第50話
「では、今回の大勝を祝って、カンパーイ!!!」
「「「「カンパーイ!!!」」」」
現在、対イストリア戦争での、こちら側の大勝利を祝しての戦勝会である。
まぁ、あれから既に二週間経っているので、規模の小さなモノはそこかしこで行われていたが、大将である俺が主催して行うのは、今回のが初である。
ちなみに、二週間も間を開けた理由だが、ここ以外の郡が攻め込んで来るかどうかの様子見の為である。
あの日、城を落として最初に行ったのが、首都で生き残っていた人族の排除だった。
当日中に首都から出て、更に一週間でイストリアから出て行くのなら、命までは取らない、と宣言して、全ての人族を追放したのだ。
ちなみに、この一週間とは、『昼夜通して歩けば、徒歩でも到着出来なくは無い』距離に、イストリアの国境線が存在するためである。
もちろん、ただただ逃がしてやるつもりは毛ほども無いので、五日程してからアンデッド部隊を追撃兼国境警備として派遣した。
人の足では一週間掛かる道のりも、疲れを知らない上に空まで走行するアンデッドであるナイトメア達ならば、二日程で走破出来るからね。
実際、集団で移動していた所に後ろから追い立てて、俺の宣言から168時間経った瞬間に、イストリア内部に残っていた連中は皆殺しにした、と報告を受けている。
そう、報告だ。
実は、このアンデッド部隊、指揮官を獲得したのだ。
今回の戦争で大量の経験値を獲得した影響で、複数回の進化を経験した個体が十体程存在しており、その中の数体は再度知性を獲得する事に成功したのだ。
まぁ、生前の記憶何かはぼんやりと程度にしか戻っていない様子だったが、思考力は確りと獲得出来ているので、そいつらをアンデッド部隊の指揮官に任命してみたのだ。
扱いとしては、同じくアンデッドである俺の直属の部隊であり、平時は国境や夜間等の人間ではやりにくい時間帯の街の警備などを担当している。
主に国境警備の方は、元騎兵部隊の隊長であり(調べたらそうだった)、現在はグールナイト・ジェネラルへと至った『ジャック』に、同じく進化したハイ・グールナイト10000を預けて、警備を任せている。
街の警備には、騎兵部隊と共に突っ込んで来た冒険者の内の一人、元SSSランクの剣士であり、現死霊聖騎士長の『ジェラルド』に、あの時に出た死体の内で比較的損傷の少なかったモノを、闇魔法の名状し難いゼリーで繋げて、死霊魔法で実験的にアンデッド化させたフレッシュ・ゴーレム部隊約5000を配備して、警備に当たらせている。
……っと、話が逸れたな。
で、国境を封鎖してから一週間も待った理由だが、こちらから情報(難民)が流出し、それを受けて最寄りの街なんかが、独断かつ最短で進攻して来るならば、まぁその位かなぁ?って程度の様子見なので、大した意味は無い。一応や取り敢えず程度の話だ。
ぶっちゃけた話、それだけ待ってみても、攻められなかったから、こうして宴会なんてしてられるのだけどね?
あとは単純に、活動の拠点を、イストからイストリアに変更して、イストは魔人族に約束通り引き渡しするのに二週間、つまり今まで掛かったから、ってのも有りはするけど。
さて、宴が始まったばかりだが、今のうちに渡しておかないと大変な事になりかねないので、そろそろ格隊長への約束していた報酬を配ってしまうとするかね。
「じゃあ、ドヴェルグ、レオーネ、ティーガ!ちょっとこっちに来てもらえるか?」
と言うわけで、三人をこちらに呼び寄せる。
別段、俺が直接行っても良いのだが、一応魔王様やっている関係上、あまりそう言う事は示しが付かないので止めてくれ(byアルヴ)と言われているからね。俺的には、ちと寂しいけど。
「おう、魔王様!呑んでるか?!んで?俺達に何の用だ?」
開始直後にも関わらず、既に浴びるように呑んでいたドヴェルグだが、流石ドワーフだけあって全然酔っている感じがしていない。
「……まったく、これだから酒樽は……。陛下、お呼びと聞いて参上しました。……!もしや、例の報酬ですか!ならば、早速閨に!いえ、私は今すぐこの場でもウェルカムです!さあ!!」
相変わらずの肉食発言のレオーネ。あの時のお説教では、まだ懲りていなかった模様だ。……あと、後ろでまた怖いお姉さん方が、こちらを見ているのは教えておいた方が良いかね?
