第22話
彼女と二人で森を進む。
当然の如く道は無いので、下草を掻き分け枝を払い、藪を踏み潰して踏破する。
まぁ、道が有ったら有ったで問題なのだけど。
だってそれはつまり、道が出来る程の人通りが有るか道を作ってまで確保しておきたいナニかが有るって事になるのだから。
まぁ、そんなモノが有るならついでにパクって行くのもありか?
そんな下らない事を考えながら、共に草を掻き分けている彼女に目を向ける。
彼女は現在、本来の狼の姿ではなく人型、しかも耳や尻尾も消した人族型とも言うべき姿になっている。
理由としては、今向かっているイストの街はあくまで『人族』の街であり、その街で『見た目』は獣人族に見える(中身はフェンリル)美少女が、どんな扱いを受けるか、まだ予測がつかないからだ。
……何?『なら街に着く直前で良くないか?』
それは勿論そうなのだが、一つ問題がある。
実は彼女、獣人族型ならば寝てても変身を維持出来るのだが、何故か人族型は意識してないと維持するのが難しいらしく、気を抜くと獣人族型に戻ってしまうのだ。なんでも、元の姿を一部でも残しておける姿だと維持が簡単なのだとか。
そのため、こうして普段から人族型に変身する事に慣れると同時に、足元の悪い森を歩く事で集中を切らさないようにトレーニングしているのである。
そんな彼女が手足に装備している黒色の武具、手甲と脚甲だが、これ等は別段奴等から剥ぎ取った訳ではない。
お察しの通り、自作である。
素材元となったのは、皆さん覚えているか微妙だが、あの大楯持ちが使っていた楯である。
あの時斬れなかったので、気になって回収した後鑑定して見ると、こんな結果が出て来た。
『アダマスシールド』・耐久性SS
総アダマンタイト製のカイトシールド
物理耐久性だけでなく魔法耐久性も高い
とにかく硬い
なんとアダマンタイト製でした。
この手のファンタジーではお決まりの謎金属!
いや-、有るところには有るものだねぇ。
他のお決まりは有るのかヘルプに聞いてみると、なんとびっくり、あの時砕いた大剣がミスリル製だったらしいです。オリハルコンの方は“存在はするけど貴重過ぎるので探すだけ無駄”との事。……いつか絶対見つけてやる。
そんなアダマンタイト製の大楯なのだが、最初はどう使うべきかと頭を悩ませた。
楯として使おうにも、そもそも俺は楯持つ位なら二刀流するし、ガルムに至っては本来の姿では道具は使わず、獣人族型の時も基本的に武器は使わず徒手空拳でどうにかしてしまうので、そのまま使うのは不可能である。
ではどうしようかとあれこれいじくり回していた時、試しとばかりに闇属性の魔力を流してみたところ、変型・加工する事に成功した。
成功してしまったのである。
……どうしてこうなった……。
……まぁ、良いか。
出来るモノは出来る。ならばそれで良いか。
そんなこんなで加工が出来ると分かったので、彼女の武具に加工した訳である。
俺は一応装備が有るので、彼女の装備に回したのだ。
ちなみにミスリルは使用していない。
あの件のせいか、なんとなく脆いようなイメージが有ったからだ。
女性への贈り物としては色気もへったくれも有りはしないが、彼女本人は「プレゼントであります!」と喜んでいる様子だったので、まぁ、大丈夫かねぇ?
そんな感じで突き進んでいると、湖の畔に到着した。
予定では夕方辺りに着くつもりだったのだが、思ったよりも道中穏やかで時間がかからず、まだ日の高い内に到着してしまった。
一応ここで夜営を、と思っていただけに、もう少し進んでしまおうか、それとも予定通りここで夜営する準備をしようか悩んでいると、手甲を外して湖の水に指先を遊ばせていたガルムが唐突に顔を上げた。
耳をピンと立て、鼻をヒクヒクと動かす様は、どこかからの情報を精査し、警戒を強めている様であった。
何かあったのだろうとは予測出来るが、彼女程感覚が鋭い訳ではない俺は彼女から情報を得るしか判断材料が手元に無い。
「どうかしたか?」
「……それほど遠く無いところで戦闘があった様であります。
流血多量、死者数名、おそらく匂いから人族の雄と思われるでありますが……。」
「が?」
気になる言い方をしていたので聞き返す。
「……何人か生き残りがいる可能性があるのであります。」
「生き残り?そんなの気にしてどうするんだ?どうせ人族だろう?」
人族ならば、わざわざ助けてやる必要性も義理も無いぞ?
「いえ、この匂いは……獣人族の様であります。
しかも、音から察するに生き残りはそれほど多くは無い様であります。また、襲っている側も自分と主殿であれば蹴散らすのは容易いかと思うのであります。」
「……つまり、お前さんは助けるべきだと?」
彼女は俯きながらこう続けた。
「……下僕の分際でこんな事を言うのはお門違いとは解っているのであります。
けど、ここで助けておけば色々と聞き出せると思うのであります。それに、獣人族は自分たちフェンリル族を崇拝しているのであります。出来れば助けてあげたいのであります……。」
フム。
……まぁ、人族ならば助ける義理も理由も無いけど、『人族以外』ならば、助けておくのもありか?
それに、相対的に人族以外の人口が減るのはあまりよろしくないしね。
……よし、助けるか。
「……分かった。ではどっちの方向だ?」
彼女は顔を上げて先導し始めた。
「こっちであります!匂いからしてかなりの出血が予想されるのであります!急ぐであります!」
飛び出す彼女を追って俺も森に駆け出した。




