第33話
あらゆる意味でのネタ技である『ロケットパンチ』で、自らの貞操を見事に守って見せた俺だが、現在、とある事で頭を悩ませていた。……ちなみに、飛ばした右腕の事ではない。あのあと、しっかり回収してくっ付けてある。
とある事とは、目の前で絶賛気絶中の、この発情ドラゴンをどうしようか?と言う事である。
……いやね?『契約』で強制的に『隷属』状態にしてでも、部下にするつもりまんまんなのだけどね?
こいつが起きた時に、どんな行動を取るのかが分からないので、どうしようか?と言う事である。
一応、急所である逆鱗をぶん殴って気絶させているので、情報通りであれば、発情も鳴りを潜めて正気に戻っているハズなのだが、確証が無い。
未だに発情しているだけならば、俺を性的に襲ってくるだけで済む……と思われるが、正気を喪ってバーサク状態で大暴れなんてされたら、目も当てられない惨状が出来上がりかねん。
最悪、俺達から死者が出る可能性すらある。
てか多分何人か死ぬ。
速攻で倒せた風ではあったけど、そもそも相手の最重要目標である俺を最前線に立たせる、なんて言う反則ギリギリの手で、相手から高火力攻撃と広範囲攻撃の手段を奪い、何もさせない様に畳み掛けたから勝てただけなのだから、まともに戦って勝てる訳もない。
それ故に、最低でも拘束はしておきたい所なのだが、縛れるだけの長さの縄も無いし、この巨体を縛る方法も無い。ましてや、万が一暴れられた時に、それを拘束し続けられるだけの強度を持っている縄なんぞ、何処を探しても有りはしない。鎖でも不可能だろう。
強制的に『契約』で縛ってしまいたい所だが、相手の同意がなければ『契約』自体が使えない。
どうしたもんかなぁ……。
と、そんな事を、気絶しているドラゴンがいつ動き出しても抑え込める様に、両足で頭を踏んづけながら(又は頭に乗っかりながらとも言う)、考えていた時だった。
それまで、俺のネタ技をガルムと共に少年の様に瞳を輝かせながら見ていたシルフィが、こちらに近付いて来た。
「……ジョンさんや、『最高に格好いい』技で倒したドラゴンの頭を踏んづけて、何やってらっしゃるんで?」
「……アレ見てその評価って……。お前さん、前世は男だったんじゃあるめぇな?」
こいつのノリは、なんとなくではあるが、俺に近い気がする。ガルムの場合は、あんな攻撃方があるなんて!って感じだと思う。……多分。
「ハハッ!前世も今世もちゃーんと、性別は女デスヨ?貴方を押し倒して色々しちゃいたいと思う程度には。アレに関しては、前世でロボットモノとか好きだったってだけですがね?」
……ちとやぶ蛇ったかな?目が笑って無えし。
こいつにそんな好かれる様なことしたかねぇ?
とりあえず、直近の発言はスルーしておくとして、現在抱えている懸念を説明してみる。
「……てな訳で、どうしたもんかと思ってね。なんか良い案無いか?もしくは心当りとか。」
フム?と顎に手を当てて考え込むシルフィ。
種族がエルフなだけあって、外見は可憐な美女なので、なかなか様になっている。
……まぁ、口を開けばアレなので、やっぱり残念エルフではあるのだが。
そんなシルフィだが、何かに思い当たったのか、パチン!と指を鳴らして、『空間庫』のソート用のボードを出し、色々と操作し始めた。
そして、ようやく目的のブツを見つけたらしく、満足そうに頷いてから、右手に細い縄の様なモノを取り出した。
「いやー、良かった良かった、入ってた。一瞬、入れてなかったかと思ったけど、ちゃんと入ってて良かったよ。」
シルフィが取り出したそれは、どう見ても、この状況をどうにか出来る程に、長い様にも強固な様にも見えはしなかった。
「……シルフィさんや、前から残念だとは思っていたけど、そこまで頭の中身が残念だとは思わなかったぞ?そんな、細くて短い縄未満の紐で、アレがどうにか出来ると思ってんのか?」
取り出した当の本人は、「酷い言われようだ。」と苦笑いを浮かべながら、ソレについて説明を始めた。
「これは、私が転生特典として貰ったモノで、銘を『グレイプニル』って言うんだ。多分知っているんじゃないかな?」
……ちょっと待て、『グレイプニル』だと?
「……なぁ、ソレって、あの『グレイプニル』の事か?」
「ええ、どの『グレイプニル』かは知らないけど、多分その『グレイプニル』で合っているハズよ?
