第26話
ついに街に到着します。
注 人によっては不快に感じるかも知れない表現が出てきます。ご注意を
―イストの街・入口
ついにやって参りました、人類生息圏!
いやー想像以上に遠かった。
何せあれから三日もかかったからな!
あの地図だともう少し近そうだったけど、事実として三日もかかった。
遠いわ!
人類どうにかしろって言うわりに、人類圏まで遠いわ駄女神!
せめてもうちょい近間で転生させておけよ!
……まぁ、近すぎても、速攻で駆除されていただろうとは思うけど……。
まぁ、その三日で色々あったのだけど。
初日は結局あのまま恙無く終了し、二日目も大した事も無く、平穏に終わった。……その二日間は。
三日目の夜営時に、二人から『お礼』がしたいと言われたのだが、正直な話、残念エロフには特にお願いするような事は無かったし、ウカさんにもお願いする事は……と思った時、ファーストコンタクトの時の情熱を思いだし、思いきって
『じゃあ、耳と尻尾モフらせて?』
とお願いしてみた。
そうしたら、ウカさんは顔を真っ赤にして、耳と尻尾を手で抑えて距離を取られてしまった。……解せぬ。
なんでも、獣人族にとっては、耳と尻尾を触らせるのは、自ら『主』と選んだ人物か伴侶、もしくは家族位のモノで、勝手に触ることは侮辱ないし喧嘩を売っていると取られても仕方がないらしい。
ならば仕方ないか……と諦めかけた時
『でも~、ジョンさんなら~……ゴニョゴニョ』
と顔をにやけさせながら呟いていたので、傍らで爆笑していたシルフィにアイアンクローをかまして吐かせた所、どうにも獣人族にとって『同性』に触らせて欲しいと言うのは『お友達になりましょう』と言う意味になる様なのだが(ウカさんとの出会い頭にやったらしい)、それが『異性』になると『お付き合いして下さい』だとか『結婚してください』になるんだそうな。
ちなみに、さっきの言い方だと、どんな感じになるのかシルフィに聞いてみた。本人的には『月が綺麗ですね』程度だといいなと思っていたのだが
『そうね、【俺の女になれ!】って感じじゃあないかしら?』
だそうな。……なんだかなぁ。
しっかし、ガルム(じっとりした目でこちらを見ている)と言い、ウカさん(ニヨニヨしながらくねくねしている)と言い、犬科の獣人族(?)ってちょっとチョロすぎない?
ガルムはともかく(多分自力で粉砕してくる)、ウカさんは騙されないか心配になってくるわい。
ちなみに、四日目の昼過ぎである現在も継続中。
そして、現在進行形で入街審査の行列に並んでいる真っ最中である。
本来であれば、この街のギルドに所属しているシルフィとウカさんは正面入口に並ばなくても、脇の住民用出入口に行けば大丈夫なのだが、俺達(俺+ガルム)がいるため、態々一緒に並んでくれている。感謝感謝。
なんで一緒に並んでいるのかと言うと、やはり入街審査の為である。
本来、その街の住人以外が入る際には
1・身分証明書を提示
2・それが偽造でないかの確認
3・犯罪歴の確認
4・滞在期間及び目的の申請
5・目的に応じた入街料金の支払い
6・滞在許可書の発行
のアホみたいに面倒な手順が必要になる。
当然ながら、俺とガルムは身分証明書など持ち合わせていない為、最初の段階で躓く。
もちろん、紛失してしまった人用に、1~3の手順を行える道具が有るらしいが、それだと俺達が魔物であるとバレるんだそうな。
そこで、二人の登場である。
実は、その街の住人が一緒にいれば、その人が保証人となって入街料金の支払いだけで済むんだそうな。
もちろん、その場合は同じ目的でも割高になるし、そいつが何かやらかせば、保証人も連帯責任で捕まる事になる。
……何?それを知っていたから彼女達を助けたんじゃないか?
