第43話
今回は、途中で少々凄惨な描写が出て来ます。ご了承下さい。
『作戦完了です、旦那様♪』
『お疲れさん。早めに戻ってね?』
旧イストを奪取してから、約三日。
おそらく、それ位のタイミングで難民が到着すると予測出来たので、追撃兼拠点潰しとして、ウシュムさんを配置していたのだが、まさかここまで上手く嵌まってくれると思ってなかったので、ホクホクである。
固まって移動せず、周辺に散らばる可能性も考慮して、ガルム旗下のフェンリル達を派遣して、街以下の町や村等は物資を奪い、その後は焼き払わせておいたので、後は首都へと大量の飢民だけが雪崩れ込み、それらを救済するために多くの物資が強制的に消費される事に成る。
もちろん、その中に即戦力として利用出来る様な人材は殆ど居ない。兵士や騎士、冒険者や統治者等の此方との戦闘に役に立ちそうな連中は、イスト・エスタ問わずに優先的に潰しておいた。生き残りが居るとは思えないし、居たとしても状況を改善させられる程の劇薬には成るまい。つまり、この非常事態に『役に立つ』と言える人材が存在しない、言わば『無駄な人口』を抱え込む事に成った訳だ。
もちろん、飢民として流れてきた連中の中にも、元経験者だとか、才能保持者だとかは存在するだろう。だが、それらが使い物に成るまで諸々を維持出来るとは思えないし、こちらもさせてはやらない。
……ね?人って居すぎても問題に成るでしょう?(黒い笑み)
極悪非道?大いに結構!俺は魔王ですよ?今まで散々他種族を虐げて来たのだから、いい加減そのツケ払って貰うとしましょ?
そんな事を考えていると、ノックと共に入室を求める声が聞こえて来たので、許可を出し入室を促す。
「失礼します」
と声をかけて入って来たのは、この街の元冒険者ギルドのギルドマスターをしていたエルフの女性だ。
「お呼びと聞いて参上しました。どの様なご用件でしょうか?魔王様」
「……なんか機嫌悪いですね……。何かありました?」
「そうですね。どこぞの誰かが、一時的とは言え、人口の管理から雇用に適性検査に人事に、と色々と押し付けてくれたので、忙しすぎて死にそうな目に会っているダケデスヨ?」
……俺のせいだった様です。
「……なんて言うか、その、ゴメンね?適性が有りそうなのが貴女しかいなくてね?それに、ほら。一応、経験者だし?」
「その経験者が私以外に居なくなったのは、貴方が全員殺したからなのだけれど?」
いやはや、ごもっとも。
さて、そろそろ本題に入るか。
……蹴られないと良いなぁ……。
「……で、今回呼び出した件なのだけど、正式に俺の部下にならない?人手が足りないのなら、人員を増やすし、お給料も今なら相談に乗るよ?チャンスだよ?」
結構ふざけた口調ではあるけれど、割と本気で言っている。彼女の事務能力と実働経験は、かなり本気で欲しいと思っている。と言うより、彼女以外に適性の有りそうなの人間が、周りに居ないので、居なくなられると正直困る。
「……確かに、能力や適性で鑑みれば、この現状では、私は必要な人材かも知れませんが、あの貴族の手先として、色々と汚い事もして来た経歴が有ります。その対象は、主に同胞たる亜人諸族や獣人族の人々でした。それらの事実から、私の事を好ましく思っていない方も多いですし、この街に残っている方々にも、相当数いらっしゃると思います。
それでも、私を雇い入れますか?」
「……それは、貴女の意思では無く、隷約で強制されてやった事でしょう?ならば、俺は気にしないし、文句も言わせない。それに、一応は俺は貴女の『恩人』なのだから、出来ればその恩を返して欲しいのだけど?」
隷属からの解放に、助命にと一応は何度か助けてはいるからね。
「……分かりました。ですが、条件が一つ」
「受けてくれるなら、可能な限り応えよう。それで?条件とは?」
「あの豚の首を刈る権利を」
「……『今すぐ落とさせろ』ではなく?」
「私にも、今貴方がアレにどんな事をしているかは、割と簡単に想像出来ます。だけど、今すぐ終わらせてやるのは、余りに温いと思いましてね?
