第63話
◇サウザン総領主・ゼクス視点
クソ!何故このような事態になっている!!
陣の後方で、複数の感情が原因の震えを抱えつつ、ゼクスは思案する。
ケチのつき始めは、片腕だったノインの提案からだ。
ノインの奴めが『上手く行けば、こちら側の被害を限り無く0に近い状態で奴らを皆殺しにし、今回の戦争を終わらせる事が出来るかもしれません』等と抜かしおったから、わざわざ任せてやったと言うのに!
なのに、いざやらせてみれば、奴自身があっさりとレオンに殺されるだけでなく、本人の立候補も有り、護衛として付けておいたこちら側の切り札、SSSランクの英雄であるアハトも失う結果となってしまった。
しかし、それだけであれば、まだ対処の仕様は有った。もちろん、ノインを殺られた事で、兵の士気はがた落ちしたのは明白であるし、アハトを殺られた事で、個人としての戦力も、軍としての戦力も格段に低下したのは明らかではある。
しかし、それを成したレオンに対処するのは、そう難しい事ではない。むしろ簡単な分類に入るだろう。
単純に、レオン一人に数百・数千の兵をぶつければ、それで事は足りる。足りなければ万の兵を割けば確実に仕留める事は出来るだろう。こちらはあちらの三倍以上の兵を抱えている。強靭な獣人族とは言えども、二人以上を同時に相手にして、無傷では済まないし、いずれは力尽きる。おまけに、奴等の背後からは、更に30000の軍勢が迫っている。如何なる怪物でも、数の暴力の前では膝を着かざるを得ない。それが真理だ。
……真理のハズだった。
なのに、この眼前に広がる光景は何だ……?
敵の小隊には、こちらの中隊を当てているのに、上がる血飛沫はこちらのモノだけ。
衝突の衝撃で中に舞うのも、こちらの兵だけ。
そこかしこで上がっている断末魔すらも、こちら側だけだ。
敵方にも被害は出ている様だが、それでもこちら側の様に討ち死にではなく、負傷程度で後ろに下がってしまう。
そして、一人下げても、こちらは三人殺られるので、かなりの速度で軍が削れて行く。
……これは、『理不尽』と言うものではないのか?
だが、そんなアニマリア軍の理不尽すらも、まだ『超常』の出来事ではなく、『通常』に近い出来事であると錯覚しそうになる事態が、この戦場の中央部にて発生している。
……まず始めに言っておけば、中央部に配置した部隊は、最初から対レオン用の部隊であった。
その数約5000。
その内の半数は重武装による足留め兼武装や体力の消耗を目的とした楯であり、動きが鈍った段階で、残りの半数による波状攻撃で殺しきる予定であった。
もちろん、周囲に展開していた部隊も、いざとなれば、対レオン戦の方へと駆け付ける予定となっていた。
そう、なっていたのだ。
しかし、いざ実際に戦闘となってみれば、レオン一人に5000の兵達が、あっさりと刈られて行く。
それはもう、雑草の如くバッサリと。
楯になるハズだった重武装隊は、その装甲がまるで紙切れであるかの様に一撃で切り捨てられ、波状攻撃を仕掛ける予定だった部隊は動くまもなく肉片と化して行った。
いざと言う時に加勢するハズだった部隊は、それぞれがアニマリアの部隊に掛かりきり……それどころか、逆に押されてさえいるのだから、加勢など出来るハズもない。
そんな現状に、ゼクスは心の底から吐き出すかのように吠える。
理不尽にも程があるだろうが!!……と。
現在、温存していた高ランクの冒険者達をレオンの方へ、精鋭中の精鋭である近衛隊を戦線へと投入することでどうにか持たせているが、既にこちら側の戦力は開戦当初(アッサリ殺られた二人含めて)から比較して、半分近くに落ち込んでいる。
まだなのか!と焦る気持ちで、アニマリア軍の後方へと視線を向ける。
遠征軍はまだ少々距離が有り、徐々に縮まってはいるが直ぐ様駆け付けるのは、まだ厳しそうだ。
このままでは、下手をしなくても押し負ける事は確実だが、奴等の背後から30000の遠征軍でこちらと挟撃出来れば、アニマリア軍を殲滅した上でレオンを討ち取る事も可能だろう。
もちろん、多大な犠牲を出す可能性は有るが、奴さえ倒せれば、南部は全土の平定が完了するのだから、暫く兵力が低下した処でどうにでもなる!
そんな焦りを抱えたまま、必死に指揮を取り、声を枯らして檄を飛ばす。
そろそろ撤退も視野に入れねば不味そうだ……と考え出したその時、後方に控えていたハズの伝令が、慌てた様子でゼクスの元までやって来た。
「報告します!城門が内側から細工されたのか、外側から開く事が出来ません!又、内部とも連絡が着かなくなっています!」
「なんだと!!!」
クソ!何故こうまでも、こちらに対して厳しい状況が重なる!!
内部に、アニマリア側の工作員でも入られたか?
ええぃ、判断が付かぬ。
ノインに一任していた弊害か。
しかし、開かぬのなら、今は後回しだ!
とにかく、今眼前にいるレオンをどうにかしなくては!!
