第44話
「そっち側に倒すぞー!!」
「次はこいつだな!」
「早いとこ、その根っこ引き抜いてくれ!!」
『アルファより主へ。魔物を発見した。これより掃討に移る』
土木工事with魔の森なう。
あの時、俺に協力しても良いと言ってくれていた人々と共に、魔の森を開拓している。
目的は、物資としての木材確保や薬草等の収集も兼ねてはいるが、本命は魔人族領への道を作る事だ。
相手方へは話は通していないが、基本強い奴が正義な脳筋種族らしいし、どうにかなるだろ。
ちなみに、現在作業には、あの街に残った全種族が従事している。
それぞれの種族が得意な分野に別れて作業しており、中々に素晴らしい連携を取れていると思う。
具体例を挙げると
エルフ・施工予定地に先行し、その自然に対する知識を活用し、薬草等の資源の回収、並びに土地の測量等を担当。
獣人族・マメな性格をしている者が多いので、施工地等の下草の刈り取りや、各作業員への物資の補給、体調を崩した者を休憩所(旧ゴブリン砦)まで運搬する等の作業を担当。
人獣族・強靭な身体能力を生かし、木々の伐採や根の除去等の力仕事を担当。
ドワーフ・土に対しての知識や技術を生かし、木の根等を除去した後の穴を埋め、道全体を平らに均す等の作業を担当。
と言った感じになっている。
そして、全体の警備をフェンリルが行い、切り倒された木はドラゴンが運びだし、作業は急ピッチで進められている。
アルヴさんに報酬を支払った後、ウシュムさんと彼女が率いるドラゴン達が、こちらと合流してから、住民達へと合流したフェンリル族とドラゴン達は、俺の仲間の部下であると説明を行ったのだが、最初は本当に大変だった。
獣人族達は、信仰の対象であるフェンリルが間近に居る事で、ある種のパニックを起こし、近くをフェンリルが通るだけで拝み出す人まで出だしたのだ。
それに加えて、亜人諸族では、ドラゴンを一部の種族が信仰の対象としており、また、エルフ族もその例外では無かったらしく、ウシュムさん達まで拝まれだしたのだ。
現在、それらは一応の改善をみているが、完全に無くなった訳ではないので、稀に拝んでいる人が居たりする。
また、この開拓工事に参加してくれている人、並びにフェンリル、ドラゴン達は、ほぼ全員が俺と『契約』を結んでいる。
コレは最初、フェンリル族の中で、ガルムの補佐官的な事をしていたアルファと言う個体からの提案(アルファはガルムから聞いていて、『契約』がどんなモノか知っている)されて、『警備に当たるフェンリルの中で、同意したものだけと契約する』って話になっていたハズだったのだが、何処から漏れたのか、何時の間にか『参加する者は希望すれば、『契約』出来る』と広まってしまい、あれよあれよと言う間に、『参加者全員と『契約』する(但し希望者のみ)』と言う事になってしまったのだ。
ちなみに、作業員の方々の内、『契約』を結んだ人の割合は、結果的に九割を超えてしまった。何でだろうか?
一応、フェンリル族の皆とドラゴン達にも聞いてみたのだが、
『ガルム様の主ならば、我等の主に等しいので、問題は有りません』byフェンリル
『ウシュムガルに勝ったのなら、私達より強いハズ。それに、やろうとしている事が面白そうだから大丈夫!』byドラゴン
との事。
……本当にソレで良いのか?コイツら……。
ガルムが連れてきたフェンリル達は生真面目な性格だし、団体行動も得意だが、何故か俺には絶対服従の姿勢を取っている。……解せぬ。
ウシュムさんが連れてきたドラゴンは二十頭程だったが、何故か全員女性で、尚且つ人間で言うところの適齢期の方々(人化も出来る)だった。……ドラゴンの里、一体何があったんだ?