私が殺すと宣言しておけば、逆説的に『私以外には殺して貰えない』と考えさせる事も出来、その方がより長く苦しめられると思いまして」
わーお。真っ黒だねぇ。
まぁ、そんな真っ黒なギルマスには、もう一つプレゼントが有るのだけどね?
「了承しよう。では、現状がどうなっているのか、担当のメフィストに聞いてみるよ」
俺は、今居る領主館の地下室にて、例の豚から情報を絞り出しているメフィストに『意志疎通』で話し掛ける。
『おーい、メフィストー?調子はどうだ?』
『おや?これはこれは、どうなされたのですかな、ジョン殿?一応、こちらは順調に絞れていますが、何かご用ですかな?』
『用っちゃ用かな?ギルマスが話を受けてくれたから、アレにどんな事しているのかの説明と、例のアレやってしまおうかと思ってね?』
『了解しました。では、そちらに向かいますね』
メフィストとの通信を切り、ギルマスへと報告する。
「今からこっちにメフィストが来るから、来たら説明を「到着しましたよ?」……って、うおぅ!」
いつの間にか、俺の背後に立っていたメフィスト。
俺の正面に立っていたギルマスも驚いている。
……こいつなら、俺の事暗殺出来んじゃないか?
「……流石、神出鬼没の悪魔。あんまりその手の出て来方はやらないでね?心臓に悪いから」
「おっと、これは失礼。……しかし、貴方は心臓が止まった程度で死ぬのですかね?」
知らねぇよ。試す気も無いし、本当にそれで死んだらどうすんだっての。
「まぁ、その件は置いておくとして、今のところのアレの現状と、絞れた情報ってどんな感じになってる?」
「そうですね……。まずは情報から報告しましょうか。
まずは目的ですが、やはりジョン殿の持っていると思われていた『竜の素材』と、ジョン殿本人を配下に引き込む事で『竜殺し』が自陣の配下に存在する、と言う喧伝行為の為、と言うのがアレの上位者からの指令だった様です」
「……それだと、俺を隷属させようとしていた理由が分からんのだが?」
「それは、あの豚の独断だった様ですね。隷属状態で引き渡せば、反抗も出来もしない大戦力になりますから、命を下してきた上位存在に、自分の価値を高く認識させたかったのでは?」
「……あの豚らしい理由ですね。その上位の存在が誰か吐きましたか?流石にそこまでは私も知らないのですが」
「ええ、旧イストリア王国、現統一王国東部イストリア郡総領主、それが今回の首魁だそうです。
ジョン殿を求めたのも、他の総領主への示威行為と、魔人族領へと侵略するための戦力として欲していたための様です」
成る程ねぇ。
「なら、次のターゲットは予定通り首都イストリアだな。放っておいても、暫くは身動き一つ出来はしないだろうが、次は何されるか分かったもんじゃ無いし、早めに潰してしまうとするか。
ちなみに、まだあの豚が知ってそうな有益な情報に何か心当たりは有るかね?ギルドマスター?」
「……私は既に『ギルドマスター』ではないですし、『アルヴ』と言う名前が有ります。次からはそちらで呼んで欲しいのですが?
有益な情報と言う事ですが、あの豚は私から見ても、大したポジションに居たわけではないので、そこまでの有用性は無いと思います。それより、あの豚の現在の状態をお聞きしても?」
「現状ですか?一応、一通りの情報を聞き出すまでは、それなりに丁重に扱ってましたが、今は、そうですね……爪に打ち込んだ針を熱して内側から焼きつつ、脂肪を溶かしてそれを啜り、激痛を与えながらも傷は癒してしまう生態を持った魔物に寄生させて有ります。
少し前までは、幻術で『飛び切り魅力的な発情期の雌』に見えるようにして、魔物共に輪姦させてありましたかな?
一応、発狂はさせないよう、私が向こうから呼び出した配下に、常時クリアな思考を保たせておりますが、どうしますか?
