第30話
四人全員で門へと向かい、ピーターのおっちゃんに軽く挨拶してから外に出る。
あの二つの依頼をこなすならここだ!と言う絶好の場所が有るらしいので、そこは現役にして先輩冒険者である二人のアドバイスに従って先導されている。
……されているのだが、本当に良かったのだろうか、と言う思いと共に口を開く。
「二人共、本当に良かったのか?付いてきて。疲れているんじゃないのか?」
「そうであります。自分と主殿は魔物故にまだまだ元気でありますが、お二人はそうでは無いでありましょう?」
実は、俺とガルムのペアと、シルフィとウカさんのペアとを比べると、疲労の度合いが段違いである……ハズなのだ。
そもそも、俺はアンデッドだから疲労しないし、ガルムの正体(?)はフェンリルだから、体力自体が人間とは段違いに多い。それに加えて、俺達は拠点(ゴブリン砦)を出発してから、ほぼ真っ直ぐにこちらを目指して進むだけだった。日数もそんなに経ってはいない。
ぶっちゃけそこまで疲れる様な道程では無い。
それに比べて二人の方は、日程(最低でも一週間)も気苦労(無理矢理知らない奴等と組まされる)も実際的な疲労(他の奴等の分までの戦闘を含めた労働)も段違いに多く、おまけに数日前に両者共に大怪我(脇腹にナイフ+岩蜥蜴の尻尾ビンタ)をしており、あそこからの旅はほとんど俺達で作業を負担はしていたが、まだまだ全快とはいかないハズなのだ。
ぶっちゃけ、俺的な私見では、宿にでも放り込んで、強制的に休ませるべきである、とすら思っている。
それに、旅の途中で『岩蜥蜴の素材で新しく装備を作るんだ!』とか騒いでいたので、てっきり俺達が依頼に行っている間に、馴染みの鍛冶屋にでも行くつもりかと思っていた位である。
しかし、そんな質問をされた当の二人は、顔を見合わせた後、苦笑いを浮かべながら返答してきた。
「確かに疲れていると言えば疲れてはいるけど、そんなに心配される程に疲労が溜まっている訳じゃあ無いよ?」
「そうですよ~。だって、夜営の準備も調理も~、更に夜間の見張りまで~やってもらっていたのに~、そんなにクタクタになんて~、なるはず無いですよ~?」
「そうそう。それに、移動だって自分の足で歩いて来た訳じゃあ無いのだから、疲れようが無いからね?それに、一応はAランクの冒険者なんだから、ある程度疲れていても、動きに支障は無いしね。」
……確かに、怪我人だったから、荷物は収納してもらって、背中を空けてから、背負って歩いてこの街まで到着したけども、まだ三日しか経っていないのだ。まだ安静にしていた方が良いと思うのだけど……。
「……それに、疲れている云々を言うのであれば、貴方達の方が遥かに疲労していないとおかしいのだけれど?」
「そうですよ~。馬車で四日かかった所から~人一人づつ背負って~、三日で帰って来た人達が~、疲れてない訳~、無いじゃないですか~。」
……そんなものかねぇ?
それに、と彼女達は続ける。
「私はどちらかと言えば『魔術師』寄りだからね。魔力さえあれば、戦えない事は無いよ?……あくまでも『戦えなくはない』程度だけど……。弓の方は好きではあるけど、あくまでも補助だし、矢のストックもまだ空間庫の中に入ってはいるからね。」
「私の短剣も~、そこそこ傷んで来てますが~、一応はミスリル合金ですので~、まだまだ大丈夫ですよ~?」
……さいですか。
なら、もう好きにさせておくのが、最善手かね?
