第72話
現在、女王ティタルニアをふん縛って正座させ、この『玉座の間』ごと王城の占拠が完了なぅ。
一応あの後、こちら側へと転向した兵士諸君に協力してもらい、ジョシュアさんを指揮官に、城内の制圧をお願いしたのだが、思っていたよりも反発や抵抗が見られず、案外とあっさり終わってしまい、意外と暇している魔王さんです、はい。
ただ、軍組織の類いが真っ先に投降して来て、周りの状況が読めず『ユグドラシルは世界一~!』だとかの戯言を実際に叫んでいた大臣連中が、最後の最後まで徹底抗戦の構えを取っていたのには、少々ゲンナリしたけどね。
しかし、あの時は流石に驚いたよ。
既に身内にも何人か居たけれど、まさかシルフィが王女様だったとは思ってなかったよ。マジで。
「……しかし、シルフィさんや?」
「何ですかな?ジョンさんや」
「……実名が『シルフィア』で通り名が『シルフィ』って、お兄さんちょーっとどうかと思うよ?」
ほぼ実名ぢゃん。
「……いや、そこは普段なら『俺聞いてないんだけど?』じゃ無いの?」
「もう慣れた」
「ア、ハイ」
これだけ同じ様な事が有れば、いい加減慣れるさね。
「んで?何故に『シルフィ』?」
「……そこは、その……ウカと組んで冒険者してから少しして、大分慣れた時にね?もう大丈夫かな~?と思って『隠者のローブ』のフードを下ろしたんだけど、その時に『漸く~、こうして『顔合わせ』となりましたが~、シルフィア様に~、よく似てらっしゃいますね~!』って言われちゃってさ?咄嗟に、『ま、まぁ、よく『似てる』って言われるかなぁ~?名前も、あの王女様みたいになるように、って事で『シルフィ』って付けられているし?』って言っちゃって、さ?……でも仕方無くない?名前を聞かれて、答えたく無かった時に、咄嗟に愛称の方を出しちゃうとか、割と有ると思うよ?」
……確認も兼ねて、ウカさんへと視線を向ける。
「ええ~、それは本当ですよ~?一番最初はフードを被っていたので~、顔なんかはよく解って無かったんですが~、少しして~、大分打ち解ける様になってから~、素顔を見せてくれた時のお話ですね~。でも~、まさかシルフィア殿下本人だったなんて~、思っていませんでしたよ~?」
「本人かも知れない、とは思わなかったんで?」
「それは~、始めの頃は~、少し疑っていましたよ~?故郷で出回っていた姿絵にそっくりでしたし~、名前も『シルフィ』でしたからね~?でも~、本人が『違う』と言っていたので~、本人では無いんだろうな~、とは思ってましたけどね~?」
……ん?『本人では』?
「……ちなみに、『本人では無い』と思っていたって事は、シルフィは『誰』、もしくは『何』だと思ってたんで?」
そこで、ウカさんは、首を傾げながら「ウ~ン?」と記憶を探る様に考えだし、少ししてから発掘(記憶の)に成功したのか、当時の結論を話してくれた。
「確か~、すっごくそっくりな一般人さんか~、訳アリで追放された王族関係者か~、もしくは~、幽閉されていて~、脱走してきたシルフィア殿下の双子の姉妹か何かかな~?って程度にしか考えていなかったと思いますけど~?」
「……いや、最初のはともかく、何で二番目と三番目が出てくるんですか……?」
「ええ~?そうですか~?割と有ることだと思いますけど~?」
むしろ、こっちが『ええ~?』なんだけど?
そんなのがそうポンポン有って堪るかっての。
……無いよね?
解・主様には、大変残念なお知らせですが、割と無い事でも無いです。
……ええ~?マジで~?
解・はい、マジです。
もっとも、『これまでの歴史上で見れば』と言う注釈が付きますし、ここ(ユグドラシル)以外では、人族位しかそんなことはしませんが。
……紛らわしいわ、この戯けめが!
