第64話
アニマリア側の勝利が九割九分確定した戦場を眺めていたが、余りにも一方的な展開に少々飽きを感じ始めた時、ふと『フェイズ・スリー』の進捗具合が気になったので、確認してみる事にした。
『ジョンより竜へ。進捗具合を報告されたし』
『こちら竜。万事順調ですよ、旦那様♪』
……速効で返ってきたけど、イマイチ内容が無いと言うか、なんと言うか……。
もう一回聞いてみるかね?
『いや、だから具体的な進捗具合を……『旦那様?』……ハイ?』
『私、旦那様に、ここ数日お会い出来てない(二日前から侵入していた)ので、とてもとても寂しいです』
『ア、ハイ。そうなりますね。で、進捗状況を……『旦那様?』……ハイ』
『私、そんな寂しい中、旦那様にお願いされたから、こうやって頑張っているのですけれど?』
『……仰る通りです。で、その……進捗状きょ『旦那様?』……イエス・マム!』
『そんな頑張っている妻に必要なモノは、『ご褒美』であって、不粋な『報告』なんかでは無いですよね?』
『イエス・マム!終戦後に、ご希望の品物を用意させて頂きますので、どうか、命だけはご勘弁を!!』
『あらあら?でしたら、旦那様と二人きりでの、情熱とたっぷりの愛に溢れた『熱い夜』をお願いしますね?旦那様♪』
『イエス・マム!了解しました、最善を尽くさせて頂きます!では、これにて失礼します!通信終了』
……………………聞く相手を間違えたな……。
気を改めて、今度はウカさんに聞いてみるかな。
『ジョンより狐へ。進捗具合の報告をされたし』
『はい~。こちら狐~。現時点での達成率は~、大体……六割強って感じですね~。遭遇した人族は~、片端から始末していますけど~、問題無いですよね~?』
『了解した。人族の始末に関しては、どの道ココにいる連中は皆殺しにする予定でしたから、問題無い処か、むしろジャンジャン殺っちゃって下さって大丈夫ですよ?』
『あらあら~?でしたら~、解放と保護はジャックさん達に任せて~、積極的に狩りに行った方が良いですかね~?』
……この人はこと人で、なんか性格が変わった感が有る気がする……。
でも、元々Sだった(シルフィ談)って話だし、こんなものかねぇ?
『……ええ、負担や怪我にさえ気を付けて貰えれば、そちらの方が後が楽なので、サクッと殺っちゃって下さいな』
『はい~、了解しました~。
……処で~、さっきウシュムさんからお聞きしたのですけど~』
……ゑ?
『ご褒美が頂けるって話は~、本当ですか~?』
……早くね?
俺、ウシュムさんと通信切ってから、ウカさんに通信繋ぐまで、一分掛かって無いハズ何ですけど?
『……いえ、確かに約束しましたけど、それは強請られたからでして……』
『でしたら~、私もお願いしても良いですよね~?』
……何故にこうなる……?
『……え?いや、しかし……』
『私も~、この数日~、ご主人様に会えなくて~、辛くて寂しかったんですよ~?』
……ハイ、ソウデスネ……。
『それに~、私だって~、ご主人様にお願いされたから~、こうやって頑張ってお仕事しているんですよ~?』
……ハイ、ソノトオリデス……。
『そして~、私と同じ条件で動いていた彼女にご褒美が出るなら~、同じく私にも出て然るべきだと思うのですが~、間違ってましたか~?』
……イイエ、ソノトオリカト……。
『でしたら~、私のワガママも聞いて頂けますよね~?ご主人様~?』
……泣いても……良いですか……?
『……分かりました。でも、俺にできる範囲でお願いしますよ?』
余り無茶振りされないと良いのだけれど……。
『本当ですか~?有り難うございます~!もちろん~、そんなに難しい事はお願いしませんよ~?ただ~、私も~、一晩掛けて~、たっぷりと愛して欲しいってだけですから~』
……今、一部にナニか変なルビが振られている様に感じたけど、気のせいだよね?
『分かりました。でも、その代わりに、お仕事はきっちりお願いしますよ?』
『もちろんです~!さて~、手早く終わらせて~、アレやコレやソレなんかの用意もしたいですね~。注文しておいた新作も受け取らないと~。
さぁ~、汚い人族共~!さっさと塵にお成りなさいな~!』
『……程々にね?通信終了』
……あからさまに、アレなルビが振られていた様な気がするが、気のせいだな!うん。
……気のせいだと思いたい……。
…………さて、『フェイズ・スリー』の裏側で動いてもらっていたシルフィにも、現状を聞いてみるかね。
……シルフィなら、ノリ自体も軽く、割とサバサバしていたハズだから、あんな感じには、ならない!……ハズ。……多分、…………きっと。………………ならないと、良いなぁ……。
『こちら魔王より狩人へ。進捗具合を報告されたし』
『こちら狩人、取り敢えずだけど、ほぼ完遂って言っても良いと思うかな?って感じね。予定通り、内部に残ってた官僚クラスの奴等は皆殺し。領主の血縁は、次期候補も含めて縛って一所にまとめて放り込んであるから、脱走の心配はしなくても大丈夫かな?