「……了解。んじゃ、何かあったら必ず言う事!OK?」
「「了解です(~)!」」
******
時間からして、道程の半分が過ぎたであろう頃に、そう言えば、と疑問に思っていた事が有ったのを思い出した。
「そう言えば、ステータスで能力値を見れるようになったけど、アレらって何がどんな値なんだ?」
と、同じ転生者(推定)であるシルフィに聞いてみる。
「?基本的にそのまんまだけれど、何か分かりにくい欄とか有りましたかね?もしかして、ゲームとかあんまりやらなかった人?」
「いや、『体力』と『攻撃力』に『防御力』はそれこそ、そのまんまだろうとは分かるけど、その他の『魔力』と『抗魔力』と『素早さ』、それと『運』の値が、それぞれどの範囲までをカバーしているのかがよくわからん。」
「ん~、と言われても、基本的にそのまんまなんだよね……。分かっているであろう『体力』、『攻撃力』、『防御力』からついでに説明すると、それぞれ『どれ位ダメージを受けられるか+スタミナ等の最大量』、『攻撃した際にどれだけ大きなダメージを与えられるか』、『攻撃された際にどれだけダメージを軽減出来るか』の数値になるわ。ここまでは大丈夫?」
フム、大体予想通りだな。
続きを手で促す。
「次に『魔力』と『抗魔力』ね。『魔力』は『魔力の最大量並びに魔法等を使用した際の攻撃力』を表しているの。ある意味、『攻撃力』の魔法版ね。
それと『抗魔力』は見ればなんとなく分かるけど、『魔法等を使用された際の防御力並びに抵抗力』って所かしら?
ちなみに、両方ともに『魔法等』って表現が入っているのは、魔法以外にも、スキルの中に魔力を消費して行使されるモノも有るから、それ関連だね。」
うん、納得。
頷きながら、最後の説明を要求する。
「最後に『素早さ』と『運』ね。『俊敏値』の方は『どれだけ素早く動けるか』の数値ね。それと、この値が大きい程、反射神経何かも鋭い傾向に有るわね。『運』は『不確定な状況で、より自身にとって良い状況を引き寄せる』力の数値化したモノ……と言われているわ。ぶっちゃけ、『運』に関しては、高ければ良いことが多い程度しか分かってないのよ。高くても、失敗する時は失敗するし。」
「なんぞそれ……。ちなみに、『運』ってどのくらいから『高い』って言えるんだ?」
「そうねぇ……。大体100超えから強運、200から豪運、300超えたら神運、って言われる位だから、100超えかしら?一応、私も150位有るから、良い方ではあるらしいけど。」
……そうか……やっぱ高かったか……。
てか、高過ぎじゃね?
アレか?魔王クオリティって事か?
……まぁ、あまり気にしても仕方ないか。
「一応、それで一通り説明したけど、まだ何か聞きたい事はある?」
「……フム、そう言えば、(+~)みたいな表記が有ったけど、アレって何なんだ?」
「それは、スキルか何かでの上昇分だと思うけど?その手の表記は見ようとすれば、詳細が表示されるハズよ?」
「ん、じゃあやってみるか。」
どれどれ?
素早さ・40000(+60000)←効果・スケルトンの特性
効果・スケルトンの特性
スケルトンの特性によって得られた効果
魔力値の1/2の数値を素早さの値に加算する
oh……。
まぁ、納得は出来るか。
この身体は魔力で繋げ・動かしている。
その動力に当たる魔力が大きく強くなれば、素早くもなる……か?
そんな事を考えていたが、他の皆が足を止めたので、つられて俺の足も止まる。
前方を見るとそこには、目的地と思われる森が広がっていた。
******
「とりあえず、森まで付いたけど、どうする?手分けして行動する?」
「……いや、それは止めておこう。二人は地理やら植生何かも把握しているだろうけど、俺とガルムは初だからな。一緒に行動した方が良いだろう。」
「自分もそれが良いであります。」
「私も~それが良いと思います~。」
「なら、まずは薬草集めからね。
見分け方は……分かるかしら?」
ぶっちゃけ、分からん。
隣のガルムを見てみるが、こいつも分かって無さそうだ。
素直に二人で首を横に振っていると、シルフィが空間庫から草の束を取り出した。
「コレが、ターゲットになってる通称『薬草』、正式名称『ンドゥバ草』よ。」
「……済まん、もう一度、その葉っぱちゃんの名前お願い出来るか?」
「……ンドゥバ草よ。ちなみに、コレが正式な名前だからね?言いたい事は分かるけど。」
真面か……。
聞き間違いかと思った。
一応、鑑定しておくか。
薬草・品質E
体力回復薬に加工される薬草
そのまま食べても一応効果は有るが、加工した方が効果が高い
そのままだと青臭いが、香草としても使用出来る
本気でンドゥバ草だったよ……。
誰だよ、こんな名前付けたの……。
どうやって発音すんだよコレ……。
そんなンドゥバ草に顔を近付けて匂いを嗅いでいたガルムだったが、顔をしかめて草から離れる。
どうやら、匂いを覚えようとしていた様だが、あまりに青臭かった為に、断念したようだ。
まぁ、仕方あるまい。
取り出したシルフィが鼻を摘まんで持っている位だもの、当然か。
どうしたものか、と考えながら視線を下に下げた時だった。
解・主様。
ん?なんぞ?
