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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第66話

アニマリアがサウザンの占領を宣言し、戦勝会が開かれてから、大体一月と半分が経過した。

俺は現在、旧イストリアにて、これまでの短い人生(?)の中でも、最も凶悪かつ悪辣な敵との戦いを繰り広げていた。


……正直、コイツの事は完全に舐めていた事は認める。


いや、はっきりと言おう。


コイツよりも強く、(したた)かで、しぶとかった敵は見たことが無い。


そんなランクの敵である、と。


しかし、そんな敵ですら、俺の手に掛かれば、苦戦はすれども、倒しきる事は不可能ではない。


現に、コイツは、既に虫の息で俺の前に横たわっている。


「さぁ、今トドメを刺してやる!」


そう宣言して、俺は得物を握った右手に力を込めて、敵へと降り下ろす。


そして、俺は敵の身体へと、俺が戦ったと分かる証と致命傷を刻み込み、その身体を脇へと寄せると、勝利の余韻に浸る為に、一息付いて、重心を後ろへと傾ける。


……勝った……そう思っていた。


故に、完全に気が抜けており、そいつ(・・・)が新たな敵を引き連れて接近している事に気が付けずにいた。


「……おや?思っていたよりも、早く終わった様ですね?これは嬉しい誤算と言うやつですねぇ」


俺は、その裏切り者の名を、苦々しげな表情と共に下へと乗せる。


「……アルヴ……」


そう、かつて俺が隷属状態から解放し、一国の宰相相当のポジションまで押し上げてやった女であり、その恩を忘れ、俺を地獄へと叩き込んでくれた張本人でもある。


「はい、アルヴさんですよ~?まったく、そうやって怖い顔しないで下さいな。いつぞやみたいに、粗相してしまいそうになりますからね?」


……いや、知らんがな……。


「……この裏切り者め、俺を解放しろ!でないと、大変な事に成りかねないぞ?」


主に、やつら(幹部連)が何をしでかすのか、予想出来ないからな。ぶっちゃけ、あいつらが暴走し出した場合、まともに止められるのは俺しか居ないからね。


「『裏切り者』とは、酷い言い様ですね?私をこう(・・)したのは、貴方じゃあないですか。しかし、彼女等に暴走されると面倒である事は、間違いありませんからねぇ……。

仕方がない、コレで終わりにして差し上げましょうか!」


そう言い切ると、アルヴは持っていた長杖(ロッド)を一振りし、先程まで俺が戦っていたのよりも、更に大量の敵を召喚し、俺へと襲い掛からせる。


俺は俺で、右手の得物で必死に応戦するものの、数の暴力によって眼前が埋められて行く。


ダメだ、捌ききれない……!


「ク、クソッタレ……」


そこで、俺は気力が尽き、その場で倒れ込んだ……。

主人公死亡

物語完!











「何をふざけているのですか?わざわざ死んだ振りまでして?書類仕事(・・・・)程度で、貴方みたいなアンデッドが死ぬわけが無いでしょうに」


その言葉を受けて、俺は、執務机に倒していた上半身を起こし、アルヴへと顔を向ける。


「……幾ら不死身でも、肉体的には疲れなくても、精神的には疲労を感じるんだよ……。正直、書類仕事舐めてたわ……。誰だ紙なんて開発した奴、探しだしてぶち殺してやろうか……」


「はいはい、本当に出来そうですから、止めてくださいね?取り敢えず今日の分は、今机に有る分だけなので、それだけやって頂ければ、終業で大丈夫です」


……なら、頑張ってやってしまうかね。

そう思いながら、新たにアルヴによって積まれた、俺の承認のサインが必要な書類の山から、一番上の束を取り、目を通して行く。


……コイツは大丈夫。……コレは却下。……コレも構成が甘いから差し戻し。……コイツも差し戻し。


カリカリとペンが紙を擦る音だけが響く室内には、俺とアルヴしか、今は居ない。……まぁ、そこまで執務室が広くないから、二人位が丁度良いのだけれど。


アルヴによって積まれた紙山が半分程に成った段階で、小休止にするべく、棚に仕舞っておいた茶器へと手を伸ばす。

それに気付いたアルヴが、替わろうと手を伸ばしてくるが、俺の方から座っているように促して、作業を続ける。

二人揃って執務机から一旦離れ、応接セットのソファーに座り、お茶を楽しむ。

メフィストに容れ方を教えてもらったので、そこそこ美味しく容れられる様には成ったが、まだまだメフィストが容れたモノとは比較できる様なレベルではないので、練習有るのみ、かね?


