第31話
やせい の ドラゴン が とびだしてきた!
おや? ドラゴン の ようす が おかしい。
ある~日~、森のっ中~、ドラゴンに~、であ~った~。
道なき森の中~、ドラゴンに出会った!!
……あのドラゴンが広場に着地した時、脳裏にそんな歌が流れた。
もちろん、かの有名な某熊の歌の替え歌だ。
……そんなことしている場合か?
悪い。そんなことでもしてないと、精神が持たん。
いや、考えても見て欲しい。
初心者用と銘打たれているハズの場所に、いきなりドラゴンの登場である。
……無理くね?
てか詐欺だろこんなん!
あのギルド員、何も言ってなかったじゃあないか!
知ってて言わなかったのなら、怨むぞ!!
生きて帰れたら、ぶん殴ってやる!!!
そんなことを思いながらも、生き残る為には情報がいる。
……とりあえず、観察してみるか。
隠れている木立から、頭だけを軽く出して様子を伺う。
広場の中央付近に降り立ってから、未だ動く気配がないドラゴン。
見た目は、東洋系の龍ではなく、西洋系のドラゴン、しかも、手足が適度に長く、胴も太過ぎず、首も適度な長さが有るし、立派な翼と尻尾まで揃っているので、見ているだけなら、とても格好いい。
スタイリッシュ・ドラゴンだ!
……見ているだけで良いならだが……。
そんなドラゴンだが、どうやら逃げるのは無理そうだ。
……動かなそうなら、行けるんじゃ?
いや、多分無理。
だってアイツ、多分何か探しにここへ来ている。
その証拠に、首を左右に動かしたり、眼をキョロキョロさせて、周囲を伺っている。
警戒している感じてはない……気がする。
まぁ、それだけならば、わりとコミカルに見えなくもないので、可愛らしいと思えなくも無いのだが、状態的にそうは思えない。
何故ならば、その眼は血走り、半開きにされた口からは蒸気と共に荒い吐息が漏れだし、身体を支える尻尾は、その先端がバシバシと地面に降り下ろされているからだ。
……どうみても、興奮しているか、激怒しているか、はたまた異常状態に陥っているかの三択だ。
俺としては、三番目であってくれた方が、まだ逃走の目が残るのだが、多分無いだろうな……。
今と状況で声を出すと、速攻で気付かれそうなので、『意志疎通』スキルで仲間と相談してみる。
『なんかあのドラゴン、明らかにイッちゃっているんだけど、何か心当たりある人~。ついでに打開策何かある人~。』
『両方無い。ぶっちゃけ無理ゲー。』byシルフィ
だろうな。
『……こんな所で散る命ならば~、貴方を押し倒しておくのでした~。』byウカさん
こんな時でも相変わらずだが、誰がご主人様だよ……。
いつの間に、こんなに好かれたんだ……?
『フム?匂いからして、あのドラゴンは雌であります。様子がおかしい理由は不明でありますが、自分も何か探していると思うのであります。対策と言っても、逃げられなさそうならば、戦うしか無いのであります。』
へー、女性だったんだ、あのドラゴン。
『戦うしか無い』って言うけど、その選択をして、無事に終わるか分からないから、相談していると言うに……。
まぁ、正論ではあるか……。
しかし、いきなり戦闘、は正直勘弁願いたい。
なので、『何』を探してここにいるのか、だけでも探ってみる事にする。
……何?どうやって探るつもりだ?
今回多用している『意志疎通』スキルなのだが、実は使っているうちに、ある効果……と言うよりも、機能と言うべきモノを発見した。
それは、通常の様に双方向的に会話するのではなく、こちら側が一方的に指定した相手から読み取れると言うモノだ。
一見便利そうではあるのだが、もちろん欠点が有る。
それは、相手が強く思っている事しか分からないのだ。何でも読み取れる訳ではない。
まぁ、この場合はおそらく大丈夫だろう。
何せ、相手は明らかに何かを探している。
探し物をする時に、ソレを思い浮かべない人はおるまい。……人ではないけど……。
てな訳で早速やってみるか。
『……ス、お……どこ、……、……』
……良く聞こえないな……もうちょい強めにかけてみるか……。
さあ、今度こそ、お前がここに来た理由を教えて貰うぞ!!
『雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄オスオスオスオスオスオスオスオスオスオスオスオスオス♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂♂男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男男』
……ん?
