第55話
注・今回は作者の独断と偏見と、この世界の人族ならば、多分やるだろう、と言った悪意に満ちた政治感が出てきますが、余り気にしないで頂けると有難いです
こうして、獣人国との同盟を締結した訳なのだが、現在俺達は、アニマリアの王城に招待される形で滞在している。
俺の部隊には殆ど損耗の類いは無いが、今の今まで攻められ続けていたアニマリアには、流石に即時反戦と行けるだけの余力は無い。
なので、その余力を絞り出すのに、少々準備に時間が掛かる為だ。
……まぁ、その気になれば、俺の手持ちの戦力だけでサウザンを落としきる事は多分可能だけど、それをしてしまうのはちょっとね……。
「主殿!何故に自分達がアニマリアへと歩調を合わせてやらねばならぬのでありますか?自分達ならば、このままの状態でも『行って潰して戻ってくる』程度ならば、訳無いハズであります!」
……はぁ、このアホめ、言うんじゃないかと思っていたが、本当に言いやがったよ。
それに釣られてか、この場に一緒に居て話を聞いていた面子(幹部連+レオーネとティーガ)の内何人かも頷いてるし……。
「私が言うのも何ですが、ガルム様が仰られる事はある意味正論に近いものであると思います。そもそも、今回の遠征の目的は私の願いからのアニマリア救援。それを既に済ませてしまっている以上は、これからの事はある意味オマケみたいなモノかと思います。その意味では、早めに片を付けてしまうのが、物資的にも、疲労的にも良いと思うのですが?
今回、こうして祖国を救って下さった事には、私としては、感謝の言葉も有りません。そして、既にこのアニマリアは陛下に庇護される形での同盟を締結しております。この時点で、このアニマリアは窮地を脱したと判断出来るでしょう。しかし、この関係に不満を覚えるモノが居てもおかしくは有りません。陛下のお力を間近にしていなければ、到底信じられる内容では無いでしょうからね。なので、ガルム様が仰られる様に、我々でサウザンを落として、陛下の圧倒的な力を国民に見せ付けて納得させ、アニマリアとの関係をより強いものにするべきではありませんか?」
そうやってキリッとした顔で(最近、何となく表情が解るようになってきた)売国行為とも取れる発言をするレオーネだが、父であり王でもあるレオンからは、「レオーネは既に魔王側の人間である」と言質を取ってあるから、そこは大丈夫だろう。
だが、こいつの先程の発言、その真意が言葉通りであるハズが無いのは、何となく解る。
「……成る程、言いたい事は解った。で?本音は?」
「面倒事はさっさと片付けて、早くイストリアへと戻ってジョンさんとイチャイチャ……ハッ、しまった!」
と、急いで自らの口を押さえるレオーネ。
誘導尋問ですら無いのに、あっさりと本音をゲロりやがったよ。大丈夫か?コイツ……。
またそんな下らん事を……と無意識的に呟くと、半ば殺気にも近い怒気を込めた視線を、レオーネを含め俺と関係を持った者全員が向けて来る。
五人から掛けられる、常人なら発狂死しそうな圧から逃れるため、少々強引に会話の軌道を修正する。
「……で、俺が直接潰しに行かないで、アニマリアの体勢が整うのを待っている理由だったか?
まぁ、勿体ぶっても仕方ないから、単刀直入に言えば『それが一番面倒が無いから』だな。多分だけど、メフィストならその辺理解しているんじゃないか?」
そうやって話を振ってみると、持ち込んだ茶葉で容れた紅茶の入ったティーカップをソーサーに置いて、一つ頷いてから応えだした。
「ええ、もちろん。私が以前居た所でも、似たようなことは何度か有りました。まぁ、結果としては、散々なモノにしかなりませんでしたけどね?」
だろうなぁ、なんて俺が思っていると、俺達で攻めきってしまおう派の面子が『何故?』と理解不能そうな表情を浮かべている。
それらを見て、手を顎に当て、フム?と少し考えてから続けるメフィスト。
「これは、あくまでも私が見聞きした事例を元にしていますので、こちらでも同じ結果になるとは限らない事を念頭に置いて聞いて下さいね?
