第48話
50話達成です!
読んで下さっている皆さんに感謝ですm(__)m
かくして、イストリア軍との戦闘には、勝利したと言っても良い結果になった。
……まぁ、戦死者が八割を超え、歩兵隊と魔法使い部隊は壊滅、騎兵は全滅、その他も大打撃を受け、必死こいて城門の中に逃げ込んだ奴らが勝ったと言えるのならば、こちらの負けなのだろうけど。
ちなみに、当方の戦死者は0、重症者も斬り込み隊から調子に乗りすぎて、突出し過ぎたのが数人(一時的に一対百近い状態に)いるが、命に別状無し。軽傷多数。一番損耗したのは、実は即席戦力であったアンデッド部隊。最初の約15000から、約10000まで目減りしたが、どうやら素材の違いで性能やレベルの上がり易さが変わるらしく、良質な個体の中には今回の戦場で、進化を二回行ったモノも存在する。
こう言ってはアレだが、今回最も戦果を上げた部隊でもある。ちなみに、ついで個人でカウントするならば俺が、斬り込み隊まとめての戦果であれば、斬り込み隊が二位に食い込む。(各隊が出した敵への被害:アンデッド部隊・約45000、斬り込み隊各隊・約10000×3、俺・約15000、残りはその他部隊)
さて、そんな訳で、ほぼこちらの勝利が確定したのだが、現在少々困った事になっている。
それは、敵に城門を閉じられてしまった事だ。
……いや、言いたい事は分かるよ?
『お前なら、ワンパンで破壊出来んだろ?』とか『ドラゴン隊に強襲させれば一発』だとかは分かっているのだけど、さすがにそれらはあまりやりたくない。
理由?そんなの決まってる。
壊した所を修復するのに、どれだけ掛かると思っているのかね?
もちろん、時間も手間も人員もお金も、だ。
ぶっちゃけ、俺達にそこまでの余裕は無いし、内政を丸投げしているアルヴからは
『今回は、城門やお城を破壊する事だけは!止めてクダサイネ?』
と目が笑っていない笑顔で釘を刺されているのだ。彼女の仕事をこれ以上増やすのは、あまり得策では無いだろう……。
かと言って、このまま敵さんが乾上がるまで、門の外で待っているのも、あんまりよろしくない。
他から援軍が来るかも知れない、ってのはある意味ウェルカムなのだ。経験値は大量に確保出来るし、アンデッド部隊の補充も、比較的簡単に出来るだろうからね。だが、それとは別の問題が城壁の中に有る。
今回は、建前ではあれど『虐げられた亜人諸族の為に』と大々的に言っているので、奴らは『俺達=亜人の味方』と考えるだろう。
すると、こうして立て籠られると、その亜人諸族の皆が、更に厳しい仕打ちを受ける事に成るのは、目に見えている。
下手をすれば、亜人諸族に対するリンチや、こちらへの見せしめとしての処刑なんかも行われかねない。それらは、大変よろしくない。俺の精神衛生的に。
なので、どうにかしてそれをさせない環境にするか、無理やりにでも、それらが行われない内に陥落させるかの二択になる訳だ。
……どうしたもんかねぇ……。
「……てな訳で、どうしようか?」
取り敢えず、パーティーメンバーに相談してみた。
「そんなのは、簡単な事であります!」
と、自信満々に答えるガルム。
何か妙案でも有るのかな?