今、何か変なモノが聞こえた気がする……。
……疲れているのかな……?
うん、気のせいだろう。
では気を取り直して、もう一度だ!!
『雄!オス!♂!男!!
おかしいです!どこにいるのですか?この辺にいるハズですのに!
あの強烈かつ魔物風味の男性っぽい魔力を感じてからそう経ってはいないのですから、まだこの辺にいるハズですのに!
偶々数日前からこの辺に滞在していたのは幸運でしたけど、取り逃がしてしまっては、幸運もナニも有りはしないのですから、絶対に逃がしませんわ!!
あぁウズウズしてムズムズして仕方ないです!必ずや、あの魔力の持ち主の方を捕まえて『ピーーー』な事や『ポーーー』な事や『プーーー』だったり『ズキューーーン』な事だってしてみたいですし、逆に『ワオーーーーン』な事や『パオーーーーン』な事だってされてみたいのですから、絶対に捕まえて……『最低な淫語の羅列につき自主規制』……して見せますわ!!!』
……なんだろうこの気持ち……。
声自体は耳に心地好く、何時までも聞いていたい様な気にさせられる程の美声なのだが、内容が酷い。
酷すぎる。
『意志疎通』で音声として感知出来る声は、基本的に本人の声そのままなので、その美声でとてつもなく卑猥な事を頭の中で垂れ流しにしているようだ。
ソレを音声としてダイレクトに聞いてしまったのである。
……正直、耳をレイプされた気分だ。
扉が有れば、まず間違いなくソッ閉じする自信がある。
……これはアレかな?
『発情期』ってヤツかな?
それならまぁ、『興奮』して『怒っている』様に見える上に『状態異常』に成っている様に見えても、おかしくはない……のか?
とりあえず、得た情報(頭の中がドピンク状態+考えていた事)を『意志疎通』で各員に伝達し、どうするのかの検討に入る。
『ってな訳で、探し物は『男』だと思われるんだが、どうしようか?』
『明らかに『発情期』でありますな……。』
『取引として、男連れてくるから見逃して、は無理そうね。』
『……それに~、先程の話を聞く限りだと~、あのドラゴンが求めているのは~、『貴方』だと思われるのですが~?いかがされるのです~?ジョン様~?』
様って……。
あと、その他二人もハッとした顔しない。
多分ではあるけど、狙いは俺……かなぁ?
でも、その条件(近い+魔物+男?+魔力が強い)に合致する(超近い+現在魔物+一応男+魔力12万)のも俺以外だとあんまり居なさそうだしな……。
そんな事を考えていた時だった。
周囲の違和感に気付いたのは。
そう、それは、余りにも周囲が静かになっていたのだ。
先程まで絶えず聞こえていた、荒い吐息や尻尾で地面を叩く音が聞こえなくなったのだ。
(……もしかして、諦めて帰った……か?)
と淡い期待を胸に、ソッと隠れている木立から頭を覗かせ、様子を探る。
するとそこには
こちらを血走った眼で凝視するドラゴンの顔があった。
そして、俺の脳裏に『意志疎通』スキルによる会話に似たナニカによって、音声によるメッセージが送られて来た。
『ミ ~ ツ ケ タ ァ ♪』
……声の調子からして、多分ではあるが敵意は無い。
むしろ、長い間待ち焦がれていた、想い人との再会を喜ぶ様な情念すら感じられる。
相手はドラゴンなので、表情はよく分からないが、なんとなく口角が上がっている様に見えるので、おそらく笑みを浮かべているのだろう。
声の調子と合わせて考えると、おそらく『彼女』(一応女性らしいので)は可憐な笑みを浮かべて、こちらを見つめているのだろう、と予測される。
が、
実際に見ているこちらからでは
口を開き、牙を剥き出しにし、血走った眼でこちらを睨んでいる様にしか見えない。
つまり、『超』が付く程怖い。
しかも、俺は今、がっつり目が合ってしまっている。
その状態での、あのセリフだ。
……そもそも存在しない心臓が止まるかと思ったわ……。
そして、完全に捕捉されているのが確定した為、ある行動に踏み切る事にする。
俺の隣で固まるガルムを背中に乗せ、揃って震えている二人を左右に抱え、ドラゴンに背を向け全力で走り出す!!