結論から言いますと、私達でサウザンを落とした場合の結果として、アニマリアが辿るであろう未来は二通り。『勘違いから要求をエスカレートさせて私達の手で滅ぼされる』か、もしくは『自然消滅する』か、って所でしょうね」
とそこで一度言葉を切り、周りの反応を確かめるメフィスト。俺は「まぁ、そうだろうな」と予想通りの展開なので、普段通り。俺以外の否定派は「ん?」と首を傾げている。大方、そこまでか?って感じなのだろうね。
まぁ、肯定派の「はぁ?!」って反応に比べれば、まだまだ大人しいし理解もしているのだろう。
そんな俺達を見回し、再度言葉を紡ぐメフィスト。
「まず、前者の『要求をエスカレートさせて~』の方から説明しましょうか。
既に私達は、ほぼ無償でアニマリア国を助けてしまいました。ここまでは良いですか?」
流石に、これには肯定派も頷き返す。
「よろしい。では、次ですが、私達がこのままサウザンを落として自領とし、アニマリアの外敵を全て取り除いたとします。すると、アニマリアは人族の領土に接せず、私達の領土に覆われる形となります。更に、私達がこのアニマリアを助ける切欠となった事柄を鑑みれば、必ずこう言い出す輩が出てくるのですよ。
『魔王の国は、我々の言うことならば何でも聞く属国だ!』と。
実際、サウザンを落とした所で、この国への復興の為の支援はやらねばならないですし、その上で、対人族用の防衛戦力とて、『自領内』にある以上は、こちらがやる必要が出てくる。それは当然の話です。
しかし、それは見方を変えれば、支援の物資等は『貢ぎ物』に、人族用の防衛戦線の構築は、こちらで言う所の辺境伯等の『下位の防衛戦力』に、更に言えば、サウザンを攻略した事自体も『アニマリアの命にて行った』と言うことも出来なくは無い訳です」
そう言うと、先程までサウザン攻めを肯定していた二人へと視線を向ける。
「そうなったならば、助けられた恩も忘れ去り、様々な無茶を要求してくる事に成るでしょう。そして、それらの無茶を断れば、最後には、こう言って私達に戦争を仕掛けて来るのでしょうね。
『我ら精強な獣人国が、ただの属国に過ぎない魔王国に鉄槌を加え、どちらが上位であったのかを思い出させてやる!』と。
そうなってしまえば、流石に助けた私達でも黙っている事は出来ませんので、戦争に成るでしょう。そうなれば、アニマリアには存続の可能性は潰える事になるのが目に見えているのは、言わなくても分かりますね?」
そう言われて、黙ってしまう二人。
ガルムはまだ何か言いたげだが、王女として産まれた為、比較的穏やかな獣人国かつあまり関わり無く過ごしていたとは言え、否応無く国政に関わっている者の内に、そう言い出しそうな者に心当たりが有るのであろうレオーネにとって、他人事では無い様で、顔を青くしている。
「では、次は後者の方ですね。
こちらは割合と単純です。今いる国は、外敵の排除も厳しく、食料も少ない。しかし、新しく国交の開けた国は、敵は薙ぎ倒し、食料も食うには困らない、仕事も有る。オマケに友好国なので、国境線はわりと緩く、簡単に往き来出来る。
さて、問題です。人はどちらの国へと行きたがりますか?」
まぁ、そうなれば、一部を除けば当然の様に後者である俺達の国へと来たがるわな。
「そう。当然の如く、後者の国へと人口は流れます。そうすれば、前者の国では人口が減り、税収や働き手その他諸々が減少し、更に国力が下がる訳です。更に言えば、敵も倒せない、民も食わせられない、人も留めておけないような王家では、あっという間に求心力を喪い、最終的には、こちらも同じく消滅する事に成るでしょうね。
もちろん、どちらのパターンにもならない可能性は有るでしょう。しかし、それらも『これらよりはマシ』程度になる確率が高いので、私としては、このままアニマリアがサウザンを落とした、と言う実績を作り、こちら側が庇護する形であったとしても、ある意味対等な同盟だ、と一般的には認識させる方が良いかと思いますよ?」
と締め括るメフィスト。
これで合ってましたよね?と、こちらに視線を向けて来たので、頷いてから俺も話し出す。
「まぁ、俺の意見、ってか考えも基本的にはメフィストとそう変わらないな。