「さっさとあの門ぶち破って、中に攻め込めば「ハイ、却下」って何ででありますか!」
「この駄犬、さっきの話聞いとらんかったのか?それが出来れば苦労せんわ!それやって怒られるのは、俺なんだぞ?」
話を聞いていなかった駄犬にオシオキをしながら、他のメンバーに視線を送る。
「うーん、となると、あの門をどうにかして抉じ開けないと不味い訳よね?」
「まぁ、そうなるな」
「では~、城壁に足場を組んでよじ登ってみては~、如何でしょうか~?」
「それは俺も考えたけど、流石に敵さんもソレをボサッと見ているだけ、なんて事は無いんじゃないかね?」
「では、私達が空から部隊を輸送して、強襲すれば良いかと思います。それならば、施設へのダメージも最小限に止められるかと」
「う~ん……それも却下で。ソレの場合、二通りのやり方が有るけど、どっちも危なそうだからねぇ……。ドラゴン隊が止まって降ろすパターンだとドラゴン隊が危ないし、ドラゴン隊が止まらずに部隊を落下させるパターンだと、今度は飛び降りる部隊が危険だ。それはあまりやらせたくないねぇ」
「……では、輸送する部隊をアンデッド部隊にしてみては?アレらならば、ある程度損傷しても普通に動けますし、攻撃されたとしても同じ理由から大丈夫と言えます。更に、顔見知りの住民や家族に対する精神攻撃としても使えるかと」
「さ、流石悪魔、考える事がえげつない。確かに、費用対効果で考えるならば、最上の方法だけど、今回はパスだな」
「フム?良い策だと思ったのですけどね?不採用の理由をお聞きしても?」
不思議そうに首を傾げながら、こちらへと問い掛けるメフィスト。
実際問題、俺が発案してもおかしくない様な内容だけに、かなりの自信が有ったようで、駄目な理由が気になる様だ。
「いや、奴らに門を開ける、または亜人諸族の奴隷達を解放させる、なんて事を指示したとして、完遂出来ると思うか?俺は多分無理だと思う。やれて内部で大暴れ、もしくは内側からの門の破壊だろうけど、ソレをするくらいなら、俺が直接壊してくるからね?」
その回答に、メフィストは『成る程!』と言わんばかりに手を打って、納得した様だ。
しかし、こうして一通り意見を出し終わってしまった為、振り出しに戻ってしまっている。
……どうしたもんかなぁ……。
そんな時であった。
あのアホ発言から、現在に至るまでずっと俺にアイアンクローを掛けられていたガルムが、スッと手を上げて発言の許可を求めて来たのだ。
……またアホな事を言い出したら、今度は頭蓋を握り潰してやろうかね?
「んで?なんぞ?」
他の皆に、視線で許可を出してやるかを聞いてみたら、OKが出たので発言を促す。当然、アイアンクローは継続したままだ。
「主殿!一つ案が有るであります!」
「で?どんな案だ?あんまり下らない事言い出すと、このまま握り潰すぞ?」
「それは、流石に勘弁願いたいであります。で、案なのでありますが、ドラゴン隊による空中輸送のヤツはどうでありますか?」
「……そんなに握り潰されたいのかね?アレは既に却下したハズだが?それとも、聞いてなかったか?」
そう言いながら、少しずつ力を強めて行く。
圧が強くなった事を感じとったのか、慌てて口を開くガルム。
「ちゃんと聞いていたであります!あの案は、止まって降ろすとドラゴン隊が、止まらずに降ろすと降下部隊が危ないから不採用、でありましたよね?」
「……その通りだが、それがどうした?」
なんとなく、ガルムが正解を出しそうな予感がするので、手に込めた力を少し緩める。
「で、アンデッド部隊を送り込むのは、頑丈でも指示を完遂出来なそうだから、でありますよね?」
「……うん、そうだな」
「であれば、『止まって攻撃されても大丈夫なドラゴン』か、『降下しても、無事に活動を続けて、指示を完遂する事が出来る部隊』が有れば良いのでありますよね?」
……なんとなく、こいつが何を言いたいのか分かった気がする。
「だったら、ウシュム殿が輸送して、自分達が城壁内へと飛び込めば良いのでは?
おそらく、ではありますが、自分達ならば、あの城壁よりも高い所から落ちたとしても、多分平気だと思うであります。どうでありますか?」
……こいつ、基本アホのくせして、何でこう言う時には鋭いんだ?
