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やがて魔王へと至る最弱魔物《スケルトン》  作者: 久遠


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第34話

どうにかウシュムガル改めウシュムさんとの騒動を終え、本格的にウシュムさんが仲間に加わった。

あらゆる意味で疲れたので、一息着きたい気分ではあるが、そうも言ってはいられない。

疲れた顔のまま森の奥の方へと向かおうとする俺達を、不思議そうに見ているウシュムさんとガルム。


「貴方様?そんなに疲れたか……雰囲気のまま、何処に向かわれるのですか?」


「……いや、俺達元々、この森へは依頼で来てるからね。この奥に標的のゴブリンがいるはずなんだ」


魔物組二人は「成る程!」と納得の表情を浮かべたが、ウシュムさんはともかく、ガルムは俺と一緒に依頼を受けてここにいるのだから、知らないハズが無いのだが?

そんな思いを込めて視線を向けると、冷や汗を流しながら顔を背けるガルム。

……こいつ、完全に忘れてやがったな……。


時刻は既に夕刻へと差し掛かっており、あまりぐずぐずしていては、街から閉め出されてしまうし、塒の確保も儘ならなくなるだろう。少々巻きで行かねばなるまい。

全員を急かし気味に、森の奥へと踏み入って行く。

そんな中、俺は静かにウシュムさんへと近付くと、声量を落として話しかけた。


「ウシュムさん、ちょっと良いですか?」


「あら、貴方様♪いかがなされました?」


「ちょっとした相談なのですが……」


まぁ、ちょっとした意趣返しの相談ですがね。





******





無事にゴブリンの討伐……いや、この面子では、余剰火力過ぎて、もはや虐殺の類いではあったが、どうにか規定数の討伐に成功する。

……何?表現がおかしい?

実際問題、只の虐殺だった。


本人曰く「他の三人よりも出遅れている」ウシュムさんが、良いところを見せようとしたのか、ちょーっと大暴れした結果だ。

……いや、だってあの人、無属性魔法に分類される『空間魔法』で作ったらしい疑似空間庫の中から、いきなり超重量武器バルディッシュなんて持ち出して、それを女性の細腕にドラゴン特有の超筋力を乗せてぶん回すもんだから、かすっただけでゴブリンが挽き肉に成って行くのだ。

それを「俺の為」と言い張って憚らず、いかにも『誉めて誉めて』、と言わんばかりに、トテトテと近寄って来た彼女をたしなめる事は出来なかったよ……。

まぁ、一応耳が必要だと教えたら、流石にそれ以上挽き肉こさえるのは止めたみたいだけど。


ね?虐殺でしょう?


で、とりあえず、回収出来るモノだけ回収して、さっさと撤退する事になった。

時刻が時刻だったって事もあるが、こんな血みどろでスプラッタな光景が広がっている森の中で、休憩したいとは思えんしね。

まぁ、それでも軽く50は集まったのだから、戦果としては上々だろう。

……まぁ、回収出来なかった分を含めれば、軽く3桁を越えていたハズなのは、ここだけの話である。

犯人?そんなもの、魔物組の二人に決まっているでしょうに。


そんな訳で、俺達は用済みとなった森を後にした。



実は、今回彼らが倒したゴブリンは、全て同じ集落にいたゴブリンである。通常はそこまではいないハズなので、ギルドが後日調査したところ、この森のゴブリンの数が増え過ぎていた事が判明した。そのため、ここで彼らがある程度間引きしてなければ、氾濫暴走(スタンピード)が起きて、ゴブリンの波がイストの街を襲っていたかも知れなかったのだが、それは別の話。





******





肉体・精神双方からの疲労で、足を半ば引きずりながら、やっとの思いで街まで辿り着く。

俺は精神的に、シルフィとウカさんは肉体・精神双方共に疲れきっているが、その疲労をもたらした張本人であるウシュムさんはピンピンしてるし、ガルムはアホの娘補正か、まだまだ元気だ。……解せぬ。


一応、まだ日は沈んでいないが、それでも夕暮れである事に違いは無いので、門へと足を急がせる。

今回は、住民票もギルドカードも持っているので、通用口から全員がさっさと入ってしまえる。

そう、全員(・・)がだ。


実はウシュムさん、この人冒険者でした。

しかも、SSランク。

何でも、ウシュムさん位の高位竜だと、寿命が何千年単位になるそうで、かなりの時間と暇をもて余している事が多いらしい。(ちなみに、ウシュムさん本人は800歳程度で、まだまだ『若者』なんだとか)なので、稀に『人化』スキル等を使用して、人間に交ざって生活する個体がいるそうな。