もっとも、これは本物じゃあなくて、あくまでレプリカ、偽物らしいけどね?」
そりゃ、本物は喪われているのだから、レプリカしかあるめぇよ?
「んで?どこまで本物なんだ?」
重要なのはそこだ。
大した性能の無い劣化品だった場合、使い物になるのか微妙だ。
高性能だったら、こいつが存在を忘れかけるハズが無いしな。
「機能は、『対象の拘束』、『スキルの封印』、『破壊不可能』、『状態維持』って感じだったハズ。」
「……ソレで劣化品なのか?てか、ソレ使えばあの時の岩蜥蜴、普通に倒せたんじゃないか?」
普通にチートだと思うぞ?
流石は『神器』って感じだが?
「まぁ、あの時はコレの存在自体を忘れてた、ってのもあるのだけど、使い勝手が悪いのよ、コレ。」
?どう言う事?
何か使用条件でもあるのか?
「まぁ、とりあえず使ってみましょうか。」
そう言って、俺が乗っかったままのドラゴンに近付き、身体に触れてからこう続けた。
「んじゃ行くわよ?『この者を封せ、グレイプニル』!」
すると、それまでシルフィの右手にまとめられていた紐束が、独りでにほどけ、幾条にも別れて、口元・翼・両手足・尻尾等の主要な部分を拘束してしまったのである。
「っとまぁ、こんな感じなんだけどね?」
「……コレの何処が『使い勝手が悪い』んだ?」
十二分にチートである。
が、当のシルフィは、苦笑いを浮かべながら、ナイナイとばかりに手を振りつつ、こう答えた。
「実はコレ、発動するのに、相手に触ってないとダメなのよねぇ。おまけに、触れながらさっきの真言を唱えないと、発動しないし……。けっこう恥ずかしいんだからね?アレ。」
……成る程、確かにそれなら『使い勝手が悪い』わな。
しかも、存在を忘れたくなるレベルで。
「しかも、拘束が終わるまでに対象が動くと、拘束が失敗しちゃうからね。だから、あまり使ってなかったんだ。」
「……ちなみに、『動く』の範囲はどの辺まで?」
「えーっと、覚えている範囲では、『跳ね回る』位になるとほぼ失敗したと思う。」
欠陥品じゃねぇか!
流石レプリカ、劣化が酷いな、おい!
ってか駄女神のやつ……かどうかは知らんけど、もうちょいまともな性能にしたやつくれても良かったんじゃないか?
まぁ、でも一応は拘束出来ているらしいので、とりあえず起こして取り調べと行ってみるか。
まずは、『意志疎通』スキルで話しかけてみるかね。
『あー、あー、テステス。起きてますか-?どうぞ-?』
『……ええ、今起きました。とりあえず、頭から降りてもらえると有難いのですが?』
こりゃ失礼。
軽く跳んで、頭から降りる。
『んで?気分はどうかな?ドラゴンさん。まだ発情しているなら、やりたか無いけどもう一戦やらかすか?』
『いえ、今は収まっているので、大丈夫です。
ですが、出来れば、この拘束は解いていただけると嬉しいのですが……。』
……まぁ、正気に戻っているのなら、ふん縛っておく必要は無い……か?
「一応、正気らしいんだが、どうしようか?本人(?)的には、拘束は解いて欲しいそうだけど?外してやる?」
「正気に戻っているなら、自分は解いても良いと思うであります。」byガルム
「私は解いても良いと思うよ?起きた時から暴れなかったって事は、少なくても、現状を理解するだけの理性が戻っているって事だしね。」byシルフィ
「私は~、とりあえず、解かない方が良いと~思います~。解いて何かあるよりも~、解かないで何もない方が良いかと~。」byウカさん
フム、成る程ね。
焦点は『安全か否か』って訳か。
なら、アレで良いかな?