結局、ガルムのこの案に改良を加えたモノが採用され、俺達は二班に別れて突入する事になった。
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「よし、作戦を確認する。まずはA班、お前さん達は、ウシュムさん協力の下門を内側からなるべく無傷での奪取並びに確保が任務だ。確保が完了したら、門を開いてこちらの戦力を中に引き込み、契約組全員に付与してある『気配察知』スキルで同胞を探しだし、保護せよ。そちらには、予備戦力も兼ねて、シルフィとウカさんに同行してもらう。指揮官はシルフィだ。そちらの班はある意味囮だ。厳しい戦いになる……かもしれないが頑張ってくれ。良いな?」
「「「ハッ!!!」」」
ウシュムさんが運搬出来るギリギリの人数である二十名での編成部隊が、一斉に返事をする。
「では、残りのB班だが、こちらは俺達のパーティーメンバーの残りだけで編成する。つまり、俺とガルムとメフィストだな。この三人でドラゴン隊の一頭に乗せてもらい、敵の本陣である城へと強襲をかける。こちらがある意味本命だ。彼らA班が暴れている間は、敵の指揮系統を混乱させておくことが出来る。もちろん、敵の頭である総領主の首を、門が開く前に取ってしまっても構わないけどね?ただし、くれぐれも建物を壊しすぎるなよ?調子に乗って壊した奴には、罰ゲームを受けてもらうからな?」
「……城に突入するのは自分達三人だけでありますが、罰ゲームとはどんなモノになるのでありますか?」
「ガルムの場合は一週間肉抜きだな」
「なっ!!!」
「おや?大したこと無さそうですね?」
「メフィスト。お前さんの場合は、茶葉の供給を一週間止める事になるが?」
「……そ、それは厳しいですね……。ちなみに、ジョン殿の場合はどうなるのですかね?」
「俺か?俺の場合は、『一週間モフり禁止』だったな……。ちなみに、これを決めたのは俺じゃあないぞ?アルヴだからな?」
ちなみに、これがシルフィの場合は『一週間内政官体験』で、ウカさんとウシュムさんの場合は『一週間俺と隔離』だったかな?
……引き込む人材を間違えたかねぇ……?
そんなこんなで、各班配置に付く。
俺達が乗せてもらっているのは、ウシュムさん指揮下のドラゴン隊の一頭で、リンドヴルムと言うらしい。本人はリンドで良いと言っている。
「全員乗ったか?では、よろしくお願いしますよ?リンドさん。では、総員出発!」
俺の合図で、ウシュムさんとリンドさんが同時に飛び上がる。
そのまま高度を上げ、城壁を飛び越えると、わざと城壁の内側を一周して、一目を集めてからウシュムさんと共に、A班が門へと向かって行く。
すると、当然の如く迎撃の為に門へと戦力が集められる。先程の戦闘の際の残りもそっちに向かった様だ。
向こう側が囮だとは気付かずに、向こうに戦力を集中させている様子が、上空からだと手に取る様に見える。……まぁ、あの程度であの三人混じりの二十名を倒せるとは思えないけどね?
さて、敵さんが間抜けにも、毒餌に食い付いた訳だし、俺達もやるとしますかね。
「じゃあ、リンドさん。城目掛けて飛んでもらっても良いですか?」
『了解しました。仰せのままに、魔王様?』
そう言って、城へと進路を変更するリンドさん。
「そうそう、そんな感じで、最終的に城を掠める様なコースでお願いしますね?」
「……ねぇ、メフィスト殿?」
「……なんですかな?ガルム嬢」
「さっきの主殿の台詞から察すると、結構危なそうに聞こえたのでありますが?」
「そうですねぇ。もしかしなくても危ないと思いますよ?」
「……自分、ちょっと帰りたくなって来たであります……」
「奇遇ですね。私も、帰ってお茶にしたい気分ですよ……」
ガルムとメフィストが、半ば諦めた声で話し合っていたが、その時魔王から無慈悲なる一言が発せられた。
「うん、そろそろ良いタイミングだ。おい!お前ら!
突っ込むぞ!!」
後の二人は、この時の事を遠い目をしながらこう語る。
「何故あの時、飛び降りるでもなく、飛び乗るでもなく、突っ込むと言う選択をしたのかは、自分達には理解出来なかった」
……と。




