第69話
なんとなく、こうなるんだろうな~、でも、ならなければ良いな~、なんて考えていた可能性の内で、下手すれば最悪のモノを引き当てたかもしれない現状なぅ。
何せ、空間移動魔法で移動してきた先の部屋から出た直後には、こうして殺気でムンムンの兵士達に、槍衾の穂先を向けられているのである。幾らでも対応出来るとは言え、呼ばれてやって来た直後にコレでは、些か処か、かなり気分が悪い。
気分が悪いついでに、俺にとっては『最悪』に分類される事象が発生しているかどうかを確認しておくかね。
……出来れば、コレだけは外れていて欲しいんだけどね……。
「……ジョシュアさん、あんた、コレ「ローディー将軍!これはどう言う事だ!!」……へ?」
『知っていたのか?』と続けるつもりだった言葉は、未だにこちらへと背中を向けていたジョシュアさんが発した怒号によって、遮られる事となった。
……アレ?ここだけは、最悪のパターン回避かね?
「……『どう言う事だ』とは、随分な言い様だな?ジョシュア副文官長殿?俺は、女王陛下の命で、その化け物を捕獲しに来ただけだがね?」
そう言いながら、兵士達の壁を割って前に出てきたのは、性能よりも見た目を取り、これでもかと金をかけているのが見ただけで分かる全身鎧を装備した、他人を見下している雰囲気バリバリなエルフ族の男だった。
顔全体で『見下しています』感を全開にしているそいつが、おそらく『ローディー将軍』なのだろう。
「貴様!このお方は、女王が乞い願う故に、この国を助けに来てくださった、言わば『救世主』なのだぞ!?それを『化け物』だの『捕獲する』だの、もう少し現実を見てから行動と発言をしたらどうだ!!」
……ジョシュアさん……、あんたって人は!
しかし、そんなジョシュアさんへと嘲笑をたっぷりと含んだ表情に加えて、超見下し視線で答えるローディー将軍。
「『現実を見てから』?やれやれ、現実が見れていないのはそちらだろう?ジョシュア副文官長。現に我々は、その化け物の手など借りずとも、人族共の攻勢を押し返し、これまで一歩も領地を奪われる事なぞ有りはしていない。むしろ、こちらがジリジリと押しているのが現状だ。それなのに、わざわざ女王陛下が『乞い願って』そんな人間ですらない化け物の力を借りる為に、この神聖な王城へと招き入れるぅ?ハッ!!馬鹿も休み休み言いたまえよ?」
……その物言い、チョーッとお兄さんイラッとしちゃったカナ~?
しかし、こんなことには気づきもせずに、一旦台詞を切ったローディーは、かなりどうでも良さそうに、ジョシュアさんへと手招きする様な仕草をする。
「さて、貴君の任務はその化け物をココまで連れてくる事だったはずだ。その任務は終わったのだから、とっとと報告でもして帰るのがよろしいのではないかね?」
それに、と意味深に溜めを作ってから、ある程度戦闘に慣れている者であれば、分からない方がどうかしている規模で術式を展開しながら言葉を続ける。
「それに、何時までもそこにいると、我々が放つ攻撃の『流れ弾』が当たってしまうかもしれないが、別段構わんのだろう?」
「くっ!」
悔しそうに横顔を歪め、歯を食い縛るジョシュアさん。
……うん、これらの反応から、ジョシュアさんもグルで俺達を嵌めた、って事は無さそうだな。……ちらっとでも疑ってごめんよ……。
しかし、何時までもインドア派で戦闘経験もあまり無いであろう『文官』のジョシュアさんを前に立たせておくのは、あまりよろしくない。ぶっちゃけ危険だ。
おそらく顔見知りであったのだろう相手から挑発されて、悔しいのは分かったが、このままでは怪我しかねないので、後ろに下がっているように、と声を掛けようとした時だった。
こちらに背を向けているジョシュアさんの身体から、ブワリと魔力が立ち上り、ローディーが構築しているそれよりも、遥かに高度な手順で構築をされている術式を一瞬で展開すると、俺達へと覚悟を決めた様な声色で声を掛けてくる。
