第39話
一応は、と言うことで依頼を受けた俺達だったが、いちいち拠点に戻るのも面倒だったので、そのまま出発してしまう事にした。
どのみち、必要になりそうな物資の類いは、シルフィの『空間庫』か、ウシュムさんの『疑似空間庫』に入っているし、既に全員完全武装状態だったので、さっさと片付けてしまう事にしたのだ。
……誰だか知らないし、何の思惑が有っての行動かも分からんが、思い通りに行動してやるのも釈然としない。ぶっちゃけ、思惑に従ってやるつもりは更々無い。
てな訳で、ギルマスからも場所等は聞き出して有るので、とっとと踏破してしまうかね。
……別に、ファンタジー世界と言えばダンジョンで、そのダンジョンに潜れるから興奮している訳では無い。
……無いのである。
こら、そこの四人!小さな子供が興奮しているのを見るような目でこっちを見ない!!
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-ギルドの応接室
パーティー『ヘルヘイム』が出ていったのを確認し、漸く私は彼が入って来てからずっと感じていた、濃厚な『死の気配』から解放されて姿勢を崩す事が出来た。
……いや、むしろ無様に倒れ込んだと言う方が正しいだろう。
体は麻痺の状態異常を受けた様に動かず、全身が汗でずぶ濡れになっている。むしろ、下半身は汗以外の液体でも濡れているのが分かる。
(この歳で失禁とは情けない……とも言えんか……)
いまだに歯の根が合わないので、声も出せないが、それもある意味当然かも知れない。
(まさか、元SSSランクの私が、ここまで一方的に心を折られるとは思ってなかった)
一度だけ遭遇したことの有るSSS-の魔物、それと同格、いやそれ以上の『圧』だった。
正しく、人の形をした『死』だったと実感出来る。
(まったく、あんなに危険な存在だったとは……いや、むしろその方が都合が良いか……)
辛うじて動くようになってきた手で、忌々しげに首元を触る。
そこには、関係の無い他人からは只の白い肌が見えるはずだが、ギルドマスターと、とある貴族には、そこに刻印が刻まれているのが見える。
首元を一周するソレは、まるで首輪の様にも見てとれる。
ソレは、『隷属契約書』にサインした者に刻まれ、主人として『契約書』に登録されている者によって可視化する、『隷約の刻印』だった。
(これさえ無ければ、例え死んだとしても、こんな事には手など貸さないと言うのに……)
例え油断が有ったとは言え、嵌められてしまえば、自分ですら抗えないこの束縛。
これが有ったせいで、指示に従う事しか出来ず、計画の全容をぶちまける事はもちろん、奴らの目的や糞貴族の正体なんかも惚ける事しか出来なかったのだから、まったく持って忌々しい。
噂の火消しとて、この刻印が有ったせいで指示すら出来ず、彼を怒らせる結果になってしまった。
彼ならば、私とは違い、かけられたとしても、あるいは抜け出せるかも知れないが、彼以外の仲間では、私と同じ……いや、むしろ彼女達の容姿を鑑みれば、もっと酷いことになりかねない。
だが、幸いにも、彼女に刻印を刻んだ糞ったれな貴族は、今回の件を任されているとかで、彼らとの対面にも参加するらしい。
(他人に希望を託すのは、正直好みでは無い。だが、彼ならば、殺ってくれるかも知れない……。そうであるならば、この命位なら喜んで差し出そう。例え、裏切り者と罵られながらでも構いはしない!)