アカン、何か頭痛くなって来た、と頭を抑えていると
「……あのー?」
と、殆ど皆から忘れ去られていた人物から声が掛かる。
「妾は何時までこうして居れば良いのであろうか?さすがに、足が痛くなって来たのであるが……。それと、この重りいい加減退かして欲しいのであるが……」
そう、俺達が絶賛占領中のユグドラシル国王にして、シルフィの母親でもあるティタルニアさんだ。
そんなティタルニアさんへと、チラリと視線を向けた俺は、そう言えばと、とある事柄を思い出して口を開く。
「そう言えば、シルフィよ。お前さん、これからどう呼べば良いんだ?本名のシルフィア?それとも、今まで通りシルフィ?」
「ああ、それなら今まで通りシルフィと「ちょっと待てぃ!!」」
と無理矢理割り込んで来るティタルニア。
俺に完全スルーされて、キャラが崩れて来ているが、それ以上に許しがたい事をしてくれた為、ペナルティーを受けて貰う事にしようかね。
「メフィスト」
そう呼びながら、俺は左手をパチンと鳴らす。
すると、何処からともなくメフィストが現れ、俺が現状で一番欲しかったモノを俺へと渡してくる。
流石である。
「お褒め頂き、恐悦至極」
だとか、半分ふざけて言いながら、お辞儀をしてくるメフィストだが、さも当然の如く思考を読むのは止めれ。
俺は渡されたブツを右手に持ち、軽く上下させて具合を確かめる。……ウム、これは良いモノだ。
それを持ったままティタルニアへと向き直り、声を掛ける。
「おうおう、ティタルニアさんよぉ?あんたぁ、人の話を遮っちゃぁいけません、って、親から教わらなかったのか?あぁん?」
「お、教わりはしておるし、悪かったとも思っておる。だから、早めに重り退けて欲しいのだが……。それと、この『正座』そのものも地味にキツいから、そろそろ止めては駄目だろうか……?」
フム?今までの高圧的な言葉使いはしなくなったしなぁ……。
「……つまり、それは、『もう限界だから止めて欲しい』って事で良いのかな?」
「……つまる処は、その通りなのだが……」
成る程、じゃあ仕方ないか……。
「ティタルニア?」
そう、俺が笑顔で声を掛けると、解放してもらえると早とちりしたティタルニアが、表情を明るくする。
しかし、この程度で、牙を向けてきた相手を許してやるほど、俺はお人好しでは無いつもりである。
故に俺は
「プレゼントだ」
と、声を掛けながら、波打つような形に加工された板の上に正座させられ、その足の上に元々おかれていた重りの上へと、右手に持っていた追加の重りを上乗せした。
「ちょ!ま!マジで止めアァアアアアアアアアアアア!!!!!」
そう、所謂『石抱きの刑』である。
そして、重りが追加された事により、悶絶し始めたティタルニアへと、俺は『ありがた~い』言葉を教えてやることにする。
「良いか、ティタルニア。お前はさっき『もう限界だ』と言っていただろう?そんなお前さんに良い事を教えてやろう。
人間な?限界を迎えたら、死ぬんだよ。
お前さんはまだ生きてる。つまりまだまだ大丈夫ってことだ。何、あと少しで解放してやる。それまで頑張れ」
まぁ、『あと少し』とは言っても、後一時間程はして貰うつもりだけどね?
もっとも、この世界では、ステータスの関係上、防御力を圧倒的に下回る攻撃では、傷を付ける事は出来ないが、痛みだけは関係なく通る。そして、コレ自体の攻撃力は、それほど高くは無い。それどころか、はっきり言ってかなり低い。
故に、女王様のおみ足には、傷一つ付くこと無く、こうして思う存分お仕置き出来るって訳だ。
流石に、腹に据えかねたからと言って、後々まで傷が残るような事は、女性にはしたくないからね。
……人族?知らんなぁ。
それにほら、あいつらは常に『やる側』だったんだから、稀には自分等がやられてみるのも良いんじゃない?
そうして悶絶しているティタルニアを眺めて、その直後にシルフィへと視線を向けて思考する。
……こいつら、本当に母娘なのか?
いや、パッと見はガチで母娘なのである。
顔立ちと言い、髪色と言い、瞳の色まで似たような感じであり、しかも、母親であるティタルニアが、エルフ族特有の不老なのか、見た目がまだ20代後半位にしか見えないので、二人が並ぶと、ガチで姉妹か何かに見えかねない。
だが、決定的に違う点が一つ。いや、一ヶ所と言うべきか?
そこだけは、どう見ても血が繋がっている様には見えず、むしろどちらかが手術でも受けたんじゃあないか?と疑いたく成る程に違うからだ。
俺は、それまでの『顔立ち』を比較するために首から上へと向けていた視線を少々落とし、シルフィのその慎ましやかな胸部へと目を落とす。
……うん、本人曰く『エルフ族における標準的な体型』ってやつだな。
そして、俺は次に、歯を食い縛ってお仕置き(又の名を拷問とも言う)に耐えているティタルニアの顔へと視線を向け、そのまま下へと落とす。
するとそこには、追加の重りを乗せられた事により、総合的な高さが増した重りの上へと乗せられている、豊かで満々ている、凶悪なまでの胸部装甲が鎮座していた。
大きさ的には、ウシュムさんに匹敵するランクだな。
ぶっちゃけた話、ここまでサイズに違いが出ているのを見ると、本当に血の繋がりが有るのかが疑わしくなってくる。
エルフ族の女性とは、そこまで多くの面識が有るわけではないので、確かな事は言えない。
が、しかし、ぶっちゃけた話をすれば、シルフィ並みにスレンダーなエルフ族に遭遇したことがないのは事実である。
確かに、解放した元奴隷達の中には、エルフ族は居たし、もちろん女性も居た。
しかし、彼ら彼女らは病的な痩せ方をしていたし、奴隷として強制労働させられていた人達は、比較対象には出来まい。
かと言って、他の健康的なエルフ族で、と言えば、データが基本的にアルヴ(巨乳)かシルフィ(……無いわけでは無い)かティタルニア(凄く……大きいです)しかいないのだ。
……となると、実は、エルフ族の平均的なスタイルって、そこそこ恵体なんじゃ……と思考したその時、背後に沸き上がる圧倒的な殺気!
咄嗟にしゃがみ、そのまま飛び込み前転へと移行して距離を取る。
そして、さっきまで俺が居た所に視線を向けると、そこには、二本ある短剣のうちの片方を、振り抜いた手に持ち、もう片方を、しゃがむだけで回避していたら、まだ居たであろう床へと投擲し、それらが外れた事により、悔しそうな表情を浮かべているシルフィの姿が有った。
「……エルフ族の平均的なスタイルは、私と大体同じ、良いね?」
床へと突き立てられた短剣を引き抜きながら掛けられたその声に、玉座の間に居た男達は、メフィストや俺を含んだ全員が、ティタルニアがガチで泣きながら詫びを入れてくるまで動くことが出来なかった。