「……ここは自分が引き受けますので、どうか、陛下はお下がりください。そして、恥を忍んでお願い致します。……どうか、この国を、民を見捨てないでいただけないでしょうか……?この件に関しましては、上層部が暴走した結果であると思われます。故に、この国に生きる一般の民は、この事は知らないでしょうし、むしろ陛下の事は『奴隷解放の英雄』として、民からは絶大な人気がありますので、おそらく大歓迎されるでしょう。しかし、上が腐っていては、また何か横槍が入らないとも限りません、ですので、この命を捨ててでも、膿は絞り切って見せます。ですので、どうか……どうかこの国に、民に未来を!」
そう言って、半ば捨て身に近い特攻を仕掛けようとするジョシュアさん。そして、おそらく、こうなる事を期待していたであろうローディーが腰の剣を抜き、用意していた術式を解放する。
それに呼応し、ジョシュアさんも準備していた術式を解放し、両者が激突する-
寸前に、俺が間に割って入り、ジョシュアさんには、かなり手加減した手刀を打ち込んで強制停止させ、ローディーが撃ち込んできた魔法には、そこそこの威力のダーク・ボールを撃ち込んで相殺……するつもりが、こちらの方が強すぎたらしく、あっさりと貫通し、俺達が立っているのと反対側の壁には穴を開けてしまう。……まぁ、しょうがないよね?
方や、後ろにいたはずの護衛対象から手刀を食らって呆然とし、方や必殺のつもりで放った魔法を、初級魔法で押しきられて愕然としているイケメン共(二人ともエルフ族につき、無駄にイケメン)は、間に入り込んだ俺の姿を確認して、再起動する。
「陛下!下がっていて下さいと言ったでしょう!貴方に何かあったら、どうするつもりですか!!」
「いやいや、あの程度で危なくなるんだったら、俺はとっくに死んで……るな、うん。最初から。
……とにかく、あの程度なら、基本当たらないし、当たっても効かないから大丈夫さね。それよりも、お前さん『文官』なのに、意外と戦えそうなのね?なんで?」
「……『あの程度』って……普通、中級以上の魔法が当たれば、かなり危険なのですが……?陛下ならば、その程度ですむのか……?
この国の『文官』は、他の国の……えっと……あ!アレだ、『宮廷魔導師』の職務も兼ねるので、そこそこ戦えますよ?……言ってませんでしたっけ?」
……聞いてねぇよ!
てか、ローディーの野郎に『副文官長』って呼ばれていたってことは、他で言えば、『副宮廷魔導師長』相当って事かね?……結構大物だったでござる……。
そうやって、ジョシュアさんと話し込んでいると、完全に無視されている事に、痺れを切らしたらしいローディーが、半ギレになりながら、声を荒げて割り込んで来る。
「ええぃ、貴様ら!この状況で、俺に背を向けて話し込むとは、舐めているのか!」
「もちろん」
そう返してやると、ポカンとした表情で固まるローディー。
まぁ、自分の力に自信があったのなら、そうなっても仕方がない……か?
「なん……だと……?」
「あん?聞こえてなかったのか?ならば仕方がない、もう一度だけ言ってやる。
お前じゃあ『敵』にすらなり得ない。もっと強い奴連れてくるか、さっさとそこを退いて、このばか騒ぎの現況の元に連れていけ。解ったか?」
……おうおう、また盛大にショックを受けたような顔をして。
つか、ご自慢?の魔法が、俺の初級魔法に押しきられた時点で、力量差位は察してほしいのだが、それは贅沢かねぇ?
俺に盛大にディスられて、ショックを受けたのか、顔を俯けて、プルプルと震えているローディー。
何やらブツブツと呟いてもいるらしく、良く聞き取れはしないが、何か言ってはいるようだ。
「おーい?返事はどうした~?」
……なんだか怪しげな雰囲気を出し始めたので、再度声を掛けてみる。すると、ブツブツ呟いていたのを止めて、ガバリと顔を起こし、こちらへと血走った眼差しを向けると、まるで自分の勝ちが確定したかのような表情を浮かべながら、こちらを指差して来た。
「フハハハハハハハハ!!馬鹿め!こちらの演技に引っ掛かりおって!ここら一帯に魔力を拡散させる結界を張らせてもらった!!これで貴様には、勝ち目が無くなったな、この化け物め!!!」
……?どういう事?
