第71話
投稿遅れてすみませんm(__)m
時間が……時間が欲しい……
◇ユグドラシル国王・ティタルニア視点
「陛下、転移陣に反応が有りました。数は5、目標で間違いないかと思われます」
「うむ。では、予定通りに部隊を転移させよ!指令に変更は無い。魔王への『交渉材料』として、かの国の首都を占拠せよ。だが、やり過ぎて魔王の逆鱗に触れる事態になる事は許さぬ。しかと伝えよ」
「「「「ハッ!」」」」
そう返事をし、敬礼して妾の前から退出する部隊長とその部下達。
彼らが出て行った事で、妾以外の居なくなった玉座の間にて、一人思考にふける
かの部隊であれば、2000も数が揃えば都一つ占領する事は容易い事では無いが、不可能では無かろう。
かの魔王の軍が精強であろう事は、考えずとも分かっておるが、それはあくまでも戦場での話。此度の様に、奇襲に近い形での突発的な攻撃にまで対応は出来ぬであろうし、そもそも対応出来るだけの数が常駐しているハズも無い。万が一、数が居たとしても、こちらの部隊の兵は、人族のソレと比べると一人で十人分の戦力に成る故に、城壁等の設備を鑑みたとしても、こちらの勝ちは揺るぎまい。
それに、かの戦では、直接魔王本人が最前線にて闘った結果としての勝利であると考えられることから、軍兵は精強では有れど、そこまでのモノでも無いであろう事も妾には予測出来ている。
まぁ、さすがにあれらだけで国を落としてくる事は叶わぬであろうが、今回の件に必要であるのは『一国の陥落』ではなく『首都の占拠』である故に、そこまで難度が高い訳では有るまい。もちろん、低いとも言わんがな。
それに、此度の目的はあくまで『魔王と有利な状況での条約締結』故、あまりやり過ぎると、魔王が自らの都市を見捨てて、即座にその身一つで我が国を滅ぼさんと、戦争へと突入する可能性の有る、ある種の危うい手段では有る。現に、かの魔王は、今正にこの国にいるのだから、それが可能だ。だが、現状は既に、これしか譲歩を引き出す方法が残っておらん。
『転移の間』にてローディー将軍が魔王を捕らえ、妾への忠誠を誓わせられれば、人族を一掃し、妾を頂とした大帝国を造り上げる事も不可能では無い、いやむしろ可能性は高いと言えるであろうが、おそらくは無理であろう。妾の放った間諜が、国へと潜入して集めて来た情報を元に魔王の正体を推測し、最も効果的であろう結界術を授けはしたが、それだけで勝てるのであれば、人族共が敗れ、旧とは言えど『国』を一つ滅ぼされる羽目に成るハズも有るまい。
しかし、実際にこうして襲撃され、自らの都や臣民を盾に脅されているのであれば、元よりあまり良くなかった印象は、こちらへの悪感情として際限無く高まっておる事はまず間違いは無いハズであろう。なれば、今より印象の類いが悪くなり様は有るまい。であれば、多少卑劣な手を使ってでも、自国への利益を優先させるのが、王たる妾の勤めと言うものよ。
一応は、自らの内側に結論を出すまで思考を巡らせてたティタルニアだったが、しかし、何故にここまでかの魔王との関係が拗れたのだったか?と考えが跳び、そう言えば、あの手紙が最初であったか、と思い出すに至る。
……しかし、あれは酷い内容であったな……と思い返すティタルニア。
一応、仮にも『国書』として出された手紙であり、内容こそシルフィが意訳したソレそのままであったが、その返信として、魔王本人が直接来るならばともかく(ユグドラシル側からすれば、それが常識)、只の手紙の一通だけをユグドラシル側の使者に持たせ(ユグドラシル側の常識では貢物の類いを持たせる)、更にその内容がアレ(第67話参照)だっただけでなく、こちらからの抗議文を尽く無視(当たり前である)した事が、この現状を招いたと言っても良いだろう。
最初の手紙でノコノコとこちらに来ていれば、それで全てが片付いたと言うのに、おそらくエルフ族の誰かが入れ知恵した結果に違いない。全く持って忌々しい。
手紙で連想して浮かんできた事だが、ジョシュア副文官長にも苦い思いをさせられている事を思い出す。
アレは魔力こそ平均より少し高い程度だが(それでもエルフ族の平均故に十分高い)、術式の構築精度と展開速度に関しては天賦の才を持っておった。それに、書類仕事にも高い適性を示しておったから、妾自ら文官として登用してやったのであったか。
魔法関連の力量や、処理能力等の実力で鑑みれば、奴こそが文官長に最適だったのであろうが、惜しい事に元々の身分が平民だった故、副文官長までしか登り詰める事が出来なんだ様であったが。
そんな素性を持ち、更に空間転移魔法への適性が有った(ユグドラシルのエルフ族は、極低確率で適性を持っている。もっとも、一から術式を構築出来る程の適性を持つ者は、王家以外は殆どいない)事から、あやつへと白羽の矢が立ち、使者としてこちらとあちらを往き来する事になったのであるが、事有るごとにあちらを上げて、こちらを下げる様な口を利くようになったのだ。