どうにか動くようになってきた体を叱咤し立ち上がる。
彼が掛かったと連絡を入れなければならない。
奴には、計画が滞り無く進んでいると思わせなければならない。
彼女は胸に暗い希望を抱いて足を動かす。
奴諸ともに私を殺してくれるかも知れない、と言う冷たい希望を抱いて……。
まずは、汚れた服を着替えるところから……。
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ギルマスに渡された資料を頼りに、件のダンジョンへと到着した。
……到着したのだが、道中がエライ事になってしまった。
皆進化しているので、現在の戦闘スタイルを見せて欲しい、と言ったら全員が張り切ってしまい、魔物やその他が出てくる度に、ほぼ無双状態になってしまっていた。
……ガルムは手甲を着けた状態で、拳から爪を飛び出させて相手を切り刻んでいたし(ハ◯ラー様のヘル◯クローみたいな感じ)、シルフィはいきなり透明になって、いつの間にか作っていた短剣で相手の喉元を掻き切っている(俺の進化中に作成、材料ウシュムさんの爪と牙)。
ウカさんは尻尾を擦り合わせて炎や雷撃を発生させて、そこら辺を黒焦げにしていたし(魔法ではない……らしい)、ウシュムさんに至っては、指先から水魔法で発生させた超高圧の水で、1m位離れた標的を次々に撫で切りにしていた(なんとなくやってみたら出来たらしい)。
おまけに、俺が進化を終えて復帰したために、俺を中継地点として、経験値共有ネットワークが構築されたらしく、誰が倒しても全員のレベルがガンガン上がって行くので、更に無双状態に拍車が掛かってしまった。
……あからさまに過剰火力過ぎる気がする。
俺の出番がまったく無かった……ちくせう。
ちなみに、『魔石食い』では他の面子のレベルは上がらなかった。
まぁ、俺自身ですら、このスキル、何でレベルが上がるのか、今一分かってないから当然と言えば当然なのだけど。
もっとも、魔石は買い取り素材らしいし、生身の体が出来た関係で『味覚』も出来てしまった関係で、最初の一つ以外は食ってないけど。
……わざわざ血生臭くて、他に何の味もない塊を食いたいとは思えない。
こんな時だけ、体を得た事が怨めしい。
かくして、ダンジョンまでの道中に出てきた、魔物やその他を蹂躙しながら、踏破して到着した訳だ。
……その他の詳細?
そんなもの、盗賊だとか噂を信じた馬鹿チンだとかが襲って来たに決まっているだろう?
もちろん、全員漏れ無く経験値になって頂いたけどね?
で、到着したダンジョンなのだが、どうやらスタンダードな地中迷宮型らしい。
と言っても、地面に直接穴が空いていて、それに階段が付いているだけ、のとても小さなモノだけど。
そんなショボいダンジョンの探索で、そんなに長く拘束しておくつもりだったのだろうか?
「……いや、この辺まで来ようと思ったら、馬車使ったとしても、三日はかかる位置だからね?
まぁ、私達は自前の足だけで、三時間かからない位で到着しちゃったけどね?」
そんなモノかねぇ?
てか、そんなに遠くのダンジョンでの依頼って、『街近辺での拘束』出来てないんじゃ無かろうか?
まぁ、あまり関係無いし良いか。
時間も丁度昼時だったので、軽く昼食を取ってからダンジョンに潜る事になった。
まぁ、俺は食事を取る必要が無い為、手早く作ってボーッとしていたのだが、その時、あることを閃いた。
誰だかは知らないが、相手さんは、こちらを近間に留めたままで時間をかけさせたいと思っている、つまり、逃げられると困るが準備等には時間が掛かると言う事になる。
そして、それだけの準備に見合った、必勝の策の類いが有るのだろう。
……ならば、こちらも同じく準備を進めてしまえば良いのではないだろうか?