ちなみに、子供を持つ事も可能なんだとか。

大概は、趣味の範囲で、工芸だとか美術だとかに打ち込むんだと。

んで、ウシュムさんの場合は、それが冒険者だったと言う話らしい。

本人曰く


「適当に依頼を受けていたら、いつの間にかこうなってました」


とのこと。

後で聞いた話だが、ウシュムさんは知っている人は知っている、ある種の有名人らしく、『銀髪の挽き肉姫(ひきにくき)』なんて言う二つ名まで頂戴しているのだとか。

……まぁ、アレを見てしまえば、納得せざるを得ないけどね……。



通用口でギルドカードを提示し、門を潜って街へと入る。

当分はここを拠点とする予定だが、やはり、まだ『帰ってきた』って感じにはならない。

まぁ、まだここに来た初日なのだから、当然ではあるのだけど。


周囲が夕闇へと沈みつつある中、ギルドへと足を向ける。

この面子の中で、夜目の利かない奴はいないが、酔っ払い等が突っ掛かって来ても面倒だ。

今は、手加減してあしらってやるだけの余裕が無い。

なので、面倒事が起きる前に、やる事を終わらせてしまうとしようかね。


そんなこんなで、酔っ払いに絡まれる事もなくギルドへと到着する。

入り口を押し開けると、昼間よりも左手側の受付スペースからは人が減り、右手側の酒場スペースではさらに賑わいを見せ、何処にこんなに居たのかと思わんばかりに人で溢れている。


その酒場スペースから、まだ日も落ちきっていないと言うのに、顔を真っ赤に染めた酔っ払いの一団が、席から立ち上がり、俺達の方へと近寄って来る。

……どうやら、酒で脳が溶けているらしい。


見るからに『屈強な大男』と言った体の一人が前に出て来て、俺と彼女達に声をかけてきた。


「おうおう、また見ねぇ面だなぁ(あん)ちゃんよぉ?そんなヒョロッヒョロな身体で冒険者なんてつとまんのかぁ?おい。

しっかもテメェみたいなのには、釣り合い取れて()えようないい女ばっか連れてやがる。

(めえ)らもこんな将来性の()え奴なんざ見限って、俺みたいな腕っぷしの強い『いい男』に乗り換えねぇか?」


……なんで最初にお仕事しないで、こんな疲れている時に出てくるんですか?テンプレさん?

しかも、出てくるタイミング、完全に間違えてますよ?


全く、俺はお前に心配されなきゃいけない程ヒョロくは無いし、お前程度で腕っぷしが強いなら、ウチの女性陣は全員そうなるぞ?

そして何より、酔いすぎて、こちら側に誰が居るのかも分かって無い様子だけど、周りにいる、まだ比較的酔って無い人達からの「馬鹿だねぇ~」って視線に気付いて無いのかしらん?

シルフィとウカさんだぞ?

下手な暴漢でも、この二人には手を出さないって話だったが、違ったのかね?

それに、周りの方々は、しっかりと認識されているぞ?



