第29話
説明回(続)です
自分のステータスの数値に唖然としながらも、そう言えばまだ聞いていない事が有ったのを思い出す。
「そう言えば、たまに魔物なんかはランクに+だとかが付く事があるけど、それは何でだったっけ?」
「……何で魔物のランクはわざわざ説明させるのに、そんな事知っているんだ?まぁ、良いか。
魔物のランクに+や-が付く事が有るが、それは『そのランクの平均から見て』強いのか、または弱いのかを示しているんだ。例えば、B+の魔物とA-の魔物を比べた場合、A-の方が強いが、Aランク全体で見ればそんなに強くない、って事さ。
まぁ、そんな表記がされるようになるのはBランクからだし、上位の魔物になる程数がいないから、そうそう遭遇するものでも無いだろうから気にしなくても大丈夫じゃ無いか?」
フム。そんなモノかね?
「もう質問は大丈夫か?なら、これで登録は終わりだ。まだ何か有るなら言ってくれ。」
何かねぇ?
……あ、そうだ。アレもお願いしておくか。
「じゃあ、このメンバーでパーティー登録お願い出来るか?」
「了解した。では、この書類にメンバーの名前とリーダー、あとパーティーの名前を記入してから提出してくれ。別に今すぐでなくても大丈夫だから、じっくり決めると良い。」
そう言って書類を渡してくる狼さん。
そこには、説明通りの記入欄が有り、空欄を埋めれば良い形式らしい。
書類を手に受付を離れ、待ち合いスペースらしき所の机を一つ占領する。
とりあえず、名前は書き込めるので、全員分先に書き込んでしまう事にする。筆記用具はやはり羽ペンなのだが、シルフィが魔力をインクに変換する羽ペンの魔道具を持っていたので、ソレを使用した。
ちなみに、魔道具とは、魔力を流すだけで特定の魔法やそれに準ずる現象を発生させる道具の事である。流石ファンタジー異世界。
全員が名前を記入する。ちなみに、俺がこの世界の文字や言葉(元の世界の言葉で会話してると思った?んな訳無い無い)を理解し、使用出来ているのは、一番最初の魂だった時に駄女神に突っ込まれたからである。……多分。むしろ、ソレ以外に心当たりが無い。
そうして、名前の記入が終わったので、まだ空欄になっているリーダーを決めてしまおうか、と発言したところ、全員から
「コイツ何言ってんの?」
って目を向けられた。……解せぬ。
「自分は主殿以外の下に付く気は無いであります。」byガルム
「この中で一番強いのは貴方なんだし、貴方がやるべきじゃない?」byシルフィ
「私は~消去法ですね~。私は向いてないですし~、シルフィよりは~適性が高そうですし~、ガルムさんは~貴方を率いるのは~嫌がりそうですしね~。」byウカさん
……満場一致で、俺がパーティーリーダーやることになりました。……解せぬ。
まぁ、信用されていると取っておくか……。
「じゃあ、さっさとパーティーネーム決めてしまおう。何か案はあるか?」
「「「………………」」」
無いのかよ!!
え~、じゃあ仕方ない。俺から何か案を出すしかないか……。
………………
…………
……
うん、俺が亡者で『ガルム』が獄卒だから、こんなのどうだろうか?
「では、パーティーネームは『ヘルヘイム』でどうだろうか?反対する人は理由とパーティーネームの候補も出せよ~。」
唯一、俺と同じ知識が有るであろうシルフィは、少し微妙そうな顔付きではあったが、他に代案が有る訳でも無いようで、結局パーティーネームは『ヘルヘイム』に落ち着いた。
全ての空欄を埋めた書類を手に受付へと足を向ける。
そこで、そう言えば、と疑問を思い出す。
「ギルド登録の時には、名前とか何も聞かれなかったけど、パーティー登録の時には書かせるのな。何故に?」
「ああ、それは『新人の情報を登録しても意味がない』からだね。」
「……その心は?」
「冒険者において一番数が多く~、又挫折等による退職や死亡等で~居なくなる確率が最も高いのが~新人枠のEランクとDランクなんです~。」
「そんな連中じゃあ、ギルドの方で把握しようとしても手間が掛かりすぎるし、把握する事に対するメリットも少ないから必要性も薄いのよ。
いつ居なくなるかも分からない奴に、個人的に依頼したい依頼人が居るとも思えないしね?」
「……成る程ね。で、その枠から出られた連中は、情報を把握した上でギルド側が管理する、と。」
「……まぁ、言い方はアレだけど、大体そんな感じ。なんで、Cランクに上がる際には、名前や得意な戦い方等の情報を登録する為の書類を渡される事になるはずよ?少なくとも私達はそうだったわ。」
「そうでしたね~。まぁ~新人さんたちの個人情報を~すぐには登録しないのも~、自分自身で~自分の戦闘スタイルを把握仕切れてないのが~理由の一つではありますよね~。」
へー、そうだったのか。
……ん?私達?
