第41話
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読んでくれている皆さん。感謝ですm(__)m
今回は、人によっては不快に感じる表現が出てきますのでご注意下さい
ガルムとウシュムさんに仕込みの具合を確認した後、道沿いにイストの街へと歩いて行く。
途中で街道を見張っている奴らが居たが、構わず無視して歩き続ける。気配からして、俺達を監視したかったのだろうけど、今更監視して何になるのやら。
それに、わざと消さずに放置すれば、こちらの戦力を察知されず、こちらの技量も侮らせる事が出来るのだから、わざわざ始末しに行く必要性は無い。
先程まで、道を見張っていた連中が、そのまま付けてくるのをわざと無視して門を潜る。
時刻は既に夕刻に差し掛かっているので、ギルドへの報告をどうするかを仲間内で話し合う……フリをしておく。もちろん、追跡者用のパフォーマンスだ。
実際の話し合いは、『意志疎通』スキルで行っているので、漏れる心配は無い。
「さて、到着したけどどうする?」
『見張りが着いて来ているけど無視する方向でね?』
「そうね……。疲れているから、直帰で良くない?」
『じろじろとうざったいわね……。あ、また増えた』
「では~、お夕飯はどうしましょうか~?」
『さっきから~、厭らしい視線や~、卑猥な呟きばかり垂れ流しているのですが~、潰してはダメですか~?』
「私とジョン殿で何か作るとしましょうか。それで良いですかな?」
『ウカ嬢、アレらは私も不快ですが、今暴れてしまえばジョン殿の仕込みが台無し……とは行かずとも、ある程度変更せざるを得なくなります。どうか、辛抱を』
「おいおい、俺もかよ……」
『ごめん、ウカさん。もう少しだけ我慢して下さいな』
「はい~。お願いします~」
『……分かりました~。その代わり~、着いたらブラッシングお願いしますね~?』
「んじゃ、行くか」
『承りました、お姫様』
ちなみに、上記の会話だが、「」内が実際に声に出しての会話。『』内が『意志疎通』スキルによる会話となっている。
ギルドへの報告なんざ、どうせ俺達が戻って来た事なんてとっくに伝わっているのだから、放っておいても何かしら来るだろ。
まぁ、来なけりゃ来ないで、昼頃にでも行けばよろしい。待たせて苛立たせるのも一つの手だ。
結局その後は、適当に監視をさせたまま拠点へと戻り、メフィストの部屋を決め、家具を『空間庫』から出して配置し、晩飯作ってシャワーを浴びて、ウカさんモフってとっとと寝た。
まぁ、明日に成って、相手さんが出てきてくれないと、どうあがいても決着付けられないからだけど。
******
次の日
いつ頃来るのか、それとも来ないのかと思いながら朝の時間を過ごしていると、前回ギルドに呼び出しをくらって出向いたのと同じ時間に、明らかに金が掛かっていると一目で分かる程に派手な馬車が、門の所に停められる。
そして、中から質素では有るが、安物ではあり得ない燕尾服を身に纏った『THE・執事』と表現すべき老人が降りてきた。
「おはようございます、冒険者パーティー『ヘルヘイム』の皆様、並びにパーティーリーダーであるジョン・ドウ様。
皆様へと、今回のダンジョン探索を依頼された、依頼主にして私が仕える主が、冒険者ギルドにて皆様をお待ちです。
ご同行、願えますね?」
ほぅら来た、と心の中で呟きながら、仲間と共に馬車へと乗り込む。
その際、シルフィとウカさんが乗ろうとすると、微妙に顔が強ばる執事。
……成る程、やっぱり今回の首謀者ないし、この件の主導者は、人族至上主義か。もしくは、獣人・亜人=奴隷とか、そんな思考の持ち主なのだろうな。優秀な使用人程、主人の思考をトレースする。それもほぼ無意識的にだ。
……まぁ、僅かとは言え、顔に出ている以上はまだまだなのだけど。
そんなこんなでギルドへと到着する俺達。
さて、敵はどう出てくるかな?