解・主様、主様。
おう、久しぶりだな、ヘルプさんや。
解・お久しぶりです主様。……ってそんなことよりも、現状が少々厄介な事になっている様です主様。
なんですと?具体的には?
解・お連れの方をご覧になって頂ければ分かるかと。
そう言われて、後ろにいる同行メンバーへと振り返る。
すると、
シルフィが着ていた『隠神のローブ』はその力を失い、着ているのが『シルフィ』だと認識出来てしまい、
ウカさんは、普通の獣人族に見せ掛ける為に纏っていた幻術が解け、とてもとても立派で素晴らしくモフモフな九本の尻尾が顕になってしまっており、
極めつけとして、メフィストの身体が、所々ノイズが走っている様に、ぶれたり霞んだりしている。(本人は、気付いていないのか、全く平気そうな顔(仮面?)をしている)
「お、お前ら、それ!!」
と、メンバーの変化の方を指摘してやると
「「「いや、そっちの方が、絶対おかしくなっているからね???!!!」」」
そう突っ込みを受けたので、なんの事やら?と思いながらも、自らの身体を見下してみると、そこには
時折ノイズが走る様にして、ほぼ新品のそれと、禍々しい雰囲気を纏ったぼろ布をいったり来たりする装備に、普通の肌色と、金属光沢を帯びた骨とを装備品と同じように行き来して変化する腕が、目に飛び込んで来たのだった。
「な、なんじゃこりゃぁ!!!」
解・おそらく、先程相手が使用した結界とやらの効果だと思われます。
お、俺はともかく、メンバーの皆は大丈夫なのか?後、良く見て無かったけど、ジョシュアさんも無事か?
解・おそらくですが、双方共に大事は無いかと。ただ、メフィスト様と主様は、少々警戒しておいた方が良いかもしれません。
……その心は?
解・お二方共に、魔力で身体を構築して、それを維持しております。
せやね。
解・そして、この結界の効果は、『範囲内の魔力を拡散させる』モノ(推定)であると思われます。
使った本人も、そう言っていたしね。
解・本来は、範囲内で魔法を使えなくするのが目的であると思われます。
……せやね。今、向こうで、ドヤ顔全開で自慢してくれているからね。
解・ですが、今回のお二方のお姿の変化は、その効果が干渉している結界であると思われます。
……つまり、結論は?
解・……お二方の『人化』状態が強制的に解除される事になる可能性が……。
……ヤバくね?
解・ええ、かなり。
……マジかぁ……。
ヤベェ処の話じゃあ無くなってんぞ?
メフィストはともかく、俺の人化が解けると、かなりヤバイからなぁ。
……よし、まだ何か言っているみたいだけど、とっとと潰しちまうか。
「―と言う訳で、貴様の弱点はお見通しよ!現に貴様は、魔法が使えなくなっただけでその焦り様!全く滑稽極まるな!!貴様が『リッチ』であり、魔法特化であるのなど、我等はとっくにお見通しと言うわけよ!!さぁ、俺の剣の錆びに成りたくなければ、大人しく「フン!」アベシ!!!!」
……なんだか、長々と喋っていたけど、面倒になってきたし、人化が解けてもマズイので、一発ぶん殴って黙らせる事にした。
そして、残りの兵士諸君をぐるりと見渡し、軽くシャドーボクシングを披露してから、問い掛けた。
「さて、投降するか、戦うか選びたまえ。ちなみに、俺は元々近接戦の方が得意だから、そのつもりでね?」
否か応かを聞く前に、全員投降する事を選択していた。ついでに、結界の起点も教えてくれたので、潰して結界も解除した。……ヤレヤレ、こいつら、どうしようかねぇ?