つまりアレか?二人は既に登録を要請される立場に有ると?
「だって私達~。」
「一応、Aランクだからね?」
なんと!……凄いのかそうでもないのか微妙だ……。
「……なら、二人のどっちかがリーダーやった方が良いんじゃないか?二人の方が、名は通っているはずだろう?それに、二人でパーティー登録してたんじゃないのか?」
確か、最初にそんな感じの説明を受けた気がする。
「私達は~別にパーティー登録していた訳では~無いですよ~?昔から友人で~良く組んでお仕事していただけですよ~。」
「そうそう。あの時(初会合時)、そう説明したのは、そう言った方が分かりやすそうだったからだしね。それに、パーティー登録するには、メンバーが四人以上必要だから、登録しなかったんだ。」
ふーん?そんなもんかね?
……あ、そう言えば聞くの忘れてた。
「聞くの忘れてたけど、パーティーを組むメリットって何なんだ?やっぱり戦力の確保?」
「それも有るけど、やっぱり『安全の確保』かなぁ。野良で組む時って、余程の相手でないと、無条件に背中を預けるなんて出来ないからね。ソレ以外だと、夜営時の『身の危険』だとか、報酬の分配だとか、希少な素材をどうするかとか色々と揉める要素が山盛りだからねぇ。
その点、パーティーメンバーとして登録した相手なら、ある程度は信用出来るから、その手のアクシデントが発生しても、事前の取り決め通りに解決出来るからね。」
「ギルドの方に~、必ず登録した記録が残りますからね~。あまり変な経歴~、例えば~短期間にパーティーを組んだり離れたりする~みたいな事をしていた場合~ギルド側から調査されたりしますからね~。そこで~あまりにも揉め事の類いを起こしていたりすると~冒険者登録を抹消されたりしますからね~。お気をつけて~。」
「一応、パーティーメンバーの誰かが受けられる依頼なら、パーティーとして受ける事が出来るのだけど、ソレがメリットの一つではあるかな?」
……成る程、一応メリットも有る訳か……。
まぁ、それはともかくとして、書けているのだから、出すだけ出してしまうかね。
例の狼さんのブースが空いていたので、そこに記入済みの書類を持ち込む。
「書き込んだんで持って来たけど、これで大丈夫かな?」
「どれどれ?……フム、パーティーリーダーは『ジョン・ドウ』?これはお前さんか?シルフィやウカじゃあなくてか?」
「ああ。二人共に俺にやれと。」
俺の後ろで二人は頷く。
「ふーん。まぁ、不満が無ければそれで良いがね……。分かった。じゃあ、これで登録しておくが、まだ何か有るか?」
俺は大丈夫だけど、と仲間を見回す。
すると、シルフィとウカさんが、手に例の回収品を持っていた。
「私達は、コレの依頼を精算して来るから、その間に何か依頼でも見ていてもらえないかな?」
「そこまで時間は~掛からないハズですから~。」
「ん、了解。」
二人に軽く手を降って、ガルムと二人、掲示板へと向かう。
掲示板には、ランクや種類によって分類された依頼の紙が貼り出されている。
パッと見た感じだと、E~Bに掛けて依頼の総数が増えて行き、AやSになると逆に少なくなっているように見える。SS以上はそもそも分類が無い。
……アレか?例の『高難易度依頼』だから、貼り出して無いって事か?
……まぁ、まだ登録したてのEランクである俺達には、関係無い話か。
とりあえず、Eランクの依頼に目を通して行く。
何か面白そうな依頼は無いかな~?
……フム?『ゴブリンの討伐』に『薬草の採取』?
おお!これぞTHE・初期依頼!!