……うん。それが良い。そうしよう。
「総員、集合ー!」
俺の掛け声で、仲間達が集合する。
先程の俺の考えを伝えると、それもそうか、と賛意を貰えた。
「……しかし、準備と言っても何をどうするのでありますか?」
こいつ、稀に核心的な事を言うな……。
「それは-」
ここから先は、まだ秘密。
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「では、行って来るであります!」
「なるべく早めに帰りますので、待っていて下さいね?旦那様?」
俺からの提案、もといお願いで別行動に入るガルムとウシュムさん。
【契約】を結んでいる以上、互いの位置は分かるから、合流も容易いだろう。
ダメ元だけど、上手く行った場合のメリットがパない事に成る……ハズなので、上手く行ってくれると有難い。
「二人とも、気を付けて行って来るんだぞー!」
声をかけると、二人とも軽くこちらに手を振ってから、本来の姿に戻って移動を開始する。
次の瞬間には、既に姿が見えなくなっていた。
……俺ですら見えないって、どんだけスピード出てるんだ?あいつら……。
残ったウカさんとシルフィへと振り替える。
「さて、じゃあ行くとしようか?」
「ええ!行きましょう!」
「何か~良いものが出ると良いですね~」
いざ、ダンジョンへ!!
と意気込んで突入したのだが、早くも飽きてきた。
何故かって?
そんなもの、決まっている。
このダンジョン、ショボ過ぎる。
敵は弱い。
分岐は少ない。
宝箱の類いも無い。
良いとこ無しのクソダンジョンだ。
おまけに、ダンジョン内で発生する魔物では、知性を持つモノは産まれないらしいし、それらは死亡と同時に魔石を残して消滅するので、骨食の対象にする事も出来ない。
魔石食いに回しても良いのだが、大した大きさでも無いので、あまり旨みは無さそうだ。二つの意味で。……換金だな。
まぁ、唯一得したと思えるポイントとしては、連携の確認が出来た処……か?
もっとも、その連携とて、動きを合わせられる……かな~?程度のモノでしか無いので、大した収穫では無かったし。
しかも、そんな事をぼやきながらでも、数時間かからずに九層まで到達してしまった。
二人の経験からすると、この程度の魔物しか出てこないダンジョンだと、大体十層位までしか無いのだそうな。
で、最下層に迷宮主が居て、そいつを倒すと迷宮核が現れて、そいつを砕くとそのダンジョンは活動を停止し、暫く放っておけば勝手に崩壊する様に出来ているんだとか。
もっと規模の大きなダンジョンだと、故意的にコアを壊さず放置して、狩場として利用する事も有るらしいが、この程度では普通は砕いてダンジョンを潰してしまうんだと。
……一体誰がこんなの作ってんだ?
駄女神か?
周囲に浮かべた闇魔法剣で、時折飛び掛かってくる魔物を自動迎撃しながら進んでいると、天井まである、両開きの扉が現れた。
……なんぞこれ?
今まで扉なんて、何処にも無かったぞ?
解・『迷宮主の間』ですね。
「お!有った有った!ボス部屋の扉!」
「迷宮主の居る部屋は~、このように扉が付いているんです~」
皆が同じように教えてくれる。
確かに、今まで部屋っぽい処は有ったけど、どれも通路から直接入る様になっていた為、どこにも扉は無かったな。
「で?迷宮主って強いのか?」
「……ケースバイケース?」
「強い個体は~、とても強かった記憶があります~」
解・迷宮主の撃破、並びに、迷宮核の破壊には、かなりの経験値ボーナスが付くと同時に、レアなアイテムを落とす事が有る様です。
「良し!殺るか!!」
いきなりやる気になった俺を半ば呆れて、半ば愛しげに見つめる二人だったが、俺が扉に手を掛けた事で、気を引き閉めて戦闘態勢へと移行する。
それを確認して、一気に扉を押し開けて中へと飛び込む!
すると、そこには
部屋の中央に有るテーブルセットに優雅に腰掛け
頭部にシルクハット、首もとに蝶タイ、手には白手袋を嵌め
燕尾服に身を包み、ステッキを小脇に抱え、ティーカップを傾ける
目と口の切り込みだけで、笑顔を表現した仮面を被った紳士だけがそこにいた。
わっつはっぷんどぅ?
この世界では基本的にクズいのは人族だけです。
ギルマスは操られていましたし、ウォルフ君は主人公にびびってうっかりしていただけなんです、信じてあげて!