ウチの女性陣が、絶対零度の視線をお前さんに向けているって事に。




さて、どう対処したものか……と頭を悩ませていると、絡んできた馬鹿が動き出した。

どうやら、返事が無い事を、こちらが呆れている、ではなく、こちらがビビっていると勘違いしての行動らしい。

何せ、俺の肩越しに、俺の三歩後ろに控える様に歩いていたウシュムさんへと腕を伸ばしていたのだから。


「さぁ、お前らもこっち来て俺らと遊ぼうぜ?そいつとは違って俺は本物だぜ?俺はこう見えても、既にBランクの冒険者に……」




「ふんっ!!!」




「ぶげっ!!!!」


なんだか面倒になってきた上に、成りたてとは言え、仲間であるウシュムさんに手を出そうとしてくれたので、お礼に割と本気め、かつ死なない程度に手加減した拳を叩き込む。

無論、歯と鼻は折れているが、向こうから仕掛けて来た事だ、こちらが気にしてやる必要性は無い。


「て、テメェ!」


と、馬鹿と一緒に絡みに来ていた阿呆共が騒ぎ出したが、全員が首元や首筋にチクリとした僅かな痛みを感じて動きを止める。

全員が眼だけを動かして、互いの首筋を確認すると、そこには黒紫色の剣が添えられているのが見える。

……まぁ、俺の黒魔法剣なのだけど。


急所を押さえられて、身動き出来なくなった阿呆共に声をかける。


「……今の俺は、あまり気分が良くない。気晴らしに、そこの馬鹿を含めたお前達を殺しても良いかと思う程度には、ね?」


一旦ここで切って、相手の恐怖心を煽っておく。


「只だ。一つだけ、そんな俺の気分を、お前さん達の命を使わずに晴らす方法が有るんだが、知りたいか?」


「……あ、ああ。頼む、教えてくれ」


「……『教えてくれ』?」


「……いぇ、教えて、下さい。お願いします……」


「……まぁ、良いか。なら、教えてやる。

今すぐ、その馬鹿連れて、ここの勘定を多めに払い、残りは全部(・・)置いてとっとと消えろ。

次、似たような事していたら、もう容赦はしてやらない。次は殺す。覚悟をしておけよ?」


言い終わると同時に、闇魔法剣を解除してやる。

それを受けて、阿呆共の半数がへたりこみかけるが、残りの半数にせっつかれて持ち直す。


結局奴らは、俺に言われた通りに、勘定を払い、俺の近くのテーブルに残りの手持ちを積み、あの馬鹿を背負ってギルドを出ていった。



馬鹿共が出ていったのを確認してから振り替える。


「さて」


と一声出して、今の今までこちらを伺っていた、あの受付の狼さんへと向き直り、近付いて行く。(ちなみに、巻き上げた金は、ウシュムさんがきっちり回収・計算・保管した事は確認住み。……奥さんか?)

観察されている事に気付いていないと思っていたのか、明らかに顔が強ばっている。

そんなウォルフ(狼さんの名前byシルフィ)の胸ぐらを、カウンター越しに掴み上げ、かなり不機嫌な声色に平坦な話し方で会話を始めた。


「で?このギルドでは、ああ言った手合いの手綱を握るつもりが無い、って判断で良いのか?」


「……べ、別に、こちらが、あいつらをけしかけた訳では無い!それに、冒険者同士の争いは自己責任!こちらにとやかく言われる筋合いは無い!」


「……ほう?では、俺があいつらを叩き出した事に対するペナルティは無いと?」


「ああ!そう言っている!だから下ろし……」


「実は、俺の用事はこれだけじゃあ無いんだ」


「何?」


「……あんた、俺らが何処に行くのか、分かってたんだろ?」


「そ、それは、大体の予想は付くさ。あの二つの依頼を同時に、となると、あの森しか……まさか!」


「……やっぱり何か知ってやがったか。そう、そのまさかだよ!!」


空いていた手を、横に差し出すと、俺の掌にあるモノがそっと置かれる。……ウシュムさんによって。

それを、ある程度手加減しつつ、分かりやすいように、カウンターへと叩きつける。




「ゴブリン狩りの予定が、ドラゴンファイトに成っちまったんだ。これは、ギルド側の調査不足、または職員の怠慢だと思うのだが、返答は如何に?

ちなみに、コレが証拠の『竜の角』だ。コイツもちゃんと買い取れよ?」





そう、森でウシュムさん相手にゴニョゴニョしていたのは、この『証拠品』をどうにか用意出来ないか、と言うことでした!

これで、仕返し兼小遣い稼ぎ成功、かな?

ちなみに、ウシュムさん的には、牙やら爪やら鱗やらで良ければ、定期的に生え代わるので、素材として使ってもらっても大丈夫とのこと。若干恥ずかしそうではあったけど。




結局として、ギルドが情報伝達等の不備を認め、ゴブリンの集落化等の情報料や、依頼の達成金諸々を含めて金貨で200枚(内過半が角の買取り料。残りの半数が迷惑料である)が支払われた。


大量の金貨を引き出してホクホクの俺を、何だか妙に嬉しそうな女性陣が出迎えた。


不審に思って聞いてみたら


「あの酔っ払いを叩きのめしたのは、私達に手を出そうとしたからですよね?」


と、疑問形なのに、ほぼ確定している事象みたいに聞かれてしまった。


……ばれてたか……。

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新作始めてみました クラス丸ごと異世界転移~無人島から始まる異世界冒険譚~ 宜しければ、こちらもお願いしますm(__)m
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