えーっと、何々?フム、ゴブリンの方は最低十体、ソレ以上は追加で報酬上乗せ、討伐証明の方法は右耳の回収。薬草の方は五本一束で十束納品すれば達成で、それら以外にも十束単位で納品すれば報酬上乗せか……。
それらの依頼書を剥がして手に持ち、横のガルムに声をかける。
「俺はこれらを受けようかと思うんだが、そっちは何か面白そうな依頼は有ったか?」
「ん~、こちらは特には無かったであります。
主殿は何を受けるつもりでありますか?」
「ホレ。ゴブリンの討伐と薬草の採取だ。」
「……ゴブリンでありますか……。アレはあまり美味しくないであります……。」
「……いや、食っちゃ駄目だからな?依頼の達成に奴らの耳が必要なんだから。」
そんな感じで会話していると、手続きを終えた二人が戻って来た。
微かに「裏切りが……」だとか、「全部……」だとか、「情報漏れ……」だとかが聞こえていたが、無事に決着が着いたらしい。
受付の狼さんが居ないのを見る限り、報酬を取りに奥へと引っ込んでいるのだと思われる。
「お帰り。結果は……聞くまでもない、か。」
「ええ~。きっちり『落とし前』付けてもらえました~。」
いつも以上にニコニコしているウカさん。
そんなウカさんを横目に、俺が手に持っていた依頼書を覗き込むシルフィ。
「んで?結局何選んだの?……って『やっぱり』この二つか!」
「お決まりだろう?」
「まぁね!!」
と二人で笑い合う。
ウカさんとガルムが不思議そうに見ているが、コレばっかりは異世界ネタなので、俺達しか分からない。
そうやって馬鹿笑いしていたら、報酬の準備が出来たらしく、狼さんが二人を呼んでいる。
ついでに、依頼を受注する為に俺もついて行く。必然的にガルムもくっついて来る。
「……呼んだのは二人なんだが?まぁ、良いか。
さて、今回の報酬だ。内訳は、まず依頼達成の報酬で金貨十枚、それに全員分の回収で発生する上乗せが五十枚、これは一つにつき十枚と四人分合わせての追加でもう十枚だ。更に、こちらで組ませた連中からの、妨害その他への賠償で五十枚。最後に、お前さんたちが討伐してきた岩蜥蜴だが、調べてみたら賞金が懸かっていた。ソレの追加でもう五十枚。計百六十枚に成る。
一応、確認しておくか?」
カウンターに置かれた袋をシルフィが手に取る。
そして、腰のポーチに入れる振りをして、空間庫に送り、数を確認している。
……満足そうに頷いているので、中抜きは無かったのだろう。
「いえ、それには及ばないわ。これでも一応、ギルドのことは『信用している』からね。」
……なんとも強烈な皮肉だこと。
狼さんの顔がひきつっているじゃ無いの。
まぁ、俺には関係無いけどね。
カウンターに剥がして来た依頼書を出す。
「コレらを受けたいんだけど、大丈夫か?」
「……フム。まぁ、コレらならそこまで時間はかからんだろうから、大丈夫か。
ではギルドカードを出してくれ。」
言われるがままにカードを出す。
すると、狼さんがカードに判子のようなモノを圧し当ててから返却してきた。
「ホレ、コレで受注手続きは終わりだ。その二人が居る以上、失敗はあり得ないが頑張れよ?
日が落ちる前に却って来ないと、門を閉められるから気を付けろ。」
狼さんからカードを受け取り、四人でギルドの出口に向かう。
なんとな~く嫌な予感がしないでも無いが、多分大丈夫だろう。
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四人が完全に建物の外に出てから、強制的に押さえつけていた呼吸を解放する。同時に、必死に押さえていた冷や汗も、堤防が決壊したような勢いで溢れ出す。
(何なんだ?あの新入り。丸っきりプレッシャーが桁違いじゃ無いか。俺の鑑定では見通せ無い程のステータスなんて、完全に人外通り越しているんじゃ?幸い、そこまで粗野には見えなかったから、どうにか騒ぎにはならなそうだが、どうなる事やら……。)
と冷や汗を拭いながら内心を溢していたが、手元に拡げていた資料に視線を落とすと、あの四人、パーティー『ヘルヘイム』に伝え忘れている情報が有った事に気が付いた。
それは、ゴブリンが比較的多く生息し、薬草もそこそこ生えていて、この街からそう遠くない位置、それこそ冒険者なら、一時間程(この世界も24時間制)で行ける、おそらく今回向かったであろう初心者向けの森の付近で、巨大な影を見たと報告が入っていた事を……。
巨大な影……一体何でしょうね?




