第47話
「「「「「オォォォオォアァァァアアアア!!!!」」」」」
鬨の声とも、怨念とも取れる叫びを上げながら、元自陣の歩兵へと突っ込んで行くアンデッド共。
どうやら、騎兵だけでなく、調子に乗って功を焦ったバカちんの高位冒険者が混じっていたらしく、妙に動きの良い個体が何体か混ざっている。
ちなみに、この俺製のアンデッドだが、どうやら『契約』関係に有るものとして扱われるらしく、奴らが一人倒す毎に、アンデッド全体が爆発的に強化されて行く訳だ。
いや~嬉しい誤算ってやつだね~。
いやね?元々俺が考えていた『策』ってのが、まとめて殺して、アンデッドにして突っ込ませる、って事だったんだが、その段階では、ただ単に消耗戦力としてしか考えていなかったから、全滅する前に何体か強めになれば良いな~、程度の考えだったのだが、経験値ネットワークに繋がれているので際限無く強くなって行くのだ。
……あ、あそこの奴、今進化した!
ちなみに、経験値ネットワークに接続されている事をどうやって確認したかなのだが、誰も戦っていないハズなのに、ガンガンレベルが上がっていると報告が有ったからだ。
実際、俺も上がっていた。
しかし、上手く行って良かった良かった。
……実は今回の手、結構危うい綱渡りしていたんだよねぇ……。
今までの戦闘等で、俺もレベルが上がっていた関係で、魔力なんかのステータスも上がっているのだが、今回のカタストロフと死霊魔法のコンボは、実はその後の戦闘も考えると使えて一回、考えなければ二回は行ける……って程度に燃費が悪い。それはもう、凄まじく。
今回みたいに、纏まって突っ込んで来てくれれば、場合によっては一網打尽にして、相手の戦力はガッポリダウン、こっちは経験値爆上げ且つ兵隊ゴッソリゲットでウッハウハになるのだが、ある程度以下の人数でチョコチョコこられると、使わない方がマシ、って事に成りかねないのだ。
最初に少数精鋭での行軍を渋っていたのも、これが少し噛んでいる。
まぁ、ソレの対策の為に、魔人族を巻き込んだのだけどね?
ある程度よりも数が多そうに見えれば、相手も纏まった数でかかってくるでしょう?(黒い笑み)
彼女らを利用している?もちろん!それは向こうも同じだよね?
それに、本来の計画だと、魔人族の人達にも、俺と『契約』してもらって、直接戦力になってもらう予定だったのだが、今回で予想外の人員を確保出来たのでまぁ良いか。
そんな事を考えていると、戦場のあちこちで、俺が先程使ったのと良く似た閃光が炸裂する。
そちらに双眼鏡を向けると、神官系冒険者と共に、アンデッド共へと浄化魔法を放つ、揃いのローブと長杖を持った集団が幾つも存在するのが確認出来た。
「ああ、やっぱり居たか。魔法使い部隊」
まぁ、いない方がおかしいんだけどね?
ざっと見た感じ、虎の子として投入してきたって感じかなぁ?
人数は大体……3~4000位かね?
んでもって、相手がアンデッドだと分かっていれば、当然使えるなら使うよね?浄化魔法。だって弱点だし。
まぁ、素材がそこそこ良いのが混じっているし、良く見てみれば、残っているのは殆ど進化した奴らだから、一撃で即消滅はしないハズ、そうそう全滅はしないだろう。即席で手に入る戦力だし、元がクソ共だから、別段全滅しても構わないのだが、今この場で全滅されると、士気的にあまりよろしくない。
相手の兵力も、まあまあいい感じに削れて来ているみたいだし、そろそろこちらが温存していた戦力も投入しますかね。
「ハイ、では斬り込み隊前へ!出番だよ~?」
「「ハッ!!」」
俺の指示で、同時に二人が前に出てくる。
片方は亜人族部隊・ドワーフ隊隊長のドヴェルグ。
低い身長と樽の様な体型に長い髭、鍛冶場にて鎚を握れば名刀を、戦場にて戦斧を握れば敵の首を引っ提げて来る、頼れるオッサンだ。
「魔王殿!斬り込み隊の出番と言うなら、是非とも俺に先陣を任せてくれ!必ず後悔はさせないと約束できるぜ!!」
まぁ、この人なら、ほぼ確実に任せても大丈夫か。
なら、お願いしようか……と言いかけた時、もう一人の隊長が声を出した。
「魔王陛下!まだ先陣を決めかねているのでしたらば、是非とも我等が人獣隊にお任せください!必ずや、そこの酒樽よりはまともな戦果を上げて見せます!!」
そう言いながら前に出てきたのは、獣人族部隊・人獣隊隊長のレオーネ。獅子の人獣で、立場こそウカさんの部下だが、実質的に獣人族部隊の取り纏めもしている人だ。もちろん、強さも申し分無い。2m強の長身で、本来両手持ちの大剣を二刀流で振り回す様は圧巻だ。(by魔人族領時)
それでいて、筋肉質ではあるけど、しっかりと女性と分かる丸みを帯びたスタイル、立派な山脈をしているのだから不思議だ。
……まぁ、俺達程強い訳では無いけどね?