……さぁ、どうだろうねぇ?ケケケケケ(黒い笑顔)
まぁ、ガチレスすれば知らんかったんだけどね?
本当だよ?ミスターポ◯嘘つかない。
そんな事を考えながらボーっとしていると、どうやら順番が回って来たらしく、入口脇の受付に四人で向かう。
受付にいたのは兎系の獣人族。ただしおっさん。
おっさんがケモ耳付けてるだけで、酸っぱいモノがこみ上げて来るが、正直誰得なんだ?この絵面。
シルフィとウカさんが受付に近づき、おっさんに声をかける。
「こんにちは、ピーターさん。一週間ぶり?」
「よお、シルフィにウカ。久しぶりだな。だいたいそれぐらいぶりじゃあないか?んで?コッチに来るって事はなんかあったか?住民票でも無くしたか?」
「違いますよ~。今回は~このお二人の付き添いですよ~。」
「そう言う事。私達で保証人になるから、手続きお願いね?」
「ふむ?まぁ、お前さん達が保証人やるってんなら大丈夫だろう。ほれ、この書類の滞在目的の欄書いて出してくれ。」
渡された書類にそれぞれ名前と目的の欄に『移住希望・冒険者志望』と書き込み、ガルムと共に提出する。
「……うん、大丈夫だろう。入街料金と住民登録を二人分で合わせて金貨2枚……と行く所だが、二人の知り合いならそうそうやらかさんだろう。正規料金の金貨1枚と銀貨50枚で良いぞ?」
……おっちゃん、ええ人や……。絵面が酷いなんて言ってごめんな。
二人の知り合いだったらしいおっちゃんの優しさに感動しつつ、馬鹿四人組から追い剥いだ硬貨で支払う。
ちなみに
金貨1枚=銀貨100枚
銀貨1枚=銅貨100枚
銅貨1枚=鉄貨10枚
のレートで換算されるらしい。銀貨1枚で林檎2個、銅貨10枚でパン一つが基本らしいので、銅貨1枚=5円位か?
一応、金貨の上に『白金貨』が有るらしいが、そんなものは大商会の大口取引だとか、大貴族への特別褒賞だとかでしか使用されないので、まぁ関係有るまい。ちなみに、白金貨1枚=金貨100枚なり。
しかし、割高とは聞いていたけど、まさか1/3上乗せされると思わなかったぜ、なんて考えていたが、こちらの支払った硬貨を数え終えたおっちゃんが、こちらに二枚のカードの差し出しながら声をかけてきた。
「そら、これが『住民票』だ。これがあればここの住人である証明になるし、脇の入口から出入り出来るようになる。
……この二人と一緒だと、色々大変だとは思うがよろしく頼むぜ?
最後になったが、ようこそ『イストの街』へ!」
こうして俺達は、人類圏への潜入に成功した。
******
正面入口から入り、壁を抜けると、そこは中世のヨーロッパ圏に酷似した石造りの街並みでした。
某名作風に言ってみたが、実際そのまんまである。
流石ファンタジー世界と感心しながら仲間の方を見ると、シルフィは予想通りと言わんばかりにニヤニヤと、ウカさんは微笑ましいモノを見るような表情でニコニコと、そしてガルムはキョロキョロと辺りを見回している。
そんな仲間達に文句の一つでも言ってやろうかと近づいた時であった。
唐突に
「旦那。あの亜人共は旦那の奴隷ですかい?」
と声をかけられたのは。
……今こいつはなんと言ったんだ?
思わず「何?」と聞き返す。
「いえ、ですから、あの亜人共が旦那の奴隷なら、是非とも俺に売っていただきたくてですね?」
と返して来たのは、糸目のTHE・悪徳商人な見た目をした男であった。
そいつは揉み手をしながら、下手とも取れる態度で彼女達が奴隷である前提で話を進めようとしてくる。
「アレらならば一つにつき金貨50枚、全部いただけるならば、金貨200枚出しましょう。わりと破格であると自負しておりますが、いかがですかな?」
……こいつ、俺が彼女達を奴隷として売り払う事を疑ってない、って態度だな。
しかもあくどい事に、彼女達からは見えない位置、聞こえないであろう声量で交渉しようとしてきやがる。
おまけに金貨200枚だと?
