第65話
「では、サウザンの完全占領並びに、南部領域の強奪成功を祝って、カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ!!!」」」」」
現在、サウザンを占領し、俺達……もとい侵入組が解放・治療しておいた、無理矢理奴隷にさせられていた亜人諸族の人達を保護した後、レオンに『サウザン領域はアニマリアの領地である!』と宣言させて、シルフィが捕らえておいた総領主の血族を公開処刑にしてから十日程経っており、首都のアニマリアにて、絶賛戦勝会中である。
占領したサウザンでやらない理由なのだが、あそこでやると、国民の大半が参加出来ないから、なのだそうな。
……まぁ、長い間、血で血を洗う戦争を繰り広げていた相手であり、多くの同朋が虐げられ続けていた所で、宴会しようとは思えんわな。
尚、この戦勝会に参加する・させる為に、殆どの町や街、またサウザン領であった時の国境線なんかもがら空き状態になってしまっているが、そこはこちらのアンデッド部隊を一時的に貸与して対応している。まぁ、それも戦勝会が終わって、通常運用に戻るまでだから、レオン達には頑張って貰うけどね?
そして、その戦勝会なのだが、実の処、俺は参加はしていなかったりする。
……まぁ、参加していると言えばしているけど。
理由としては、わざわざ国王であるレオンが
『今回の宴は無礼講だ!』
と宣言したのに、一応は他国の王様扱いになっており、多くの国民達の目の前で虐殺を繰り広げた(アニマリア前での遠征軍殲滅)張本人なのだから、そんなのが参加してしまっては、皆が緊張して楽しめないだろうしね?
なので、俺はこうして……
「ヘイ!炒飯10上がり!早く持って行って場所空けろ!次は何だ!!」
「ハイ!『卵が掛かった赤いの』が10と『三角で焼かれていた』のが20、それと、『色々入って黄色いの』が15です!!」
「了解!オム10・焼オニ20・パエリア15!お前ら!こいつらは熱い内に食わせてこその料理だ!気合い入れろ!!」
「「「「応!!!」」」」
戦勝会って名目の宴で出している料理を作っていたりする。
ね?一応は参加しているでしょ?……裏方だけど。
で、俺が厨房で調理何てしている理由だけど、一つはさっき言った通りの事。
いくら無礼講で身分関係無く騒いで良し!って言われても、俺みたいなのが混ざっていたら、心から楽しめないだろう?それに、この宴の主役は、レオンでも、俺達でもなく、今まで戦い抜いて来た兵士達と、戦禍に怯えて生活せざるを得なかった一般の人達なのだから、その主役達が楽しめる環境にしないとね?
そして、理由のもう一つ。
これは、この宴とは正直余り関係が無い所から来ていると言えばその通りの理由でしか無いのだが、丁度良いタイミングだったから、乗っからせてもらっている。
その理由なのだが、単純に『米を普及させる』事だ。
……いや、ね?一応、レオンの奴が、サウザン侵攻戦が始まる前に、新たな作物として~って公布しはしたんだけどね?それでも、一般の人達からしてみれば、今まで雑草扱いしていた植物を、食料として栽培しろ!と言われても、ハイそうですかと受ける事は出来るハズが無いし、食べられると言われても、本当に食べられるのかどうか以前に、どうやって食えと?って状態なのである。
一応、兵士諸君は戦時の食糧として口にした経験が有るため、米がどんなモノであるか等は知っているし、積極的に広めようともしている。
しかし、人は己で体験したことの無い出来事には、そうそう興味も理解も示さないモノである。
ならば、どうするか。
強制的にやらせるのも一つの手だろう。
しかし、それではようやく戦禍から解放され、笑顔を取り戻した国民の皆に、また負担を強いる事になる。それはしたくは無いし、して良い事でも無い。
……むしろ、そんなことをレオンがさせようモノなら、一切の慈悲を示すこともなく、あいつの首を落とす自信が有る。まぁ、しないとは思っているけどね?
では、どうするか。
実は、意外と答えは簡単である。
人は体験しなければ、興味も理解も示さない。
ならば、体験させれば良い。
幸いにも(狙いはしたけど)、この戦勝会の宴では、街中が飲めや騒げやのお祭り騒ぎと化している。
至るところで出店や食堂の類いが料理を出し、酒が振る舞われている。
そんな中、それまで見向きもされなかったが、話題には登った食材をメインに据え、暴力的なまでに旨そうな匂いを周囲にぶちまいている店が有れば、余程の事が無い限りは入ってみるよねぇ?