◇とある貴族視点
使いに出した執事が、例の冒険者を漸く儂の前へと連れてきた。
其奴はまだ若く、体格も、筋肉を纏った荒男とは言えず、どちらかで言えば華奢に見える。
だが、よく見てみれば、目に何やら覇気を感じさせるような、光が有る様にも見える。
成る程、流石は高位竜を葬っただけは有る様だな。
……まぁ、礼儀はなっていないらしいが。
何せ、この高貴なる儂との会談の席に、汚らわしき亜人共を同席させようとしたのだ。
それだけで、無礼打ちにしても何処からも文句が付かぬと言うのに、なんと傍若無人な態度よ!
まぁ、この若さで、それだけの力を持てば、増長するのも当然では有るか。
執事に命じ、亜人共を別室へと移動させたが、人族らしき男はまだ残っている。まぁ、良い本題へと入るとするか。
内容は勿論『竜の素材』の全提出と、『竜の討伐』を行ったのは、我等が栄えあるイストリア領軍の指揮下で行われた事であると証言させてやる事だ。
その代わり、こやつはイストリア領の騎士として召し抱えてやるのだから、返事は当然『是』以外に有るまい。本来であれば、我等貴族がこやつの様な平民から、何かを徴収するのに対価など必要ないのだが、今回は仕方が有るまい。
まぁ、もっともそれも『建前』だけの話ではあるがな。
条件は話終わったので、奴の前に『契約書』を一枚置く。
いつぞや、この場にもいる亜人の女に仕掛けたのと同じ手だ。
必要なモノだからと目の前に出してやれば、読みもせずにサインするのだから、容易いモノよ。まぁ、平民共は字自体が読めない事も多い。読まれたとしても、偽装の魔法がかけてある以上、それだけで分かるハズもないがな。
あの亜人の女を嵌めてやった時は、流石の儂でも心が踊った。
アレだけ高ランクの存在が、儂に頭を垂れ、反抗すら出来ず、悔しげな視線を送ってくる事しか出来ずに弄ばれる様は、今思い出しても昂って来るわ!
散々玩具にして楽しんだ後に、このギルドへと送り込んで、亜人共の冒険者を監視させておいたのだが、お陰で、こうして多大なる功績を挙げられるのだから、自身の慧眼に怖くなるわい!
こいつを隷属させたら、まずこやつが連れていた亜人共でお楽しみだ!まずは、あの豊満な獣人からだな!と思考を遊ばせていたが、何も知らないこやつが『契約書』にサインするべくペンを取ったのを見て、儂は現在以上の躍進と栄達を確信し、顔に笑みが広がるのを押さえる事が出来なかった。
◇主人公視点
俺達を連れてきた執事の爺さんに着いて、ギルドの中へと入る。
中には、以前は見掛けた亜人系の冒険者や、ギルド職員が一人も見られない。
代わりに、柄の悪そうでサーコートを羽織った連中が屯していた。
多分、貴族様の私兵とかそんな所だろうな。
……-1点。敵意と非常手段を相手に見せすぎ。
以前と同じ応接室に案内されるのかと思っていたが、ブースの奥には行かずに階段へと誘導される。
別の階に貴賓室でも有るのかね?
まぁ、どうせ『高貴なる自分が使うのだから~』とか言い出したのだろう事は、容易に想像出来るけど。
……-1点。非常手段との距離が遠すぎ、それと、『貴賓室』の意味を履き違えている。……多分。
階段を登りきり、とあるドアの前で爺さんが止まると、中から何人か出て来て、武器を預けろと言ってきた。
俺達の中で、武装している様に見えるのは俺だけだったので、素直に腰から外して渡してやる。
……-1点。ボディチェックも無しとは、阿呆かね?