『ドラゴンさんや?聞いての通り、俺達の安全が確保されるのなら、拘束を解いても良いと思っているのだけど、どうする?』
『どうする、とは?いくら私が、この場で『攻撃の意思は無い』と言った所で、意味は無いでしょう?』
『そこで、だ。俺とある『契約』をしてもらう。そうすれば、この拘束も解いてやれるのだけど?』
『……分かりました。それは、どうすれば良いですか?』
『何、簡単さ。俺が言う事に賛意を示せばそれで済む。OK?』
『了解しました。ではお願いします。』
フム、では行っとくか。
「じゃあ行くぞ?『俺達は貴女を攻撃しないので、貴女もこちらを攻撃するな』。この契約を受け入れるか?」
辛うじて首は動かせたドラゴンが、首を縦に動かして肯定する。
【『誓約』が締結されました】
よし。これで大丈夫だ。
「シルフィ、もう解いて大丈夫だぞ。『誓約』で縛ったから、もうこちらを攻撃する事は出来ない。一応は安全になった。」
「了解。じゃあ、解除しちゃうからね。」
そう言って、ドラゴンに近付くシルフィ。
未だに拘束を続ける『グレイプニル』にシルフィが触れると、独りでにほどけ、元の紐束となって彼女の右手に収まった。
拘束を解かれたドラゴンだが、全身の関節を動かし、異常が無いかの確認をしていた。
確認が終わったのか、それまでの二足状態から、腹を地面に付けた『伏せ』の状態に移行して口を開いた。
「……この度は、大変ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした。普段はこのような醜態を晒す事は無いのですが、偶々貴方様の魔力に充てられたらしく……。」
?どういう事?
詳しく聞いてみた所、発情期が近かった彼女は、里帰りするためにこの辺りを通過する予定だったのだが、数日程前に『濃厚な魔力』がそこまで遠くない所で発せられ、ソレに充てられてしまった為発情の度合いが酷くなり、里帰りを一時中断。この森で、鎮静化するのを待っていたのだが、俺達が入って来てた。そして、俺の魔力に反応して、飛び出してしまい、現在に至るのだそうな。
……なんだろう、コレ。
なんとなく身に覚えがある気がする。
「……ちなみに、その最初に充てられた魔力の持ち主とか分かったりするのか?」
「ええ、それは勿論。何せ、その方は、私の目の前にいらっしゃる貴方ですもの♪」
……ええ~。真面で~?
てか、それって、あの岩蜥蜴との戦闘が原因って事じゃねぇか……。
……つまり、アレだな!
コレは事故だったって事だな!
よし!原因が分かった所で早速本題に……と行きたかったんだけど、ちと問題発生。
「……あの~、ドラゴンさんドラゴンさん?」
「あら、『ドラゴンさん』なんて他人行儀な。私の名前である『ウシュムガル』の愛称、『ウシュム』もしくは、妻として『お前』とお呼びくださいな♪」
「あの、ウシュムガルさ「ウシュムです♪」……ウシュムさん?」
「はい♪何ですか?」
「……さっきから、何で俺の事、胸元に抱え込んでスリスリしてらっしゃるんですか?流石に冷たくて痛いでしょう?鎧ですし。なんでそろそろ……」
「あら、そんなの全然気になりませんわ♪それにコレは、先に出会われているお三方との差を埋めるための行為、所謂スキンシップです。なので、お気に為さらず♪」
そう、俺は今、ドラゴンさん改めウシュムガルさんに捕獲されている。
本人曰く、一応は鎮静化しているが、ドラゴンの発情期は百年近く続くので、『この人(竜)だ!』と決めた相手と、収まるまで一緒にいるのが決まりなんだとか。
この場合、その『相手』ってのが、俺らしい。
最初の魔力に充てられた時にビビっと来たのだとか。
まぁ、俺には、ドラゴンを愛でる趣味は無いのだけれど。
「……とりあえず、スキンシップは分かったので、『人化』スキルか何かで人型になってもらって大丈夫ですか?大事な話があるので。」
まぁ、『契約』やら、俺の目的やらだけど。
「分かりました。では……」
ウシュムガルさんの巨体が強い光を放ち、一瞬でその姿を変える。
そこには、身長はシルフィ並みで、スタイルはガルム以上ウカさん未満、長い銀髪を背中に流し、全身を被っていた白銀の竜鱗を変化させた、と思わしき鎧を纏った高貴な雰囲気を漂わせる女性が立っていた。
「これで大丈夫でしょうか?貴方様?」
うん、こちらの方が話しやすくて良い。
そして、追加の『誓約』で情報封鎖をかけてから、大まかに事情を説明し、契約の是非を問うて診た。すると、かなりあっさりと「是」が返ってきた。
世界を敵に回す、と説明しても
「そちらの方が面白そうですし、貴方様と共に居られるのならば、是非もなし!ですわ♪」
とのこと。……何だかなぁ。
ちなみにこの後、正式に『契約』したのだけど、なぜか『隷属契約』になっていた。解せぬ。
まぁ、何故か本人は喜んでいたけれど。
銀髪肉食竜人お姉さん登場
ヒロインに成るか?