しかも、その食材が食べられると公布した国王であるレオン本人が、宴の前口上からの乾杯が終わったとほぼ同時に店へと飛び込み、それに少し遅れてから、今度はサウザンを落としてきた英雄達が、我先にと涎を垂らしながら駆け込んで行くのだ。それで興味が湧かなければ、そいつは余程に擦れていると見るべきではないかね?間違いなく。
そして、外まで漂う匂いや殺到した人達に釣られて中へと入れば、それだけで食える米料理や、米に合うように味付けを調整された各種オカズ、付け合わせのスープやサラダが圧倒的な速度で各人の胃へと消えて行き、しかもその表情は美味いものを食っている時特有の、幸せそうなモノだ。……一部、度を越してしまい、恍惚とした表情を浮かべる者も居たが、それは無視して良い。……あのデカイ猫は既に狂信者だからな。
そして、席につき、周りを見渡し、気になった料理を注文すれば、即座に料理が席へと届く。
そして、その料理を一口食えば……後は堕ちるだけだ。
まぁ、仕方ないよね?基本的に調理方は『焼く・煮る』程度しか無く、味付けも塩だけみたいな所に、『炒める・茹でる・蒸す・炊く・揚げる』等の技法と、それまで誰も使っていなかった、ショウガやニンニク、胡椒等の各種香辛料を使って作られた、元よりこの世界に存在しなかった料理郡だ。
これで米の虜にならない奴はおるまい。
現にウチのメンバーにも食わせてみたら、ガルムは黙々と空にした器で山を作り、ウカさんは気絶し、シルフィは料理を崇めだし、ウシュムさんはライバル心を擽られたのか、厨房に籠って出てこない。メフィストは一見優雅に食べている様に見えるが、地味に御代わりの回数が多いし、口の周りに米粒が付いている事に気付いていない。ティーガやレオーネは、食い過ぎて床へと沈んだ。
そんな料理を口にしたのならば、確実に興味が湧いてくる。
この食材は、どうやって作るのか・入手するのか。
この料理は、どうやって作っているのか・何処でならまた食えるのか。
そうなってしまえば、後はこちらのモノよ。
米そのものに興味が出た人には、レオン経由で水田等による栽培方法を伝えると同時に、国から種籾の支給や土地の選定等も行う事を確約させてある。
料理に対して興味を持った人には、レシピの配布も行うと同時に、簡単な調理法の指導や、香辛料の使い方の伝授もしている。また、この店の料理人には、俺が直接、調理法と使用した香辛料等の事を教えておいたので、上手く行かなかった人や、料理が苦手な人なんかは、この店に来れば、また食べられる仕組みにしてある。
後は放っておいても、勝手に広がって行く事に成り、米の安定供給による食料生産量の増加と、米を使った料理の種類拡張にも繋がる!……ハズ。多分。きっと。
まぁ、でも今は、これらの料理を食べて、笑顔になってくれる人達がいるって事で、満足しておくか。
俺達も、この宴が終わって少ししたら、もう帰る予定だからね。
そのためにも……
「オラッお前ら!死ぬ気で作れ!死んでも作れ!むしろ死ね!!俺が教えてやれる時間なんぞ、そんなに有る訳じゃあ無いんだ!俺が居なくなるまでに、俺が認める料理作れなけりゃぁ、殺して解体して豚の餌にすんぞ!分かったか!!!」
「「「「「お、応!!!!」」」」」
この、弟子兼作業員の獣人族の料理人達を、一人前にしてやらねばならんからね。
尚、この時、魔王本人より直接の料理指導をされた彼等彼女等は、この後に、アニマリアを代表する料理人へと成長する事に成るが、指導を受け、合格し、魔王が帰還して暫くするまでは、目から光が失せ、常に『ワタシハオコメガダイスキデス』と呟きながら、注文通りに料理するナニカになっていたとか、そうでなかったとか。
取り敢えず、アニマリア関係はココまで
次回からは別の所でのお話になります。




