第24話
街まで、街まではもう少しのハズなので、もう少し待ってくだされ(--;)
コイツ、今なんて言った?
『薄い本』やら『エロ同人』やらも聞き覚えが有るし、ぶっちゃけ心当たりアリアリのマシマシなのだが、俺が注目しているのはそこではない。
今コイツ、『この世界』って言わなかったか?
これはガルムに聞いただけなので不確かな話なのだが、この世界の住人はここ以外に世界が有る事を知らない。
故にこの世界には名前が無い。こことここ以外とを区別する必要性が無いから、名前などを付けて判別する必要が無いからだ。
それなのに彼女は『この世界の住人には』と発言している。
つまり、それは俺と同じ転生者である可能性が高い事を意味している。
……これはちょっと“お話”を聞かないとイケナイかなぁ……。
だが、その前にお話しないといけない奴がいるので、そちらから片付けるとするか。
「ガルム~。ちょーっとこっちおいで~。」
とりあえず、お説教対象であるガルムを呼ぶ。
シルフィの方は多少放置していても大丈夫だろう。……多分。
「なんでありますか~主殿~?」
未だに気絶している獣人族を寝かせて、トテトテとこちらに歩み寄って来るガルム。そんな彼女の頭を右手でわしづかみにし、メキメキと音を立てながら握り込んで行く。
「えっ、ちょっ、主殿?痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!痛いであります!!や、やめ、やめてほしいであります!止めて!中身が出ちゃう~~~~!!!」
「……おう、こら、この駄犬。お前さんからの情報には『エルフ族』がいるなんて、一言も無かったと思うのは俺の気のせいか?あ?
あれほど『情報は正確に丁寧に』と教えたハズだよな?お?
なのにどうして居ないハズの奴がここに居るんだ、ああ~ん?」
わしづかみ状態のまま問い詰めるが、こちらに聞こえるかどうか位の小声で「い、痛い……でもなんか気持ちよくなって来たような……?」などと呟いているので、そのまま吊り上げに移行し、握り潰す勢いで力を込める。
一方、転生者の疑惑がかかっているシルフィは、最初のネタ発言をスルーされた挙げ句の放置プレイに戸惑いを覚え、いきなり少女がアイアンクローで吊り上げられ、白目を向いて痙攣し出したのを見て、同性としてとっさにフォローに入った。
「あ、あのー。その娘が私に気付けなかったのは、この『隠者のローブ』の効果だと思うので、その娘が悪かった訳ではないと思うのですが、出来れば解放してあげて貰えません、か……?」
フム?今もまだ着ているそれか?
確認の為一応『鑑定』しておくか。
隠者のローブ・品質SS
高度な隠蔽が施されたローブ
体温や体臭だけでなく、フードを被れば性別や体型、顔立ち等も全て隠蔽される
姿まで完全に消える上位互換品に『隠神のローブ』・品質EXが存在する。
……成る程、確かにコレでは察知は無理か。
とりあえず、お仕置きはコレぐらいにしておくかね。
わしづかみにしていた手を放すと、吊り下げられていたガルムが膝から地面に落下し、頭を抱えて蹲る。
それを横目に顔を青ざめさせているシルフィに声をかける。
「さて、君には幾らか聞きたい事が有るんだが、答えてくれるよね?答えなかった場合はガルムみたいな事するハメになるけど、構わないよね?」
そう言いながら、右手をワキワキさせつつ近づくと、恐怖の為か堰を切ったように話し出した。
「え、ええ何でも答えます、答えさせていただきます!それこそスリーサイズから実はまだ処女だって事に始まり、私の正体は異世界からの転生者でした!って事だとかお決まりの特典チートまで何でも話しますからアイアンクローだけはやめてーーー!!