あのレオンが王で有る間は、多分大丈夫ダロウとは思うが、次以降は保証も確証も無いし、ぶっちゃけそうならないとは思えない。
後は、こっち側の問題だな」
そう言うと、メフィストとウシュムさんはウンウンと頷いているが、他の面子は今一よく解っていない様子だ。
「……いや、そこはレオーネも頷いておけよ。少なくとも、お前さんには、以前話したからな?『人が足りないから土地なんぞ要らん』って。お前ら、そんなにアルヴを怒らせたいのか?自殺はあまりオススメしないぞ?」
そう、我らが国は、戦力は言わずもがなで、物資面でもそこそこ、補給線の概念とてシルフィがいる時点で既に崩壊させているのだが、圧倒的に足りないモノが有る。
内政面での優秀な人材だ。
軍事面では、これでもかと言わんばかりに在籍しているのだが、文官的な人材が底をついているのだ。
まぁ、政治に亜人諸族が関われなかった所から、国盗りを始めたのが原因なのだろうけど、それを言っても何も始まらない。
最悪、俺が自らの知識等を活用して、色々とヤラカシテも良いのだが、まだまだ人族とドンパチしている現状で、最高戦力である俺が引っ込む訳にも行かなさそうなので、文官の補給は最優先となっている。
「まぁ、見も蓋もなくぶっちゃければ、サウザン盗った所で統治なんぞ出来ないから、俺らは要らん、って事になるわけだ。もちろん、さっきメフィストが説明した事も含めての判断だからね?」
流石に、ここまで言えば全員納得した様で、アニマリアがある程度回復するまでは、俺達も待機って事で話がまとまった訳だ。
そうやって話がまとまったタイミングで、俺達が居た部屋の扉がノックされる。
「失礼致します。王女様、並びに魔王様方、お部屋の準備が整いましたので、ご案内致しますがよろしいでしょうか?」
こちらが出した入室の許可を聞いて、扉を開き、案内を申し出たのは、片眼鏡を付け執事服に身を包んだ、狼系の人獣族の執事だった。
……ヤバい、モフってみたい……。
体の底から湧き出てくる衝動と戦いながら、彼の言葉に応じて案内を頼む。
俺達を先導する形で歩き出す彼だが、そうすると必然的に俺の目の前でモフモフの尻尾がユラユラと揺られる事になる。
……クッ、こいつ、分かってて誘っているのか?
このままだと、ホイホイ付いて行っちまいそうだ。
そして、そのまま、一般的には短く、俺にとっては無限にも思える程の長い永い苦行の道程を終え、今日から暫くの間、俺達が寝泊まりする事となる部屋部屋へと到着する。
「王女様と魔王様方には、この廊下を挟んだ二部屋をお使いになって頂きます。レオン王からは、レオーネ様は既に魔王様の臣下として接する様にとのお達しですので、こちらでお過ごし頂きます。ですので、部屋割等は魔王様方でお好きな様にしていただいて大丈夫です。何かご要望がお有りでしたら、御手数ですが、備え付けのベルを鳴らして頂ければ、使用人が伺いますので、その者にお願い致します」
とそこで一旦言葉を切り、俺に対して向き直る執事。
そして、そのまま深々と頭を下げ、そのままの体勢でこう続けた。
「……魔王陛下、この度はこのアニマリアをお救い頂き、ありがとうございます。お陰様で、私の家族、友人、知人、そして、仕えるべき主を喪わずに済みました。私の様な、一使用人の感謝など必要とはしていないでしょうが、これだけは言わせて下さい。助けて頂き、有り難うございました」
そう言い切ると、頭を上げた後、軽く一礼してから踵を返す執事。
……助けて正解だったなぁ……と思いながら、ティーガやメフィストと共に部屋へと入ろうとした俺だったが、背後から十の腕にて絡めとられる。
「どこに行くのであります?」
「折角二部屋なのですから~、貴方はこちらですよ~?」
「そうそう、逃げるのは良くないなぁ~?」
「こう言う時、旦那様は妻と同じ部屋です泊まるモノだと、相場は決まっていますからね?」
「……私も、ジョンさんと同じ部屋が良いです」
助けを求めて二人を見るが、一人は合掌し、もう一人は肩を竦めてヤレヤレと言わんばかりのジェスチャーをしている。
「……こ、この、裏切り者共~!」
と言う俺の叫びも虚しく、そのまま反対側の部屋へと引きずり込まれ、抵抗虚しく美味しく頂かれ(意味深)ました。