漸く部屋へと通されたが、豪華な椅子に座ったままの豚の様な生物が、彼女達を同席させない!と騒ぎ出したので、別室に移って貰う。本当はこんな事したくなど無いが、まだその時ではないので我慢我慢。
『……粗野な感じしかない男がいっぱいの部屋に通されたんだけど、もう始めちゃっても良いかな?』
『ご主人様~?まだですか~?』
『……ウカ嬢、シルフィ嬢。ジョン殿が大変な事になって来ているので、出来るだけ刺激しないで頂きたい。多分、そうは掛からないハズですので、少々我慢をお願いします』
大丈夫、俺は冷静だ。
ただ、この豚を今すぐ屠殺して、ウチのお姫様救出しに行きたいだけだから、安心しろ。
『……それが出来ないから、こんなにハラハラしていると言うのに……。仕方ない、私も同席しましょう』
彼女達を追い出した豚貴族に、メフィストがごり押し(自分は人族故に同席可能だよね?)して、同席した。
……-5点。一応、褒賞を与えると銘打っている相手の神経逆立ててどうするよ?
そして、こちらは俺とメフィストのみ。相手の貴族様は、護衛の名目で重武装の騎士を十人近く侍らせた上、ギルマスまで後ろに立たせている中、本日の本題が始まった。
……まぁ、予想していた通りの内容で、対価には、恩着せがましく『騎士に取り立ててやっても良い』と来たものだ。呆れて声も出ない。
そして、俺の前に一枚の書類が置かれる。
これにサインしろ、と言うことらしい。
が、一目で分かる。これ、アカンやつだ、と。
『……ジョン殿、それにはサインしない方がよろしいかと。なんだか嫌な予感がします』
解・私も同意見です、主様。
だよね~。どれ?一つ『鑑定』してみるかね。
隷約の契約書:希少度・S、脅威度・EX
サインした対象を、強制的に隷約状態にする契約書。
状態異常無効で抵抗可能。
……アレ?これ、俺大丈夫じゃね?
このままサインして、かかったふりしておけば、もっと色々と聞き出せたりしないかな?
良し!行っとくか!!
そんな風に思っていた時期も有りました。
ヘルプとメフィストに大丈夫そうだ、と伝え、サインするべくペンを取る。
その時だった。
豚貴族には、部屋へと入った時から、情報収集の為に、『意志疎通』スキルの『読み取り』を使用し続けていた。
だから、ギルマスが実は被害者だったって事も知っている。まぁ、あまり関係無さそうだから、放っておいているけど。
それ故に、俺がペンを取る直前の思考も読み取れてしまった。
『こやつを隷属させたら、こやつが連れていた亜人共でお楽しみだ!』
……-2点。良し、もういいや、こいつ殺そう。
『ウカさん、シルフィ』
『何?』
『何でしょうか~?』
『もう良いぞ。蹴散らせ』
『『了解!!!』』
『気配察知』に有った反応が、急速に減って行くのが分かる。
それを察知したメフィストは、頭痛を堪える様に額へと手を当てるが、それと同時に周りを見ながら、こちらに念話を繋いでくる。
『ヤレヤレ。こうなるとは分かってましたが、どうするつもりで?この部屋には、魔法を封じるナニかが有るようですよ?』
まぁ、だろうな。
多分、俺は魔法型だとか思われているんだろうな。あの酒場の件とかでも、基本魔法で対処していたし。
故に、何らかの手段で対処してくるとは思っていたけど、この程度か?
それとも、後ろの護衛共ならば、魔法無し武装無しの俺なら、制圧は可能だと思ったのかね?