もちろん、妾とて、交渉する際には、そう言ったことも必要である事くらいは知っておるし、最終的にこちら側の利益に直結するのであれば、その途中で何を言われようと、気にするほどに器が小さくはないと自負しておる。
だが、それはあくまでも『交渉の席』で『相手の国』の交渉担当に対して、での事だ。
断じて、『妾』に対して、『自国の使者』がする事を前提としている訳でも、実際にされる可能性が有ると考えていた訳でも無い。
最初は極々普通であった。
妾が書いた手紙を持って向こうへと赴き、返信が書かれるまであちらで待機し、完成したら持ち帰って妾へと報告(魔王の様子等)と返信を渡しに来る。基本的には、この繰り返しであった。
しかし、一月もする頃からは、あやつが妾へと報告に来る際に、向こうの国のことを色々と報告してくるようになったのだ。
元々、向こうで見聞きした事柄を妾へと報告する様にと指示しておいたのだが、その頃合いから知り得る情報の種類が変わってきた様に思えるのだ。
最初は、料理や道の整備具合等の文化面と言っても良い部分から。次いで農地の開拓状況や作付の種類。挙げ句の果てには、農地の根幹を成すハズの農法やその応用法等。そして、最後には魔王の兵達の練兵状況や規模、更には各種防衛用の施設の事まで報告に来ていたのだ。
もちろん、その報告の際には
「魔王様の政策は素晴らしく、正に民のための政治と言って間違いは無いでしょう。女王陛下も魔王様を見習い、もっと真摯に民のために政治に向き合うべきかと思われます。そもそもこの国は、魔王様の国と比べて~」
と言ったやり取りが常習化しており、最近では報告が、完全に『魔王陛下万歳!!』となっており、手紙を送る時ですら、向こうへと行ったらまず一週間はこちらへは帰っては来ず、戻ってきたかと思えば、最低限の報告と共に投げやりに返信を妾へと渡し、さも『早くしろ、どうせ何時もと同じ内容だろう』と言わんばかりの視線をむけてくるのだ。
これでは、一体どちらに支えているのか解らなくなってくるのも、ある意味当然と言うモノであろう。
そんなことを考えていた時であった。
妾の居るこの玉座の間へと外から通じている、唯一の通路へと繋がる扉、その周辺が俄に騒がしくなっている。
何事か?と思い、備え付けの待機室にて待機しているハズの側仕えの者に確認させようかと、声をかけようとした、その時だった。
「カチコミじゃーーーーー!!!!!」
と叫びながら、通常であれば開けるだけでも苦労する大扉(普段は脇の小扉にて出入りする)を、あろうことか蹴り飛ばし、一部を粉砕させながら入って来る人影達。
その先頭に立ち、濃厚な死の気配を周囲に振り撒いているのはおそらく……
「よぅ、女王陛下?呼ばれたから、こうして来てやったぜぇ?初めまして、俺が『魔王』ジョン・ドウだ。それと、アンタ随分舐めた真似してくれているそうじゃあねぇの。ソレ、どう落とし前付けるつもりだ?おぉん?」
……嫌な予感だけは当たる様である。
最大戦力である魔王本人が既に激昂気味であり、しかも、ジョシュアだけならともかく、ローディーに付けた兵士まで寝返っている様である。
状況は絶望的。
しかし、今回本命として送った部隊が事を成していれば、この状況からでも、逆転は可能であるハズ……
「報告します!!!」
おお!アレは、あの部隊の隊長ではないか!!
さすがは、妾の切り札。こうも的確に欲しい結果を持って来るとは、愛い奴らよ!
「ほ、報告します。我が部隊は、目標に攻撃をかけましたが、反撃に遇い全滅。予め確認していた『魔王』クラスの戦力が複数存在し、我々では攻略は愚か、侵入することも叶いませんでした。自分は報告するためにこうして逃げ延びて来た次第です……」
……確かに、ジョシュアからの報告では、こうなりかねないだけの戦力が確認されているとの事ではあったが、まさか事実であったとは……。
話半分以下処か、針小棒大な誇張だとばかり思っていたが、まさか事実だったとは……。
そんな事実を突き付けられて、半ば以上放心としている妾へと、耳に馴染み、かつここ最近聞いては居なかった声が掛けられる。
「……まったく、私は何時も言っていたハズですが?『いずれ対応を間違えて、この国は滅ぶ』と。『ソレまでに、この国の在り方を変える必要が有る』とも言っておいたハズですが、また聞いていないフリでもしていたのですか?だから、こんなことにはなったのですよ?お母様?」
そう言いながら、フードの着いたローブで全身を覆い、正体はもちろん、性別すらよく分からない人物が、魔王の後ろから進み出てくる。
妾の前へと進み出たそやつは、おもむろにフードへと手を掛けると、そのまま後ろへと流して素顔を晒す。
当然の様に、その顔には見覚えが有る。
何せ、産まれてこの方100年以上、見続けた顔であり、妾と一部を除いてよく似た容姿をしている其奴は、この国において『美貌の賢姫』や『放蕩王女』と言った、相反する渾名を欲しいままにし、数年前に飛び出してから、行方が知れなくなっていた、妾の実の娘である『シルフィア』だったのだから。
シルフィについての衝撃の事実?もしかしたら、予想していた人も多かったのでは?割とベタだし




