです。
デスヨネ~。
……仕方があるまい。
あのポンコツ女王に、真実ってものを教えてやるとするか。
******
俺が告げた真実により、多大なショックを受け、半ば以上パニックに陥ったティタルニアを、別室に送り介抱させていると、俺達の戦力を元から知っていて耐性が出来ていたジョシュアさんと、ある意味俺がここにいる原因でもあるシルフィが近付いてくる。
「……陛下、如何なさいますか?」
「改めて調べてみたけど、お世辞でも勝てそうとは言い難い戦力しか無いねぇ。一般部隊の相手だけで良いならともかく、上位の冒険者クラス、それこそ郡お抱えのSランクにでも出てこられると、それだけで戦線は崩壊するだろうね。本当、どうしようか?」
そこなんだよねぇ。
どうやら人族側は、他とは違い、今まで『わざと』手を抜いて戦っていた様だ。大方、エルフ族を始めとした亜人族が、奴隷としての人気が高いから、わざわざ全滅させないように、戦争する『振り』をしていたんじゃ無いかね?多分。
死んだと思われていた人達だって、死体が回収出来ていない人なんかは、奴隷にされていた可能性だって有る。
そんな感じでやっていたのだから、これまでは高位冒険者やそれに匹敵する戦力、それと、万が一亜人族を根絶やしに出来てしまう規模の軍隊は投入しなかったと見るべきだろう。
しかし、それはあくまでも、人族側がコントロールしていた戦場でのお話。
これからしようとしているのは、そんなお遊戯ではなく、潰し合い潰され合う、『種』の存続を掛けた殺し合いだ。向こうとて、そんな状況では、それまで通りに手を抜いてくれるハズもない。
そんな、ある意味絶望的を通り越す位に絶望的な状況を、引っくり返すには、どうしたら良いか……。
「俺達が直接手を貸す……ってのは、何か違うしな……」
確かに、俺達幹部連から誰か出しておけば、まず負けることは無くなるだろう。
ぶっちゃけ、既に俺ですら、あんまり一対一で戦いたいとは思えないクラスの戦闘力を全員が持っている(勝てないとは言ってない……ウシュムさん以外)ので、まともに戦って討ち取られる事は、まずあり得ないだろう。……毒やらによる暗殺ならワンチャン有る……か?
しかし、それではあまり意味がない。
俺達がおんぶに抱っこでは、この国は成長出来ないからね。
同じ様な理由から、アンデッド部隊を貸与する事も駄目だろう。
……アニマリア?あそこは良いんだよ。今は殆どの業務を自分等でやってるらしいし。
では、どうするか……。
まぁ、一つしか有るまい。
……あまり、この手は使いたくなかったけど、そうも言っていられない、よねぇ。
「……ジョシュアさん、予定では、後どの位で戦争を仕掛ける予定だったか解りますか?」
「陛下を引き込むのが遅れた関係で、来年の雪解けの季節を待ってからとなっていたハズです」
……幸いにして、時間は有る……か。
仕方がない、一丁やるか。
「……ジョシュアさん、やる気と根性に溢れる兵士を集められるだけ集めて貰って良いですか?」
それを聞いて、首をかしげるジョシュアさん。
「……これからの季節、この国の周辺は雪で埋まりますので、兵達は皆暇になりますから、お望みとあれば1000でも2000でも集められますが、どうなさいますか?」
「さすがにそんなには面倒見れんから、大体500位でお願いします」
それを聞いて、更に不思議そうな表情をするジョシュアさんだったが、俺の考えている事が理解出来たらしいシルフィは、呆れた表情を浮かべ出す。
「了解致しました。しかし、何をなさるおつもりですか?」
その問いに、俺は、極簡単かつ簡潔な答えを返す。
「何、今のままではどう足掻いても勝てないのなら、勝てるように訓練をしてやるだけですよ。もっとも、そうしないと負けて滅ぶのはこの国なので、死んでもやってもらうつもりですので、それに耐えられそうな奴等をお願いしますね?」
その答えを聞いて、ジョシュアさんの顔がひきつっているように見えたが、多分気のせいだろう。だってやらねば負けるのだから、仕方有るまい?
と言うわけで、次回から数話分は訓練回となる予定です