「……姫様の発言も、なかなかに酷いですぞ?魔王様、このティーガ、参上致しました」
うん、この人は相変わらずだな。
ただ、既に酔いが回っているらしく、細長い布を頭に巻いて結んでいる。……酔っ払った中年オヤジかね?虎の人獣族だから、結構酒飲みだと思っていたのだけど、そうでもないのかね?
「楽しんでいる所に悪いね。あの時のご褒美の件なのだけど、俺の方で集計した結果、三隊どれも似たような討伐数・功績になっていたんで、もういっそのこと全員にプレゼントしてしまおうかと思ってね?と言う訳で、まずはドヴェルグから」
そう言って、俺は、席の後ろに置いておいた酒瓶をまず渡す。
渡されたから受け取るドヴェルグだが、その表情はかなり微妙そうだ。
「……あのー、魔王様?確かに酒が良いと言ったのは俺だし、実際に貰えて嬉しいのは嬉しいんだが、ドワーフ相手に酒瓶一本ってのは、ちと生殺し感が強いんだが?」
まぁ、そう思うのは当然かね?
「大丈夫、今回の宴でお前さんと部下達が酔い潰れられるだけの酒は用意してあるし、部下のドワーフ衆の所には、既に届けさせてある」
そう言う約束だしね。それに、そんな量の酒渡しても運べんだろうに。
俺の発言を受けて、ドワーフ衆で固まっている所に走って行こうとするドヴェルグだが、もう少し待て、と呼び止める。
「……俺は、早く奴等と呑みたいのだが?」
「まぁまぁ、それは分かっているから、少し待てって。で、その酒瓶なんだが、この城の蔵に納められていた品物でな?目録には、『ドワーフ殺しの紅龍酒』ってあったから、孫が生まれる祝いの品に、と思ったんだが、要らないなら他の奴に……」
渡そうか、と言い切る前に 瓶を抱えて、ドワーフってそんなに早く走れたっけ?って位の速さで走り去るドヴェルグ。鑑定をかけてみても、『一杯でドワーフでも大抵潰れる』としか出なかったので、渡してみたが、気に入ったのかね?
……呑んでみたのか?そんな工業用アルコールみたいなの、呑む気にならんよ。
さっさと走り去ったドヴェルグをポカーンとした顔で見送っている、残りの二人に改めて声をかける。
「良し、じゃあ次はティーガだな。ホレ、鎧一式と武器だ。鎧は戦い方から勝手に判断して部分鎧を、武器の方はあの時戦槌使っていたから、勝手に戦槌にしたけど大丈夫だったか?」
そこらじゅうを駆け抜けて、跳ね回ってを繰り返していたので、立体起動を妨げない様に全身鎧ではなく、要所要所を守ってくれる部分鎧を。
武器は、あの時他にも選択肢が有ったのに、敢えて戦槌を選んでいたことからのチョイスだったのだが、間違えたかねぇ?
俺から、それらの品を受け取って、早速とばかりにつけ始めるティーガ。
着けた後に軽く動いて、着け心地を確かめている。
「……これは、凄い品々だ。計測を受けた覚えも無いのに、ピッタリのサイズですし、この戦槌も初めて握った気がしない。陛下、これらは一体?」
まぁ、気になるワナ。
「ん?ソレ?ドヴェルグに作って貰った。
ティーガだけ、自身の装備がない、って言っていたのを彼も覚えていたらしくてね?軽く言ってみたら、恥ずかしそうに試作品を出してくれたよ。……ちなみに、この話は内緒でね?言ったら、あのおっさんが斧片手に、頭カチ割りに来るから、誰にも言ってはいけないよ?さすがに魔王様でも助けられる自信無いからね?」
あのおっさんは、結構恥ずかしがり屋だから、あんまりからかうとエライ事になるからね?