そう思って、指揮に戻ろうとしたゼクスに、今度は前線側から伝令が走り込んで来る。
「閣下、朗報です!間もなく、遠征軍がアニマリア軍を射程に納め、その後突撃を慣行するとの伝言です!」
「なに!それは、本当か!!」
出した覚えの無い伝令では有ったが、それでも朗報は持ち帰った事には代わり無い。
念のため確認すると、「間違いは有りません!」とこちらを見ながら、力強く返事を返して来た。
……ウム、これは真実であろう。
現に、アニマリア軍の後方、遠征軍の方へと視線を向ければ、かの英雄達が地鳴りを起こしながら、果敢に突撃してくるのが目に入った。
その時、ゼクスは『これで、我等の勝利は確定した!』と確信した。
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◇主人公視点
「おーおー、レオンってば張り切っちゃって」
双眼鏡で、レオンが大暴れする様を観察する。
人獣族だから、見分けるのにコツがいるが、アレは確実に楽しくて仕方がない、って顔をしているな。
後ろに積まれた死体の山から察するに、軽く3000は殺しているんじゃないか?あいつ。
中央付近に展開していた大隊の内、まだ半分位残っているけど、多分大丈夫だろう。
あいつの事だ。殺しても死ななさそう処か、逆に殺しきって来るに違いあるまい。
……むしろ、人族の目が、レオン一人に集中している様にも見えるけど、そんなので大丈夫か?あいつら。
そんな事を考えながら見ていると、案の定レオンばかりに気をとられた部隊が、回り込んできたアニマリア軍の小隊に強襲されて壊滅する。
レオン以外の部隊とて、それなり処ではない位の戦闘力を誇るのだから、そちらも警戒しないと危ないぞー、って言ってる尻から、また一つ部隊が崩壊したよ。学習しようぜ?サウザン軍よぅ?
レオンが無双しているのを見るのにも飽きてきたので、そろそろ到着する頃合いのハズである、遠征軍(偽)に視線を向ける。
おお、大分進んでいるみたいだな。
これなら、比較的直ぐに合流出来るだろう。
一応、レオンに教えておくかね。
『ジョンよりレオンへ、後続が間もなく合流する見込みだ。間違えて味方まで切るんじゃないぞ?』
『こちらレオン。了解した。さすがの我でも、斬って良い相手とそうでない相手の区別は付くのだが?』
『……いきなり、俺の首を狩りに来た奴が言って良いセリフではないと思うが、間違った事を言っているかね?』
『……いえ、我が間違っておりました。その件に関しては大変申し訳無く……』
『分かればよろしい。処で、開戦前に、あいつと一緒に出てきたイケメンと何か話していたみたいだったけど、何話していたんだ?』
『ん?……ああ、アレか。口の割にはあまりにもアッサリ死におったから、記憶から消えかけておったわ』
ザマァ!
『で、会話の内容だったか?まぁ、いってみれば簡単な事よ。奴めは、何処からかレオーネの事を嗅ぎ付けたらしくてな?自分の奴隷として差し出せば、我も共に生かしておいてやる、とか抜かしおったからな?そこで『こちらマスターよりゴーレム・サブリーダーへ』……ぬ?』
『こちら、ゴーレム・サブリーダー。陛下、いかがなされましたか?』
『おう、お前さん、あのクソイケメンの死体って、何処に有るが分かるか?』
『そう仰ると思いまして、離脱の際に回収してありますが、いかがなさいますか?ゴーレムの素材に致しますか?』
『……の餌だ』
『……ハイ?』
『今すぐにそいつの死体を切り刻んでミンチにし、その後豚の餌として撒いておけ!そいつは要らん!使ってやらん!俺の大事な仲間に手を出そうとしやがったんだ、この世に一片たりとも、そいつが存在した痕跡を『ジョン殿!』』
俺が命令を下そうとした時、レオンが横から入って来た。
『……止めるなレオン。でないと奴を豚の餌に出来ない』
『まったく、人の話は最後まで聞くものだぞ?』
『……ああ、悪い。で、なんだったかな……?』
『ウム、では続けるが、我はそこで奴に言ってやったのよ、『我が愛しの愛娘には、既に夫がいて、二人は互いに愛しあっている。そんな二人を引き裂くつもりは欠片もないし、引き裂けるとも思えない。ちなみに言っておくが、レオーネの夫である彼は、我や貴様等より遥かに強い、故に貴様にレオーネをくれてやるつもりは毛頭有りなぞせんわ!』とな!そうしたら、奴めは顔を真っ赤にして突っ込んで来たので、そのまま叩ききってやったと言う訳だ』
『……幾つか、俺がまだ承認していない点が見受けられたが、大体は把握した。まぁ、もうそんなにはかからないだろうけど、気を付けて殺れよ?義父上殿?』
『フッ!では、お喋りはこの辺りにしておくとするかね、義息子殿?では、通信終了』
……ヤレヤレ、いつの間にか、レオーネの婿認定されていたっぽいが、いつの間にそんな話になっていたんだ?
そんな事を考えていると、後続の遠征軍(偽)が戦場に到達し、アニマリア軍の背後に襲い……掛からず、完全に味方だと思っていたサウザン軍へと襲いかかる。
現在、戦闘開始から、20分経過。
……後10分持つか?コレ……。
サブリーダー『結局、コレ(イケメン)はどうなさいますか?』
主人公『う~ん、やっぱり豚の餌で』