そして、そんな現場で魔王たる俺が何しているのかと言うと……
『兄ちゃん、遊んで遊んで!』
『ジョン兄ちゃん、遊んで!』
『ねぇねぇ!ガルム姉ちゃんと何処で知り合ったの?』
……子フェンリル達の子守りです。はい。
いつぞや、ガルムの近くに固まって、小柄なフェンリル達がいたのだが、それらは実は、実家から着いて来てしまったガルムの弟妹達で、まだまだ目が離せないやんちゃ盛りな子供なのだそうだ。
あの戦闘の時は、スキルで体を大きく見せていたが、実態としては、大型犬程度の大きさしかない。
実際の話、完全にノリと言動が子供のソレだ。
で、何故に、ガルムではなく俺が子守りをしているのかと言うと、一つには、この子達に俺がなつかれたと言うのが有るが、本命としては、『魔王様なのだから、こんな土にまみれてする様な仕事は任せておいて下さい』と、現場での取り仕切りを任せておいた、アルヴに言われてしまったからなのだ。
仲間達は各方面でお仕事しているし、俺はこっちに参加しておいた方が都合が良かったので、まぁ何かしらやれる事は有るだろう、と来ていたのだが、敢えなく子守りを命じられてしまったと言う訳だ。
ちなみに、ガルムもこっちに来ているが、彼女は警備隊の隊長も兼ねているので、そちらと行動を共にする関係上、別行動となっている。その為、この場にはいない。
何だかな~、木の伐採位ならスキルで出来るんだけどな~、と思いつつ子フェンリルのフワッフワな毛並みをモフりながら過ごすこと数日。漸く?それともあっという間?……うん、良く分からん。
とにかく、工事開始から数日で、魔人族領への道路は開通する事になったのだった。
******
「んで?あんたらは、何しに来たってか?」
現在地、魔人族のお城。
魔人王と差しでお話し中の俺。
「同盟を結びに」
「同盟?」
「単刀直入に言う。お前さんら、イストリアが欲しくないか?」
何でいきなり、こんな事になっているのかって?
さぁ?俺にも良く分からん。
あのまま、道の開拓を進めていたら、紫をした肌を持ち、額に角を生やした魔人族と遭遇したのだった。
おお!第一魔人族発見!と俺のテンションはやや増だったのだが、そいつはこちらを見たとたんに、こちらに襲いかかって来たのだ。
突然の攻撃に、『どうしようかな?殺しちゃ不味いしなぁ……』等と考えていたのだが、俺だけが戦闘態勢に移行していなかったからか、まずはお前からだ、と言わんばかりに突っ込んで来た。
突っ込んで来たのだが、俺に到達する前に、周囲に居た作業員の方々に捕まり、フルボッコの刑に処されていた。
……実は作業員の皆さんは、殆どが俺と契約関係に有る。そして、同じく契約関係に有るフェンリル達が、警備件食料確保として周辺の魔物を端から殲滅している。その結果、俺を介して経験値ネットワークにより、勝手にレベルがガンガン上がり、ステータスが跳ね上がってしまっている。
更に、延々と続けられた土木作業により、身体能力 までもが爆上げされたので、精強なハズの魔人族にも、抵抗処か勝利するだけの力を持ってしまった、と思われる。
後にこの時の事を聞いてみたのだが、『俺に手を出されそうになったので、返り討ちにしてやった』と誇らしげに語られた。
……嬉しい様な、そうでない様な……。
襲撃してくる魔人族は、当然の様にその一人だけでは無く、続々と襲いかかって来た。
そして、延々襲って来るのを返り討ちにしていると、何処からともなく魔人王が登場、俺に勝負を挑んで来たので、開幕ワンパンでリングに沈め、無理やり勝利をもぎ取った。
そして、その勝負の後に、お城の中で、周りが宴会に突入している最中の会話が先程のモノだ。
「イストリア国が欲しくないか、ってそりゃ欲しいに決まってんだろ?私達は、この狭い土地でどうにか生きて来たけど、この海が近い土地柄のせいで、作物はやっぱり期待は出来ない。なら、広く豊かなあの土地は、喉から手が出る程に欲しいさ」
「なら、決まりだな。俺達はこれからあの土地、今は統一王国に組み込まれたイストリア郡を、人族の手から奪い取る。その為の手助けをしてもらいたい」
「ならば、私達に、イストリア全土を寄越しな。ソレができなけりゃ、私達は「良いぞ?」……何だって?」
魔人王は不思議そうな顔をして、こちらを見ている。
フム?そんなに変な事を言ったかね?