ティーガは手元のそれらをしげしげと見つめると、手に持ったままこちらに頭を下げて来た。
「この身に余る品々の下賜、誠に有難うございます。これからの働きを持って、私がこれらに恥じぬ者である事の証明とさせて頂きます」
「うん、これからもよろしく。一応、君達元戦奴達は、今後『混成部隊』と名前を変えて、メフィストの下に付いてもらう事になる。まぁ、魔王の側近直属の部隊、って扱いになるけど、彼も忙しいから実質的には君に任せる事になると思う。
てな訳で、頑張ってね?」
彼は頭を下げたまま、「ハッ!では、失礼します!」と言って戻って行った。
さて、では最後の仕上げと行くかね。
一人だけ残った事で、少々そわそわしているレオーネ。
そのレオーネに、手で近くに来るように合図して近寄らせる。
俺からのお誘い(意味深)かと期待し、少々テンションが上がりぎみに近付いて来る彼女。
そんな彼女の耳元(頭頂部)に顔を寄せ、囁く様に語りかける。
「この後、日付が変わる辺りで俺の部屋に来なさい。良いね?」
まさか、本当に俺からお誘い(意味深)を受ける事になるとは思っていなかったのか、聞いた瞬間にピシリと固まる。
しかし、実際に誘われているのは事実なので、硬直も瞬時に解除し、こちらにも囁き返してくる。
「……分かりました。では、伺わせて頂きますね?」
そう囁きながら、顔を離す直前に、こちらの首筋をベロリ(誤字に有らず)と舐め上げるレオーネ。
そのまま、ペロリと唇(?)を舐め、上向きで形の良い尻と尻尾を揺らしながら戻って行く彼女。
それを眺めながら(イカン、これは本当に喰われそうだ)と思うのと同時に、こちらを凄い目で見ているパーティーメンバーへの説明を、どうしようかと考えていた。
******
時刻は既に深夜を回っている現在。
一応は主賓であった俺だが、殆どのメンバーは酔い潰れていたので、回りに騒がれる事も無く、順調に抜け出して来れた。
そして、現在地は俺の私室だ。
真夜中にも関わらず、起きているのは、もちろんレオーネを待っているからである。
……何?相手が四人もいるのに、まだ足りんのか?
ちゃうわ戯け!それに、そもそも彼女は『コンコン』……っと、来たようだ。
「扉は開いている、入って来たまえ」
ノックに合わせて、入室を促す。すると、ナイトガウンの一種と思われる服を纏ったレオーネが、扉を最低限開いてスルリと入って来る。
……なんだろう、俺よりも身長が高いし、体格も大きいハズなのに、凄く『女性的』に見える気がする。まぁ、元々スタイルは凄いのだけどね?
「お呼びに従い参上しました。さぁ、参りましょう?」
そう言って、彼女はガウンを脱ぎ捨て、凄まじく布面積の少ない下着だけになると、俺の手を取りベッドへと導く。
先に自分が横たわり、そのまま俺の手を引いて倒れ込ませると、顔を近付け俺に口付けを
しようとしてきたので、手で押さえて止め、本題を切り出すことにする。
……このまま致しても良いのだが、そうすると、この後に四人掛かりで搾り取られるので、流石に今はよろしくない。
「……私が、何かお気に障りましたか?」
こちらが口を開く前に、レオーネが問うて来る。
ソレの答えも含めて俺は、彼女、いや、レオーネ姫 へと返事をする。
「そこまでする必要は有りませんよ、アニマリア王国第一王位継承者レオーネ・リオ・アニマリア姫殿下?それで?貴女は自身の身体と引き換えに、俺に、いや、『魔王』に何をさせたいのですかな?」
あの時、ティーガが彼女を『姫』と呼んだ時に、鑑定していたのだ。
これまで言っていなかったが、最早簡易の範疇を軽く飛び越えている俺の『簡易鑑定』だが、希にその人の『称号』まで見れる事がある。
『称号』とは、一定以上の知名度や特定の役職何かに就いていると、低確率で付くモノで、必ず持ち合わせているモノではない。
元イストリアの総領主は持っていなかったし、俺もごく最近『魔王』の称号を持っていた事に気付いた。パーティーメンバーも『魔王の側近』の称号を持っているらしい。
話は逸れたが、彼女を鑑定した時に、その称号を持っている事が分かったのだ。
付いていた称号は『獣人国第一王女』だった。
こんな人が、何の考えも無しに来るわけが無いだろう?
そう思って、今回わざと掛かった振りをしてみたのだが、上手く吐いてくれると良いのだが……。
「……やはりバレていましたか……。では、こちらも単刀直入に申し上げます」
そこで彼女は一旦言葉を切り、悲哀と懇願の混じった声色で、俺に告げてきた。
「どうか私の国を、獣人国アニマリアを救っては下さいませんか?お願い致します!!」
……レオーネよ、下着姿で言っても締まらないぞ?