あと、案の定、隠し通路から脱出を謀った奴等も居たけど、そいつらも処理しておいたよ』
『了解。ご苦労さん。……悪いな、いつもこんな事ばかり、お前さんに任せて』
『ハハッ、気にしない気にしない!こう言うのは、適材適所って言うでしょう?偶々とは言え、そう言う事に向いた能力が有るのが私だけだったんだから、仕方ないって。それに、この手の事を頼めるのが私だけってのも、何となく特別扱いみたいな感じで嫌いじゃぁ無いしね』
……暗殺任務なんてお願いしておいてなんだけど、こいつがまともで良かった。
……良し!シルフィには、俺から提案するとしよう!
『いつも済まんな……。完了したら、ウカさんかウシュムさんと合流してくれ。それと、毎度面倒なお願いしている償い……では無いけど、何か希望する事があったら言ってくれ。可能な限り叶えさせてもらうよ』
『……え?どうしたの急に?ジョンさんが優しい?頭でも打った?……いや、その程度じゃあびくともしないか……?』
こいつ……。
『……日頃から、俺の事を何だと思っているのかは知らんが、ただ単に、今回のお願いの報酬だよ。
まぁ、既に、侵入組二人から強請られているし、ある意味一番面倒な事をやってもらっているお前さんのお願いだけ聞かない、なんて事は出来ないからな。ホレ、なんぞ言ってみぃ?』
そう言われて、『ふ~ん?』と言ったきり、しばらくの間考え続けるシルフィ。
まぁ、俺とシルフィとでは、互いに用事が有れば「コレお願い」「じゃあ、コレ手伝ってくれ」「「了解」」って感じになるし、シルフィの方で何か欲しいモノが有れば、その都度、直接俺と交渉しに来る(「~が欲しいんだけど?」「んじゃ、コレ頼むわ」「了~解、じゃあ確保お願いね?」「任せろ」って感じ)ので、物欲自体が余り溜まっていないのかね?
そうやって考え込んでいたシルフィだったが、突然閃いたのか『そうだ!』と一声上げる。
決まったのかな?
『おう、決まったか?』
『ええ、一応ね?』
『まぁ、俺で実現出来る限りは叶えてしんぜよう。そんで?何が望みか?』
ココで『ナニ』とか言わんよな?
『……何でそこまで警戒しているのかは知らないけど、そこまで難しい事をお願いするつもりは無いからね?まぁ、この件が終わって、私達で奪い取った東部がある程度落ち着いてからで良いから、私の故郷に一緒に来て欲しいんだけど、それって大丈夫かい?それともダメ、かな?』
フム?シルフィの故郷と言えば、エルフ族が中心となっている、亜人諸族による国家だったか?
……まぁ、どの道接触するつもりだったから、構わない、よな?……うん、大丈夫だろう。
『別段構わんぞ?むしろ、本当にそんなことで良いのか?』
『本当!?良し!コレで、エルフ族もとい亜人諸族の未来は明るいわね!どうやって同行させようかと思っていたけど、コレで何とかなりそうね。助かったわ、有り難うね!』
……そんなことなら、何もなくても言ってくれれば良いのに……何て思っていた時、シルフィから爆弾を投げ付けられる。
『じゃあ、向こうでついでに私の実家にも挨拶お願いね?』
『……ハイ?』
なんですと?
『ん?ほら、私達、確りと結ばれちゃったじゃない?だから、一応で良いから私の実家にも挨拶参り、お願いね?……それとも、この大陸を実質的に支配していた人族に対して喧嘩を売った『魔王様』は、自分がキズモノにした相手の実家に挨拶する事が怖いのかね?』
……アレは『結ばれた』何て優しい表現の出来る様な事じゃあ無かったと思うし、むしろキズモノにされたのはこちらの方だ。最後の挑発に関しては、関係有るのか?と突っ込みたい所だが、事実ではあったし、お願いされてしまっては、こちらから言い出した以上拒否するのはもっての他である。……もっての他ではあるのだが、イマイチ納得出来ん……。
最終的にはYesと答えざるを得ない状況になっていたので、結局挨拶に行くことになってしまった……。解せぬ。
そうこうしていた内に、サウザンの総領主はアッサリとレオンに討ち取られ、残りの兵士の大半は、まだまだ士気がバリバリだった後続組の餌食となっていた。……米で釣ったって言っていたけど、アニマリアの連中って米好き過ぎじゃあ無いか?これまで雑草扱いしてたのに?
そして、遠征軍だと思っていた軍勢が、アニマリア側の後続部隊だと知って、逃げ出そうとした残りの連中は、こうなることを見越して配置しておいたグールナイト部隊によって、美味しく経験値になって頂きました。……まぁ、あんまり入らなかったけどね?経験値。
ちなみに、レオンが例の豚の餌を切り捨ててから、敗残兵の処理が終わるまでに掛かった時間は約26分。見学していた俺達がしていた予想の中で、一番近かったのは、メフィストが出していた25分だった。……もうちょっと持つかと思ったけど、期待外れだったか……。
その代償……と言う訳では無いが、ちょっとした罰ゲームとして、俺とジェラルドはメフィストが趣味として行っている『紅茶の新ブレンドの探求』に付き合う事に成った。……基本的に不味いのは出てこないのだが、微妙に配合を変えたモノを幾つも出してくるので、そんなに成り手が居ないのだそうな。
そうやって、俺とジェラルドがゲンナリしていると、他の三人から『ご褒美』の件を聞いた、残りの二人からもおねだりの連絡が入り、結局全員から強請られる事になってしまった。……まぁ、良いか。




