第67話
シルフィ経由で、エルフ族の女王様からの手紙を受けとり、取り敢えず何が書かれているのかを確認すべく、読んでみる事にする。
どれどれ……?
『拝啓、魔王ジョン・ドウ陛下
麦の穂が実り、獣達は肥え、山野に幸が溢れる季節と成りました。当方にては~(延々と続く季節の挨拶やユグドラシルの近況報告等につき中略)~付きましては、人族との付き合い方に関して、考え直すべきである、との意見が多く、我等の中でも意見の統一が難しくなって来ております。その為、先んじて付き合い方を変えられた陛下にお話をお聞きしたく、ご手数ではありますが、我が国『ユグドラシル』へとご招待したい所存であります。もしお越し下されますならば、当方からも色々とご相談に乗れるものかと存じておりますので、是非ともお越しくださいませ。
敬具、ユグドラシル国王・ティタルニアより
追伸:可能でしたら、この手紙を受け取ったエルフ族の者も、当国への旅路に同行させて頂けると、大変有難いです』
……書面上は丁寧にお願いしている風味だが、ひょっとするとコレって……。
「……なあ、シルフィ?」
「ハイ?」
「ユグドラシルってさ、今までは、人族の統一国とは、どんなスタンスで対峙してたんだ?」
「……『スタンス』って言う程大層なモノは無かったと思うよ?絶賛、戦争の真っ只中って事では無かったハズだから、取り敢えずは休戦中って感じかな?」
フム……。
「……じゃあ、このユグドラシル国王の『ティタルニア』って人は、必要が有れば頭を下げるタイプの人だったか?」
そう聞くと、シルフィは「ハッ!」っと鼻で笑い、アルヴは静かに視線をずらした。
「あのブライドの塊みたいな人が、頭なんて下げる訳が無いって!むしろ、呼び出しておいて、「呼んでいないのに、勝手に来たのだから、そちらが頭を下げなさい」とか言い出すタイプだからね?基本的に、自国は文化の最前線、他の国は文化的に遅れている蛮族の国だ、と言って憚らない様な性質だし」
……つまり、これはアレか?
喧嘩でも売られているのか?
だって、今聞いた話を分析し、女王の性格等をシミュレーションしてみた上で、手紙を解析してみると
『人族をどうにかしたいから、先にやりあった経験の有る、お前のノウハウをこちらに寄越せ。ついでに、お前の所の情報は寄越せ。こちらは聞くだけは聞いてやる。最後に、お前の所にいるエルフもこちらに寄越せ』
って感じかね?
一応、二人にも、この意訳を聞いてみたのだが、二人揃って
「「ニュアンス的には、大体そんな感じだと思う」」
と、あまり有り難くないお墨付きをいただいてしまった。
……舐めとんのか?
「……しかし、それだと行かない方が良い気がしてきたけど、行かないとマズイよね?」
国際問題になりかねないよなぁ……。
そう思っての質問だったが、予想とは真逆の回答が返って来る。
「いや?行かなくても大丈夫じゃない?」
……なんですと?
「……その心は?」
「いや、逆に聞くけど、何で行かなきゃ不味そうだと思った訳?」
「……そりゃあ、呼ばれているのに無視したら、国際問題に……あ」
「そう言う事。どの道、拗れる程に関係が有る訳でも無いし、逆にこっちは奴隷になっていた国民を保護して送り届けてあげた実績すらあるんだから、決定権云々はむしろこっちに有ると見ても間違いは無いと思うわよ?それに、あの内容から察するに、無視されて困るのはあっちだろうしね」
成る程、それは然りだ。
魔人国と獣人国は、他の国がどうこう言ってきた処で態度は変えない(変えられない)だろうし、そもそもの話が、国交もくそも殆ど有りはしない無いユグドラシルとの関係なんぞ、あまり気にする事でも無かったって事か。
……シルフィとの約束もある事だし、そのうち行ってみたいとは思っていたけど、上から目線で命令される位なら、別に今行く必要性は無いよね?