現在の手持ちでは、この程度が精一杯ですよ?」
どうしますかって……かなりえげつない事してんじゃんか……。
流石は悪魔って処かね?
「さて、ギルドマスター改めてアルヴさん?一応、現状としてはそんな感じらしいけど、何か希望は有るかね?」
「そうですね。では、アレに伝えて下さい。『貴様の生殺権は私が貰った。殺してくださいアルヴ様が口癖になったら気紛れで殺してやるかもしれないから、それまで精々楽しみなさい』と。
今のところは、それで十分です」
伝言は受け取った、と頷くメフィスト。
フム、それならば……とメフィストへと目配せすると、向こうも承知した、と頷き返す。
「さて、あの豚の処遇がこうして決まった事で、アルヴさんには、ちょっとしたプレゼントが有ります。まぁ、俺の部下になったご祝儀って事で、受け取って下さいね?」
その言葉と共にメフィストが前へと出て、彼女の頭に手を当てる。
「さて、アルヴ嬢。貴女があの汚ならしい豚に捕まったのは、どの位前かは分かりますか?可能な限り正確にお願いします」
「……?大体四年前。正確には、一月ほど足りなかったと思いますが、それが何か?」
「三年と十一月ですね?ならば、余計目に見て、切りよく四年分にしておきますか」
そう確認してから、メフィストが魔法を発動させ、彼女から手を離す。
「……はい、これで終わりです。貴女は既に全て取り戻していますよ」
そう言われてたが、特に何が有った訳でもなかったので、首をかしげたアルヴだったが、違和感は即座に訪れた。
かの豚に捕らえられた夜、自らの喉を裂くハズだったが、隷約によってそうは使えなかった短剣で、これまでの自分との決別を込めて断髪して以来、常に肩までしか伸ばしていなかった髪が、それまで時の様に、腰の長さまで延びているのだ。
それだけでなく、奴隷に落とされてから負った傷や、それまでの冒険者生活から、基本事務仕事だったギルドマスターに成らされて、変わってしまった生活様式の影響で変化した体型等も、隷約以前のモノになっている様なのだ。
どう言う事かと、メフィストと俺に視線を向けてくるアルヴ。
まぁ、この場は説明した方が良いか。
「どう?大丈夫だった?ソレ、メフィストの習得している魔法の一つで『時空間魔法』って言うんだって。なかなか便利な魔法だと思わない?」
「ふぅ、ヤレヤレ。コレはそんなに便利なモノじゃあ無いですよ?今回の『時間遡行』だって、戻せる範囲内だったからどうにかなりましたし、ぶっちゃけアルヴ嬢の寿命だって削っています。まぁ、数百年生きるエルフ族ならば、大した事は無いでしょうけど」
ここまで説明しても、フリーズが解除されないアルヴ。
なら、もう少し簡単に説明しておくか。
「つまり、君の体を、あの豚に会う前まで『若返らせた』って事だよ。お分かり?」
そこまで簡略化すれば、流石に理解が及んだらしく、崩れ落ちて涙を流すアルヴ。
どうやら、悲しみからの涙では無いようだし、メフィストと二人で部屋を出る。
すると、途端に床へと膝をつくメフィスト。
それを助け起こしながら、別の部屋へと誘導して行く。
時空間魔法は、悪魔であるメフィストにとっても、かなりの負荷が懸かる魔法であり、そうホイホイ使えるモノでは無いのだ。
「……悪い。お前にばかり、こんな役押し付けて」
「フフッ。何、友人からの頼み事ならば、聞かないのは野暮ってモノでしょう?それで?この後は、どう展開するのですか?」
メフィストを椅子へと座らせながら、質問への答えを返す。
「そうね。色々とやらねばならない事は有るけど、まず最初に手を出すべきはアレだ。
魔人族との交流、並びに軍事的な提携。
魔人族にも、この戦争に参加して貰う」
まぁ、その為には、色々と準備が必要では有るけれど、まずはアレをやらねばなるまい。
そう、土木工事だ!
次回、ついに魔人族登場……の予定です。




