第37話
駄女神回と言う名の説明回?です。
-とある神域
主人公が四人の獣に性的に襲われ、蹂躙されているその時、神域からそれを覗き見している阿呆がいた。
その阿呆は、興奮からか鼻血を垂れ流すと同時に、自らが参加出来ていない悔しさからか、血涙をも流している。
皆さん、言わずとも解っているとは思うが、この阿呆こそ、この世界を回している女神、駄女神である。
これで、耳からも出血しているのならば、何かの奇病にでも感染したのかと思えなくもないが、そんな事は無……くも無いな、うん。
訂正しよう。こいつは間違いなく病気だ……。
しかも、手の施し様が無い位に重篤な。
もちろん、『頭の』と付くが。
そんな阿呆こと駄女神だが、興奮と悔しさのあまり、完全に我を失っているらしい。
先程まで『きぃ~!』と噛まれていたと思わしきハンカチは、既に噛み千切られて水鏡の脇に放られているし、本人の髪や、垂れ流しに成っている血涙や鼻血が、水面を乱している事に気付いてすらいない様子だ。
まぁ、それも、使われている水鏡が、神特製の逸品であり、『使用者が見たいモノを映し続ける』能力を付加されているからなのだが。……無駄に高性能だなぁ、コレ。
そんな駄女神だが、今はとても『素晴らしい』シーンらしく、これまで以上に目を見開き、水鏡に顔を近付け、息を荒くして、食い入る様に凝視している。
それこそ、水鏡の中に飛び込もうとしている様にしか見えない。
しかも、別の意味でも興奮してきたのか、両手が胸元と股間部へと伸ばされて行く。
……この駄女神、18禁を破るつもりか?
ってふざけている間に、両手が目的地に到達してしまう!
「……ナニを、なさっているのですか?」
「うひゃぁあああああっ!!」ドボンッ!!
いざ、事を『致そう』としたタイミングで声をかけられ、驚きのあまり、水鏡に頭から突っ込む駄女神様。まぁ、あんな水面スレスレまで顔を近付けていれば、そうなって当然なのだけど……。
その上、頭が下がれば必然的にお尻が上がる、そんな自然の摂理に従って、下着を丸出しにしている駄女神様。
……その下着の一部がお湿りに成っている様だが、それは水鏡の水が跳ねたせいである。そこが、水が跳ねかかるハズの無い場所だったとしても、そうなのである……きっと。
そんな駄女神様に対し、まるで駄犬でも見るかの様な、完全に蔑み切った超低温の視線を向け、世界で一番の汚物でも、コレに比べれば、まだまだ清潔である、と言う意識を込めた声色で再度、下級神は自らの上役にあたる駄女神様に声をかけた。
「ナニを、なさって、いるのですか、とお聞きしているのですが?」
「え、えーと、その~……」
と、頭をびしょびしょにしたまま、口ごもる駄女神様。
それもそのハズ、素直に「覗きながらナニしてました」等と言える訳が無い。
言って言えない事は無いだろうが、その後どうなるのかは、想像に難くはないだろう。
そのまま沈黙が暫く続いたが、下級神が溜め息を一つ漏らした事でそれは破られる事になった。
「……するなとは言いませんが、なさるのならご自分のお部屋で『致して』下さいな……」
「ナ、ナンノコトカナ~?そ、それに、部屋に戻ってと言われても、水鏡はここにしか無いじゃないですか。それでは、彼の勇姿(意味深)を見れないですよ?」
「それも含めて自室でなさって下さいと言っているのです。どうせ、ご自分用のが隠してあるのでしょう?それに、ココは私の様な下級神でも使えるオープンスペースです。
ご自分の痴態を、誰かに見られたい性癖でもお持ちなら構いませんが、そうでないならお控え下さい」
「うう、部屋のはココの程よく見えないのに……。
分かりました。部屋へと戻ります……。
……でも、良いのですか?ココに来たと言う事は、私に何か用が有ったのではないのですか?」
「……彼の件で少し、お話をお聞きしたく……」
「……?彼、ですか?」
そう言って駄女神様は水鏡へと目を向けた。
そこには、今話題に上がっている『彼』のあられもない姿が映し出されている。
それを眼にして、少々顔を赤らめさせるも、駄女神の様に魅了される事はなく、視線を正面に戻して会話を再開させる。
「……ええ、彼の事についてです。本当の事を仰って下さい。彼に何をしました?」
……なにやらシリアスな展開の予感!!