「フン!女子供は黙っとれ!これは漢の仕事よ!それに、一番槍はドワーフが勤めるのが俺らの昔からの決まりよ!!」
「ハッ!戦場に女も子供も男も在るまい。それに、貴様らのその短い足で、戦場まで到着するのにどれだけ掛かると思っている?それまでの時で、敵が態勢を立て直したらどうすると言うのか?悪い事は言わんから、速度にも優れる我等人獣隊に任せておけ」
……何だか仲悪そうだのう……。
「抜かせ!女子供が戦場で、敵に捕まればどんな目に遭うのかは、お前も良く知っとろうが!これまで運良く『戦奴』でいられたお陰で、まだ散らされてはおるまい。好いた男にでもくれてやってから、出直して来い!」
「フン!余計なお世話だ。ソレを言うなら、あんただって、冒険者やれてた娘夫婦に子供が出来たんだろ?だったら、わざわざ孫の顔を拝む前に、死神の顔拝みに行くことは無いだろう?」
……訂正、二人とも結構仲良いな、こりゃ。
俺の前である事も忘れて、互いに互いを心配しながら、口論を続ける二人。
もう二人で突っ込めよ、と言い掛けた時、更なる武人の横槍が入る。
「魔王様!我等にこそ、出陣のご命令を!奴らに虐げられた怨み、晴らすにはこの場を逃せば他に無いかと思えば、我等元奴隷兵隊一丸と成って皆殺しにして見せます故、どうかお願い致します」
そう言いながら、予備として持ち込まれた装備に身を包み、膝を付いてこちらに頭を下げているティーガ元将軍。
彼の後ろには、同じ様に武装している新入り達。
……確かに、こいつらを本陣に下げさせる時、飯食わせて回復させておけ、とは指示したけどさ?あんなにヘロヘロだったのが、何でもうこんなに元気になっちゃってんの?後ティーガに戦槌持たせた奴、怒らないから手を上げなさい。似合い過ぎてて、超が付くほど恐いんだけど……。
「死にかけの新入りは黙っとれ!命令系統も何も無い様な奴らには、この大役は勤まらんわ!」
「数すら把握出来てはいないでしょうし、私も反対ですね。それに、貴方達、そのまま行けば死にますよ?」
二人ともに、状態を鑑みて、心配からの言葉だったが、ティーガも負けじと食い下がる。
「ただ突っ込むのに、命令系統も何も無いでしょう。それに、死ぬ死なないで言うのでしたら、我等は奴らに報復するための死兵です。むしろ、死ぬ為にここにいるのです。更に言えば、この場において鍛冶匠のドヴェルグ殿とレオーネ姫が、万が一死んでしまった方が、損害は計り知れないと思いますが?」
……おい、今なんか聞き捨てならない単語が聞こえたぞ?
二人に問い質すと、ドヴェルグは当代一と謳われた伝説的な鍛冶師であり、レオーネはなんと獣人族の国の王族なのだそうだ。
俺聞いてないんだけど?と詰め寄ってみたが、二人ともに顔を見合わせてから
「「だって聞かれて無いし」」
と宣って来た。
思わず、二人に拳骨を落としそうになったが、寸での所で我慢する。
……うん、俺は悪くないと思う。
しかし、この内の誰を出したものかね?
誰を出しても角が出そうだしなぁ……等と考えていたが、いまだに誰が行くかで言い争いをしている三人を見ていると、考えることが面倒になって来たので、もう全員出しちまう事にするか!