解・主様の視線の先の茂みに、そのお探しの『ンドゥバ草』が群生しているようです。
……ファッ!?
真面で?
解・真面です。
ヘルプ機能に促されるままに、茂みへと近付く。
疑っている訳ではないが、一応確認の為に鑑定をかける。
ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、雑草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、雑草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、トリッパーリーフ、ンドゥバ草、ンドゥバ草、トリッパーリーフ、ンドゥバ草、ンドゥバ草、雑草、雑草、ンドゥバ草、ンドゥバ草、ンドゥバ草……
結果・見事にンドゥバ草の群生ポイントでした。
尚、時たま混じっていた『雑草』と『トリッパーリーフ』は今回は関係ないので放置の予定。
ちなみに、『トリッパーリーフ』は、痛み止に使用される草らしいのだが、使いすぎると魂が天国までぶっ飛んで戻って来なくなる危険物らしい。……どこかで聞いたような……。
折角見付けたのだから、と生えているンドゥバ草を根こそぎにして回収する。
三十束分程回収出来たので、そこそこの値段になるハズだ。
薬草の回収はこれでお仕舞いにする事にして、今度はゴブリンの討伐のために森の奥へと入って行く。
この森のゴブリンは、一定の深さの所で群れを作るらしく、大体の深ささえ分かっていれば、簡単に見つけられるんだそうな。
******
獣道に沿い、そこそこの深さまで進んで、広場程度に森が開けた所の手前まで来た時だった。
ゴブリンが群れを作る深さがその広場の少し奥になるので、ある種の目印にされているポイントらしい。
普通なら、ここで一息ついてから、奥へとゴブリンを探しに行くのだそうだ。
だが、この時の俺は、広場の手前で立ち止まっていた。
何か明確な理由が有る訳ではない。むしろ、理由等何処にも有りはしなかった。
ただ、なんとなく、このタイミングでこの広場にいてはならないと、そう思ってしまっていた。
もちろん、仲間からは「何故入らないのか?」と声が挙がっているが、俺には半ば確信染みた認識が有った為、全員へと待機の指示を出し、自分は広場前の木立から、広場の方を伺う。
ガルムも何かを感じたのか、俺と同じような広場の様子を伺う。
他の二人は、俺達に訝しげな視線を向けるが、何か有るのだろうと判断したらしく、広場には入らず、俺達の後ろにいる。
……しばらく観察していたが、特に何がある訳でもなく時間が過ぎる。
ただの気のせいだったか……と思い直して、広場へと進もうとした時、唐突にそれはやって来た。
まず最初に反応したのはガルムだった。
彼女の耳がピクリと動いたと思ったら、尻尾の毛を逆立てて、警戒の色を強くした。
次に、先輩冒険者の二人が、何かに気付いたように身体を強ばらせ、硬い表情で、急いで木陰へと身を隠す。シルフィはその上から、『隠者のローブ』の効果まで発動させている。
何かが来る
そう確信を持った時、その影は唐突に広場へと現れた。
突然に辺りに吹き荒れる風。
何かがはためく様な音。
そして、いきなり何か重いモノを地面に下ろした様な音が発生し、それまで吹き荒れていた風が、始まった時と同じように、突然吹きやんだ。
それまで、風を避けるために掲げていた腕を下ろし、広場へと視線を向けるとそこには
白銀の鱗を全身に纏い
二足二腕二翼の巨体を
その脚とまるで巨木の様な尻尾で支え
その頭部に王冠の様な角を生やし
眼を血走らせたドラゴンの偉容が降り立つ瞬間だった。
大きな影の正体はドラゴンでした!