お茶を飲んで一息ついた段階で、最近書類仕事をし出してから、気になっていた事を聞いてみる事にした。


「……処で、俺がアニマリアに行く前に残しておいた政策の類いは、どの位まで進んでいるんだ?」


「……それに関しての書類も、今日の分に入っていたハズですが、まだご覧になっていないのですか?」


「確かに見たけど、この手の情報は直接聞いた方が解りやすいからね。んで?今どんな感じなんだい?」


そう言われたアルヴは、ヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、苦笑いを浮かべながら、書類棚に入っていた束を一つ抜いて、軽く確認してから口を開いた。


「……確か、『上下水道の完備』に、『街道の整備』、『耕地の拡張』それと『新貨幣の発行』等でしたよね?」


「うん、それらで合ってるハズ。『魔の森の開拓』も入ってはいたハズだけど、アレは魔人族と共同で進めないとマズイからねぇ。一応は、あそこは既に魔人族領だしね」


既にイストの街までは、魔人族に譲渡してあるからね。


「そこは、現在調整中です。

まず、『上下水道の完備』ですが、さすがにこれをココの様に、既に出来てしまっている街で実施するのは、時間が掛かるので、まずは新しく作られている村等で、実験的に施行されています。また、下水道の設置に伴い、排泄物を肥料として活用する方法も合わせて通達しておきました。まだ一部のみが実行されているだけですが、現地からはまぁまぁ高評価らしいですよ?」


そいつは何より。

やっぱり、不衛生だとあまりよろしくないしね。

幾ら浄化魔法が有ると言っても、元から清潔であるに超したことは無いだろう。


「次に、『街道の整備』ですが、現時点では、一応は首都の扱いになっているココ『イストリア』から繋がっている本道を優先して、整備しています。

陛下が帰還してからは、アンデッド部隊の方々が作業を引き継いで下さっているので、そう遠く無い内に、本道に関しては終わる見込みです。これも、馬車等で移動する人達からは、かなり評判が良いみたいです」


「インフラの整備は、して有るか無いかで経済の発達が段違いだからねぇ。俺が帰ってくるまで従事してくれていた人達には、ちゃんとお給料支払ってくれていたよね?」


「それはもちろん。もののついでとして、その支払いは私達が新しく発行した、『魔王貨幣』で支給しておきました」


「人族が使っていた『旧貨幣』との交換も、順次対応お願いね?何時までも人族と同じ貨幣を使っていると、いつの間にか経済戦争を仕掛けられていました、なんて事に成りかねないから、早めに駆逐してしまいたいね。ついでに、魔人国や獣人国にも浸透してくれれば、共通化の貨幣として、交易にも使用出来るよう成るから、よりやり易くなるんだけどねぇ」


ちなみに、この新貨幣。ただ単に、人族が使っている貨幣を鋳潰してコインの形に加工し、表面に新しい彫刻を入れただけだったりする。

一応、偽造防止の為に、彫刻はドワーフ達にお願いし、他の種族では真似出来ない位に細かく彫ってもらっている。

尚、ドワーフ達には、誰かが偽造した・もしくは偽造に手を貸した、と判明した段階で、全員を連帯責任とし、完全禁酒とする、とお触れを出しているので、多分大丈夫だろう。

その証拠として、お触れを出した直後に、ドワーフ達のまとめ役をしてもらっているドヴェルグ(孫は女の子でした)から、「万が一、偽造なんてしやがった馬鹿が居たのならば、そいつは問答無用で死刑にして構わないから、どうか禁酒だけは勘弁してくれ……」と土下座してきた位だから、多分する奴は居ないだろう。……居ても、ドヴェルグが探し出して処刑しそうだし。


「『耕地の拡張』については、どんな感じだい?」


「順調に進んでいるそうです。ガルム様配下のフェンリル達によって、魔物が掃討された土地を主に使用しているそうですが、それ以外でも適時拡張途中だそうです」


「まぁ、俺が新しく連れてきた人達の為にも、食料の確保は最優先の課題だからねぇ」


実は、サウザンで解放した奴隷達は、基本的には獣人族だったのだが、そこそこの数他の種族も混ざっていたので、今後の選択を聞いてみた所、アニマリアに定住を希望する人も中には居たが、基本的には、俺に着いてくる事を希望人の方が多かった。