あ、でもエロい事ならば助けられた手前吝かでもないけど、やっぱり初めてはこんなオープンスペースじゃなくて個室のベッドで耳元に愛を囁きながら二人きりでしっぽりを希望します!」
……なんだろう、この残念感。
見た目は18歳位の可愛い系なのだが、発言が残念過ぎる。
知りたいと思っていた事は大体勝手に吐いてくれたのに、凄まじい残念感に襲われているのは何故だろう。
まだ何か続けようとしている彼女を手で遮り、とりあえず話を進めるべく声を出す。
「解ったからその辺にしておけ、残念エロフの転生者さん?」
「私の種族はエルフ……って『エロフ』?
……もしかして、貴方も……?」
「ご名答。もっともどこまで同じかは分からんけどな。」
******
「う、う~ん?ここは?」
お互いが転生者である事が知れた俺とシルフィがお互いに情報を交換していると、今の今まで気絶していた獣人族の娘が目を覚ましたようだ。
すでに復活し、側に控えていたガルムが彼女に近づき介抱する。
「目が覚めたようでありますな。大丈夫でありますか?」
「あ、はい~。ありがとうございます~。あれ~?でも確か、私って魔物と戦っていたハズなんですが~どうなりましたか~?」
随分とおっとりした娘だな?
見た目は二十代前半位の美人な狐系の獣人族お姉さんだが、アレ(岩蜥蜴)とそこそこ戦闘出来ていた以上結構強そうだ。
そう言えば、『魔物と戦っていた』で思い出したけど、何故にあんな状態になっていたんだこいつら?
俺が思案している間に、シルフィから大体の事情を聞いたらしい彼女は、俺たち(俺+ガルム)にぺこりと頭を下げながらお礼を言ってきた。
「この度は~助けていただき~どうもありがとうございます~。私の名はウカと申します~。このシルフィさんと一緒に~冒険者をやってます~。」
……久方ぶりにまともな人に会った気がする。
「そいつはどうも、ご丁寧に。そっちの残念エロフからは、開口一番に下ネタが飛び出して来たから、この辺だとそれが常識なのかと思ったよ。
俺はジョン、こっちはガルム。たまたまコイツが感知したから助けに来たってだけだから、あまり気にしなさんな。
そう言えば、コイツの感知だと、もう何人かいたって事になっていたんだが、そいつらはどうしたんだ?」
そう聞くと、それまでにこやかだった二人の表情がピキリと凍り付き、鬱々と沈み込んでしまった。
その後、どうにか二人から断片的に聞き出した話を繋げると
・まずとあるパーティーが一月ほど前から消息不明になった。
最後に受けていた依頼は彼等のランクからすれば達成出来て当然ランクだったらしい。
・そのパーティーは有望株だったので、捜索隊モドキが編成された。
普通は編成されないし、有望視されていた連中が消息を断つ位なのだから、相当危険なハズなので、実力の有る者だけで構築された、実質的には討伐隊だったらしい。
・彼女達もその捜索隊で、この辺を捜索していた。
彼女達のパーティーの他に、人族の男数名で出来たパーティーと同じグループ分けをされていたので、行動を共にすることになった。
・捜索中に魔物と遭遇。
魔物と戦闘になったが、彼女達を矢面に立たせるばかりで、野郎共は戦おうとはしなかったそうな。
・魔物に囲まれる
魔物に囲まれ、奥の手でどうにか囲みを破った際、野郎共に裏切られ、二人で取り残される(その際、投げナイフのようなモノを貰ってしまい、シルフィ負傷)
・どうにかして魔物を倒す。
必死こいて魔物を全滅させるも、そのタイミングで例の岩蜥蜴登場。後は知っての通り。
ちなみに、岩蜥蜴が来た方向を辿って見たところ、複数の元人間と思われる痕跡が見つかったが、そのまま放置しておいた。
……話を聞いて見ると、なんとなく嫌な予感がしたので、背から荷物を下ろして漁り出す。
そして、目的のブツをつかみ出すと、それを彼女達に渡しながらこう聞いた。
「もしかして、探しているのってコイツらの事だったり、する?」
ヤツらの懐から抜いていたギルド章(?)を見つめる彼女達の表情から察すると、どうやら大当たりだったらしい。
……どうしてこうなった……。
残念エロフとおっとり狐お姉さん登場