俺は、手に取ったペンで契約書に記入
する事なく、一番近くに居た豚の護衛へと近付き、その眼球へと突き入れた。
「ギ、ギァアアアア!ぐはっ……!」
そして、そいつの腰から剣を奪い、そいつに止めをさしてから次へと向かう。
……-1点。反応が遅い。
結局、他の護衛が動き出したのは、俺がもう二人切り伏せてからだった。
「お、おのれ貴様!我等を誰だと心得っ!」
「……口を開く前に斬りかかりなさいな。それでは程度が知れますよ?」
全ての注意が俺に向く中、無駄に大声を出そうとしていた護衛を、ステッキに仕込んだ刃で切り捨てるメフィスト。
……あのステッキ、やっぱり武器だったじゃねぇか。
後で詳しく見せてもらおう。
元々練度が大した事がなかったらしく、あっという間に片付いてしまった護衛達。
残っているのは、状況を上手く把握出来ていないらしい豚貴族と、何やら期待の籠った視線を送ってくるギルマス。あと、恐怖で腰を抜かしている執事だけだ。
「な、何が起きたのだ?お、おい!お前ら!!何時までそうやって寝ている!さっさと起きて、儂に歯向かうこやつらを叩きのめさんか!!!」
「……無駄でしょう。彼らは起きませんよ。皆死んでいるのですから。私達もそうなるでしょう。」
「な……そんな馬鹿な話が有るか!!儂は貴族だぞ!!!儂がそんな目に会うハズが無いだろう!!!
そうだ!お前なら、奴らも殺せるだろう!!さぁ行け!奴らを殺すのだ!!!」
「……無理ですね。そもそも魔法使いの私に、この『魔封じのクリスタル』が設置された部屋でどう戦えと?
貴方達も、殺すのなら早く私ごと殺りなさい。命令が無いから話せていますが、私はそこの豚に隷属させられています。先程は達成不可能な指令だったので無視出来ましたが、達成可能な形で命令されれば、貴方達を攻撃せざるを得ません。なので、私の事は、そこに転がる護衛共と同程度に考えて、さっさと始末してしまう事をオススメします」
「……あんたはそんなに死にたいのか?」
「……死にたい訳では無いですが、この豚に体を汚され、命令とはいえ様々な悪事に荷担し、自らの手も汚すハメになりました。それこそ数え切れない程の数を。生きているのが嫌になる程度には。それに、この隷約は解除出来ないのですから、他の誰かの奴隷となる位なら死んだ方がまだまだましですよ……」
その言を受けて、俺は、部屋の中から彼女を連れ出し、光魔法【浄化】をかけた。
すると、彼女の首元で、ガラスが砕ける様な音がする。
「……え?」
うん、鑑定してみても、隷属状態は解除されているし、もう大丈夫だろう。
掛けられていた『隷属の首輪』が消え去った事により、半ば放心状態のギルマスを置いて部屋へと戻る。
するとそこには、別室から扉を蹴破って合流を果たしたと思われる二人が、共に豚貴族を蹴り飛ばしている処だった。
「……おーい、二人共、『今は』そこら辺で。まだ殺しちゃ不味い」
二人とも「えー(´Д`)」って顔をしたが、取り敢えず蹴るのは中断した。
さて、貴族は確保したし、そろそろあいつらを動かすとするか。
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-イストの街・外壁
その日、外壁での見張り当番になっていた兵士は違和感を覚えていた。
「なぁ、なんか変じゃないか?」
思わず相方となった兵士に問い掛ける。
「……ああ、なんだか妙に森が静かな気がする」
確かに、言われてみれば、そこまで近くに有るわけでも無いのに、何時もは鳥の鳴き声やら何やらが、離れているこの外壁まで聞こえて来る位騒がしいハズの森が異常に静かだ。
そんな森に薄気味悪さを覚えていたその時である。
「……!おい、アレ!!森から何か出てきてないか?」
相方に言われて視線を向ける。そこには、森の縁から、滲み出るように此方へと向かってくる巨大な狼の群れであった。
「さぁ、お前達!我等が主殿からの初指令であります!!失敗は許されないのでありますから、気を引き締めるのであります!!!」
『『『『『応!!!!!』』』』』
ちなみに、途中の採点ですが、主人公の苛立ちを表現してみました。分かりにくかったですかね?