むしろ、獣人国からこちらへと移住したい、と希望する人が意外な程に多く、思っていたよりも多くの人達を受け入れる事となってしまったのだ。


まぁ、不幸中の幸いとして、アニマリアへと出発する前に、万が一に備えて『耕地の拡張』を指示しておいたので、受け入れ不可能とは成らなかったが。


「総評としては『まぁまぁ』って所かね?そう言えば、俺がアニマリアから持ち帰った作物の苗やら種やらは、今どんな感じになっているか分かるか?」


実は、アニマリアから帰国する際に、トマトに似た野菜(オムライスに使ったケチャップ擬きはこれから作った)だとか、ネギっぽい野菜(炒飯に使用)だとかの、東部では見たことの無かった作物の苗や種子何かを譲って貰い、実験的に畑に植えて育てているのだ。もちろん、籾種も分けてもらっている。


気候帯が異なるので、上手く育つかはある種の賭けになるが、もし上手く行けば、食料の選択肢が増えるから、やってみても損は無い……ハズ。


「種に関しては、流石に時期がずれているので、まだ蒔いてはいませんが、苗に関しては、割合と元気に育っているようですよ?」


ほう、そいつは何よりだ。

これで、上手く行けば、イストリアでもアニマリアの作物が収穫出来る可能性が出来た訳だ。


「後は、魔人国・獣人国・そしてココとで交易出来れば面白いんだけど……」


「こちらと魔人国ならばまだしも、獣人国とは遠いですからね。移動にコストが掛かりすぎる上に、交易する品自体、限られてしまいますからねぇ……」


魔人国からは、海が近いので『塩』や『海鮮』を、アニマリアからは、様々な『作物』やまだ見ぬ『香辛料』の類いを輸出し合えれば、中々面白い事になりそうなのだが、いかんせん距離が離れすぎているので、交易するにも、やり方を考えねばなるまいて。


……まぁ、手が無い訳でも無いんだけどね……。


「となると、やっぱり、『アレ』が必要になってくるよなぁ……」


「……ええ、エルフ族に伝わる『空間移動魔法』が手に入れば、かなり簡単になるでしょうね。

……もっとも、『手に入れば』ですが……」


何でも、エルフ族の王家には、代々『空間移動魔法』なるものが継承されているらしく、それが有れば、交易実現に向けて、大きく前進出来る、と思われる。

ちなみに、この『空間移動魔法』云々に関しては、アルヴとシルフィの両名から聞けた話なので、多分本当。何で、そんなことを知っていたかは知らん。

……まぁ、正面から教えてくれ!と言った処で、教えてくれるとは思っていないから、どうしようかねぇ?


「……まぁ、考えても、答が出てくる訳でもないのだし、残りを片付けるとするか」


そう言って、ソファーから立ち上がる俺。

流石に片付けまではさせられない、とテーブルの上をまとめて、洗い場まで運ぶ為に退出しようとするアルヴ。

両手で茶器を運んでいる為、扉が開けられない彼女の為に、扉を開こうとした時


コンコン


と、扉を誰かがノックする。

まぁ、俺とは契約で結ばれている故に、扉の向こうに誰が居るのかは丸わかりなのだけど。


「どうした?シルフィ。何時もはノックなんてしないで、直接入ってくるのに」


そう声を掛けると、外側から扉が開かれて、何時もお馴染みな『残念エロフ』のシルフィが入ってくる。


「……何か、変な紹介をされた気がするんだけど?」


とジト目で問い掛けて来るが、俺はノーコメントで押し通す。


「それより、何か用事が有ったんじゃ無いのか?変な手紙も持っているし」


そう指摘してやると、思い出した様に手紙へと視線を落とし、それをそのまま俺に渡してくる。


「はい、これ。どうやら、同じエルフ族として私を経由させて、確実に貴方に届けさせたかったみたいね」


そう言って渡してきた手紙の封は、既に破かれていた。


「……んで?これは誰から、何をしたくて、俺に当てられた手紙なんだ?その口振りと、手紙の現状から察するに、既に読んだ後なんだろう?」


そう聞くと、シルフィは言い辛そうにしながらも、こう続けた。


「……その、ね?差し出し主は、亜人諸族連合国家『ユグドラシル』の現君主、エルフ族の女王様からでね?その……人族を何度も叩き潰している、魔王陛下を、ユグドラシルに招待したい、って書いてあったんだけど、どうする?」


……なんですと……?

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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