……これは、答えは一つしかないな……。
「……なるほど、この条件ならば仕方ない、か……。」
「ええ!そうでしょうそうでしょう!!ではこちらの書類にけいや「断る」……ぇ?」
「断る、と言ったんだ。そもそも彼女達は『奴隷』じゃあ無い。彼女達は俺の『仲間』だ。」
「そんな……少しぐらい考えていただけませんか?」
「元から彼女達は奴隷じゃあ無いのだから、売れないし、『売らない』。そもそも、勝手に勘違いしてきたのはそちらだ。そんなもクソも有るか!」
こちらに売るつもりが微塵も無いと分かったのか
「なら、仕方ないですね……」
と簡単に引き下がる悪徳商人。
うん?やけにあっさり引くな。
この手の輩はもっと粘着質だと思っていたんだが……?
そう思いながら彼女達に一歩近づく。
やたらと全員がニコニコしている気がするが、おそらくガルム辺りがリークしたな?
まったく、仕方の無い奴だ。
なんて思っていたその時だった。
俺の後ろであの悪徳商人がボソリと呟いたのは。
「なら、そこら辺にいた『野良』の亜人共を私が奴隷にしても大丈夫って事ですよね?」
何だと?
咄嗟に振り返ると、彼女達に向けて指環の嵌まった右手を向けている悪徳商人。
右手には魔力が集まり、既に魔法の構築は終わっている様であった。
(不味い)
そう感じた俺は、瞬間的に『思考加速』で加速状態に入り、ヘルプ機能にこれまでの会話の流れやヤツの手から漏れている魔力等から、この悪徳商人が何をしようとしているのかを問いただした。
解・おそらく『隷属魔法』かと思われます。
なんぞそれ?
解・主様の【契約】の形態の一つ、『隷属』とほぼ同じ効果の無属性魔法です。おそらく、コレで自由意思を奪った上で奴隷契約書にサインさせるつもりなのでしょう。
OK、分かった。
こいつは殺そう。
このクソ野郎は生かしておいても録な事しそうに無いしね。
解・主様のお仲間に手を出そうとしているのですから、当然ですよね。
そんな訳で加速状態のまま、闇魔法剣を生成し、クソ野郎の右腕にロックオン。
発射直前の状態で加速を解除する。
そして、解除と同時に発射した。
「さあ、俺の奴隷になれ!【サーバント・マリ『ザン!』……ぇ?」
すると、クソ野郎が魔法を発動させる前に、発動器である指環ごと右腕が落ちる訳だ。
脇で「痛い!」だの「俺の腕が!」だの喚いているのが耳障りだが今は放置。
彼女達も突然の事態に驚いてはいたが、盗み聞きしていたガルムから説明を受けて落ち着きを取り戻し、こちらを見つめている。
クソ野郎が何か言いたそうにこちらを睨んでくるが、こちらも聞いてやるつもりは毛頭無いので、剣を抜いて首元に突き付ける。
「言っただろう?彼女達は『仲間』だと。その仲間に手を出そうとしたんだから、どうなるかは分かっているよな?」
そう優しく現状の解説をしてやったにも関わらず、「殺してやる!」だの「お前ら全員奴隷にしてやるから覚悟しろ!」だの煩く喚き散らしているので、首を切り飛ばして黙らせた。
……はぁ。元々あんまり好感無かったけど、ますます人族が嫌いになってきた気がする……。
自分で書いておいてアレですが、まさか街編(仮)始まってから街に着くまで丸々5話掛かると思ってなかったです……。(最初は2話位で着く予定でした。)ボソリ