「てな訳で、全員で出て貰います。それで、各隊の競争心を煽る&戦後のご褒美として、一番手柄を立てた隊には、隊長と隊員達とで一つずつ、俺に聞ける範囲でのお願いを聞いてやる。まぁ、限度は有るがね?」
そう言うと、隊長三人(ティーガが暫定的に、新入り隊の隊長)と、副官として付いて来ていた隊員の目がギラリと光る。
……あんまり無茶振りされる前に、隊長達の願いだけでも聞いておくか。
「じゃあ、先に隊長である君達の願いを聞いておこうか?何か有るのなら、言ってみてくれ」
すると、まずはドワーフ隊のドヴェルグと、ティーガが答えた。
「なら、俺は酒だな!それも、飛びきり上等な奴!それで、隊の奴らと宴会でもして、盛り上がりたいな!」
「俺は……そうですね。借り物でない、俺専用の武器と防具が欲しいです」
フムフム、まぁ、その程度ならば大丈夫だろう。
「まぁ、それらなら大丈夫だろうな。後はレオーネだけだが、何か希望は有るか?」
「……そうですね……では」
俺が声をかけるまで、何やら悩んでいる様な顔(多分)をしていたレオーネだったが、意を決した様に顔を上げると、俺の質問に答えた。
「陛下の寵愛を頂きたいです!」
………………ハイ?
……魔力の使いすぎかな?幻聴を聞いた様だ。
あ、それともアレかな?人獣族の言葉で、『寵愛』ってのは、何か他の意味が有るのかな?
「……済まんレオーネ、さっきのは良く聞こえなかったんで、もう一回お願い出来るかね?」
すると、彼女は大真面目な顔(多分)をしながら、再度同じ事を口にした。
「私を抱いて頂きたい」
「……失礼、別の言い方でお願いする」
聞き間違いであって欲しいのだけど……。
「失礼、では改めて。私に種つ「言わせねえよ?!」」
何言おうとしてんの、この子?
隣のドヴェルグとティーガも、驚きの表情で固まってるよ?
そして、何が原因でそんなことを言い出したかは知らないが、彼女に割合と重大な事実を告げておく。
「……あー、レオーネさんや?」
「ハイ、何でしょうか陛下」
「君のお願いなんたけどね?俺が叶える叶えない以前に
君の後ろにいる、恐いお姉さん達に許可を貰おうか?下手しなくても、殺されかねないからね?」
そう言って、彼女の後ろを指さしてやる。
すると、彼女はそれに従って振り向こうとするが、それを完遂することは出来なかった。
それもそのはず。
右側からガルムが爪を脇腹に、左首筋には、ローブの迷彩を解除しながら、シルフィがナイフを、頭上ではウシュムさんがバルディッシュの刃をスレスレで止め、後方からはウカさんが尻尾に雷撃のチャージを完遂させている。
……これは、俺でも死にかねんな……。
そして、お姉さん方にて後方に拉致され、強制的にお話を聞かされるレオーネ。
少ししてから、精魂尽き果てた表情で戻って来たが、結局お願いを変えはしなかった。
……解せぬ。
そんなこんなで、斬り込み隊を投入する。
彼らへの命令はただ一つ。
『取り敢えず、ぶち殺せ』
それだけだ。
そんな斬り込み隊が戦場に突っ込んで行く。
ガルムに跨がり、双眼鏡で観察しているが、まぁ無双だわな。
散々苛められた後の歩兵だろうが、貧弱な魔法使いだろうが、重武装の騎士だろうが、どこぞの冒険者だろうが区別することなく挽き肉にして行く斬り込み隊。
自信満々な様子で出てきた冒険者風の奴も居たが、それはドヴェルグが、文字通り首を千切っていたし、魔法使い部隊の本隊と思わしき部隊は、レオーネ隊が強襲からの殲滅。ティーガ隊は、ひたすらに被害を出す方向で暴れている。
まぁ、こうなるだろうな。なんて言ったって、文字通り、レベルが違うのだから。
そして、こちらも相手方に、威圧感を出すために本陣を前へと進ませる。少しずつ、ゆっくりと、しかし確実に。
敵兵力が半分程まで落ちてきたので、だめ押しにかかるとしますかね。
『ウシュムさんとガルム、出陣。なるべく派手に』
『『了解!』』
……さて問題です。
突然戦力が20000も減り、その内の半分が化物となって襲い掛かり、残りはバカみたいに強くなってこちらを攻撃してくる。
被害は多数、士気は最低。
そんな状況に
「で、出たー!フェンリルが出たぞー!」
「い、一体だけじゃなかったのかよ!」
「フェンリルだけじゃない!上を見ろ!」
「そんな……ドラゴンだと……?」
更なる困難が降りかかってきたら、どうなる?
A・恐慌に陥り、戦士から刈られるだけの藁人形へと変化する。
かくして、魔王軍約10000対イストリア軍約120000の戦いは、圧倒的に不利なハズの魔王軍の勝利によって幕を閉じた。