どうやら、彼女には、彼の現状が不自然である、と確信が有る様だ。……まぁ、あそこまでご都合展開されれば、誰でも思いそうなモノだが。
一方、質問の形で詰問されている、当の駄女神だが、惚けているのか、はたまた分かっていないのか、首をコテンと傾げて問い返す。
「『何を』とは何を?私は何もしていませんよ?」
……多分、後者だなこれは……。
「……では、これまでの流れは、全て偶然だ、と?
偶々、彼女が傷付き、倒れかける場所の近くで、偶然にも、彼女が最も追い詰められた段階で間に合う様に目覚め、レベルも上げ終わっていたと言うのてすか?その後の三人もそうです。何故あそこまでタイミングが良いのですか?
それに、順番もそうです。彼が彼女達と遭遇する順番が、少しでもずれていたら、現在の様な強力なパーティーには、ならなかったハズですし、下手をすれば、彼自身も活動が出来なくなっていた可能性すら有りました。
さらに言わせていただくのなら、彼に渡した【ギフト】、あれらを渡していると言う事は、こうなることを予期してらしたのですよね?
……他にも幾つか不信な点は有りますが、これらだけでも、どうかお答え願えませんか?」
「……それらに答えるならば、それぞれ『多少意図したが基本偶然』『偶然』『意図はしたがこうなると思って無かった』となりますが、説明が必要ですか?」
ある意味、質問に質問で返された形だが、やはり納得はしていない様で、「お願いします」と答える下級神。
「そうですね、まず最初の『タイミング』の話ですが、最初の彼女との辺りは多少意図しましたが、それ以外には干渉処か想定すらしていなかったですからね?それに、意図したと言っても、あの森に送り込んだ事がソレに当たるので、結果としては『多少意図したが基本偶然』となります」
「……では、彼女との遭遇も、ですか?」
「はい。まぁ、ある意味必然では有りますが。彼に『仲間』を入手させる為にあの森へと送り込んだのですから、当然では有りますけど。後の三人、特に転生者の娘は完全に想定外でした。まさかあんな所にいるとは思わなかったですね。
……コレがある意味二つ目の質問の答え……ですかね?」
「では、あくまでも偶然である、と?」
「そうですよ?それと、最後の質問ですが、確かに意図はしました。あの組み合わせならば、人類への攻撃も幾らか容易いモノになるだろう、そう思っての選択でしたが、良い意味での裏切りでしたね。まさか対象を広く浅く、無数に増やす方向ではなく、狭く深く、少数精鋭の方向で使うとは思わなかったですね。そう言う意味では、コレの答えも『偶然』になります」
ほぼ偶然じゃねぇか。
……もしや、主人公の運のパラメーターが異常に高いから、それらの偶然を良い方向で引き寄せた、のか?
まぁ、神でもないのに分かるわけもないか。
「……故意的に干渉していない事は分かりました。しかし、彼へのメッセージはどう言う事なのですか?あんな曖昧な言い方では、本当に人類を絶滅させてしまうかもしれませんよ?少なくとも、あのメッセージは、取り方によっては、そう取れます」
確かに、それは気になる。
……個人的には、『意味』よりも『意図』の方が気になるけどね?
「確かに、彼と仲間達ならば、世界を焼け野原にする事は可能でしょう。もしかしたら、割と容易く敢行してしまうかもしれません。
ですが、彼はそこまではしないと思いますよ?なんだかんだで優しいですし。
それに、彼にそんな選択させる世界に、存続するだけの価値が有ると思いますか……?無いですよね?少なくとも私自身の権限で滅却処分に処す位は当然受けてもらいますけどね?フフフフフフフフフフフフ……」
oh……主人公の奴、いつの間に駄女神攻略しやがったんだ?