ちなみに、ドラゴンと目が合ってから、逃走するまでおよそ二秒。
流石のドラゴンも、あの状況からの突然の逃走は予想出来ていなかったらしく、暫く思考停止していたが、俺達が離れるのを見て再起動する。
それまで僅か数秒だったが、俺の全力での逃走だったので、これはいけたか?と思ったが、その時
『逃がしません♪』
の一言と共に、眼前へと地面から水の壁が立ち上がる。
咄嗟に急減速をかけて、緊急停止する事に成功したが、行く手を壁に塞がれてしまう。
上を見上げても、かなりの高さまで壁が在り、跳び上がって越すのは多分無理。
同時に、壁を強行突破するのも多分無理だろう。
何せ、壁によって太めの木の枝がスッパリ切り落とされているのだ。飛び込めば、只では済むまい。
逃走は諦め、ドラゴンへと向き直る。
ある程度、開いてしまっていた距離を詰めドラゴンへと話しかける。
「……何が目的で、俺達を捕まえているかは知らないが、何かあるなら早く言ってくれ。何もないなら解放してくれると助かるのだけど?」
こちらから声をかけられたのが嬉しいのか、ソワソワと小刻みに体を動かすドラゴン。
人間の女性ならば、可愛らしく写るかも知れないそれは、ドラゴンの姿では攻撃直前のモーションにしか見えない……。
『貴方達?いいえ、私が欲しいのは貴方だけです。他の方は帰っていただいて結構ですよ?』
そう答えながら、俺達の後ろの壁だけを解除して、通り道を作る。
抱えていた三人を下ろし、見に行ってもらう。
……どうやら、嘘ではなく、本当に解放するつもりらしい。俺以外は、だが。
一応の確認を終えた三人が俺の側に戻って来た。
逃げられるならば逃げたいが、俺を置いて行きたくはない、が二人。
絶対に俺だけ置いて行くつもりがないのが一人って所か……。
嬉しいけど、どうしたものかね……。
とりあえず、目的だけでも聞いておくか。
「用が有るのは俺だけだ、ってのは分かった。
だが、俺に何の用だ?見当が付かないんだが?」
嘘です。本当は、ナニしようとしているのかは、大体予想出来てます。
『フフッ♪既に私の心を読んでいる貴方ならば、言わなくても分かるでしょう?』
アレ、俗に言う『心の声』だったのか……。
初めて知ったわ……。
『ですが、ここで改めてハッキリと宣言しておくとしましょう♪』
と、そこで一度切り、今度は実際に口から発声して宣言してきた。
「貴方には、私と契り、子供を作っていただきます!
よろしいですね?旦那様♪」
……oh……。
『旦那様』と来ましたか……。
俺、こいつと何か接点合ったか?
無いよな……。
なのに、何でいきなりこんなことになってんだ……?
訳が分からないよ……。
てか話せんのなら、最初から会話しろよ……。
そして、俺の後ろのお嬢さん方。
その、恐怖心だとかから変換した殺気・怒気の類いを治めて下され。恐いから。
「後から出てきて……」だとか「この人は私の……」だとか「死なすであります……」だとか呟かないでいただきたい。
そもそも、お前さん達は、その要求が受け入れられないと知っているだろうに。
「悪い。ソレ無理。」
「……何故ですか?」
俺は兜のバイザーを上げながら答えた。
「……ホレ。この通り、俺はスケルトンだ。そもそも、アンデッドなのだから、子供は作れないし、スケルトン故に身体は骨しか無い。故に無理だ。」
どうだ、この大前提からの否定!
これならば、諦めて他に行くしかあるまい。
なんて考えていた時だった。
あのドラゴンが、俺の最大の秘密にして、俺達パーティーに対する最大の爆弾を放り込んで来たのは……。
アイツは小首を傾げながらこう言ってきた。
「……?何を言っているのですか?貴方は『人化』スキルを持っているのですから、そんな事は関係無いでしょうに?」
な、何故ばれた……!!!
そして、その一言で、仲間から向けられていた視線が、指示を仰ぐソレから、獲物を狙う肉食獣のモノへと変わったのが、気配だけで理解出来た。
……アカン、詰んだわ……。
ドラゴン は 発情 している!
ドラゴン の 爆弾発言!
こうか は ばつぐんだ!
主人公 は 仲間たち から ねらわれている!
……どうしてこうなった……。