「……なら、今はお断りの手紙でも送っておくかね。コレ(手紙)を持ってきた人?ってまだ居るか分かるかい?」
「まだ居るハズよ?でも、焦らなくても大丈夫じゃあ無いかな?確か、手紙を渡される時に、『近くに空間移動魔法の陣を設置した』とか言っていたし」
「……一応、場所だけは確認しておいてね?後、出来れば同時移動出来る人数だとかの限界も」
「ん、了解。じゃあ、適当に返事も書いておこうか?」
「頼んだ」
……さて、取り敢えずの結論は出だし、さっさと残りの書類を片付けるとしますかね。
******
結局、手紙の返事には
『知るか。やりたければそっちで勝手にやれ。教えてやることは何もない。彼女達は帰りたくないと言っているので、帰さない』(意訳)
って感じで書いて出したらしく、数日後位から、猛烈な『こっちに来て頭下げて謝れ!』的な内容の手紙が定期的に来るようになったが、それらすらも完全に無視を続けて数ヶ月。
収穫期の頭から始まったそれらのやり取りは、収穫期が終わりに近付き、辺りの気温が下がり出した頃に、ようやく
『今まで生意気言ってすみませんでした。人族との戦争を考えています。効率的なやり方や、戦術等を伝授して下さい。出来れば、助けてもらえると有難いです』(本文)
って感じの手紙になってきた。
……まぁ、こうもなるか。
手紙を毎度持って来てくれるエルフ(この人は普通に良い人)の人に、故意的に国の中を見せてみたり、わざわざ料理を進めてみたり、挙げ句のはてには、こちらの戦力を集めて、演習している所をわざと見せた上で、いざとなったらこちらに移住しても良いよ?と持ち掛け、こちら側の文化・武装のランクを、それとなく伝えさせたのだから、こうもなるか。
戦力では完敗。
頼りにしていた文化レベルでも、かなりの差をつけられていたのだから、当然か。
……手紙を運んでくれていたエルフの人や、アルヴやシルフィに聞いてみて分かったのだが、ぶっちゃけた話、料理ではようやく『炒める』が出てきた程度。道は有れども基本的に凸凹だらけ。上水道処か、下水道すら無く、完璧に汲み取り式である。風呂については悲惨の一言。……まさか、王城クラスにならないと、シャワーすら録に無いとは思わなかったよ……。
……これで、良くもまぁ、『文化の最前線』なんて言っていられたもんだのう。
そんなユグドラシルに、正式にお願いされたからと言って、実際に行くべきかどうかを会議中なぅ。
「……てな訳で、実際に行くべきか、それとも止めておくべきか、どうしようかね?」
そこで、ガルムが真っ先に挙手をする。
「主殿!取り敢えず、行くかどうか、はおいておくとして、ユグドラシル自体はどうするつもりでありますか?」
「……それは、助けるか見捨てるか、って事で良いか?」
頷くガルム。
そこで俺は、溜め息を一つ着いてから、会議室に居るメンバーへと視線を向けた。
「……ぶっちゃけた話、俺自身『どうしようかね?』ってのが、正直な気持ちだね。助けて、と言われた以上は助けてやりたい気持ちも有るが、ユグドラシル上層部の、聞いた限りの性格上では、ここで助けてやると、際限無く付け上がるのが目に見えている気がしてね。皆はどう思っているか、聞きたいんだが良いか?」
皆が頷き、それぞれで答えを出す。
ガルムとウシュムさんは
「ユグドラシルに関しては、あまり関係が無いから俺(主殿)(旦那様)の決定に従う」
と選択を放棄。
ドヴェルグやアルヴは
「一応は自分達の故郷では有るから、出来れば助けてほしい」
と肯定的。
レオーネやティーガは概ねガルム達と同じだが
「助けを乞うのならば、直接頭を下げに来るべきでは?」
とやや否定的。
メフィストやジャック、ジェラルド達も
「君(陛下)(旦那)の好きな様にするのが一番じゃあ無いかな?」
とやや肯定的。
残るウカさんとシルフィだが、ウカさんとしては、自分の様な狐系の獣人族の集落がユグドラシル内部に有るらしく、そこだけは助けてほしい、とある意味否定的。
そしてシルフィなのだが……。
「んで?お前さんはどっちなんだ?」
と、煮え切らないシルフィへと問い掛ける。
「……ん~、助けてほしい事には、助けてほしいんだけど……。ぶっちゃけ、あのまま助けても、あんまり意味が無さそうなんだよね……」
「……そんな国を、お前さんは俺に『助けてほしい』ってお願いしてなかったか?」
「……いや、アレは、もうちょっと内側を綺麗にしてからのつもりで言っていたから……」
……綺麗にするつもりだったんかい。
……てか、綺麗に出来るだけの立場なり権利なりを持っているって事かいな?
……まぁ、良いか。
「取り敢えず、全体的な方針としては、ユグドラシルは助けるで良いか?例の魔方陣のお陰で、割りと簡単に行き来出来るみたいだし、行くだけ行ってみるかね?そこでの、相手さんの出方で判断する方針で」
未だに悩んでいる様子のシルフィを横目に、会議を終わらせると、俺に動向させるメンバーを選定する為に、頭を働かせる事にした。
……さて、どうなるかねぇ?
結構プライドの高いエルフ達……
魔王様に、一体どんな事をする(orされる)のやら……