最後の下りなんて、完全にお目目からハイライトさんが何処かへお出かけに成っているので、かなり恐い。
下級神さんも引いている。
ヤンデレ怖ぇ……。
そんなヤンデレ駄女神だが、自室へと引き上げる前に、主人公の勇姿(意味深)を目に焼き付けるべく、水鏡を凝視している。
駄女神のヤンデレ化からのショックから立ち直った下級神さんが、そんな事を続ける阿呆に声をかけた。
「……まったく、そんなにも気になられるのでしたら、ご自身も下界に降りられて、混ざってらっしゃればよろしいのに……」
……おそらく、これは本気では無かったのだろう。むしろ、諦めからくる投げやりと、出来るものならやってみろ、と言う怒りにも似た感情からの発言だったと思われる。
実際に、その時の彼女の顔を見ていれば、嫌でも理解できたハズだ。
……しかし、そうは受け取らなかったモノがいた。
「……それだ!!」
……そう、駄女神だ。
この駄女神の脳内で、どの様に変換・変化を遂げたのかは不明だが、彼女にとっては、天恵の如く舞い降りた最適解だった様だ。
「私、これからちょっと出掛けて来るので、誰か来たら、居ないと伝えて下さいね?では、いざ行かん!彼の元へ!!」
そう叫びながら走り去って行く駄女神。
……せめて、下着は替えて行った方が良い気もするが、まぁ、それは言わぬが花、か。
そんな駄女神を見送り、水鏡の間から退出する下級神。
そうやって誰もいなくなった水鏡の間だが、まだ映像を映している様なので、少々覗いてみるか。
するとそこには
どうやってか主人公の寝室に侵入した駄女神が、混ざる為にベッドへと潜り込んだが、彼女達に見つかり、獲物は渡さん!と言わんばかりの勢いで、ベッドから蹴り出されているシーンだった。
……もう少し工夫しようぜ?駄女神様よぅ……。
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所変わって今度は下界。
ココはイストの街を含む、大陸の東側を支配する、旧イストリア王国、現イストリア郡の首都、イストリア。
その中枢に有る執務室にて、今後を左右する事になる会話が行われていた。
「……して、それは真の話であろうな?」
豪華な椅子に座った男が問い掛ける。
それに、冒険者ギルドの制服(実はあのギルド制服制。地味にウォルフも着ていた)を着た男が答える。
「ハッ!まず間違いは有りません!」
「そうか……」
と返事をした男の視線は目の前の男ではなく、自身が握っている白銀の角へと向けられていた。
「とうとう、このイストリアからも、『ドラゴンスレイヤー』が現れたか……。長かったが、これでようやく計画を実行出来る」
「その通りです。本人達は『撃退した』と言っていますが、ドラゴンの角だけを折るなど、殺すよりも難しい事です。それが高位竜であれば尚更です。よって、事実は『殺している』と見て間違いないでしょう」
「そいつともう一人は囲い込むとして、他は獣人だったか?」
「はい。その様に報告を受けています」
そこで、椅子に座っている男の顔が、厭らしく歪む。
「ククク!では、そいつがつれている獣人の奴隷も、『ドラゴンスレイヤー』の名誉も、ドラゴンの素材も全て我々のモノだ!!
急ぐぞ!!逃げられては、敵わんからな!!!」
-後の歴史書では、様々な表現でこの場面が出てくるが、決まって同じ評価が下されている
「この時点での人族は、無知であった為仕方がなかったかもしれないが、かの魔王との接触の方法や、交渉の仕方をもう少し考えて行えば、あそこまで苛烈に追い詰められる事は無かったであろう」
と……。
新たな黒い影が登場か?
一応、街編(仮)はここまで。
次回、キャラ紹介(予定)を挟んで新編開始の予定です。