「だから、構わんぞ?イストリア全土だろう?まぁ、その場合、まだ盗ってはいない土地だから、今すぐにとは行かないが、こちらとしては、構わんぞ?ただ、すでにそこに住んでいる、亜人諸族と獣人族達の権利は保証して貰わないと困るけどね?ああ、人族は煮るなり焼くなり好きにどうぞ?まだ、何か疑問等は?」
「……あんた、わざわざ、私達に声をかけてまで奪いたいモノを、あっさり渡す理由ってなんなんだ?そんなに簡単に渡しちまえるのなら、別に要らないんじゃないのか?」
ああ、成る程成る程。コレは価値観・考え方の違いって奴だな。
「勘違いしている様だから言っておくが、俺達……いや、ここは『俺』か。とにかく、俺は、土地が必要または欲しいからこうしている訳じゃあ無い。結果的に土地が手に入るが、それを永続的に押さえておくだけの人手が無いし、そんな状態で盗り始めても、簡単に盗り返させれるからそちらに声をかけてみたんだ。ぶっちゃけた話、さっき出した条件が守られるならば、彼処を治めるのは俺でなくても大丈夫だし、それに」
とここで俺は一端言葉を切り、本命のそれを口に出す。
「それに、俺はイストリア郡を盗るだけで、人族への攻撃を止めるつもりは欠片も無いからな。ぶっちゃけ彼処は無くても構わないのさ」
そんな、俺の大言に暫し呆然としていた魔人王だったが、ガシガシと頭を掻きながら、城の外へと視線を向ける。
するとそこには、俺と共に来た人間と魔物の混成団体と、それを襲撃したハズの魔人族の皆さんが酒盛りしている様が見えた。(食材等はこちら出し)
「……あいつらは、あんたの考え方を知ってんのか?」
「もちろん。むしろ、彼らから言い出した事だよ?『いざとなったら、イストリアなんぞくれてやりなさい。私達は、それがどこになっても貴方に着いて行きますから』とね?
まぁ、それに、戦力だけなら、多分手持ちだけで行くだけならばイケるハズだから、嫌ならばそれで構わんぞ?こっちで勝手にやるから。但し、その場合は、何が有ってもイストリアはくれてはやらない。こちらの民のみが血を流して手にいれた土地を、むざむざくれてはやらない。その時は、アレとの契約に反してでも、お前さん達を滅ぼしてやるから、覚悟したまえよ?」
言葉に込めた覚悟と漏れ出した殺気で、こちらが本気だと理解したらしく、少しの間考え込む魔人王。
そして、答えが出たのか、部下を呼び、酒を持って来させた。
「さすがに、損得だけで部下を死地に送ることは出来ない。流石に利益は有っても赤の他人だ。そこまで信用は出来ない」
そう言いながら、杯に酒を注ぐ魔人王。
こちらが残念そうな顔をしたのを見て、勿体振るのはよろしくないと判断したらしく、言葉を続ける。
「だが、私達の風習には、戦い合い、その後酒を酌み交わした相手は友として扱う、ってのが有る。魔人族は喧嘩っぱやい、だけど、一度友と成った相手であれば、大抵の無茶は通してやれる。それこそ、王同士が友であれば、戦争に参戦する、なんて無茶もな。同時に、そいつの首を寄越せ、なんて事も、場合によっては、普通に通る」
そう言って、こちらに酒で満たされた杯を渡してくる魔人王。
おそらく、これが精一杯の強がりで、それと同時に譲歩でも有るのだろう。
「……こっちは、ある程度の穀倉地帯と近間の街一つ位を貰えるなら、それで皆を満足させられる。そうであれば、こちらも兵を出せる。足りなければ、後でこの首差し出そう。それで勘弁願えないかな?魔王殿?」
覚悟を決めた顔を向ける魔人王。
俺は少し考える素振りを見せた後、杯を手に取り、中身を飲み干してから、魔人王へと声をかける。
「……これで、俺達は『友人』って事だろう?そして、友人が困っているのなら、助けてやるものだ。そうだろう?
報酬としての土地は約束しよう。後、暫くの間の食料支援なんかもね。但し、しっかり兵は出してもらう。これで、良いかな?『友』よ?」
俺のその言葉を聞き、俺の差し出した手を見て、涙目に成りながらも自らの杯を飲み干し、俺の手を握り返す彼女。
「ああ!よろしく頼む!『友』よ!!」
こうして、魔王と魔人族との同盟は結ばれ、この会談の経緯から、かの魔王は『魔人族の友』と呼ばれる様に成るのであった。




